サイエンス
2028年度開始時点においてインドネシアのTimau 3.8m望遠鏡に対し、十分な観測技術と広視野カメラおよび分光器が整い、リモート観測技術が備えられることで、インドネシアに限らず、世界各地からこの望遠鏡を用いた観測が可能となります。またベトナムにおいても小型ですが、広視野な望遠鏡を同様の技術で高機能化し、それぞれの望遠鏡がアジアを中心とした地域において観測天文学の拠点となります。これら3か国の望遠鏡、観測装置、観測技術と人材が整うことで、主に超新星と恒星スーパーフレアについて研究します。
超新星の研究
現在、天文学の基盤をなす恒星進化の研究に変革の時が訪れています。大質量星の最期の爆発である超新星の観測を通し、大質量星の少なくとも一部が終末期に劇的・動的な進化を遂げるという新描像が確立されつつあります。本研究では(1)大質量星の終末期「動的」進化は普遍的なのか、(2)この未知の活動性の起源は何なのか、を解明します。この目的のために、せいめい望遠鏡とインドネシアTimau望遠鏡の分光器を用いて、世界的に見ても強力な超新星追観測望遠鏡として活用します。データを解釈するための理論・恒星進化理論の構築も並行して行い、時間軸天文学・超新星研究・恒星物理学研究における主要課題の解決を目指します。
恒星フレアの研究
太陽表面では巨大な爆発現象(太陽フレア)が発生し、地球環境に影響を与え、社会インフラに甚大な被害を及ぼすことがあります。また生命にとってフレアに伴う高エネルギーな太陽宇宙線は遺伝子や生存環境に影響を与えます。つまり、フレアは現代社会だけでなく、生命の進化史においても重要な要素です。一方、フレアの発生頻度はそのエネルギーの大きさの冪に反比例することが分かっており、地球に影響を与えるフレアの頻度は人類の時間スケールでは稀であり、研究を行うにはサンプルが足りません。
そこで、我々が構築した既存の観測ネットワークにベトナムの広視野な小型望遠鏡も参加します。このネットワークで発見されたフレア星を機動性の高い大型望遠鏡であるせいめいとインドネシアTimau望遠鏡でスーパーフレアの発現から帰結までの全貌を明らかにします。
その他の科学目標
上記2つの主たる科学目標以外にも、南半球の望遠鏡を活かした天の川中心方向の星形成、銀河中心のブラックホール、星間物質の観測的研究や、他の南半球の望遠鏡群とのモニタ観測ネットワークを構築することで、マイクロレンズ現象※1やトランジット現象※2を用いた系外惑星の探査を行うことが可能となります。
※1:恒星に付随する惑星の重力によって背景の星の光が曲がり、地上では増光したように見る現象で、光度の時間変化を記録することで、系外惑星の質量や軌道情報を得ることができる。
※2:恒星に付随する惑星が恒星の前面を通過したときに、その影によって恒星の光度が変化する。この様子を記録することで惑星の大きさと公転周期、さらには分光観測することで惑星の大気組成の解明の手掛かりを得ることができる。