水曜雑誌会 (Wednesday Seminar)

水曜雑誌会は、恒星物理や太陽・プラズマ物理に関する論文、自身の研究等を紹介しあうセミナーです。

schedule

seminar in 2017b

後期の雑誌会の発表内容と予定です。

日付発表者(予定)題名・発表内容
10 月 4 日加藤
激変星研究の最近の進展シリーズの(基礎的なところの少し復習と)主にスーパーハンプ周期に対する圧力効果、stage A の解釈、圧縮センシング、negative superhumps、Kepler dataから円盤不安定モデルの検証あたりの話題を扱います。

10 月 11 日小田
Hard X-ray view of merger galaxies and obscured AGNs

銀河と超巨大ブラックホール(SMBH)の共進化を解き明かすため、星形成と活動銀河核(AGN)の関係性が研究されてきた。しかし、実際にどのような進化過程を経て銀河が誕生し共進化してきたのかは未だ謎に包まれている。共進化を説明する有力なシナリオの1つとして、銀河同士が衝突・合体することで星形成・AGN双方がtriggerされるという「Merger仮説」がある。Merger仮説の妥当性を調べ共進化を解明するためには、Merger途中である相互作用銀河や過去にMergerを経験した可能性の高いgas-richな(超)高光度赤外線銀河の性質を理解することが非常に重要である。そこで本発表では、銀河Mergerに注目して近年の研究成果をレビューする(Netzer 2009, Koss et al. 2012)。加えて、ガスに覆われたAGNやその観測手法についても簡単にまとめる。また後半では、相互作用銀河群HCG 16を取り上げ、X線スペクトル解析結果について議論する。時間があれば、今後の予定としてGOALS catalogとBAT mergerについても言及する。

10 月 18 日若松
Sparse Modelingを用いた矮新星のEclipse Mapping

矮新星ではアウトバーストと呼ばれる突発的な増光現象が観測される。 この増光は、伴星から輸送された物質によって主星周りに 形成されている降着円盤に起因したものであると広く考えられている。 そのため、矮新星の振る舞いを調べるためには降着円盤の研究が必須である。 この降着円盤を調べる手法として、伴星による食の時系列データから 円盤の輝度分布を再現するEclipse Mappingと呼ばれる手法が存在する。 従来のEclipse Mapping Methodでは「最大エントロピー法」と呼ばれる 手法を用いているが、この手法は滑らかな円盤を仮定するので、円盤内の 局所的な構造が再現できないという欠点が存在する。 数値シミュレーションや観測により、増光中の円盤内にはスパイラル構造等の 局所的な構造が存在すると期待されており、最大エントロピー法を用いた 手法ではこのような構造の再現が難しい。 そこで、本研究では最大エントロピー法の代わりにスパースモデリングと呼ばれる 別の概念を導入することで、より精度よく再現できるEclipse Mapping Methodを 開発する。この研究の進捗について報告する。

10 月 25 日磯貝(D2中間発表)
可視測光観測を通したヘリウム激変星の降着円盤不安定性の研究および連星進化の解明

激変星とは白色矮星を主星に持つ近接連星系のことである。 伴星からは質量輸送が行われており、降着円盤を形成する。 通常、晩成は赤色矮星や褐色矮星といった晩期型星で出来ているが、 そのなかでもヘリウム激変星と呼ばれる天体は、 伴星がヘリウム星またはヘリウム白色矮星で出来ている。 通常の激変星との最も大きな違いは降着流の組成および伴星の密度である。 ヘリウム激変星の円盤はヘリウムで出来ていることから、 円盤の突発的な増光現象、アウトバーストの挙動が通常の激変星と大きく異なる。 また、ヘリウムが伴星に降り積もるため、.Ia型の超新星の親星候補として有力である。 一部の天体では、重力波放射によって角運動量を失い、 最終的に衝突することでIa型超新星になるというシナリオも考えられている。 もう1つの特徴は伴星が高密度である点で、 連星間距離は非常に近なることが出来、連星の軌道周期は5-65minである。 その結果として、これらの天体の重力波は非常に強く、 LISA計画による重力波検出の最有力候補と考えられる。 上記のように、ヘリウム激変星は非常に重要な天体だが、 暗い天体が多いために発見数は50程度で、観測的な研究が不十分である。 そのため、我々銀河に存在する数密度も十分な検証がなされていない。 特に、アウトバースト中の挙動を密に観測した例は非常に少ないために、 アウトバースト理論に関しても議論が続いている。 そこで我々は、VSNETを通じた国際的な可視測光観測キャンペーンを行った。 今回、十分な観測が得られた4天体について解説する。 観測の結果、基本的には通常の激変星と同様に、熱不安定性および 潮汐不安定性によってアウトバーストが起こされているという証拠が得られた。 また、これまで、高精度な質量比が知られている天体は3つだけであったが、 アウトバーストの詳細な解析から、3天体に関して質量比が得られた。 質量比は連星進化を考える上で重要なパラメータであり、 ヘリウム激変星の数密度を見積る上で必要な情報である。 我々の観測は、そのサンプル数を倍に増やすことに成功した。

11 月 1 日山田
Growth of SMBHs in the early-to-local universe

超巨大ブラックホール(以下、BH)がどのようにして成長してきたかを、遠方宇宙と近傍宇宙に分けて紹介する。 遠方宇宙(z > 1)では、z ~ 2にBHへの質量降着の最盛期が見られる。この時代は高いbolometric 光度を示すQuasar や、FIR で高い光度を示すサブミリ銀河(SMG)などが支配的である。これらは中心が非常に明るく、活動銀河核(AGN)として観測され、BHの成長の現場である。SMGは近傍宇宙での超/高光度赤外線銀河(U/LIRG)が赤方偏移したものと考えられ、近傍のU/LIRGを調べることでも多くの示唆を得ることができる。 近傍宇宙(z < 1)では、遠方に比べBHの成長は穏やかであるが、遠方よりは詳細に見ることができる。Koss et al. (2012)では、銀河の合体の距離が近いほどdual-AGNが引き起こされることを示し、そこで、我々は合体AGN同士の距離がBHの質量降着にどのような影響を与えているのかを調べるため、 closely separating dual AGN を持つ、LIRG Mrk 463 に注目した。X線を用いて解析を行ったので、結果について議論する。 時間が余れば、SMBH近傍領域にあるHot Gas(corona)における近年の議論について紹介する。

11 月 8 日大西
The first detected superoutburst in Population II dwarf novae

矮新星とは、主星が白色矮星であり伴星が恒星である近接連星系である。 伴星がロッシュローブを満たしているとき、連星系は重力波放射などによって角運動量を失い、伴星から主星へ質量が輸送される。それによって矮新星は、質量比と軌道周期がともに小さくなる方向に進化する。多くの矮新星は伴星の質量半径関係などが似ているため、あるひとつの進化曲線に乗る。軌道周期と質量比は、矮新星の進化を特徴づける重要なパラメータである。 Population II天体は、太陽のような比較的若いPopulation I天体よりも金属量が少ないため、密度が高い。そのような伴星をもつ矮新星は、通常の進化曲線とは異なる進化を辿ることが理論的に示唆されている。観測からその進化経路を確かめるためには、多くのPopulation II矮新星について質量比と軌道周期を得る必要がある。 これらのパラメータは、食の観測、もしくはスーパーアウトバーストの観測によって求めることができる。食から求められた値は信頼性が高いが、大きい軌道傾斜角が求められるので、多くの矮新星についてこれらのパラメータを得ることは難しい。一方、スーパーアウトバースト からパラメータを求める手法は、前者の手法に比べて多くの矮新星に適用可能である。ただしスーパーアウトバーストの解釈に基づいているので、化学的組成の違いからスーパーアウトバースト中の円盤の振る舞いが異なるようなことが予想される場合には、それが正しいかどうか確かめられなければならない。 2017年3月、Population II矮新星として唯一知られているOV Booが初めてスーパーアウトバーストを起こした。その観測から質量比と軌道周期を求めた。OV Booは軌道傾斜角が大きいため、食からこれらの値が求められている。食から求められた値と今回求めた値を比較することで、Population II矮新星におけるスーパーアウトバーストからパラメータを求める手法と円盤の振る舞いについて述べる。

11 月 15 日森田
多波長観測による超高光度X線源の中心天体の解明

超高光度 X 線源 (ultraluminous X-ray source,ULX) は、 10^39[erg/s] を超える高い X 線光度を持ち、銀河中心以外の場 所で観測される X 線源である。ULX の光度を説明するためには、恒星質量ブラックホールに超臨界降着(質量降着率がエ ディントン降着率以上)が起きている、もしくは中間質量ブ ラックホールに亜臨界降着が起きてい ると考える必要がある。超臨界降着と中間質量ブラックホール はどちらも大質量ブラックホールの起源や進化に深く関係して いるため、ULX の性質を解明することは非常に重要である。 超臨界降着円盤は輻射圧優勢で光学的に厚い円盤であり、高 速のガスが噴き出る現象(アウトフロー)が起こる。近年、X 線 だけでなく可視光や電波を使った多波長での観測により、この アウトフローの存在を示唆する証拠が見つかっている(Fabrika et al. 2015)。また、いくつかの ULX は中心天体として中性子 星を持つことが分かった(Bachetti et al. 2014)。中性子星の 質量には上限があるため、このことは、超臨界降着が実際の天 体で起きていることを示す事実である。一方、中心天体の質量 を直接求められないために、中間質量ブラックホールである可 能性も残っており、議論が続いている。本講演では、Kaaret et al.(2017) をもとに観測的な視点から、ULX 研究の現状とその 課題についてレビューする。 加えて、ULX IC342 X-1 に関す る自身の研究についても紹介する。この天体は2016に可視、X線での同時観測が行われた。 現在、すばる望遠鏡と X 線 衛星XMM-Newton、NuSTARのデータを用い た多波長での解析を進めている。

11 月 22 日休会
集中講義

11 月 29 日木邑
A Bayesian Approach to Astronomical Time Delay Estimations

9月にスペインの学会に行ってきたので、そこで 話した内容を元にお話しします。V404 CygのX線と可視光の同時 多波長データのタイムラグ解析の話で、以前の水曜雑誌会での発表 とかぶる部分も多いのですが、データの解析をミスしたことが分かり、 解釈が変わってしまったので、それについて訂正できればと思います。

12 月 6 日幾田
Flare properties revealed by Kepler and analytical modelling with Bayesian algorithm

Kepler宇宙望遠鏡による長期的な測光観測データの様々な解析から, 恒星の磁気活動性が調べられてきた. 特に本研究では, マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)を用いて, 光度変化から磁気活動性を決める多次元パラメータの推定を行った. しかしながら, MCMCでは“次元の呪い”によって, パラメータ遷移の効率が悪く局所解に捕捉される. そのため, パラメータ遷移の効率を向上させ, かつ複数の大域的な最適解を探索する必要がある. そこで, 尤度を緩和してMCMCを並列計算させるレプリカ交換モンテカルロ法(パラレルテンパリング)を導入した. また, MCMCの振る舞いを最適にするため, 計算ステップ毎に提案分布の分散などを学習する適応的モンテカルロ法も組み合わせた. 本発表では, Keplerによって得られた太陽型星の知見と上述のアルゴリズムとその具体的な解析の進展を紹介する. 更に他の問題への適用についても議論したい.

12 月 13 日Tamara
Challenging Unification: A difference in the host galaxy Far-IR emission of Type 1 and Type 2 AGN

Verification of AGN Unification model has been one of the fundamentally important topics of AGN studies. Using SCUBA-2, Herschel and WISE data for the least biased sample of local Swift-BAT AGN, I will present a distinctively different Far-IR emission signature of Type 1 and Type 2 AGN. AGN Unification implies that the differences we observe between Type 1 and Type 2 AGN are due to different viewing angles. If Unification holds, Type 1 and Type 2 AGN should be found in host galaxies with similar properties as they are intrinsically the same. This difference in Far-IR emission is inconsistent with Unification, since Far-IR emission is caused by the host galaxy and not the AGN. I will show how we test that this difference is significant and not due to selection effects. Furthermore, I will discuss possible physical origins and the implications of this observation for Unification.

12 月 20 日榎戸
雷がトリガーした光核反応の発見

原子核反応は宇宙物理の様々な局面で現れる重要なプロセスである。今年、 新潟県の柏崎に設置した地上の放射線検出器により、冬季雷の直後に中性子と 陽電子に起因するガンマ線信号を検出した。これらを詳細に解析したところ、 雷に伴って発生する強力なガンマ線が、大気中の窒素と光核反応する明確な 観測証拠を得ることができ、論文として発表した(*1)。この結果は、雷という 身近な現象でも原子核反応が起きることを明らかにした最初の成果であり、 これまで宇宙線が主な起源と考えられていた放射性同位体の炭素14の生成に 雷が原理的には寄与している可能性も示唆している。今回の発見は、英国物理 学会 (Institute of Physics) 会員誌の Physics World が毎年選定する Top Ten Breakthroughs of 2017 のひとつに選ばれており(*2)、せっかくなので水曜雑誌会 で解説する。

(*1) Enoto et al., “Photonuclear reactions triggered by lightning discharge”, Nature 551, 481-484 (2017) https://www.nature.com/articles/nature24630

(*2) http://physicsworld.com/cws/article/news/2017/dec/11/first-multimessenger-observation-of-a-neutron-star-merger-is-i-physics-world-i-2017-breakthrough-of-the-year
他の9個のテーマには「中性子星連星の合体に伴う重力波」と「オージェ 計画による超高エネルギーが銀河系外起源の兆候の検出」「ミューオンに よるピラミッド透視」などが入っている。

12 月 27 日休会
年末休み

1 月 3 日休会
年末休み

1 月 10 日堀(D論発表練習)
Study of Thermally Driven Disk Wind
in X-ray Black Hole Binary 4U 1630–47 and 7 Year MAXI/GSC Source Catalog
of Low Galactic-Latitude Sky

 今回の発表は主に二つのテーマによって構成される。ブラックホール連星における 熱駆動型円盤風の観測、及び全天 X 線観測衛星 MAXI の 7 年カタログの作成である。 カタログの作成を通して新たなX線連星を発見し、統計的に円盤風を議論できる環境を 作ることが目標である。  まずブラックホール連星 4U 1630-47 において観測された円盤風の長期変動調査、 及びその結果を報告する。我々は 2015 年 2-3月 において、X 線衛星すざく及び NuSTAR を用いて、 high/soft 状態にあるブラックホール連星 4U 1630-47 を計三回 にわたって観測した。また、今回の観測と過去の観測結果を比較するために、2006 年 にすざくによって観測されたデータを再解析した。これら全てのスペクトルにおいて、 高階電離した強い鉄の吸収線が観測され、high/soft 状態において恒常的に円盤風が放出 されていること確認した。また、2015年の観測において、三回の観測中における光度変化 はわずか1.3倍程度であったにもかかわらず、鉄K吸収線の等価幅は大きく変化していた。 我々は円盤風の放出メカニズムを物理的に考察することにより、円盤風の密度や電離度は 天体の光度やスペクトルに依存することを発見した。これらの変動を考慮に入れることで、 4U 1630-47 における円盤風の長期変動を説明することが可能となった。 次に MAXI の観測データを用いた低銀緯領域における X 線天体カタログの作成について 報告する。銀河面を含む低銀緯領域の解析には、明るい天体の数密度が大きく天体混入の 影響を考慮すること、銀河面リッヂ X 線放射 (GRXE) の影響を考慮することが必要で あった。我々は点限応答関数の校正、GRXE のモデル化によってこれらの問題を克服する ことに成功した。銀河面カタログの作成にあたって、光子統計を最大限にあげるため、 運用当初 (2009 年 8 月) から 2016 年 7 月までの 7 年間の積分データを用いた。さらに 73 日 (1/5 年) ごとに分割した観測データを用いて、一時期だけ明るい変動天体も もれなく探査した結果、銀河中心領域 ( l < 30°, l > 330°& |b| < 5°)を除く低銀緯領域 (|b| < 10°) において 221 天体を 6.5°以上の有意度で検出した。最も暗い天体の明るさは 4-10 keV において 5.2×10-12 erg/cm2/s (0.43 mCrab)であった。これら全ての 天体について同定作業を行い、180 天体 (81%)について対応天体を決定した。未同定天体 の多くは、変動が大きく、比較的硬 X 線が強いため、Blazar か X 線連星であると考えられる。  最後にこれらの結果をまとめ結論とする。

1 月 17 日休会

1 月 24 日野上
3.8m望遠鏡プロジェクトの進捗状況と今後の予定、 それと我々がスーパーフレア研究をどういう方向で進めているか、 どのような波及しているかを話します。

1 月 31 日小田,若松(M論発表練習)

過去の雑誌会の内容はこちらに。
2017 年度前期
2016 年度前期
2016 年度後期
2015 年度前期
2015 年度後期
2014 年度前期
2014 年度後期
2013 年度前期
2013 年度後期
2012 年度前期
2012 年度後期
2011 年度前期
2011 年度後期
2010 年度前期
2010 年度後期

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2017 年度世話人: 谷本
tanimoto_[あっと]_kusastro.kyoto-u.ac.jp