観測モードと観測パラメータ

3DIIの4つの観測モードを以下に示す。 そのうちの最初の3つについては Fig. 1に模式図を示す。

(1) ファブリペロ (FP): エタロンとよばれる、平行反射面が互いに向き合ったものを用いる。 入射光が多重反射を受け、干渉条件を満たす波長の光のみが透過する。 我々は、400 nm〜700 nmに対応したエタロンを2個持っている。 それぞれ低分散・高分散用であり、これらのエタロンの有効性は実証 済みである。 また、[O II]λ3727等の短波長の輝線に対応した新しいエタロン も用意した。 これらのエタロンは全てクィーンズゲイトインストゥルメント社製で 有効径が50 mmである。 CS 100とよばれるコントローラを用いることによって、ピエゾ素子と マイクロキャパシタンスでもって調整され、サーボ安定化される。 像を波長方向にスキャンし、三次元データキューブを得ることも可能である。 スキャンは、特に高分散の観測に有効である。

(2) マイクロレンズアレイ(MLA)を用いた Integral field spectrograph (IFS): これは、 Bacon et al. (1995) によって開発されたタイプの多瞳分光器である。 我々のIFSにおいては、まず、望遠鏡焦点面上の像が34倍に拡大されて MLA上に結像される。 それぞれのマイクロレンズは拡大された像の対応した部分に対して マイクロピューピルを生成する。 グリズムを用いてこれらマイクロピューピルに分散をかけるが、 このとき、それぞれのマイクロピューピルのスペクトルが互いに重 なり合わないような方向に分散をかける。 我々は、LIMO社製のcrossed-cylindrical MLAを用いた。 1.54 mm×1.54 mmの大きさのマイクロレンズを37 × 37個 持っている。 材質は溶融石英であり、我々の使用する波長範囲全体にわたって高い透過 率を持つ。 MLAはCCD素子に対して16°.7回転した状態で配置され、分散は CCD素子に沿ってかけられる。 こうすることにより、スペクトル間の間隔が5.5ピクセルとなる。 IFSモードにおいては、単一の露出でデータキューブが得られる。 さらに、我々は、天体と空のスペクトルが同時に得られるように、 3DIでも用いられた二重構造(Ohtani et al. 1994)を採用した。

(3) 長スリット: グリズムによって長スリット像に分散をかける。 スリットは、スペクトロネビュラグラフ(Kosugi et al. 1995)のよう に、空間的にスキャンして用いることも可能である。 また、ファブリペロモードにおいて波長スキャンをしている間の条件 の変化を、この長スリットスペクトルで較正することにも用いること ができる。 これは高精度観測に有効な方法となる。

(4) 狭/広帯域フィルタ撮像: 望遠鏡焦点面付近、及び瞳像の位置において、それぞれ4個と5個の フィルタがある。 これらは、ファブリペロモードにおける次数選択やIFSモード における波長選択のみならず、狭/広帯域フィルタ撮像観測に 用いることもできる。

Fig. 2に、3DIIにおける光学系配置の模式図 を示す。 また、テスト観測のために赤外シミュレータに取付けられた3DIIの写 真をFig. 3に示す。 グリズムウィールとエタロン/グリズムベンチとのつけかえを前もっ て手動で行っておく以外は、IFSモードからその他のモードへの切り 替えは、鏡M1とM4の載ったスライドベンチをリモートで出し入れする ことによって実現される。 グリズムウィールは5個のグリズムを持ち、一方、エタロン/グリズ ムベンチはエタロンとグリズムを1個ずつ持つ。 それぞれのモードにおける観測パラメータをTable 1 に示した。

ファブリペロモードにおいて、透過率ピークの波長は、視野の位置に よって変化する。 その変化の仕方は次式で表される。

etalon peak
ここで、DFは望遠鏡の口径とF -比であり、f はコリメータの焦点距離360 mmである。θ は速度中心からの角距離である。 高分散のエタロンで速度場を観測する場合はスキャンを行うが、低分 散エタロンで単色像を取得する場合は、この波長ずれが実質上観測視 野を決める。 もし、波長分解能の10分の1より小さな波長ずれを持つ範囲を有効 視野と定義するならば、R=400の低分散エタロンに対して、すばるの 場合直径33秒角となる。

IFSモードの空間サンプリングとして、我々は、〜0''.1/lensを使用するが、 将来可視光での補償光学系が実現した際に使用するための、より細か いサンプリングを得るための拡大系も準備した。 IFSモードと長スリットモードにおいて、波長分解能は、 R 〜1200 と 4000 の2種類がある。 低分散においては、IFSモードにおいてでさえ、約100 nmという広い 波長領域をカバーすることができる。 高分散は、銀河のガス 成分の 運動学のみならず、吸収線観測により恒星 成分 の運 動学の研究を行うのに適している。


図1 3DIIの4つの観測モード。


図2 3DIIにおける光学系配置の模式図。



図3 テスト観測のために赤外シミュレータに取付けられた3DII。内部が見えるようにカバーをはずした状態。

表 1: すばるにおける観測パラメータ
OBSERVATIONAL MODE ON SUBARU (8.2 m, F/12.2)
Fabry-Perot 0''.056 pixel-1*a
Field of view 1'.9 × 1'.9*b
(Velocity shift Δ v (km s-1= 980 × (θ ')2)
R ≡λ / Δλ 〜 400 and 7000 (400 - 700 nm)*c
Integral field 0''.094 lens-1
spectrograph Field of view 3''.4 × 3''.4
with a microlens array Number of spectra 〜 1000
R 〜1200 (360 - 900 nm)*d,*e
Long slit Width 0''.12, 0''.19, 0''.56; Length 1'.5
R 〜1200 for 0''.12 slit*d
Narrow-band imaging 0''.056 pixel-1
Field of view 1'.9 × 1'.9

*a We actually will use binning before adaptive optics at optical wavelengthsbecomes available.

*b In the FP mode, the wavelength with a peak transmission varies over thefield of view.

*c Another Fabry-Perot etalon will become available for a bluer wavelength region around 370 nm (section 3.2).

*d A grism with higher spectral resolution R 〜4000 will become available.

*e Only a part of the wavelength range between 360 and 900 nm is actually observed simultaneously: five grisms will cover the whole wavelength range (section 3.3).