マイクロレンズアレイ

マイクロレンズアレイ単体としての性能を評価するため、またそれの観 測へ影響を正しく理解するため、我々はマイクロレンズアレイに対して 以下のような測定を行っている。 ただし、全てこのレポートに書くのは細かすぎると思われるので、こ こでは大雑把な流れを述べるにとどめ、詳細はSugai et al. (1998) の4章とSugai et al. (2000)の3章を参考にしていただきたい。

3.4.1.1. ピッチの一様性

スペクトル同士のクロストークをおさえるために、MLAにおける マイクロレンズ間のピッチが正確であることが大事だ。 三鷹光機製の非接触三次元測定器NH-3を用いて測定を行った結果、 マイクロレンズ表面形状から決定される幾何学的なピッチが 1.540 ± 0.002mm (1σ)であることがわかった。 また、国立天文台に設置されたニコン製測定顕微鏡MM-40を用い、 MLAに垂直に入射した平行光によって生成される像の間のピッチを測定 することにより、この光学的なピッチが1.540 ± 0.003mmである ことがわかった。 測定誤差は充分小さいので、 上述した分散は誤差でなく実際のばらつきである。 設計値からの最大のずれは幾何学的ピッチにおいても光学的ピッチに おいても7〜8μmであった。 これは問題ない量である。

3.4.1.2. 曲率半径の一様性

我々はNH-3を用いて測定したマイクロレンズ表面形状からそれぞれの マイクロレンズに対する曲率半径を求めた。 この曲率半径が一様であるかどうかが、マイクロレンズの焦点距離が 一様であるかどうかに効いてきて、これがあまりに大きく異なるとク ロストークを増やしてしまうことになるからである。 求められた曲率半径はおもて面に対して 10.89 ± 0.14mm (1σ)、裏面に対して10.00 ± 0.09mm (1σ)と、 平均の値はそれぞれ仕様の10.92 mm、10.01 mmに充分近いものであっ たが、分散(測定誤差は充分小さく分散とは実際のばらつきのことで ある)は仕様よりいくぶん大きかった。 しかし、平均からのずれの大きいマイクロレンズについても、観測結果 の通り実害の無いレベルであった。

3.4.1.3. マイクロレンズのポイントスプレッドファンクション

レーザの広がった平行光束を作りこれをMLAに垂直に入射させることに より、MLA焦点面で生成される像を調べた。 Fig. 9にはこうして得られたマイクロレンズのポイント スプレッドファンクション(PSF)を示す。 外側へ向けての強度減少を理想的な回折パターンと比較すると、第5 ピークくらいまでは似ているが、その外側に回折パターンでは説明で きない成分が残っている。 これはマイクロレンズ間の境界領域に起因すると考えられる。 トータルでは〜15%ほどがこの成分 であり、このことはマイク ロレンズの幾何学的形状測定から見積もられる有効面積の大きさとも 矛盾しない(Fig. 10)。

IFSモード使用時において、切り出すスペクトルに含まれる光の割合と、 クロストークの量を、測定したPSFから見積もることができる。 マイクロピューピルのCCD上での理想的な像とPSFとの たたみ込みを行うが、実際の観測にはクロストークをおさえるために、 コリメータの前、それぞれのマイクロピューピルの位置に小さな円形穴 のあいたマスクを用いるので、これも考慮に入れる。 隣接するスペクトルとの間隔が5.5ピクセルで、スペクトルの切り出し を4ピクセルで行う場合、500μm直径の円形穴を使用すれば、約 85 %の光を取り込むことができ、クロストークは2.2 %になることが わかった。 このようなマスクが実際に有効に働くことは確認済みである。

          
図9 マイクロレンズのポイントスプレッドファンクションの測定。(左)レーザの広がった平行光束を作りこれをMLAに垂直に入射させることによりMLA焦点面で生成された像。十字型の大変弱い成分が強調して示されている。(右)左図を拡大して示したもの。


図10 マイクロレンズ表面形状の断面図。測定は、三鷹光機製の非接触三次元測定器NH-3を用いて行われた。