重力レンズ天体 PG1115+080

観測結果の概要:
1999年1月11日と13日に重力レンズ Quasar PG1115+080 の観測を、 OH夜光除去分光器 の赤外分光器部分(CISCO) を用いて行なった。すばる望遠鏡の現時点での空間分解能を最大限に引き出すために、観測は 検出器の一部を高速で読み出す方法で行なわれた。観測された数千枚の image は、 同時に取得された PSF(星像の広がり) 参照星の重心で重ね合わされ、重力レンズ天体の 最終 image が得られた。その image は更に PSF を用いて point source 及びレンズ銀河 成分が差し引かれ、その結果、地上の望遠鏡での観測で初めてこの天体の Einstein ring を とらえることができた(下図上段)。また、同じ PSF で deconvolve (像の逆合成) を行なうことにより A1,A2 成分の歪みを初めて検出し(下図下段)、簡単な重力レンズ model との比較から、歪みの部分は Quasar の周辺 10mas (0.01/3600度) 程度の領域からの放射成分であることがわかった。J-band と K'-band の 測光結果から、1) レンズ銀河は典型的な楕円銀河の color と一致すること(これまでの観測結果を支持)、 2) Quasar の continuum 成分はほぼ flat で紫外域での blue bump が大きいタイプ(ほぼ jet の方向から 見ている)であること、3) Quasar の 母銀河の color は楕円銀河と一致することがわかった。 特に 3) の結果は、通常の銀河進化モデルでは説明できないほど赤い色(年齢が古い)であることを示しており、 このクエーサーの母銀河が何らかの原因で急速に進化した可能性を示唆するものである。

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