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菅井 肇(京都大学)、Richard I. Davies(独:マックスプランク研究所)、Martin J. Ward (英:レスター大学)

私達は、ハワイ島マウナケア山頂にある口径3.8メートルの英国赤外 線望遠鏡を用いて、ちょうこくしつ座の方向で私達から8万光年離れたところにあるNGC 253という銀河に存在する、水素分子ガスが放射 する赤外線を観測しました。この観測結果と、ハッブル望遠鏡によるアーカイブデータを用いることにより、激しい状況にさらされた水素分子の分布図を描き出 しました。

この円盤銀河の中心領域では大量の星形成が爆発的に起きており、 重い星からの風や重い星が死ぬときに生じる超新星爆発のエネルギーによって銀河規模のスーパーウィンドが吹くことがX線などでの 高温ガスの観測から知られています。今回、この高温ガスが円盤から吹き出るときに、もともと円盤にあったと考えられる分子ガスまでがそれにひきずられて円 盤の外へと吹き出され激しい状況にさらされている様子がとらえられました。これらの分子ガスは衝撃波によって二千度ほどまで加熱されているか、または大量 の紫外線などにあぶられているような状況にあります。

スーパーウィンドは、大量の物質を銀河の外へ、つまり銀河間空間へ放り出すため、銀河そのものの進化と銀河間物質の進化へ重大な影響を与えると考え られています。スーパーウィンドの総エネルギーは高温ガスよりも分子ガスに桁違いに多く分配されていることが最近指摘されてきています。今回の結果は、こ れら大量の分子ガスがどのように吹き上げられるのか、また逆に高温ガスの流れの生成や進化が分子ガスからどのような影響を受けているか、といったスーパー ウィンドの本質に迫るものとなっています。

図: ほぼ真横から見た円盤銀河NGC 253の中心領域。円盤は左上から右下にはしっている。ピンク色で示したのが高温ガスで、過去にチャンドラX線衛星により観測されていたもの。 青色で示したのは、ハッブル宇宙望遠鏡アーカイブデータから作成した、水素分子から放射される赤外線の分布。高温ガスが、もともと銀河円盤にあった分子ガ スを吹き上げて激しい状況にさらしている(高温ガスのふちにある青色のひげのようにみえるもの)。Sugai et al., 2003, ApJ, 584, L9

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