Press Release「ニュータイプ」巨大ブラックホールの発見- 高エネルギーX線観測で暴く隠れたブラックホールの謎 -PDFファイル (1.2MB)
概要本研究の解説と意義このような巨大ブラックホールが宇宙にいくつ存在するか?という基本問題に答 えるべく、天文学者はこれまで様々な方法で活動銀河核を探査してきました。そ の多くは、可視光や紫外線を用いたものでした。標準的なモデルによると、巨大 ブラックホールは「トーラス」と呼ばれる、ドーナツの形状をした物質に囲まれ ていると考えられています。見る角度によっては、ブラックホールがトーラスに 隠され、中心からの可視光が見えない場合もあります(「2 型活動銀河核」とよ ばれます)。幸い、そのような場合も、トーラスのすき間(ドーナツの穴)から 洩れる光が多量に存在し、照らされたガスから強い輝線(特定の元素から放射さ れる波長の揃った光)が発せられるため、原理的にブラックホールを見つけるこ とが可能であると考えられてきました。 X線観測は、直接的にブラックホールを探す有力な方法です。じっさい日本の 「あすか」、NASA の「チャンドラ」を始めとするX線天文衛星は、これまでに 多くの2型活動銀河核を発見してきました。しかし技術的困難さから、これま でに行なわれてきたX 線探査のほとんどは10 キロ電子ボルト以下のエネルギー 範囲に限られていました。視線方向をさえぎる物質の量が多くなると、エネル ギーの低いX 線は完全に吸収されてしまい、ブラックホールを直接、見通すこ とができなくなります。このような、深く隠されたブラックホールがどれだけ 宇宙にあるかということは、ほとんど分かっていません。これらを見つけるに は、透過力の非常に強い、10 キロ電子ボルト以上のX 線(硬X 線 )を用いることが本質的に重要です。 そこで我々の注目したのが、2年前に打ち上げられたNASAの「スウィフト」衛星 です。15-200キロ電子ボルトのエネルギー領域で優れた感度を持つ「スウィフ ト」は、現在、過去最高の感度で硬X 線の全天マップを作成しつつあり、次々と 新しい天体を見つけ出しています。 我々は「スウィフト」により見つかった新しい硬X線源の正体を明らかにする べく、2つの天体を日本のX線衛星「すざく」で詳細に観測しました。図1はその一つについて、「すざく」のX線CCDカメラ で撮られたX 線の画像(緑の等高線)と、可視光画像を重ね書きしたものです。 この結果、硬X 線の起源が、一見、可視光で見ると活動的でない「ふつうの銀 河」の中心から来ていることが確認されました。2つの銀河はESO 005-G004、 ESO 297-G018 という名前で、それぞれ「はちぶんぎ(八分儀)」座、「ほう おう(鳳凰)」座の方向、地球から約8 千万光年、3億5千万光年の距離にあり ます。
これらの新天体が、今までに知られていたものと同種かどうかを検証するため には、硬X線だけでなくエネルギーの低いX線も用いてブラックホールの周囲の 構造を探る必要があります。「すざく」は、0.2から70キロ電子ボルトという 広いエネルギー範囲において高精度のデータを同時に 取得することができるというユニークな特徴を持ちます。図2にそのスペクトル(X線の強度をエネルギーごと に示したもの)を示します。10 キロ電子ボルト以上の硬X線の強度がきわだっ て強いことが分かります。それに対し、低エネルギー側ではX 線強度はずっと 弱く、このために過去の観測で見逃されていたと理解できます。
データを詳しく解析したところ、透過力の強い硬X線では、ブラックホール近 辺からの直接光が大量の物質をくぐり抜けて我々に届いていることが分かりま した。それに対し、10キロ電子ボルト以下の直接光は強く吸収されていて、壁 にあたって反射された一部のX線だけが主に見えています。最も重要な結果は、 トーラスから外に洩れ出し散乱された2 キロ電子ボルト以下のX線が極端に少 ない、という点です。この特徴は今までに知られていた活動銀河核にはなかっ たもので、これらが大量の物質に深く埋もれた「ニュータイプ」巨大ブラック ホールであることを強く示唆しています。 図3にESO 005-G004の中心核の想像図を示しま す。高いトーラスの壁に囲まれて、ブラックホールから見てほとんどの方向が 遮られているため、中心から洩れ出しているX線や可視光の量は非常に少ない と考えられます。じっさい我々は、南アフリカ天文台で可視光の観測を行ない、 トーラスの外から来ている輝線が極めて弱いことを確かめました。
「すざく」と「スウィフト」の連携による、この「ニュータイプ」ブラックホー ルの発見は、未だに見つかっていない、大量の物質によって覆い隠された活動銀 河核が宇宙に多量に存在する可能性を強く示唆し、巨大ブラックホールおよび銀 河の進化を考える上でインパクトを与えるものです。 今回の成果は、10 キロ電子ボルト以上の硬X線での観測が隠れたブラックホー ルを探査する上でいかに強力かということを証明しています。宇宙に存在する 全ブラックホールからの放出エネルギーは、「硬X線背景放射」として10-100 キロ電子ボルトの範囲に集中していることがわかっており、本研究は、今後こ の分野を切り開いて行く先鞭をつけたといえます。日本で検討中の次期X線天 文衛星 NeXT(ネクスト)は、「スウィフト」衛星のおよそ100倍以上の感度で の硬X線観測を行なうことができる計画で、巨大ブラックホールの進化の謎の 解明に向けて大きな進展をもたらすと、世界中から期待されています。 この結果は、2007年8月1日付 「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」 誌に掲載されます。NASAからも同時プレスリリースが行なわれる予定です
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