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研究紹介
私の研究分野と研究スタイル私の専門分野は宇宙物理学または天文学の(主として)理論的研究です。宇宙物理学あるいは天文学は、宇宙における現象一般を物理的に解明・理解することを目指す学問で、その対象も惑星から宇宙全体まできわめて多岐にわたる分野です。従って宇宙物理学の中でも細分化が進んでいますが、私は比較的広い分野で研究を行っていて、これまでの研究分野で言えば、観測的宇宙論、銀河や銀河団の形成進化、超新星やガンマ線バースト、銀河系中心などの爆発的現象や高エネルギー現象などが挙げられます。また、観測との関連で言えば、電波から光赤外、X線、ガンマ線に渡る様々な波長の電磁波や、宇宙線やニュートリノといった素粒子観測とも密接に関連した理論研究を行ってきました。 理論研究といっても様々なスタイルがありますが、私の場合、一貫しているのは「最新の観測データに密接に関連した理論研究を行う」という点です。第一原理から出発した純粋理論研究や精密なシミュレーションも大切ですが、私の場合はむしろ最新の観測データに触発された新たな謎を新しいアイデアや比較的現象論的なモデルで解釈したり、あるいは理論予言に基づく新しい観測を観測家と一緒に提案して実行したりという研究が主になっています。アイデアが本当に新しければオーダー評価だけで論文を書いたりすることもありますし、比較的精密なモデルを作って観測データと詳細に比較することで新しい知見を得る研究もします。 私の信念は、理論と観測・実験が車の両輪のようにかみあって初めて科学は発展するというものです。物理学のなかでは理論と実験が大きく乖離してしまっている分野もありますが、宇宙物理学は現在も最新観測データが次々と生み出されて、理論と絡みながら急速に発展している魅力的な分野です。
ページの一番上に戻る 過去に報道発表した研究「すばる、宇宙を見通す --- 宇宙の果てまでの銀河光の90%を個々の銀河としてとらえる」(国立天文台報道発表、平成13年4月30日) 「超巨大ブラックホールの隠された活動性」(日本天文学会平成17年春期年会報道発表) 「ガンマ線バーストで探る初期宇宙〜宇宙は誕生後9億年で電離していた」(京都大学平成18年5月19日報道発表
ページの一番上に戻る 1. 観測的宇宙論 (宇宙モデルの決定、暗黒物質と暗黒エネルギーの起源)「観測的宇宙論」とは、観測データに基づいた物理学的宇宙論、ビッグバン宇宙論の研究をさす。現在、観測的に直接探ることができるのは宇宙誕生後約40万年の宇宙である宇宙マイクロ波背景放射である。(宇宙全体を満たすような光や電磁放射場のことを「背景放射」という。)間接的には宇宙の元素組成から、誕生後数分のビッグバン元素合成の時代まで探ることができる。それより昔の時代は素粒子物理学の理論的観点から様々な議論が行われ、観測的宇宙論に対して「素粒子的宇宙論」とも呼ばれるが、観測データに乏しく、その進展は理論的整合性や美しさに主に頼らざるを得ない状況にある。観測的宇宙論は最新の宇宙観測プロジェクトによる豊富な新データのインプットにより、現在の物理学、宇宙物理学の様々な分野の中でも最も劇的に発展しつつある、魅力的でホットな分野となっている。 観測的宇宙論における最も重要な目的は精密観測に基づいて宇宙の幾何学的構造や物質構成を決定することである。それには様々な手法があるが、私はこれまでに銀河の個数密度に基づく方法[18,24] や Ia 型超新星を標準光源とした幾何学テスト[16] に関する研究を行ってきている。最近では、すばる望遠鏡による超大規模銀河サーベイを行い、バリオン振動と呼ばれる宇宙の密度揺らぎの特徴的なスケールを標準定規とした精密幾何学テストを実現するプロジェクト(FastSound計画)を進めている。 宇宙の進化と共に大規模構造や銀河がどのようにできてきたのかも観測的宇宙論のテーマだが、これは2章に譲る。 様々な観測から決定された、現在標準となっている平坦なΛCDM宇宙モデルは実に奇妙な宇宙である。宇宙の質量(エネルギー)密度のうち、およそ70%がダークエネルギーと呼ばれる謎の存在(現象論的にはアインシュタインの宇宙定数でよく記述される)であり、25%が暗黒物質と呼ばれる、重力を通じてその存在が知られているが正体は全く不明の物質で占められている。我々の良く知っている物質(原子核などの「バリオン」)は数%にすぎない。このダークエネルギーと暗黒物質の起源解明が今後の観測的宇宙論に課せられた最大の課題といえるだろう。特に、上記のFastSound プロジェクトはダークエネルギー解明に向けた重要なデータとなると期待される。
宇宙の物質構成 一方、暗黒物質の起源として最有力とされているのは素粒子理論が予言する超対称性粒子ニュートラリーノである。ニュートラリーノは対消滅してガンマ線などの高エネルギー粒子を放出すると予言されており、そのガンマ線などを銀河系中心などの高密度領域から検出できれば、暗黒物質の問題が解決される可能性がある。私はこれまでに、ニュートラリーノ対消滅が銀河団ガスの加熱に寄与する可能性や、宇宙全体を満たす宇宙ガンマ線背景放射への寄与などについての研究を行ってきている[40,45]。ガンマ線観測については5章も参照。
ページの一番上に戻る 2. 銀河の形成と進化誕生直後は一様であった宇宙から、現在の銀河や銀河団、大規模構造にみられる豊かな構造がどのようにして形成されてきたのかは宇宙論の大きなテーマの一つである。ビッグバン宇宙においては,遠方を見ることは過去を見ることであり,遠方銀河の観測から初期の銀河形成の様子を知ることができる。私は,ハッブル宇宙望遠鏡及びすばる望遠鏡で得られた宇宙最遠のイメージに見いだされた原始銀河の数や大きさなどを精密な理論モデルと比較し,銀河の形成進化や宇宙の構造などについていくつかの重要な示唆を得た[5,9,18,21,23,24,28].特に,近赤外線で当時世界最高深度を達成した「すばるディープフィールド」の解析から,銀河として観測される光では、夜空に淡く広がった放射として観測される宇宙背景放射の総量(=宇宙を満たす光の総量)を説明できないという結果を得た。これは、宇宙が謎の光に満ちている可能性を初めて明確に示したものである[21].この成果は,すばる望遠鏡初期の重要な成果として記者発表され,新聞主要各紙などで広く紹介された(報道発表の項参照)。
銀河の形成進化を理解するうえで重要な指標に「宇宙の星形成史」という概念がある。宇宙全体で平均した大局的な星形成率(星形成のスピード)が宇宙史とともにどのように進化してきたか、というものである。私は、超新星起源のニュートリノ宇宙背景放射[1-3、および4章参照]、ガンマ線バースト[6、および3章参照]、遠方の超新星の発生頻度[45]などの多角的な視点でこの星形成史の解明に取り組んでいる。
ページの一番上に戻る 3. ガンマ線バースト 〜宇宙最大の爆発〜ガンマ線バースト (GRB) とは数秒から数十秒の間,突然バースト的にガンマ線が放出される現象で,1970年頃に発見された.長い間、謎の現象とされ,ようやく1997年に可視光残光に赤方変移(z=1程度)が発見され,宇宙論的な遠方で起きている巨大な爆発現象(明るさでは宇宙最大)であることが判明した.特殊な超新星爆発との相関も見つかっており,巨大エネルギーの超新星に付随するジェット(噴水のように物質が高速で放出されること)による現象という見方が確立しつつある. 私は,GRB が宇宙論的現象であると判明する直前の1997年,もし宇宙論的遠方の現象ならば,GRBは大質量星の生成と死に密接に関連しているため,GRB の明るさ分布の統計的研究から宇宙の大局的な星形成史や銀河の進化史を探ることができることを示した [6].現在,GRB を用いて宇宙初期の星形成活動を探るというのは世界的に一大潮流となっているが,この論文はそのアイデアを世界で最初に示したものとして評価され,数多く引用された.特に,Nature 誌上に掲載された1997年の GRB の国際会議の 総合報告では,"The single most important theoretical idea in the conference" という評価を受けた(B. Paczynski & C. Kouveliotou, Nature, 389, 548 (1997)). さらに星形成史だけでなく、GRBを用いた様々な初期宇宙の探求が可能である。特に重要なのは、「宇宙再電離」である。誕生直後の宇宙は高温のためプラズマ状態(電離状態)だが、誕生後数十万年で温度低下により中性状態になったことがわかっている。しかし、現在の宇宙は再び電離状態にあり、宇宙誕生後10億年ごろに誕生した最初の星々により「再電離」が起きたと考えられるが、まだよくわかっていない。我々は、平成18年9月に発生したGRB050904について、すばる望遠鏡の観測で光学スペクトルを取得し、これまでで最遠方のGRBであることを明らかにした[49]。さらに、この光学スペクトルの詳細な理論解析により、宇宙が誕生後9億年ですでに電離されていたことを初めて明らかにした[50]。GRBによって初期宇宙に関する情報が初めて得られた、画期的事件となった。(報道発表) GRB050904の可視残光のイメージとスペクトル
ページの一番上に戻る 4. 超新星爆発とニュートリノ宇宙物理超新星爆発は大きく二つの種類に分 かれ,白色矮星が核反応エネルギーで爆発する核燃焼暴走型 (type Ia) と,太陽よりずっと重い星がその一生の最後に重力崩壊して爆発し,中性子星やブラックホールを残す重力崩壊型 (Ib, Ic, II 型)がある.重力崩壊型超新星は解放される 10^{53} erg (太陽が1年間に放出するエネルギーのおよそ10兆倍)という膨大なエネルギーのほとんどをニュートリノで放出する.(爆発で放出される物質の運動エネルギーはその100分 の1程度にすぎない.) 大マゼラン星雲で起きた超新星1987Aでは神岡鉱山のカミオカンデで初めて11個のニュートリノが検出され、小柴昌俊氏にノーベル物理学賞が授与されたことは有名である.
大マゼラン雲に出現した超新星1987A。宇宙物理学、素粒子物理学に革命的進展をもたらした。 現在稼働中のスーパーカミオカンデはカミオカンデの30倍の大きさであり,我々の銀河系で超新星が起きれば,数千発のニュートリノの検出が予想される。私は,そのデータから何をどこまで解明できるかを,現実的なシミュレーションを行いつつ定量的,系統的に調べ、まだ未解明の超新星爆発機構[7]や,電子ニュートリノ質量[8] に関して重要な情報を得られることを具体的に示した。特に文献 [7] は,超新星ニュートリノとその検出可能性に関する論文の標準的なものとしてよく引用されている.
我々の住む銀河系で超新星爆発が発生した場合に予想されるスーパー神岡実験でのニュートリノ検出のシミュレーション。数千のニュートリノが検出されると期待され、ニュートリノ物理や超新星爆発のメカニズムの解明のために貴重な情報を与えるはずである。(Totani et al. 1998, ApJ 496, 216)
ページの一番上に戻る 5. 高エネルギー現象,ガンマ線,宇宙線アメリカのコンプトン衛星 EGRET 検出器が観測した GeV 領域ガンマ線で見た天球上には,角分解能の悪さなどのため,未同定天体として残されているものが数多く残っており,その起源は重要な未解決問題である.また、銀河系外起源と考えられる等方的な宇宙ガンマ線背景放射も確認されており、その起源も謎である。現在確認されている銀河系外のガンマ線源はブレーザーと呼ばれる種類の活動銀河中心核(Active Galactic Nuclei, AGN)だけだが、私たちの最新の研究によれば、このブレーザーでは背景放射を全て説明することは難しいようだ[49]。私たちは、ブレーザー以外のガンマ線源の可能性として、銀河団の合体など宇宙の構造形成の際に発生する衝撃波による電子加速起源の可能性 [19,27,32]や、超対称性粒子ニュートラリーノが宇宙の暗黒物質になっていてその対消滅のガンマ線が観測される可能性[40,47]などについて研究を行っている。
コンプトンガンマ線天文台衛星 EGRET 検出器で見た全天マップ。中心が銀河中心方向で、宇宙線起源のガンマ線が銀河円盤上に沿って見える。(credit: EGRET, Compton Gamma-ray Observatory)
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