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ガ ンマ線バーストで探る初期宇宙
〜誕生後9億年で、宇宙はすでに電離していた〜


  TokyoTechPhysics Subaru

京都大学 報道発表 (平成18年5月19日)

目次

  1. 概要
  2. 解説
  3. 関連リンク
  4. 本研究に参加した研究者
  5. 新聞などの報道結果 

概要

京都大学、東京工業大学、国立天文台の研究者からなるチームは、昨年9月に
発生した、これまでで最も遠いガンマ線バーストの、すばる望遠鏡で取得した
光学スペクトルを解析して宇宙初期の物理状態を調べた結果、宇宙は誕生後わ
ずか9億年という時代ですでに電離していたことを世界で初めて明らかにしま
した。現代宇宙論の謎のひとつ、「宇宙の再電離」を解明し、宇宙初期の天体
形成を探る上で貴重な手がかりとなります。

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解説

現代宇宙論の謎、「宇宙の再電離」とは?

物質は原子からできており、原子はプラスの電気を持った原子核とマイナスの
電気を持った電子で構成されていて、通常は中性です。しかし、何らかの
原因で原子から電子が引き離されて電気を帯びることを「電離」または「イオン化」と
いいます。電離して電気を帯びた粒子からなるガスのことを「プラズマ」といいます。
宇宙の通常物質の大半を占めるのは水素で、水素原子核(=陽子)と
一つの電子からできています。

宇宙はおよそ140億年前、熱い火の玉として誕生しました。誕生直後の宇宙
はとても熱く、原子核と電子はバラバラに存在していました〔荷電粒子
(=イオン)に電離した状態〕。その後、膨張とともに宇宙の温度は
下がっていき、宇宙誕生後およそ30万年頃には温度が約3千度まで下がり、
水素原子核(=陽子)と電子が結合して水素原子となって宇宙が中性化したと
考えられています。

しかし、現在の宇宙では、宇宙に存在する通常物質の大半を占める銀河間空間
の水素は原子核と電子に電離されていることがクエーサー(注1の観測 から
分かっています。これは、一度は中性になったはずの宇宙が、どこかの時点で
再び電離したことを示しています。これは「宇宙の再電離(再イオン化)」
と呼ばれ、現代宇宙論の大きな謎の一つです。
いつ、どのように再電離が起ったのかは、まだ良く分かっていません。
水素を電離させるためには、エネルギーが必要です。宇宙初期に
おいて何らかのエネルギーが生成され、電離が起ったことは間違いありません。
宇宙初期に誕生した星からの紫外線で電離されたとする説もあります。
宇宙再電離を明らかにすることで、宇宙初期の天体の形成やエネルギー生成について
重要な情報が得られると期待されています。

クエーサーの観測から、誕生後10億年以降は宇宙は電離していることが
分かっています。一方、この時代の宇宙の電離度は過去に向かって急激に
下がっていることも知られています。また、この時代は電離源の候補で
ある宇宙の初代天体(原始銀河やその中で形成される宇宙初期の星々)
が激しく形成され始めたころと考えられています。従って、誕生後9億年頃が
宇宙の再電離の重要な時代であり、この頃の宇宙はあるいは中性に
なっているのではないかとも言われてきました。しかし誕生後10億年より
前ではクエーサーを用いた方法が使えなくなるため、正確な測定は
できませんでした(注2)。

一方、全く独立な方法として、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波
背景放射とよばれる電磁波が、途中の電離された自由電子に散乱される
様子を見ることで宇宙の電離度を測定する方法もあります。アメリカの
WMAP衛星による最新の観測では、クエーサーから示唆される時期よ り
ずっと早く(単純なモデルだと誕生後5億年程度)に電離されている
のではないかとも言われていました。ただしこの方法は、視線(奥行き)
方向に平均化された電離度しか測れないため、具体的に、例えば
誕生後9億年の宇宙が電離されているかどうかはわからないという欠点があり、
クエーサー観測との矛盾が国際的に議論を呼んでいました。

この状況を打破する可能性として世界中の研究者が期待していたのが
「ガンマ線バースト」(注3を用いる方法で す。ガンマ線バーストは
極めて明るいため、非常な遠方すなわち初期の宇宙で発生しても観測可能です。
また、仮にクエーサーと同じ距離であってもガンマ線バーストのほうが
宇宙の電離状態を調べるのに適している点がいくつかあります。
このため、ガンマ線バーストを用いた初期宇宙の研究、特に再電離の
研究は、宇宙論研究の次のフロンティアとして世界的に大きく期待され、
実現へ向けて激しい競争が繰り広げられていました。


平成17年9月4日のガンマ線バーストによる宇宙再電離の探求

昨年9月4日に発生したガンマ線バーストは、宇宙誕生後9億年という、これ
までで最も遠く、宇宙誕生後10億年の壁を初めて破ったガンマ線バーストで
す。(このバーストの発見の模様については、昨年秋の報道発表を ご覧下さい。)
このガンマ線バーストの光学スペクトルを日本のすばる望遠鏡で取得し、
距離を正確に決めたのは東京工業大学の河合誠之教授を中心とする研究グルー
プの成果で、昨秋に大きく報道され、科 学誌ネイチャーにも掲載されました。
研究グループは引き続き、このガンマ線バーストから具体的な宇宙初期の情報
を引き出すため、京都大学の戸谷友則助教授を中心として詳細なデータ解析と
理論的検討を進めてきました。

光学スペクトルとは、虹やプリズムのように、光を波長ごとに分けて調べる
ことです。研究チームが注目したのは、ライマンα線(注4と 呼ばれる、
水素原子の基底状態と第1励起状態の間の遷移に伴う波長1216Åの光の
吸収です。〔1Å(オングストローム)= 10-10 m〕
この光は 通常は紫外線ですが、このガンマ線バーストは距離にして
128億光年の彼方にあるため、波長がおよそ 7.3 倍に延びて観測されます
(赤方偏移)。従って、観測されるときはおよそ8900Åという赤外線に
近い波長で観測されます。ガンマ線バーストからの光は広い 波長域で
まんべんなく やってきますが、途中の宇宙空間に中性の水素原子があると、
ライマンα遷移によって吸収され、1216Å付近の波長のみが
吸収されます。このガンマ線バー ストに近い吸収体で吸収されると、
その痕跡はやはり赤方偏移をうけて8900 Å付近に現れます。より我々に
近いところで吸収された場合は赤方偏移は弱まり、より短波長で吸収の痕跡が
現れます。バーストと我々の間にある様々な吸収体 のため、8900Åより
短い波長では光は大きく吸収を受けます。研究チームは、このガンマ線バースト
付近の 宇宙の電離状態を調べるため、このスペクトルに対し詳細な理論解析を
行いました。


(銀河間空間におけるライマンα吸収の概念図)



(実際に観測されたガンマ線バースト残光のスペクトル。発生から 3.4 日経過している。
ライマンα波長の1216Åが赤方偏移のため 7.3 倍だけ延びた波長8877Åより
短波長側で激しく吸収されているのがわかる。曲線は理論モデルで、8900-9200Åの吸収の
具合いがデータに非常によ く合っている。上部のイメージは実際のCCD上に写ったスペクトル。)


その結果、誕生後9億年で、宇宙はすでに電離していることを突きとめました。
より正確には、中性水素の割合は17%以下である可能性が高く、
60%以上であることは否定されました。すなわち、宇宙の再電離の時期は
これよりも前ということになります。これは、これまでにクエーサーによる
研究で予想されていた時代をさらに遡るもので、電離源の候補である
原始銀河や第一世代の星々の形成がより早い時期から激しく
行われていたことを示唆します。

今回の成果により、ガンマ線バーストによる初期宇宙の研究の威力が明確な
形で実証されました。さらに、世界的な競争になっていた状況で、
スペクトルの取得からデータ解析、初期宇宙の情報の導出にいたるまで、
すべて純粋に日本のチームによって行われたことで、日本の天文学の存在感を
世界に大きくアピールしました。今後、さらに多くの遠方のガンマ線バースト
からより詳しい宇宙再電離の過程が解明されると期待されますが、
本研究はその先駆けとなるでしょう。

この成果は6月25日発行の「日本天文学会欧文報告」58巻3号に掲載され
る予定です。



注 釈

注1
クエーサーとは、活動銀河中心核と呼ばれる、銀河中心の超巨大ブラックホール
(太陽の百万倍から10億倍程度の質量)にガスが落ち込む際の重力エネルギー
で光る天体のなかでも最も明るいもので、宇宙のはるか遠方でも見つかっています。
宇宙再電離の研究はこれまで主にこのクエーサーを用いて行われてきました。
クエーサーの光が、地球までやってくる途中にある銀河間空間の中性水素によって
吸収される具合いを見て、宇宙の電離度を測定します。本文へ戻る

注2
今回のガンマ線バーストと同じぐらいの距離にあるクエーサーも見つかっていて、
宇宙誕生後9億年の頃の電離状態を調べようとした研究もあります。
しかし、この時代の宇宙にクエーサーの方法を適用する場合、(1)クエーサー
自身が周囲を電離してしまう効果があり、本当の周囲の電離度を調べられない
 (2)クエーサーのもとのスペクトルの形に不定性が多く、正確な電離度が
測定できない、などの問題があります。そのため、中性水素の割合が 1/1000
より高い、という程度の大雑把な制限しか得られていませんでした。
つまり、誕生後9億年の宇宙が中性なのか電離しているのかはわかっていません
でした。本文へ戻る


注3
ガンマ線バーストとは、宇宙の一点から短時間(典型的には数秒間
ないし数十秒間)の強力なガンマ線・X線がやってくる現象で、1960年代に
核実験査察衛 星によって偶然に発見されましたが、その後30年ほどその正体は
謎とされてきました。近年の研究によって、数億光年ないし百数十億光年の
遠方で発生す る、宇宙最大の爆発現象であることがわかってきました。
その起源は完全には解明されていませんが、さまざまな証拠から、
太陽の数十倍以上の質量をもつ 巨大な星が、その一生を終えてつぶれて
ブラックホールになるときに、ほぼ光速のジェットを放射し、
そのジェットが地球の方向を向いていたときにガンマ線 バーストとし
て観測されると考えられています。

ガンマ線やX線は大気に吸収されるため、ガンマ線バーストそのものは、
人工衛星を用いないと観測できませんが、爆発の後に、急速に減光する
「残光」(アフ ターグロー)を残します。この残光を地上の望遠鏡や、
高感度の宇宙望遠鏡で観測することによって、バースト源の距離、
環境、バーストの発生機構などを調べ ることができるのです。


(今回のガンマ線バーストの発生位置 (NASA 提供) "PISCES" はうお座。)

 
(すばる望遠鏡で得られた今回のバーストの残光の画像。ほぼ同時(発生後3日後)
のイメージですが、波長7200〜8600Åの Ic バンドでは激しい吸収のため見えず、
8500〜9800Åの z' バンドだけで見えています。吸収の原因については本文参照。
観測データの詳細はこち ら

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注4

水素原子の構造とライマンα線の概念図

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関連リ ンク
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本 研究に参加した研究者(論文著者順)

戸谷 友則    (京都大学 理学研究科 助教授) (本研究の代表)
河合 誠之      (東京工業大学 理工学研究科 教授) (すばるGRBチーム代表)

小杉 城治    (自然科学研究機構 国立天文台 助教授)
青木 賢太郎   (自然科学研究機構 国立天文台 研究員)
山田 亨     (自然科学研究機構 国立天文台 助教授)
家 正則     (自然科学研究機構 国立天文台 教授)
太田 耕司    (京都大学 理学研究科 助教授)
服部 尭      (自然科学研究機構 国立天文台 研究員)

この研究をまとめた論部は6月25日発行の「日 本天文学会欧文報告」58巻3号に
掲載されます。
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新聞などの報道結果

京都新聞 1面



朝日新聞 WWW版


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