クリアセラム平面原器の検討


鏡の研削にあたってφ65cmの平面原器(クリアセラム)を作成することになりました。その軽量化、支持方法を検討します。3DCADとFEM解析(ANSYS)を使って考えます。
更に、オハラでは研磨するときの精度測定を鏡を「立てた」状態で行うので、立てたときの平面部の歪みも考慮します。
  1. 基本設計(go)
  2. 軽量化案1:3点支持による(go)
  3. 軽量化案2:9点支持による(go)
  4. 軽量化案3:9点支持による、改良(go)
  5. サブリブの効果(go)
  6. 立てたときの変形(go)
  7. 僅かに傾けてみる(go)

基本設計

平面原器の基本設計は、
支持点は内に3点または9点(whifle tree)の案があります。副鏡の軽量化の結果から9点になりそうですが、どちらも考えます。軽量化はオハラからの要請で、円柱刳り貫きを基本とします。40%程度の軽量化を目指します。また、平面原器なので表面の歪みは"λ/20 〜 20-30nm"に抑える必要があります。
また、支持点の位置は重心付近の、刳り貫く円柱の配置の邪魔にならないところに置きました。


軽量化案その1:3点支持

まずは3点支持を考えます。刳り貫く円柱の大きさを変えて2タイプ考えました。
ひとつはφ75mmの円柱を刳り貫き、余ったところをφ55mmの円柱で刳り貫く方式です。このとき支持点の位置はφ=369.32mmの円周上に存在します。

FEM解析の結果は以下のようになりました。(重力は+zの方向)
質量は39.755kgとなりました。表面上の歪みは199nmです。やはり、3点支持のためか歪みが大きいです。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量2300
x軸63-64
y軸72-44
z軸0-219
表面全変形量21920
x軸27-27
y軸29-26
z軸-18-218

表面上の歪みは199nm
軽量化率は42.6%

もうひとつはφ35mmの円柱を刳り貫く方式です。支持点はφ=369.5mmの位置に位置しています。

FEM解析の結果は以下のようになりました。(重力は+zの方向)
質量は43.236kgとなりました。表面上の歪みは182nmです。刳り貫く円柱を小さくすると歪み多少緩和されますが3点支持では困難だと考えられます。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量2160
x軸53-53
y軸60-37
z軸0-208
表面全変形量20927
x軸26-27
y軸20-28
z軸-26-207

表面上の歪みは182nm
軽量化率は46.4%

軽量化案その2:9点支持

次は9点支持で考えます。
9点支持の場合、大きい(φ75mm)円柱では支持点の位置との兼ね合いがとりにくかったのでφ35mmの円柱で刳り貫き、余ったところをφ25mmの円柱で刳り貫く方式のみを考えました。支持点の位置は内側3点がφ=184.76mm、外側6点がφ=513mmの円周上に存在しています。

FEM解析の結果は以下のようになりました。(重力は+zの方向)
質量は44.064kgとなりました。表面上の歪みは26nmです。軽量化率は40%には到達できませんが表面の歪みは充分ではないかと思われます。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量390
x軸7-7
y軸7-7
z軸0-38
表面全変形量3812
x軸6-6
y軸5-6
z軸-12-38

表面上の歪みは26nm
軽量化率は47.3%

軽量化案その3:9点支持、改良

もう少し軽くするために9点支持でメインリブとサブリブのような構造に変えます。2案考えました。
メインリブは副鏡の場合に一番効果のあった「支持点同士、内側の支持点から外側の支持点へ、外側の支持点から外周縁へ」リブをつなげます。サブリブはメインリブの間を円柱くり貫いていきます。円柱サイズは一番中央のみφ35で、残りはφ20です。
支持点は、内側はφ185、外側はφ485の円周上に配置しました。

FEM解析の結果は以下のようになりました。(重力は+zの方向)
質量は35.508kgとなりました。表面上の歪みは32nmです。軽量化率は38%と、40%を下回ることができました。ただ、少し表面上の歪みが大きいかもしれません。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量440
x軸11-12
y軸13-13
z軸0-42
表面全変形量4210
x軸6-6
y軸6-6
z軸-42-10

表面上の歪みは32nm
軽量化率は38.1%

もう一つはより効率的にサブリブを刳り貫くために円柱ではなくφ20の円で描く多角形(主に三角形)を用いました。
支持点は、内側はφ284.28、外側はφ532.96の円周上に配置しました。

FEM解析の結果は以下のようになりました。(重力は+zの方向)
質量は32.733kgとなりました。表面上の歪みは27nmです。軽量化率は35%と、先の案よりも軽くて表面上の歪みを少しだけ小さくすることができました。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量450
x軸11-12
y軸11-13
z軸0-44
表面全変形量4417
x軸5-6
y軸5-5
z軸-44-17

表面上の歪みは27nm
軽量化率は35.1%


サブリブの効果

一番軽量化として効果のあった、メインリブ+サブリブの設計案に対して、サブリブの効果を調べます。
サブリブを埋めてメインリブの高さを85mmにした場合と、サブリブを削ってメインリブの高さを100mmにした場合の軽量化率及び表面上の歪みを計算しました。
下の図面はサブリブを削った場合のものですが、サブリブを埋めた場合もほとんど同じです。

FEM解析の結果は以下のようになりました。(重力は+zの方向)
サブリブを埋めて高さ85mmのメインリブのみにした場合の表面での歪みを表した図です。質量は38.058kgとなりました。表面上の歪みは26nmです。軽量化率は41%でした。サブリブを作ると歪みを抑えたまま軽くできるようです。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量480
x軸12-12
y軸11-13
z軸0-47
表面全変形量4721
x軸5-5
y軸5-5
z軸-47-21

表面上の歪みは26nm
軽量化率は40.8%

続いてサブリブを削って高さ100mmのメインリブのみにした場合の表面での歪みを表した図です。質量は28.320kgとなりました。表面上の歪みは26nmです。軽量化率は30%でした。サブリブを削っても歪みを抑えたまま軽くできるようです。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量420
x軸11-11
y軸9-12
z軸0-41
表面全変形量4014
x軸5-5
y軸5-5
z軸-40-14

表面上の歪みは26nm
軽量化率は30.3%


「立てた」場合の変形

一番軽量化として効果のあった、メインリブ+サブリブの設計案、及びそのサブリブを削った設計案に対して、実際に平面原器を研磨したときに検査する状態と同じ条件での表面の歪みを調べます。
恐らく、立てた場合にはベルトを側面にま巻いて平面原器を支えると考えられるので、側面の下半分に圧力をかけます。(圧力は、平面原器にかかる重力と同じ大きさの抗力による圧力としています。)
また、固定面は下側の約6分の1程度の範囲とし、回転防止のために背面から上部2点を摩擦なし固定しました。

FEM解析の結果は以下のようになりました。(重力は+yの方向)
メインリブ+サブリブの設計案に対して「立てた」場合の、表面での歪みを表した図です。表面上の歪みは64nmです。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量1750
x軸48-48
y軸2-172
z軸34-32
表面全変形量110< 1
x軸17-19
y軸<1-106
z軸33-31

表面上の歪みは64nm

サブリブを削った設計案に対して「立てた」場合の、表面での歪みを表した図です。表面上の歪みは55nmです。「立てた」場合の歪みが僅かですが抑えられることが分かりました。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量1630
x軸48-53
y軸163> -1
z軸34-22
表面全変形量118< 1
x軸19-21
y軸116< 1
z軸34-21

表面上の歪みは55nm

背面の『摩擦なしの固定点』の数を増やしても鏡面上の歪みはよくはならないようです。どちらの場合も、z軸方向、鏡面に垂直な方向のずれが50nm以上あり、原器として充分な平面精度には足りません。


僅かに傾けてみる

立てた場合の変形評価から、このままでは原器として十分な平面精度が得られないことが分かりました。
そこで、僅かに原器を傾けてみます。
傾ける方向は、重心が原器表面に偏っているので、背面側に、大きさは1°、並びに3°を評価しました。
また、評価はメインリブ+サブリブの案に対してのみ行いました。

1 FEM解析の結果は以下のようになりました。
1°傾けたときの表面での歪みを表した図です。1°の傾きなのでほぼz軸方向の歪みとみなして考えています。表面上の歪みは55nmとなりました。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量1710
x軸48-47
y軸2-168
z軸27-29
表面全変形量110< 1
x軸18-19
y軸<1-106
z軸26-29

表面上の歪みは55nm

3°傾けたときの表面での歪みを表した図です。表面上の歪みは41nmです。ただし、表面上に歪みはぼz軸方向の歪みとみなして考えています。
変形量(最大)[nm]変形量(最小)[nm]
全体全変形量1620
x軸47-43
y軸2-160
z軸18-25
表面全変形量110< 1
x軸18-20
y軸< 1-109
z軸17-24

表面上の歪みは41nm

傾けるとモーメントがうまくはたらいて歪みを少し抑えることができるようです。ただし、これ以上傾けると逆効果になりました。

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