2018年1月4日の質問に対する回答

分光関連

Q:ファブリペロでは天体の形状に依らず同心円の像が見えてしまうの?
A:いいえ、違います。天体の像として光の無いところは同心円状の光の輪が光らなくなるので、欠けたリング状の像になります。

Q:ファブリペロで異なる円環上に同じ波長が出ることはないの?
A:はい、あります。2dsinθが波長の整数倍になるたびに同じ色が繰り返されます。

Q:ファブリペロで、反射を繰り返すうちに弱くならないの?
A:薄膜が不透明であれば減衰がおきるでしょうが、光学材料は薄膜程度の厚さの1000倍だろうが減衰はほとんどありません。ソリッドエタロンと言って両面を精密に研磨した厚手の光学素子もあります(分厚いシャボン膜というイメージ)。厚くすることで光学距離が増え、より高次の分光器となります。そういったものももちろん内部吸収がほとんどない材料が用いられます。

Q:ファブリペロで透過とは反対側に光は漏れ出ないの?
A:反対側ではちょうど光路長が半分異なり弱め合う条件なので漏れ出ることはありません。逆の言い方をするとその条件を満たさない角度で入射した波長の光は透過しないので、漏れ出ます(というより反射される)。なので、リング状に異なる波長が透過します。繰り返しですが、それ以外は全て反射してしまいます。干渉フィルタは垂直入射のファブリペロに似ています。狭帯域な干渉フィルタは干渉条件を満たさない全てを反射してしまいます。通常の分光器は空の一点だけを正しく分光しますが、それ以外の光を捨ててしまいます。ファブリペロは広い領域を観測できますが、ある点に注目すると限られた波長の光だけを観測し、それ以外の光を捨ててしまいます。効率は似たようなものです。それを克服するのが後述の3次元分光器です。しかし、大きな検出器が必要となります。

Q:分光器で3次元ってどういうこと?
A:広がった天体(星雲や銀河)を波長ごとに分けたデータを言います。撮像の場合はxとyの2次元の強度図ですが、波長方向にもう1軸増やした情報となります。講義では説明しなかったので、資料などを参考にしてください。

Q:回折格子は別の次数にエネルギーが漏れていくので効率が悪そう。
A:はい、そのためにブレーズド回折格子があります。講義資料などを参考にしてください。

Q:波長分解能は小さなピクセルサイズの検出器を使えば上げられるのでは?
A:そうではありません。分光器の分解能は1)分散素子でどれだけズレた波同士を干渉させられるか、2)スリットをどれほど狭めるか、で決まります。講義で説明したように、回折格子で分散を上げるには格子数を増やすことと、次数を上げることです。格子の数が多ければよりズレた波を干渉させることができます(下図参照)。それだけわずかな波長ズレに感度を持ちます。プリズムの場合も同様です。

次にスリット幅の影響を説明します。検出器から見ると分散素子がない場合、スリットの像が映ります。分散素子を入れると虹色のスリットが見えることになります。例えばいま青と緑のスリット像が隣り合っていたとします。それら像の焦点面での距離はレンズの焦点距離で決まります。もしスリットが大きいと、それらのスリット像は隣の像と重なってしまいます。この場合検出器のピクセルサイズが無限小でも意味がありません。分光器の波長分解能は分散素子(波の数)とスリット幅で決まり、それに合うようなピクセルサイズの検出器が選ばれます。


Q:光路差と分散は別のことだと思うけど?
A:厳密には光路差/波長が分散を決めます。

Q:分光器の説明図で凸レンズが使われていたが、凸レンズは作りにくく、今では凹面鏡だったはずでは?
A:それは望遠鏡の主鏡(レンズであれば対物レンズ)での話です。主鏡は大きいためレンズでは作れません。装置内の光学系であればレンズは今でも活躍しています。

Q:分解能を上げようとしてスリットを狭めると光量が落ちるのでは?
A:はい、その通りです。高分散分光は大変です。

Q:スリットで遮られた光のエネルギーを測れる?
A:なぜそこに興味があるのですか?漠然と訊いたのであれば無意味な質問ですが。。下の図はスリットに入射する星の像を確認するための装置を加えたときのものです。傾けた鏡面に穴をあけたものをスリットとします。こうすることで、天体周辺の像が上に付け加えた検出器で確認できます。この機能はスリットに天体を導入する際に目視確認するためのものとして分光器に不可欠なものです。これを利用すればスリットに遮られた星の光を計測することができます(スリットが大変広い場合、すべての光がスリットを通過するため、この仕組みは破綻します)。分光と測光を同時に行いたい場合は、例えば分光器側に90%透過、残りの10%反射する鏡をとスリットを併用すれば、測光分光装置になります。


Q:回折格子は造るが大変そうだけど
A:はい。精密加工技術の塊です。幅数ミクロンの溝を1mmの間に数百本も規則正しく刻む必要があります。昔からルーリングエンジン(ruling engine 文字通り規則正しく刻む装置ですね)が使われてきました。こちらも参考にどうぞ。

Q:どのような分光器がどのような目的で使われるの?
A:これをすべて答えるにはこのページは狭すぎます。大きく分けで目的とする中心波長(分光したい波長域の中央の波長)、波長域、分解能、および光源の形状、が重要です。中心波長が可視光か赤外かでプリズムは材料の制約を受けます。波長域についてはオクターブを超えるかどうかで回折格子型の場合はエシェル回折格子の選択を迫られます。分解能は大きく分けでR=100程度の低分散、数千程度の中分散、それ以上の高分散と呼ばれ、適切な分散素子を選ぶ必要があります。光源については点源であれば容易ですが、銀河など広がった天体のあらゆる場所の分光データが欲しい場合はイメージスライサやIFU(光ファイバを束ねたもの)などを用いた3次元分光器が必要になります(詳しくは講義資料を参照)。

Q:青の2次光と赤の1次光は混ざらないの?
A:オクターブを超えると混ざります。青を400nmだと思うと800nmの赤までしか正確に計測できません。上記のエシェル回折格子を参照のこと。

Q:カメラレンズで色収差などが出ないの?
A:分光後なので撮像装置の色収差ほど気にならないですが、像面が湾曲するのはよろしくないので、色消しレンズ(色収差の出にくいカメラ光学系)を使います。

Q:講義資料の分光器の説明(上の図)にあった一番左側の平行光をどうやって作るか分かりません。
A:ちょっと誤解があったようです。あれは天体からの光、つまり望遠鏡に入る前の光なので平行です。最初の対物レンズは望遠鏡を意味しています(最近は鏡面ですが)。

Q:分散素子で波長ごとに分けれるのなら、逆に色収差を修正できないか?
A:色収差は屈折率の波長依存性で生じ、それは講義で示したように非線形です。一方、回折格子などの分散素子の波長依存性は線形なので無理ですね。普通は複数の材料を組み合わせた色消しレンズが用いられます。あくまで近似解ですが。

Q:注目する星のすぐ横に別の星があればスペクトルが混ざるのでは?
A:そのためにスリットがあり、注目する天体の光のみを通します。スリット幅より近くに別の星があった場合は正確な分光は不可能です。

Q:分光器が長いとどんなメリットがある?
A:長いことによるメリットではなく、高分散を求めると分光器が大きくなります。まず上述の通り分散素子が大きくなり、そのためすべての光学素子が大きくなります。ピクセルサイズに合わせて十分にスペクトルを拡大しないといけないので焦点距離も長くなります。

その他

Q:天文データで3色合成する意味ってあるの?
A:計算機でデータ処理するだけなら意味がありません。また多くの場合、一般向けです。ただ、研究においても色と構造を見ることで計算機では見つけることのできない新しい発見があったりします。

Q:宇宙で分子は普通にあるの?
A:比較的小さな構造の分子であれば(たとえば水素分子や芳香族)赤外線でも検出され、電波領域では多様な分子が星の周囲や分子雲のなかで見つかっています。

Q:波長によって色が違うのはなぜ?
A:こればかりは脳科学の問題ですね。。僕も知りません。

Q:変光星って星の温度が変わっているの?
A:はい、変わります!変光の主原因は星の膨張収縮ですが、それに伴い膨張時には温度が下がり、赤くなります。

Q:S/Nを改善するために露出を伸ばすにはWellを深くする必要がある?
A:それも有効です。ただ、一般には暗い天体をS/N良く観察するために露出時間を延ばすので実用的なWellであればこの問題の要因にはなりません。

Q:Kバンド(2um)で明るく光っている領域には原始星が埋もれていると考えられている、とのことだがそれ以外に考えられないから?
A:広大な領域の分子雲自体が2um(1500K)で熱放射するというのは考えられませんからね。分子雲自体は重力的な束縛が小さいので、そのような温度になったら解離か電離して雲散霧消してしまうでしょう。オリオン星雲のあの領域(BN/KL領域)は主に埋もれた星の散乱光で光っています(いわば反射星雲です)。

Q:白というのは様々な波長の光が等量に混ざっているということ?
A:まさにその通り!たとえば音響工学ではすべての周波数帯を含む音源をホワイトノイズと言います。一例として先のとがったハンマーで一瞬コツンと叩くと、そういう音を出せます。これをインパルスハンマと言って、金属疲労などを確認するための打音検査に使われます(正常であれば高い音が返ってくるが、亀裂があると低い音がするとか)。白い光を当てて、モノがどんな色で光るのか。ホワイトな音を当てて、どんな音が返ってくるのか。それを調べることで対象物の波長に対する特性が分かるという点で共通です。

Q:幾何光学のおすすめの本は?
A:ヘクトの「光学」が良書です。図書館にもあります。

Q:ガンマ線もドップラーシフトを測れる?
A:いやぁ、面白い質問ですね。可能だと思います。ガンマ線の場合波長が短いため検出器の時に説明したように、バンドギャップを使うのではなく、何個の電子をたたき出したかでエネルギー(波長)を計測します。もしくは大気中でのシャワーから見積もります。エネルギー分解能が大変低いので、光速に近い運動が必要だと思いますが、幸いガンマ線はそういう高エネルギー天体から放射されます。僕が知らないだけかもしれませんが、新しいテーマになりえるかもしれませんね。

Q:干渉計の場合、口径が小さい分光量が足りなくて観測できないのでは
A:はい、なので明るい天体に用います。ポイントは大きな望遠鏡を造るより小さな複数台の望遠鏡をDだけ離しておくだけでλ/Dの解像度が得られるということです。詳しくは撮像観測の講義資料を参考にしてください。

Q:緑色の星がないことについて。太陽は白に見えるのでは?
A:講義では曖昧な説明になってしまいましたが、基本的には黒体放射のスペクトルが上に凸の関数であること、青より短波長側と赤より長波長側に目の感度がないことが原因と考えられます。そのため高温星は青になり、低温の星は赤くなることは理解できると思います。では太陽のようなピーク波長がちょうど緑や黄色の星はどうかというと、ピーク波長の両側から青と赤の光がやってきます。なので、指摘通り太陽はしろっぽくなります。実際は太陽(G型星)は少し黄色味で、それより少し高温のFやA型星がより白に近いと思います。

Q:「オクターブ」って光でも使うの?
A:オクトは8を意味して・・・続きはこちらをどうぞ。もとは音響からですが、波に対してなので光でも使えます。

Q:高温の星と低温の星のスペクトルの交点に意味はある?
A:特にありません。。双方の星を観測するための狭帯域フィルタを造ることがあれば、この波長を選ぶと良いでしょうけど。。

Q:そもそも異なる物質の境界面で光が屈折するのはなぜ?
A:屈折率(光の速度)が異なるからです。物質が異なっても屈折率が同じであれば屈折しません。透明なガラスコップは空気中では屈折によりどこにあるか分かりますが、水の中に入れると消えてしまいます。水とガラスの屈折率が似ているためです。

Q:なぜ読み出しノイズだけ2乗だった?
A:分母は誤差の2乗和根(RSS:root sum square)を取っています。ショットノイズの誤差は√Nで、読み出しノイズはNrで定義されています。これが理由です。

Q:レーザーは鏡面間の共振だとするとエネルギー効率は悪い?
A:レーザーのエネルギー効率がどれほどか知りませんが、共振現象によるエネルギーロスは小さいと思います。内部に溜まったエネルギーの一部が漏れ出しているようなイメージです。ダイオードレーザーは効率が高いと思います。

Q:分光観測で地球大気の吸収が邪魔にならない?
A:いい質問ですね。はい、邪魔になります。考慮して評価します。

Q:SN比で読み出しノイズがピクセル数のnが考慮されてたけど、星の方はされてなかったのはなぜ?
A:星の方は各ピクセルではなく、全ピクセルのカウント数が前提の式です。星の像の形状(PSF=点広がり関数)はおおむね釣り鐘型で、複数のピクセルに跨いで広がるため、各ピクセルでカウント値が異なるので、このように表記するしかありません。。

Q:惑星状星雲の動きから何が分かるの?
A:それを考えるのが天文学の楽しみじゃないですか!まぁ、たとえばガスの運動速度と中心星からの距離によって、何年前にこのガスが放出されたかが分かりますよね。元素ごとに速度や広がる大きさが違えば、星の内部構造を反映しているかもしれません。。妄想は膨らみます。

Q:分解能は無次元量?
A:計測器の性能を示す指標として分解能があります。例えば体重計の100gなどです。次元がつくものと付かないものがあり、それは計測器ごとに異なります。例えば1gの最小分解能の量りを1円玉の数を数える装置に応用した場合、最小分解能は1個、つまり無次元量になります。

Q:量子化するとなぜショットノイズが生ずるの?
A:一定強度の光や電流を観測したとしてもその強度は確率的に揺らいでいます(量子ゆらぎ)。ですので、光源そのものも光電子に変えた後の電流も平均値の周辺で揺らぎます。詳しくは>こちらを参考にしてみてください。ちなみに量子化ノイズというものがあり、これとは全く異なるので注意してください。

Q:恒星の温度に最大と最小はある?
A:主系列の場合O型星が最大です。天体という意味で言うと白色矮星やブラックホールなどはより高温です。

Q:ゲインってなに?
A:光電子をどれだけの電流や電圧に増幅するかです。したがって、シグナルだけでなくノイズもそのままゲイン分だけ増幅します。