2017年12月27日の質問に対する回答
検出器関連
Q:デジカメで暗闇を撮影したが黒くなかった。Wellのせい?
A:それとWellは関係ないでしょうね。Wellは感度ではなく、ダイナミックレンジに影響します。
Q:検出器について波長によっては感度が低いところがあるのでまだ開発の余地があるのでは?
A:示した図のせいで誤解があったと思います。感度波長域は半導体のバンドギャップで物理的に制限されるので、それを超えるには異なる物質を選択するほかありません。理論的に制限される感度波長にできるだけ近づけるために空乏層を厚くしたりします。
Q:Wellが深いと転送に時間がかかるのでは。
A:はい、より高い電圧をかけるので、高性能な電源を用いないと遅くなるでしょう。
Q:赤外以外に検出器をつくる際の特殊事情はある?
A:たとえばX線はCCDなのですが、より波長幅を広げるために京大の研究室ではこのような工夫やこんな工夫をしています。電波ではこんな工夫をしています。
Q:スライドにあったフラットは検出器面で滑らかな分布をしてましたが、なんか不自然な気がする。
A:するどい質問ですね。この原因は半導体の工程に由来します。検出器は半導体基板のうえに研磨やプリント接合、スパッタリング、エッチングなどの一括処理で製造されます。つまり、基板の厚さや電極の接合状態は隣り合うピクセル同士で無相関というより、連続的に変化し、そのため感度ムラが連続的に変わるのです。
Q:空乏層の大きさは半導体の厚さと電圧をしっかり制御すればばらつかないのでは?
A:講義でも触れましたが、同じ厚さに研磨するのが難しいのですよね。また電極も半導体の製造工程でペチャペチャと取り付けられる(実際はスパッタリング後にエッチングしたりする)わけですがその大きさや接着面の状態にもばらつきが生じます。なにせ数ミクロンの電極をばらつきなくつけるにはナノレベルが要求されるわけで、それは不可能ということです。
Q:暗電流を抑えるには?
A:暗電流の起源は熱(温度)です。なので検出器を冷やすことで抑えます(講義資料を参考)
Q:天体用の検出器のフレームレートは?
A:暗い天体を撮ることが多いので、露出時間は秒から1時間程度です。それらの検出器は1fps(1フレームに1秒かかる)で十分です。ただ、ブラックホールや激変星などの観測には動画のようなスピードで撮影することがあります。なお、10秒露出の画像を撮り、それに2秒間の読み出し時間がかかると、20%近く観測時間を失っていることになります。以外に深刻です。
Q:バッドピクセルはなぜ起こるの?
A:赤外検出器はCMOSと似た構造です(ここは可視用の検出器がほぼCCDに席巻されている状況とだいぶ異なる。CCDはフォトダイオード部と電荷転送部をシリコンだけで作れるが、赤外用の物質HgCdTeなどではそれができない)。そのため各ピクセルごとに取り付けられたアンプや読み出し配線の不具合で生じます。
Q:暗電流はどれほど迷惑?
A:検出器の置かれた温度環境に依ります。赤外検出器を冷却せず常温で使うと悲惨です。。
Q:冷却しなくても使えるフォトダイオードはあるの?
A:はい、みなさんのスマホのカメラにしても冷却されてませんよね。可視で日常用であれば暗電流は気になりません。
Q:CMOSの各アンプの増幅率にばらつきはないの?
A:はい、あります。それもフラットで校正できます。おそらく皆さんのスマホのCMOSもフラット補正されてるのでは。
Q:量子効率はどうやって測るの?
A:相対値はすぐに出せそうですが、量子効率は絶対値ですからね。どうやって測るのでしょうね。ずいぶん前から光子を1個ずつ出せる装置もあるので、今や精度の良い基準光源は存在するでしょう。これで計測した検出器があればそれをもとに、他の検出器の効率を評価できそうです。
Q:検出器を冷やしたらそこで空気の揺らぎがおきてイメージが劣化しないの?
A:そういう細かいことが気になるのは良いことです。0度以下に冷却するときは霜が付かないように真空容器内に検出器を置きます。なので空気揺らぎはおきません。なお、もし窒素ガス内におけば霜は付きませんが空気揺らぎは起きるでしょう。しかし、それは検出器直前だけで起こるので影響はないと想像されます。
Q:ダイオードを同時にたくさん用いた観測はある?
A:質問の意図が分かりませんが、CCDなどの2次元検出器はフォトダイオードが無数に敷き詰められたものです。単素子としてのフォトダイオードはほとんど使われませんが、測光観測に用いることができます。好きなところにおけるので、CCDのようにそれ自体の大きさで視野が制限されることがありません。標準星と同時測光すれば高い精度が期待されます。
Q:ノイズを減らして解像度を上げれば活動銀河核の構造もわかる?
A:はい、ぜひ目指してください!!
Q:光電効果で光の周波数を計るのはどのような仕組み?
A:講義で話した範囲ではそれは不可能です。光子1個が電子1個を叩くからです。しかしX線観測でもCCDを使い、X線は1つの電子を叩いてもエネルギーをさほど失わないので、複数の電子をたたき出します。またX線は矢継ぎ早にやってきません。なので、突然100個の電子が飛び出てくるわけです。この個数を数えれば飛び込んできたX線のエネルギーつまり波長が分かります。
Q:電荷転送の電圧の切り替えはどうするの?
A:頭ごなしのひどい回答ですが、検出器を駆動させるドライバが行います。ドライバは正確な時計と高速に切り替えができる電源とスイッチを持っていて、それが検出器を制御します。
Q:今日話しかけていた写真の限界は?
A:空間解像度を決める粒径は実際はこのように数ミクロンまでと大きなものがあり、この粒径によって感度が異なってしまうという問題(よく言えば特徴)があります。また下記の様に感度の線形性が低いという別の問題もあります。
データ解析
Q:写真の時代にどうやって補正していたの?
A:丁寧に写真乾板を造ったのでしょうね。あと可視光なので背景光はさほど気になりません。しかし、写真は相反則不軌といって感度の直線性が悪いなど独特の補正が必要です(講義資料にありますが、話しませんでした。すみません)。星の明るさは臭化銀の光反応の濃度に比例するので、それを計測するための写真濃度計を使って決めていました(ある濃さ以上の領域の面積を計る)。現在は過去に取得した写真乾板をデジタルスキャンして、計算機で解析します(DSSプロジェクト)。
Q:ディザリングと正規分布の話題がこんがらがった
A:正規分布はたとえば、ある一つの観測対象を観測して、それに誤差が加わる、などというときにその誤差の性質が正規分布に従っていることが多々あります。このような計測を繰り返したときは、平均値より外れた結果ほど起こりにくいという正規分布らしい結果が生まれます。たとえば空はある明るさで光っていますが、光子が電子に変換されるときにショットノイズと呼ばれる誤差が載ります。これはポアソン分布に従うのですが、その揺らぎはイベント数Nの平方根です詳しくはこちら。またポアソン分布はイベント数が多いと正規分布に近づきます。なので、空のショットノイズによるばらつきはおよそ正規分布となります。その揺らぎの大きさ(σ)に対して星の明るさが何倍あるかがS/N比であり、星の信頼度です。一方、ディザリングですが、星と空はまったく別物であり、最初に述べた「1つの測定対象を観測している」ということではありません。なので、空の中に明るい星があるときには誰でも「これは空じゃない」と区別できます。それを計算機の中でさせるには中央値処理を使えばいいわけです。
Q:ディザリングで正確に視野をずらすのは難しそう?
A:そうですね。でも正確に行います。望遠鏡はもともと正確に星を追いかける性能がありますからね。また別の方法では鏡筒全体の向きを変えるのではなく、副鏡を少しずつ傾ける方法があります。
Q:校正用のフレームは観測ごとに取得するの?変わらないの?
A:はい、理想的にはそうしています。ただ、フラットやダークはほとんど変化しないので、同じものを使用するときもあります。スカイは観測対象とほぼ同じ頻度で都度観測します。
Q:たまたま出てくるダーク(案電流)はどうやって取り除くの?
A:細かな質問ありがとうございます。ダークは出来るだけ小さくなるように冷却するので実際はほとんど出てきません。で、まさにたまたま出てくるということは熱起源なので、めったに出てこない=十分小さい状況です。なので、天体からの明るさに対して十分暗いので気になりません。一方ドバドバ出てくるときは統計的に安定しているので(厄介なのでそんな状況では使いませんが)大きさを見積もりやすい状況ではあります。
Q:星が近くにいっぱいあったらスカイの見積もり精度が悪そうだけど
A:鋭いですね。実際に銀河中心など星がたくさんあるところでその問題は生じます。それによって測光精度が低下します。そういうときに、混みすぎて測定精度に限界があるということで、confusion limitと言います。具体的な対策法はやむなく少し離れたスカイを使うか、以下の方法を使います。星は点源ですが、光学系のせいで広がります。それを点広がり関数=PSF(Point Spread Function)とよびます(大抵こんな形)。PSFは視野内でほぼ一様で、明るい星ほど拡大されます。このエネルギー分布は複数のピクセルに跨いで広がります。そこでたとえば、隣の星と一部くっつくほど近接していても、隣の星の影響を受けてなさそうなピクセルの値とPSFモデルからその星によってできた真のPSFを推定できます。こうして測光します。
Q:星の近くの値から空の明るさを推定するとあったが、近いと星自身の影響を受けない?
A:鋭いですね。模式図では1つのピクセルに星の光がすべて落ちてましたが、実際は複数のピクセルにまたがります。上述のPSFより十分離れた、にもかかわらず離れすぎない領域から空の明るさを推定します。なお複数のピクセルに跨ぐように敢えて行います。これはナイキストサンプリングとよばれ、観測・計測の鉄則です。くわしくは講義かこちらでどうぞ。
Q:S/N(シグナル-ノイズ比)について統計的にシグナルを評価するときと理論的に評価するときの折衷は?
A:難しいですよね。良く起きることならS/N=1でも認めてもらえますが、当たり前の事象なので喜びも少ないです。この逆も真であり、重力波が典型例です。予想外(理論からは想定されない事象)がおきたときのSNの評価はさらに難しくなります。普通の惑星しか見たことがない科学者が土星を見たときに、その輪を真と思うか想像してみてください。最後は信念でしょうか。。
Q:未知のものを観測したときにノイズとシグナルをどう判定するの?
A:いい質問です。ちょうど上の回答を参考にしてください。
Q:検出器を並べて観測すれば個体差が見抜けると思います
A:力強いコメントありがとうございます。不可能なのですが、焦点面を共有できる、もしくは検出器をその他に一切影響を与えず置きなおして観測すれば、両者の差は分かります。しかし、どちらが嘘つきか(ましな検出器か)はそれだけで分かりません。ただ、差の大きさから品質を推定することはできますね。たとえば完全に同じ値を出力したときに、低品質の検出器が偶然同じ値を出すことは確率的に少ないので、きっとこの検出器は高品質だ!という感じです。
Q:実際のデータ処理にかかる時間は?
A:データ量に依存します。たとえば100万画素(1メガピクセル)の検出器が16bit(2バイト=65,536)の分解能をもつとき、1枚の画像は2MBになります。CPUのクロック周波数が速いほど計算は速いのですが、そのオーダーはメガとかギガヘルツオーダーです。そうなると何百、何万枚も画像処理しなくてはいけない時には、数時間や数日かかることになります。計算機の計算時間については調べてみてください。たとえばこちら
Q:講義中にサンプルとして出た画像の露出時間は?
A:正確には分かりませんが、近赤外なので1分未満です。
C:別の授業で、地球を宇宙から撮ると2分程度の露出で、雲が消え大気光が良く見えたのですが
A:すみません。どういう状況なのかわかりません。。雲が大気光より明るいと消えるわけないし、暗いのなら最初から見えてないだろうし。。強いてあげるなら雲は移動消滅するので中央値をとれば消すことができます。しかしそれには2分は足りないですよね
Q:一様光というのは背景光を利用するの?
A:講義ではドーム内のスクリーンや薄明薄暮の空を一様光として説明しましたが、必殺技として指摘された方法も使えなくはありません。視野の異なる星ばかりが写った大量の画像をメジアン処理すれば星はまばらにしかなく、空の変動も十分平均化され、フラットとして用いることができます。星雲ばかり撮った画像ではアウトです。
Q:フラットの取得でうまくできてない時の判断は?
A:細かいご指摘ありがとうございます。はい、これが実際に起こりえるのですよね。我々の研究チームでも10年以上観測してきて、「なんだか今まで使ってきたフラットが怪しい」なんてことがありました。最善はつくしますが、高精度を要求し、または長年続けて十分な統計量が得られると系統的なズレが見えてくるなんてことがあります。努力は尽きません。で、質問は露出時間が不適切だった場合との区別はつくのか、だったのですが、フラットは原理上真値があるはずです。統計誤差以上にズレたのであれば露出時間が不適切(例えば線形性からズレる=Wellからあふれる)な範囲で作ったためです。
Q:星雲のような広がった天体にもディザリングは有効?
A:いい質問です。広がった天体には有効ではありません。星雲をとるときはバッドピクセルの影響を除くためにディザリングを行いますが、スカイは別途、天体がほとんど写っていない、できるだけ近い場所を撮影して取得します。
Q:測光において星のエネルギーからスカイのエネルギーを引けば絶対値では?
A:質問の文章ではその通りです。しかし検出器はエネルギーを計るものではなく、光子の個数を計るものです。また検出器の感度ムラや大気の透過率の変動があるので、それらを補正して初めてエネルギーが推定されます。
Q:新天体の発見報告では「xxパーセントの信頼度です」と報告するの?
A:厳密にはそうなりますし、論文をよく読むとそれに類することが書かれています。ただ、マスコミ向けに話すときはそのような厳密さは語らないですね。
Q:ノイズが正規分布になるとは思えないのですが
A:ノイズの起源に依りますが、多くのノイズは正規分布や多数回のイベントのポアソン分布などです。それ以外のノイズの多くは系統的なノイズであり、癖を把握できれば除去できます。
Q:検出器に光が届くまでいろんなところを通ってくるので、いろいろなノイズが加わりそうだけど
A:そうですね。あるものは上記の質問の様に系統的なズレを起こしたり、あからさまに装置の一部が映りこんだりするので、そういったものは除去できます。
Q:データ処理にて外れ値を除いて平均を取ればより正確な気がしますが。
A:そういう操作をすることがあります。それをシグマクリッピングと言います。正規分布に近いイベントに突発的にそれに従わないイベントが混ざりこんでいると想定きるときに有効です。検出器に飛び込んでくる宇宙線が好例です。まず、データ全体の標準偏差(シグマ)を出します。たとえばシグマの3倍以上外れているデータをすべて間引いて平均を取ったり、再度シグマを算出しこれを繰り返す、などの方法がとられます。ただし、データ数が少なかったり、やみくもにシグマクリップを繰り返すとデータ数(情報量)を失うわけなので、平均の精度が低下する可能性があります。