UA3P によるミラー形状測定
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/ua3p.html

岩室 史英 (京大宇物)


●概要

    パナソニック プロダクションエンジニアリング社製 超高精度三次元測定機 UA3P でミラー形状を計測して頂ける機会があったので、その結果のまとめ。

●Mirror #1 測定結果

  • X 方向 0.1mm ピッチでの計測を Y 間隔10mm でジグザグ計測(約10万点/22分)
  • 全面を一度に計測できないため、の3回に分けて計測(日時と計測順は不明)
  • 接触点となるプローブ先端は φ1mm セラミック

    計測中の計測ヘッドの移動パスは以下の通り(横方向2倍拡大)。●が始点で○が終点、3回のパスには 0.1mm 程度のずれがあるが、ミラー側面に貼り付けられた位置計測用の3つの基準球を参照しているため、座標系のずれはない(はず)。y=-20 は2面の境界部分が入るため、計測パスからは外してある。

    上記3回の計測結果は、x,y,z,dz (dz は 2mm 間隔で与えられた設計形状値を2次元スプライン補間した値との差で、残差最小となる z 移動と傾き補正後のもの)で出力されており、dz に関してはこちらで定義式から計算した差と有効桁数内で一致していることを確認した。結果は以下の通りで、見やすくするため各測定点を縦棒で polt してある。色は 1.5μm 以上, 0.5〜1.5μm, -0.5〜0.5μm, -1.5〜-0.5μm, -1.5μm 未満。ところどころ抜けがあるのは、ゴミ等の影響による異常値と思われる部分で、予め計測結果から削除されている部分。

    まずは3回の測定の再現性を確認するため、測定結果同士の最近接点をペアリングし dz の値の差を調べた(プローブ先端は φ1mm なので dz の値は x,y 〜 0.1mm 程度の範囲内ではほぼ変化しないはず)。以下の図は、左から「上ー中」、「中ー下」、「下ー上」での dz の差を表している。色は 0.9μm 以上, 0.3〜0.9μm, -0.3〜0.3μm, -0.9〜-0.3μm, -0.9μm 未満

    ここからわかることは、

    • 計測中のセンサのドリフトは無さそう(そもそも傾き補正されているので線形成分は見えないのと、計測時間が22分で温度変化などによるセンサのドリフトはもう少し長いものと予想されるので)。
    • 多分、下部計測データは 0.003°程度鏡が右回転している。以下は、設計値を (0,-100) を中心として 0.003° 左回転させた時の変化量を示したもので、傾向としては上中図と似たような感じになっていることと、反転させたものが上右図の上半分の傾向と似ていることから(下半分の四重極構造は上部データ計測時のミラー支持に問題があり、中央左側が出っ張っていた可能性がある)。

    3つのデータをペアリングできた個数で平均化して結合したデータで残差形状を plot したものが以下。色は 1.5μm 以上, 0.5〜1.5μm, -0.5〜0.5μm, -1.5〜-0.5μm, -1.5μm 未満。 2面間の相対位置ずれは無かったようで、それぞれの形状が拡張フーコーでの計測結果と大体合っている感じだ。下右図は拡張フーコーでのそれぞれの面の計測結果を並べて横に引き伸ばしたもの。

    UA3P での計測結果を基準として、拡張フーコーの計測結果を plot してみた。拡張フーコーの結果は 0.1°弱程度左回転しているものが多いが、UA3P での Y 方向の計測間隔に比べて影響は十分小さいため、ここでは回転補正はしていない。下左図は傾き補正をしていないもので、下右図は個々の面で傾き補正をしたもの。概ね±0.5μm 以内の範囲で一致しており大体予想通り。

    上左図を上下方向に spline 補間、左右端は違いの大きい 1mm 分だけ切り落として左右端データを引き伸ばしたものを用いて、拡張フーコーの結果を補正してみた。周辺端の乱れている部分は UA3P での測定領域が鏡面の端まで到達していないか、もしくは拡張フーコーで原理上鏡面の無い部分まで計測データが少し広がるため、UA3P のデータを外挿していることによるもの。下左が補正前、下右が補正後。中央部が凸になっている誤差が出ている場合は、拡張フーコーでは被検面までの距離の推定を誤ることになるので、その分が少し出ている感じだ。

●Mirror #2 測定結果

  • X 方向 0.1mm ピッチでの計測を Y 間隔10mm でジグザグ計測(約11万点/25分)
  • Y 方向 0.1mm ピッチでの計測を X 間隔10mm でジグザグ計測(約11万点/25分)
  • 全面を一度に計測できないため、の3回に分けて計測(日時と計測順は不明)
  • 接触点となるプローブ先端は φ1mm セラミック

    計測中の計測ヘッドの移動パスは以下の通り(横方向2倍拡大)。●が始点で○が終点、3回のパスには 0.1mm 程度のずれがあるが、ミラー側面に貼り付けられた位置計測用の3つの基準球を参照しているため、座標系のずれはない(はず)。今回は2面の境界部分も連続計測。

    上記3回の計測結果は、x,y,z,dz (dz は 2mm 間隔で与えられた設計形状値を2次元スプライン補間した値との差で、残差最小となる z 移動と傾き補正後のもの)で出力されており、dz に関してはこちらで定義式から計算した差と概ね有効桁数内で一致しているが、境界付近ではスプライン補間が正しくなくなる。以下は、こちらで計算しなおした dz との違いで、以後 dz に関してはこちらで計算したものを使用することにする。色は 30nm 以上, 10〜30nm, -10〜10nm, -30〜-10nm, -30nm 未満

    dz の結果は以下の通り。色は 1.5μm 以上, 0.5〜1.5μm, -0.5〜0.5μm, -1.5〜-0.5μm, -1.5μm 未満。2つの面がかなり V 字に傾いていることがわかる。研削加工時にワーク領域の制約上 180°反転させて置きなおしているため、ベースに少しの傾きがあってそれが影響したものと考えられる。とりあえずは、この状況のままデータを統合してみる。

    Mirror #1 と同様、x, y 方向各3回ずつの測定の再現性を確認するため、測定結果同士の最近接点をペアリングし dz の値の差を調べた(dz の V 傾斜は 300mm に対し約9μm で、0.1mm の位置ずれに対してはこの傾斜は 3nm の影響しかないので無視)。以下の図は、左から「上ー中」、「中ー下」、「下ー上」での dz の差を表している。色は 0.3μm 以上, 0.1〜0.3μm, -0.1〜0.1μm, -0.3〜-0.1μm, -0.3μm 未満 (Mirror #1 のときよりも表示レンジが 1/3 となっていることに注意)。

    また、今回は x 方向だけでなく y 方向にもスキャンデータがあるので、上中下それぞれに対して両方向のスキャンデータの距離 0.15mm 以内の近接点同士でペアリングして dz の値の差を調べた。色は上図と同じ。

    ここからわかることは、

    • 上部の x 方向スキャンデータは2面境界の左側付近に異常値がある。
    • 上部の測定結果は非常に僅かに回転している感じだが、その影響はほぼ無視できる。
    • 下部の測定時に2面の境界付近が若干凹んだ感じだ。
    • x 方向スキャンと y 方向スキャンでの dz の差を見ると、センサのドリフトが出ていることがわかる(特に上部測定時)。-230<y<230 範囲内で x 方向と y 方向に平均して一次元化し、それを2次関数で fit することで、短時間間隔の計測結果で長時間スケールのドリフトを補正は可能(後に適用する)。

    上記4つの項目はどれも影響としては 0.5μm 以下の微小量で、データの結合により更に小さくなることが期待できるため、データの修正はせずとりあえずそのまま重ねていくことにする。

    3つのデータをペアリングできた個数で平均化して結合したデータで残差形状を plot したものが以下。色は 3μm 以上, 1〜3μm, -1〜1μm, -3〜-1μm, -3μm 未満(Mirror #1 のときよりも表示レンジが2倍となっていることに注意)。

    次に、上記2つのデータの近接点での値の差(上左図-上右図)を調べる。色は 0.3μm 以上, 0.1〜0.3μm, -0.1〜0.1μm, -0.3〜-0.1μm, -0.3μm 未満。やはりセンサドリフトによる0点位置のずれが影響しているので、ドリフト補正が必要となる。

    上中下それぞれの x 方向と y 方向の dz の差を x 方向、y 方向に平均化して一次元化し、2次式で fit したものが以下。上部データの2面境界付近の異常値(9箇所)は除いたデータを用いている。下段のグラフが2つに分裂しているように見えるのは、y 方向のスキャンデータにはスキャン方向に対する何かのシフトがあり、平均値に対し交互に何らかのオフセットが乗っているため。なぜ y 方向にだけこの効果が出るのかは不明(UA3P の y 方向のステージのヒステレシスやプローブ先端部の形状など、鏡面の上り下りが関係する問題であれば上部データと下部データで位相反転するはずだが、そうではないのですぐには思い浮かばない... そもそもこういう問題があれば基準球の計測とかで判明しているはず)

    上記ドリフト補正を適用して再計算した結果が以下。原点を揃えるため、上中下で共通している -115<y<115 領域内での dz 平均が -1.1684μm (同領域での全データの dz の平均値)になるように定数項を決定している。これで x 方向スキャンのデータと y 方向スキャンのデータが大体一致する状態となった。色は 0.3μm 以上, 0.1〜0.3μm, -0.1〜0.1μm, -0.3〜-0.1μm, -0.3μm 未満

    上中下3データの結合後の x 方向と y 方向のスキャンデータの違いは以下の通り。y=-190 に筋が入るが、x 方向のスキャンでは y=-190 まで中央部のデータがあるのに対し、y 方向のスキャンではその直前で中央部のデータが折り返しており、下部のデータのみとなるため。下中、下右は結合データで、色は 3μm 以上, 1〜3μm, -1〜1μm, -3〜-1μm, -3μm 未満 (下左は上と同じ)。

    次に、V 字傾斜の角度を調べる。設計値より A面(下側の面)を 0.00218°、B面(上側の面)を 0.00079°内側に向け(回転中心は鏡の背面中央)、B面を 3.68μm 前進(または A面を同じ量後退)させた面からの差分が以下。色は 1.5μm 以上, 0.5〜1.5μm, -0.5〜0.5μm, -1.5〜-0.5μm, -1.5μm 未満

    y 方向の移動も許容して合わせた場合、設計値より A面を 0.2249mm、B面を 0.3009mm 外側に移動し、A面を 0.02319°、B面を 0.03943°内側に向け、B面を 33.86μm 前進させた面からの差分が以下。色は上と同じ。

    上記の V 字傾斜が設計値に与える影響を Zemax で確認したところ、y方向の移動を許容しない前者の場合、検出器位置の調整のみでは 6% の像質劣化で、スリット位置の調整まで行えば 3% の像質劣化に抑えられることが確認できたが、y 方向の移動も許容した場合は検出器とスリット位置を調整しても像サイズが12倍になるため、後者の変更は許容できない。前者の修正案で設計値を変更し、計測された V 字傾斜は修正しないことにする。

    最後に、Mirror #1 で行ったのと同様に UA3P での計測結果を基準として、拡張フーコーの計測結果を plot してみる。但し、上記後者の結果としか比較できないので、まずは上記後者の結果から最終結果を出してみる。以下は UA3P での計測結果を基準として、拡張フーコーの計測結果を plot したもの(下図下段はそれぞれの面で平面傾き成分を除いたもの)。UA3P 結果のモデル fit は x 方向の横ずれと傾きを固定していることが影響しているためか、形が全然合わない...(ローカルな凹凸は大体消えるのでモデルフィットの問題と思われるが)。

    全然結果が合っていないが、とりあえず最終結果まで出してみる。下図は左上より、拡張フーコー結果、上図上段結果を spline 関数で補間したもの2つ(但し spline 外挿はしない)、その2つを拡張フーコー結果をから引いたもの2つ、右下がその2つの平均。

    とりあえず、UA3P の結果のみを用いて Mirror #2 に対する最終的な修正量を出すと、y 方向を固定したモデルでの fit 結果を spline 内挿したものの両方向結果平均で、以下下図左。拡張フーコーの結果を利用して内挿・外挿したものが下図右(これを最終結果とする)。

最終結果の fits data (scale: 1mm/pix) はこちら

●Mirror #1 測定結果(2回目)

  • X 方向 0.1mm ピッチでの計測を Y 間隔10mm でジグザグ計測(約10万点/22分)
  • Y 方向 0.1mm ピッチでの計測を X 間隔10mm でジグザグ計測(約10万点/22分)
  • 全面を一度に計測できないため、の3回に分けて計測(日時と計測順は不明)
  • 接触点となるプローブ先端は φ1mm セラミック

    計測中の計測ヘッドの移動パスは以下の通り(横方向2倍拡大)。●が始点で○が終点、3回のパスには 0.1mm 程度のずれがあるが、ミラー側面に貼り付けられた位置計測用の3つの基準球を参照しているため、座標系のずれはない(はず)。今回は2面の境界部分も連続計測。

    上記3回の計測結果は、x,y,z,dz (dz は 2mm 間隔で与えられた設計形状値を2次元スプライン補間した値との差で、残差最小となる z 移動と傾き補正後のもの)で出力されており、dz に関してはこちらで定義式から計算した差と概ね有効桁数内で一致しているが、境界付近ではスプライン補間が正しくなくなる。以下は、こちらで計算しなおした dz との違いで、以後 dz に関してはこちらで計算したものを使用することにする。色は 30nm 以上, 10〜30nm, -10〜10nm, -30〜-10nm, -30nm 未満

    dz の結果は以下の通り。色は 1.5μm 以上, 0.5〜1.5μm, -0.5〜0.5μm, -1.5〜-0.5μm, -1.5μm 未満。1回目の計測結果と大体同じ。

    測定結果同士の最近接点をペアリングし dz の値の差を調べた。以下の図は、左から「上ー中」、「中ー下」、「下ー上」での dz の差を表している。色は 0.3μm 以上, 0.1〜0.3μm, -0.1〜0.1μm, -0.3〜-0.1μm, -0.3μm 未満 (1回目に対し表示レンジが 1/3 となっていることに注意)。

    上中下それぞれに対して x,y 方向のスキャンデータの距離 0.15mm 以内の近接点同士でペアリングして dz の値の差を調べた。色は上図と同じ。

    ここからわかることは、

    • 下部の x 方向スキャンの測定結果は非常に僅かに回転している感じだが、その影響はほぼ無視できる(y 方向スキャン結果は回転していない)。
    • y 方向スキャンにドリフトとスキャン方向によるオフセットが出ている。

    上中下それぞれの x 方向と y 方向の dz の差を x 方向、y 方向に平均化して一次元化し、2次式で fit したものが以下。上部データの異常値(y=-60, x=-30,-20,-10 の3箇所)は除いたデータを用いている。下部データに関しては、y 方向に不連続点があり、x 方向スキャンと y 方向スキャンのデータで若干の y 方向の原点ずれがある感じだ。

    上記ドリフト補正を適用して再計算した結果が以下。原点を揃えるため、上中下で共通している -100<y<100 領域内での dz 平均が -0.2151μm (同領域での全データの dz の平均値)になるように定数項を決定している。これで x 方向スキャンのデータと y 方向スキャンのデータが大体一致する状態となった。色は 0.3μm 以上, 0.1〜0.3μm, -0.1〜0.1μm, -0.3〜-0.1μm, -0.3μm 未満

    上中下3データの結合後の x 方向と y 方向のスキャンデータの違いは以下の通り。y=190 に筋が入るが、x 方向のスキャンでは y=190 まで中央部のデータがあるのに対し、y 方向のスキャンではその直前で中央部のデータが折り返しており、上部のデータのみとなるため。下中、下右は結合データで、色は 3μm 以上, 1〜3μm, -1〜1μm, -3〜-1μm, -3μm 未満 (下左は上と同じ)。

    以下は UA3P での計測結果を基準として、拡張フーコーの計測結果を plot したもの(下図下段はそれぞれの面で平面傾き成分を除いたもの)。前回よりも一番上付近での違いが大きくなった。1回目は x スキャンしか無くセンサのドリフト補正ができなかったため、ドリフトの影響で違いが出たのか、単に x 方向の位置ずれの可能性がある(後者はそのうち確認する予定...)。

    下図は左上より、拡張フーコー結果、上図上段結果を spline 関数で補間したもの2つ、その2つを拡張フーコー結果をから引いたもの2つ、右下がその2つの平均。

最終結果の fits data (scale: 1mm/pix) はこちら


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp