近赤外相対測光分光器

http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/NIS/

岩室 史英 (京大宇物)


●装置の特徴

 AGN 分光モニターなど、長期のモニター観測で微小なスペクトル変動を
 検出するためには、以下のような装置が必要となる。
  • 広い波長範囲
  • 測光分光器(面分光器)
  • reference との2天体同時分光

 広い波長範囲を観測できる近赤外装置の例 (Magellan 望遠鏡 FIRE)


プリズムでの次数分離は必須だが、ZnSe プリズムの多用は避けたい

(近赤外で用いられる材質の 1/λ - n のグラフで直線になる必要あり
ZnSe, ZnS, Silica, BK7, CaF2, BaF2, MgO, Al2O3)

  • 離散 slit で cross disperser に必要な分散を極力減らす
  • その場合、光学系は色収差のない反射光学系であることが必須
  • ファイバーバンドルで2天体同時面分光することで、信頼性を確保

とりあえず F/5 => F/2 で色消し光学系ができたとして...

  • ファイバーコア 100μm => 無収差像サイズ 40μm(2pix) => 収差込みで 3pix
  • スペクトル間隔は 8pix × 5列 => 40pix => ファイバー50本
スペクトルフォーマットのイメージ (波長分解能 2700)

バンド次数左端右端
K31.9202.400
H41.4401.800
J51.1781.440
Y60.9971.178
z70.8640.997

ファイバーバンドル形状は、5" x 8" のひし形で、
object, reference を交互にファイバースリットに配置。
点光源の場合はひし形内部の2点を往復させて観測する。
バンドルは融着させてコアが六角形に近い形になるようにする。

Object
Reference

7本のファイバーの情報を使えば、以下のような状況の違いを識別して
flux 補正をすることが可能(seeing < 1" だと測光エラーが大きくなる)。

Seeing 中央の中心 3本の中間
0".7
1".0
1".3

具体的に設計してみた。Zemax のマクロが使えないので、回折格子はとりあえず5次の J-band で計算したが、他の次数でもそれほど悪化しないことは確認した。装置は 2m サイズで、biconic 6面の反射で検出器全面で1pixel 以下での結像が可能。
配置/焦点面/スポット1 2 3 4 5

以下、どこまで装置を小さくできるか調べる。
全体のサイズを 2/3 倍、分散強度を 3/2 倍にして最適化
配置/焦点面/スポット1 2 3 4 5

更に全体を 3/4 倍して最適化
配置/焦点面/スポット1 2 3 4 5

2番目のものについて微修正
配置/焦点面/スポット1 2 3 4 5


上記解では、短波長ほどスペクトルの間隔が広がる状態になっていたので、クロスディスパーザのプリズムを ZnSe+溶融水晶とし、スペクトルがほぼ等間隔になるようにした(135〜170μm, 7.3〜9.2pix)。
それに合わせてパラメータを最適化し直した。

配置/焦点面/スポット1 2 3 4 5

このままでは、プリズム表面での反射光が波長帯中心付近にかなりのゴースト像を作りそうなことに気がついた。

ぎりぎりセーフと言ったところだが、もう少し離れている方がいい。クロスディスパーザのパワーをもう少し上げると離すことが可能。

次に、回折格子をマスターが既に存在するRichardson Gratings 53-*-860R で代用する場合について調査してみる。


 上記回折格子を使うと溝本数が1割増しになるので、その分更に縮小光学系にして波長域を検出器上に入れる必要がある。以下が最適化結果。上記解に比べて、検出器周りがかなり窮屈になったのと、スポットサイズが 1.4 倍に悪くなったが、まだどちらも許容ぎりぎり。スリット長は12cm としたが、もう少し長くできる。

 この場合問題となるのは回折格子を作る際のレジンの屈折率で、17.5°のブレーズ角に合わせるにはレジンの屈折率が Nd=1.66 のものでないといけない(通常は 1.59)。そのような高屈折率かつ吸収の少ないエポキシがあるかどうかが問題となるだろう。

配置/焦点面/スポット1 2 3 4 5

少しプリズムの分散を強めにして、プリズム表面の反射光が十分に離れるようにした。この程度離れていれば問題ないだろう。


 2pixel 程度まで、像の悪化を許容し、更に回折格子をマスターの存在するものに限定した場合、どこまで小型化できるか試してみたところ、60% までサイズを縮小することに成功した(テレセンに近い状態で集光するようにも調整した)。使用した回折格子は、上で使用したものよりも格子密度の高い Richardson Gratings 53-*-866R を使用した。回折格子の分散がこれより高いものは、300本/mm のものとなるため、分散が更に1.4倍になる。その場合、更に70%程度の縮小が必要となるので、直感的には 2pix に収めるのは biconic のままでは難しそうなのと、回折格子のブレーズ角が36.8°とかなり大きくなること、1m サイズが 70cm サイズになっても対費用的な効果が少ないと予想されること、などの理由からこれ以上の縮小は追求しない事にした。また、この設計でプリズム面での反射光が検出器に入らないことも確認した。

 鏡は、2枚ずつペアにしてくっついた状態で製作すれば、アライメントの手間を少し減らすことができると思う。また、凹面はすべて楕円面の biconic であるため、鏡1の2面は水平方向1軸、鏡2の2面は水平・鉛直方向の2軸について光学的に形状を確認することができる。

配置/焦点面

3〜7 次のスペクトルは 7〜8 pixel 間隔で並び、
幅40pixel が1本のファイバーのスペクトルとなる。
光学系をやや縮小しすぎたため分散パワーが少し不足。

スポット1 2 3 4 5

100μm ファイバーの実像サイズは直径1.8pixel で、
上記の収差と合わせて像サイズは2pixel 強というところ。


 ファイバーコアのサイズは 100μm(0.9") で、レーザー波長での望遠鏡回折限界像のサイズ 0.042" の 21.5倍に相当する。これを回折格子を含む7つの光学面に均等に振り分けると、√7で割って 8.1倍、すなわち反射面の面精度は4λで良いこととなる。上述の通り、この光学系の凹面は全て楕円面の biconic であるため、軸に沿った光学的な形状確認が可能である。

最終面の確認例

この他、フーコーテストやハルトマンテストも可能だと思う。

●その後の修正

熱膨張係数の小さい溶融水晶とそれよりも数倍大きい係数を持つ ZnSe をどのように接合するか気にしていたが、海老塚さんより S-FTM16 を使うと回折格子のレジン(エポキシ)との屈折率も近く、ZnSe の熱膨張係数とも近いので張り合わせが可能との情報を頂いた。これを踏まえて以下の点を修正した。
  • プリズムを S-FTM16 + ZnSe の組み合わせにした
  • それに伴い回折格子上で正しく瞳を結像するよう、
    個々のファイバーの向きを微調整
  • スリットの傾き(正面から見た時の回転方向)を許容して最適化

結果は以下の通り。

プリズム部分側面図 / 3D 図

Zemax ファイル

焦点面 (2.4μm までしか S-FTM16 の屈折率が定義されておらず、
K-band 長波長端は上から3番目のスポット。
個々の集団は、右から 3次、4次、5次、6次、7次)

上端スポット図  中央スポット図  下端スポット図

GSolver での回折格子効率計算結果(但し Littrow 配置)

GSolver ファイル

以下はフルバージョンの GSolver で準リトロー配置で計算した結果。
20°まで外すと約1割効率が低下する。

入射角10°  入射角15°  入射角20°

●機械構造の概念設計

CAD ファイル

ファイル表示のためのDWG TrueViewはこちらで "Japanese" を選択してダウンロード。上記ファイル表示後、"_b" の付く画層を非表示にすることで上記 gif の状態になります。

ポイントは以下の通り。

  • フランジを全て底面に集め、裏返し弁当箱方式で積み重ねる
  • 2組の凹面鏡2枚は一体加工し、くさび状スペーサに押し当て
    (ここが冷却時の縮小中心)
  • 全ての鏡は背面に3本の長いロッドと底面2本のジャッキアップねじ (+側面押しねじ) で支持
  • 位置調整は小型の冷却真空モータ+超細目ネジで行い、ロータリーポテンショで軸角度をモニタ (抵抗は温度によりどんどん変化するので、計測電流をどこまで絞って何秒間通電すればいいのかなかなか難しそうだが)
  • 光学ベンチの荷重は9つのバネで受ける (熱が伝わらないように注意、光学ベンチの収縮によるバネの歪みをどこで吸収するかは要検討) ⇒ 不要かも...
  • 光学ベンチの位置の固定は、3枚の樹脂プレートで外壁に接続
     (光学ベンチの収縮を考えて板の向きを配置)
  • 入射ファイバーバンドルと切り欠き部から入れる
  • 検出器と温度計/ポテンショ(?)の配線は上記と反対側の切り欠き部から
  • 検出器へのクロック成型と信号増幅を外壁壁面に直付けした回路 box (手前角の赤い箱)で行う
  • 位置調整用モーターの配線上記 box と対角にある大きい穴から入れる
  • 真空容器の合わせ面は全て幅80mmで(30mm でも多分大丈夫だが)、内側から10mmにOリング、内側から30mmに M6 ネジと仮定。
  • 外壁の穴直径が大きい3ヶ所は補強フランジを接続、直径の小さい2ヶ所は 直接コネクタ付きプレートを当てる。コネクタ例1コネクタ例2

迷光はバッフルでぎりぎり切れる感じ。バッフル表面の処理は...
などがありそう。
鏡面にゴミが付いていると光る可能性はあるが...

●調整に必要な精度など

個々の光学素子の位置を±0.1mm、角度を±0.02°ずつずらして検出器焦点合わせ後の像サイズへの影響を調べた。
+,- での影響の違いはほとんどないが、悪い方の数値を以下にまとめる。

Opticszxyθxθyθz備考
初期値0.0049
Slit 0.00490.00500.00490.00490.00490.0049
Mir #1A0.00490.00500.00490.00500.00500.0049
Grating 0.00490.00490.00490.00500.00490.0049
Mir #1B0.00490.00500.00490.00500.00510.0049
Mir #30.00490.00490.00490.00500.00490.0049
Mir #2A0.00490.00500.00490.00520.00510.0050
Mir #40.00540.00910.00880.00520.00530.0050
Mir #40.00500.00630.00580.00490.00500.0050横ずれ ⇔ 角度
Mir #2B0.00550.00940.00900.01320.01290.0063
Mir #2B0.00500.00500.00500.00510.00500.0050横ずれ ⇔ 角度

最後の2枚以外は、100μm, 0.02°の精度で十分だが、Mirror #4 は位置精度はそれよりも 高い必要があり、Mirror #3B は位置角度ともに最も精度が必要であることがわかる。 Mirror #3B は、位置のずれを角度で、角度のずれを位置で補正しても構わないので、 調整の自由度は少なくても大丈夫そうだが、Mirror #4 の横ずれ補正は必須。

●フィルター(サーマルブロッカー)の置き場所

ファイバーは OPTRAN WF を使うとすると、K-band は2.1μm 程度までしか観測できない(将来的にお金に余裕があれば、フッ化物ファイバーで NA の小さいものを特注で製作すれば、それで置き換えて全波長観測できる)。フィルターは、ファイバースリットの直後に入れるのであれば上記設計のままで大丈夫だが、検出器直前に入れる場合は、F 比が小さいので影響が大きく、全体の修正が必要になる。また、フィルターの基板よる色収差は補正できるものがないので(プリズム表面を球面にすれば可能だが...)その分が残り、スポットサイズが若干(~20%)広がる。inner shield の内側への光漏れがないよう完全に遮断できればいいが、それが心配なら検出器直前にフィルターを置く方が堅実。どっちにするか...

Zemax ファイル

焦点面 (2.4μm までしか S-FTM16 の屈折率が定義されておらず、
K-band 長波長端は上から3番目のスポット。
個々の集団は、右から 3次、4次、5次、6次、7次)

上端スポット図  中央スポット図  下端スポット図

柳澤さんより、仮組み段階で可視光のカメラで内部をモニタしながら、外部から光を当てれば光漏れの有無が確認できるとの提案があり、確かにそのように確認すればシールドの隙間からの光漏れは防げそうだ。ということで、

  • とりあえず、フィルター無しで作ってみる
  • 問題があれば、スリット直後にサーマルブロッカーを入れる
という方針で進めるのが良さそう。

●Mirror #1A+B の形状

材質はグレードの低い合成石英。
赤線の範囲内が光の当たるところ。
境界部分の加工は適当で OK。
面の形状精度は2λ。
面の相対位置精度は、100μm, 0.02°

厚さ 50mm、変形 25nm         厚さ 40mm、変形 60nm

厚さを 40mm にしても縦置き時の変形量は問題無さそうだが、一番薄い部分の厚さが 10mm になるので強度的にやや心配なのと、研削加工時の支持方法によっては変形が問題なる可能性もある。加工時の支持方法を確認する。

各面の四隅と中央の10点支持とのことだったので、大体の支持点位置を決めて自重変形を確認した。自重変形のみの値では厚さが 50mm, 40mm の違いは小さいが、研削圧として 6kgw の集中荷重をかけた際の変形量は厚さ 40mm の場合は 700nm 近く追加で変形するため、やはり硝材の厚さは 50mm の方が良さそうだ(50mm でも 200nm 変形するが...)。

厚さ 50mm、変形 20nm         厚さ 40mm、変形 30nm

研削圧として 6kgw の集中荷重を追加
厚さ 50mm、変形 200nm         厚さ 40mm、変形 700nm

2面の境目を無視して研削すると、以下の状態になる。

数値データ (A: ピンク, B: 水色, C: 周辺部)

右側のビームのエッジと境界が最も狭い場所となるが、それでも境界までの間隔は10mm以上あるので問題ないと思う。

●Mirror の材質

-200℃まで考えると、合成石英が最も変形しにくいのかと思っていたが、CVI Laser Optics のページを見ると、-200℃まで考えても溶融水晶よりも Zerodur の方が膨張係数が小さいというグラフが出ている(このページの下から 1/4 程度の所にグラフがあり、-100℃以下の低温では水晶の膨張係数が負になるということも初めて知った)。

クリアセラムの場合は、カタログ に 10K 程度までの積分値が書いてあって、-200℃ではサイズが 4x10-5 だけ縮むようだ(HS よりも通常品の方が優秀)。これなら平均的には 2x10-7/K の変化なので、溶融水晶より良くて Zerodur と同程度(但し Zerodur は膨張)だという事になる。

あとは価格の問題だが、クリアセラムの方が合成石英よりも安かったので、クリアセラムで発注することにした。

納品されたクリアセラムの写真。サイズは 575 x 302 x 54。

●真空容器の製作に向けて

容器図面はここ(側面厚 1cm + リブ付きバージョン)

先端技術センターの岡田さんにも助言を頂き、以下の部分を変更。

  • 材質はアルミではなくステンレスとし、溶接で箱型にする(アルミ溶接は難しいので)
  • 外壁は削り出しで軽量化してもいいが、骨組みを溶接して接合することもできる
  • 上蓋を被せる際に外周にガイド板を取り付けてずれなく被せられるようにする
  • O リング底板に取り付け(取り付け時のOリングの落下と挟み込みリスクを考えて)
  • 光学基盤重量を支えるバネは不要で、3枚の樹脂板のみで支持できるのでは
  • 真空を引く穴の事を忘れていたが、小さい穴2つのうちの片方をこれに利用する
底面3cm(400kg), その他2cm(800kg) のステンレスの箱の内部を真空にした場合の変形(下左)。

天板中央が 3mm弱、底面中央(見えていないが)が 1mm 凹む。
側面は余裕なので軽量化するなら側面。側面を全て半分の1cmにしたもの(500kg)が右側だが、意外にも全体の変形量が1.5倍になった。この程度なら壁面1cm でも大丈夫そう。
最も大型(1t)のリフトラーであればフォークの先の方で支持しても大丈夫という感じだが、大型のものだと 1350mm までしかフォークが上がらないのでやはり蓋の開閉は専用のやぐらをアルミフレームで組んで、チェーンブロックで上下させるしかなさそう。

4.5mm の天板の変形が問題ないかどうかを判断する1つの指標として、ミーゼス応力というのがあるが、ステンレスの降伏点が約200MPaで、これ以上の応力がかかると元の状態には戻らなくなる。以下が、上記2つの場合のミーゼス応力の分布。どちらも降伏点まで達する事はないので、大丈夫そうだ。

側面 1cm のものの天板にリブ構造を付けた時の効果。左は断面 2cm x 4cm, 右が断面 2cm x 8cm (3枚で42kg) の場合。リブ無しでは 4.5mm 凹んでいた天板の変形が、それぞれ 1.9mm, 0.6mm となった。後者の場合の最大変形は厚さ 3cm の底板の中央部で、1.2mm の変形。

上蓋と底板が完全に一体化されていれば上記の通りだが、実際はねじによる接続+大気圧による圧縮なので、横ずれ方向の変形にはかなり弱いことが想定される。接続部のリブ構造のサイズを考えるため、上蓋の5面にのみ大気圧をかけた場合の変形量を調べた。左がこれまでの設計値(幅4cm, 厚さ1cm)、右が幅・厚さともに2倍(8cm,2cm) にした結果。最大変形量はそれぞれ 12.5mm, 2.6mm 程度で、底板と一体化していることが大変重要であることがわかる。どの程度までの一体化が期待できるのか...

上蓋と底板の一体化の方法として以下のようなものが考えられる。以下の図で、左が現状の状態、右が改良版で、黒がOリング断面、緑はアルミかステンレスの丸棒。これなら、かみ合わせがきつくなっても抜けなくなる心配はないと思う。

底板との一体化に期待せず、どこまで補強できるか側面にもリブを足してみた。1mm 変形程度にまでなら抑えられそう。

底板に関しても、単独で変形が 1mm 以下になるようにしようとすると、幅12cmのリブをかなりくっつける必要がある。板ではなく、箱の形にする方が強度が増して軽量化に繋がるようだが、メンテナンスのし易さは現在案のままがいい。どうするか...

リブ無し(左)と幅8cm のリブ(右)の計算結果。

幅8cm のリブ(左)と幅12cm のリブ(右)の計算結果。

上の計算は、四隅のみを棒(半透明で表示してあるもの)で接続固定してあとは自由という、実際よりもかなり厳しい条件での計算なので、各辺の中央にも固定用の棒を追加して計算してみた。この場合は周辺のリブは不要という事になったので、これで十分かも。

リブ無し(左)と幅8cm のリブ(右)の計算結果。

●冷凍機に関して

冷凍機はこれまで住重の CH-110 を念頭に進めてきたが、コンプレッサーが水冷式しか対応していないとのことなので、空冷のコンプレッサー(CSA-71A)でも使える RDK-400B を使うことにする(冷却水チラーを確保できない可能性を考えて)。冷凍能力は1割減、重量も少し重くメンテナンスサイクルも短くなるが、空冷で使いたいので仕方がない。CAD 図面に反映させる。

●アルミで作った場合

アルミ溶接も問題なくできそうとの情報を得たので、アルミで製作した場合を検討。
左は変形量、右は応力。

やはり、底板の周囲のリブはあまり役に立っていない事が確認できる。
また、上蓋の面積の小さい側面のリブは無くても良さそう。
上蓋と底板が完全に接合されている場合が以下の結果。

上面は見えていないが、上記の単独での場合の変形量とほぼ同じで 0.8mm 程度。
この場合は多分側面のリブが不要になる。

実際は完全に接合されるわけではないので、底面の強度を増す必要がありそう。
以下は、底面のリブの幅を増やし、上蓋の面積の小さい側面のリブを無くした結果。

上蓋の面積の小さい側面のリブはほとんど関係ないようだ(最大変形量がリブありの場合より小さくなったが、実際はほぼ同じで減ったのは計算上の誤差が原因だと思う)。底面の変形はまだ 1mm 以上あるが、周囲はねじで固定される訳だし、この程度なら大丈夫だと思う。

上蓋を信頼度の高い電子ビーム溶接で作った場合は、板厚が50mm必要になるので、溶接後に軽量化すると以下のようになる。上段が 270kg 削って 470kg にした場合、下段が 220kg 削って 520kg にした場合の結果。下段ならまあ許容範囲か。応力が内側の下隅部分に集中するのがちょっと気になるが...

経費節減と溶接部をできるだけ残す、という観点から軽量化した案。工具の振動の可能性も考えて天板と側面の一部を 40mm 厚まで削り、残りを 50mm 厚にしたもの。上段は側面の削り幅 500mm (636kg)、下段は幅 250mm (660kg)にした場合。側面の変形が 1.7mm はやや大きいが削り幅を減らしても大して改善されないので、底面の固定ねじの遊びをできるだけ狭くして変形を抑えられないか...(M12 SUS304 ねじの長期せん断荷重は 8kN なので、10cm 間隔なら一応大丈夫そうだが)

ねじには遊びがあり、スラスト方向の荷重を受けることはやはり期待できなさそうなので、リブを追加する事を考えた場合、50x50 のリブ2本(23kg)を加えれば大丈夫そう。

仮想固定点を天板側にすると、開口部内側四隅の応力が30MPa 程度になった。開口部内側四隅に集中していた応力は、仮想固定するための棒との境界面に発生する応力だったようだ。応力の最大部はリブを固定するネジにかかるものなので、問題なさそう。最終的に、リブの両端を 65mm 切り落としたが、それによる変形量の増加は 50μm。

底面の方も、経費節減のため全面 50mm の板に後付けで1本リブを固定する。上段は 80x80 のリブを加えた場合 (298kg)、下段は 80x100 のリブを加えた場合 (303kg)。まあ、どちらも似たような感じだが、リブが無い場合の変形は 2.6mm なので半分ということで 80x100 の方を採用しようかと思う。

仕様書はここ

●台車

台車はアルミフレームで作るが、1.5t のものをちゃんと支えられるか...

アルミフレーム4HFSH8-8080-1380
4HFSH8-8080-980
購入不要(4)HFSH8-8080-500
4HFS8-8080-220
補強用ブラケット4GFBL8-4080-311 (実際の長さは 311*√2)
キャスタ(購入済)(4)CKZJ80-N
接続板(購入済)(4)HRMDB-SU-A80-B100-T16-F40-V60-W80-
X10-Y10-M8-L20-S30-G40-ZF6-CC5
フットベース(購入済)(4)HLFS8-8080-20
シリコンゴムシート(購入済)(4)RBSMFA10-80-80
押出厚型ブラケット40HBLTDW8
押出不等辺ブラケット12HBLTF8
先入れナット4PACK-HNTT8-8
六角穴付ボルト1BOX-SCB8-20
シャフト4PSSAGN10-500-F20-M8

大体20万円。

一応完成。45°のフレームは型番の数字の√2倍が実際の長さになることを忘れていたため、 長すぎて縦方向の脚の補強ができなかったが、多分大丈夫だと思う。余った45°材は、下の吊り上げ用フレームの補強材として転用する。

吊り上げ用フレームは以下のような感じ。
チェーンブロックはこれを想定。
吊り上げ時に最も頑丈な dewar 側面の両面に吊り上げ用ブロックを取り付ける(写真のアイボルトでは強度が足りなかったのでブロックを修正し、アイボルトも2倍の大きさのものに交換予定)。

アルミフレーム4HFSH8-8080-1800
2HFS8-8080-1960
2HFS8-8080-1800
2HFS8-8080-1500
2EFS8-80160-1660
補強用ブラケット(購入不要)(4)GFBL8-4080-500
          (購入不要)(4)GFBL8-4080-311
キャスタ4CKZJ80-N
接続板4HRMDB-SU-A80-B100-T16-F40-V60-W80-
X10-Y10-M8-L20-S30-G40-ZF6-CC5
スタンド用支柱 パイプ(φ35mm)2SMSTAM35-300
デバイス取付用スタンド4SSTF35
押出厚型ブラケット16HBLTDW8
先入れナット2PACK-HNTT8-8
六角穴付ボルト1BOX-SCB8-20

大体23万円+6万円(チェーンブロック)。

CAD ファイル

組み立てた所(補強用ブラケット取り付け前)

●真空容器の状況

真空容器の最終チェック風景。作業性を考えて逆さまに置かれている。かなり大きめのユニットバスという感じ。He リーク試験は問題なしで、岡山より真空ポンプを持ち込んで真空到達度を調べるための試験を始めるところ。既にある程度の真空になっていたこともあり、15分程度で 10-3Torr に到達した。真空バルブを閉じても 10-5Torr 程度で止まってしまったのが気がかりだが、このまま数日間引いてどこまで下がるか確認する。

上の4つの写真の内、右下の写真の下側のパーツは写真中央付近で溶接してあるのだが、完全に一体化していて溶接痕が全く確認できない。電子ビーム溶接は厚さ 5cm の板を完全に貫通しているらしく、内側も完全とのこと。電子ビーム溶接の威力を改めて実感した。

以下は、搬送用台車の上に乗せて上下逆向きに置き直した時の様子。真空容器内部も反射率が高く(放射率が低く)てなかなかいい感じ。台車との結合はアルミフレームの歪みもあってかなかなか大変で、分光器完成後は、台車から真空容器を切り離したら元に戻すのは困難となることが予想されるので、コールドヘッドのメンテ時も切り離さないほうがいいだろう。

ドーム棟1階の分光器室に入れた所。

●バイコニック面の検査方法

拡張フーコーテストを準備中。

Mirror #1A の予想されるステージ x,y マップ
使用する部分は中央部付近の幅 1/3 の範囲内のみ

Mirror #1B の予想されるステージ x,y マップ
周辺部 3cm は面の傾きが大きすぎてカメラに入ってこないが大半は計測可

●Mirror 2A+B の形状

材質はクリアセラム-Z。
赤線の範囲内が光の当たるところ。
境界部分の加工は適当で OK。
面の形状精度は2λ。
面の相対位置精度は、50μm, 0.01° 程度

左)縦置き時の自重変形による歪みは 25nm / 右)研削時の支持点配置

左)研削時の自重変形(20nm) / 右)研削圧として 6kgw の集中荷重を追加(150nm)

2面の境目を無視して研削すると、以下の状態になる。

数値データ (A: ピンク, B: 水色, C: 周辺部)

●Mirror 3 の形状

この鏡のみ、外形に対し上下だけでなく左右も対称(但し光の当たる位置は非対称)。
バイコニック面の軸は背面に対し垂直なので、断面図は省略。


数値データ

研削時の支持点配置は要検討。自重変形の心配は無いが、研削圧に対する変形はかなり問題になるので、剣山冶具が必要になるかも。

●Mirror 4 の形状


数値データ

研削時の支持点配置は要検討。

●Prism+Grating の形状

各プリズムの形状図面 Prism#2 の下面に Richardson Gratings 53-*-860R を貼り付ける訳だが、こんなに薄くても大丈夫かの確認中。因みに、Richardson Gratings は Spectra-Physics 社に吸収合併されたとのこと。Newport との関係も良くわからんし、どこに発注すればいいのかなかなかややこしそう...

Prism#1 はかなり高額の見積りが出た。S-FTM16 の方を厚くして ZnSe をどこまで薄くできるか設計を修正する必要が出てきた...う~む。とりあえず、可能な限り周辺部を削って設計を変更せずに最小サイズにして再度見積り依頼。

更にギリギリまで切り落としたものが以下。

ここで、何と φ110 x t30 の使われていない ZnSe が出てきた。元々中間赤外のファブリ・ペローのエタロンとして使う予定で、コーティングもされているがもう使わないらしい。これが使えた場合、話は一気に解決して以下のような感じになる。

実際に完成したプリズムの写真。裏面には新しい AR コートが施されている。

●冷凍機の接続方法

冷凍機は住重の RDK-400B (100W@40K, 180W@77K)

冷凍機の中にはヘリウムを膨張させるためのピストンがあり、上下方向に振動が発生するため、その振動が分光器側にできる限り伝わらないように配慮する必要がある。ベローズとゴム柱を用いて以下のように接続する。

灰色部分がベローズ(内径130, 外径190)、白色部分がゴム柱、フランジ部分の図面はこちら

コールドヘッドの先端部は、交換の際に作業がしやすいよう板同士の面接触とする。コールドヘッド側はコールドヘッドの振動や収縮が伝わらないようにヘッド先端と同じサイズのアルミ円盤に薄い銅板を重ねたばね材で接続し、光学ベース側も同様な銅板ばねで接続する。

●真空冷却中でのアクチュエータ

真空冷却中でのアクチュエータをできる限り安くするために、市販の小型アクチュエータがそのまま使えないか試してみた。手始めに手元に余っていたシグマ光機製SGSP-13ACT-B0を分解・洗浄し不要な部分は全て取り外して再組立、500gf の負荷をかけて液体窒素内で動かした所、ちゃんと引き上げてくれたので、使えるという事がわかった。

組み立て時に注意する点は以下の2つ。

  • アキシャルベアリングは、以下の向きで取り付ける。
    また、固定ネジ(下図橙色)は少し緩め、セットビスで固定する。

    (左の向きに入れると、ベアリングホルダがアルミなのでベアリング
    よりも収縮し、ボールに圧力がかかって回らなくなる。)

  • モーター本体と上記ベアリングユニットは強く接続しない。

    こんな感じでモーター組み立て用ネジを長いものにして、バネで固定する。
    モーターとベアリングのユニットの軸同士が、カップリングを介さずに直結
    なので、きつく結合させた場合は温度変化で少しでも歪むと回らなくなる。

あとは、モーター軸の角度をモニタするロータリーポテンショで冷やしても使えるものを探さないと...

●真空冷却中での傾斜センサ

ロータリーポテンショは樹脂と金属で作られており、樹脂円筒内部に螺旋状に貼り付けられた抵抗線の上を金属接点が螺旋に沿って進む構造になっている。低温に冷却した際、この樹脂円筒の歪みが大きくなって、回転に伴い接点がくっついたり離れたりするため、窒素温度で使えるロータリーポテンショを探すのは難しそうだという事がわかった。その代わりに、ホール素子を使った傾斜センサが使えないか考えてみる。ホール素子は窒素温度でも使える製品はあるし、常温用のものでも窒素温度で使えているものもあるので、大きな問題は無さそう。

SUS304 には磁性はないので、構造体として用いる。銅は SUS304 とほぼ熱膨張率が同じなので、電線を分解して取り出した銅線は吊り下げ用の糸として使える。あとは適当に上下の蓋と吊り具・錘を決め、できるだけ小さいネオジム磁石とセンサを選べば終了だが、選定した磁石に対し最適な感度のホール素子がわからないので、もうちょっと調査が必要。

これを各鏡の側面に固定し、常温で調整完了した際に鉛直方向がホール素子の出力最大となる角度で固定、冷却中もこの位置が保存されるようにモーターで調整しながら冷やしていく。これができれば、モーターの移動量の確認と鏡の傾きに関する情報が得られ、かなり調整が楽になるはず。

「SUS304 には磁性はない」という事だったのだが、実際買ってみたらネオジム磁石はくっつくし、ヤスリで一部を削ったら磁性を帯びて磁石になってしまった... 同じ内径の銅パイプを購入してみる。

ホール素子の読み出し回路の例はここにあって

こんな感じ。真空容器のすぐ外にアンプを置き汎用の AD ボードで取り込むのが楽かな。
また、低温で上記のような定電流回路を使うとホール素子の抵抗が低温で小さくなってややこしいので、とりあえずは汎用電源から定電圧で駆動かな。旭化成のホール素子はなかなかバラ売りしていないのが問題で、他社のものも調査中...

●温度計に関して

とりあえずの候補

温度モニタ温度コントローラ温度センサ
理化工業 MA901

Lake Shore 325型

Heraeus C220

Lake Shore 218型 Lake Shore 335型

温度センサ入手。温度モニタは通信ソフトを製作中。

●コネクタ付きフランジ

真空対応 50pin D-sub が溶接されている VG150 フランジを購入する事にした。多分、真空側のコネクタは211AC-FS50-HVかな。

●光学ベンチ

光学ベンチ部分の厚さは 5cm 分確保しているが、5cm 厚のアルミの板にすると 175kg にもなるので、できるだけ軽くしたい。5cm の板をくり抜いて軽量化するのが理想的だが、それだとかなりの費用がかかる。1cm 厚の板の下に4cm厚のリブをネジで固定して光学系の重量が支えられそうか大体の感触を調べてみた。各光学系の場所に予想される大体の重量のアルミブロックを配置し、半径5cm の薄い円柱で接続して(べた付けだと強度が増してしまうので)光学ベースの変形を調べた。3箇所の脚は 90x40xt1 のガラエポ板を3mm間隔で2枚ずつ配置、計6枚の板で支える。

主要部分の変形は 40μm 以下なので、これなら問題なさそう(上図左)。光学ベンチが縮んだ際にガラエポ脚で発生する曲げモーメントの影響を調べるため、無重力下で3本の脚の底面を外向きに 1mm ずつ変位させたところ、ベース板の変形は 1μm 以下だったのでこちらも問題なし(上図右)。

板は A5052 だが 60x40 角棒は A6063 になるので、熱膨張率が 1% だけ異なる。端と端で 50μm の歪ができるが、その場合の全体の反りを評価すると...

反りの曲率半径:R
反りの中心角 :θ
板とリブの中心間距離:25mm
板とリブの長さの差 :0.05mm

として、

Rθ=1000, (R+25)θ=1000.05 より θ=0.05/25
R(1-cos(θ/2))=Rθ2/8=1000*0.05/25/8=0.25mm

う〜ん、意外と大きい。4cm の板を A5052 で購入して切断してもらうか...

●冷却時間の見積り

冷却には1週間以上かかることは予想はしていたが、真面目に計算すると上手くやらないとすぐに冷却時間1ヶ月になってしまう事がわかった。以下、その見積り。

  • 冷凍機
     温度 :TCH
     パワー:PCH(TCH) = 295*log10(TCH/19) W(下図)

  • 熱伝導銅板
     温度 :TCH 〜 TRS, TOB
     断面積:s = 20mm x 0.1mm x 20枚 x 8 = 320mm2
     長さ :l = 60mm
     熱伝導率:λ = 398W/m/K
     ラジエーションシールド光学ベンチに半々接続

  • 真空容器
     温度 :TDW = 288K (一定)
     表面積:S = 5.67m2

  • ラジエーションシールド
     温度 :TRS
     表面積:真空容器と同じ
     熱容量:HRS = 38700J/K (アルミ42kg)
     放射率:ε = 0.08 (アルミ反射率 0.92)

  • 光学ベンチ
     温度 :TOB
     表面積:真空容器と同じ
     熱容量:HOB = 387000J/K (アルミ420kg)
     放射率:ε = 0.08 (アルミ反射率 0.92)

計算手順:

  1. TRS = TOB = TDW でスタート
  2. PCH(TCH) = sλ/l・((TRS+TOB)/2-TCH) となる TCH を求める
  3. PRS = sλ/l・(TRS-TCH)/2 (RS => CH への熱流入)
    POB = sλ/l・(TOB-TCH)/2 (OB => CH への熱流入)
  4. LRS = σSε・(TDW4+TOB4-2TRS4) (RS の輻射収支)
    LOB = σSε・(TRS4-TOB4) (OB の輻射収支)
    σ:シュテファンボルツマン定数 5.670e-8W/m2/K4
  5. ΔTRS = (LRS-PRS)/HRS・Δt
    ΔTOB = (LOB-POB)/HOB・Δt
  6. 2. から繰り返す
結果:

現段階では、まずまず冷えるまでに2週間近くかかり、安定するには1か月近くかかってしまう。破線で示したのは放射率0の理想状態の場合だが、これでも100K以下になるのには1週間かかる。銅の熱伝導板はこれ以上数を増やしたり短くしたりするのは難しいので、追加のシールドをある程度入れて少しでも放射率0の状態に近づける必要がありそう。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp