引きずり3点法での形状計測
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/NIS/3probe.html

岩室 史英 (京大宇物)


●Mirror #1 形状測定結果(引きずり3点) その1

引きずり3点法で2面を(境界は手で持ち上げて超えさせて)連続計測した。5回の計測を1セットとし、1セット目(下左グラフ)の終了後ファイバーがミラーエッジに触れないようにして2セット目(下中グラフ)を取得した。プローブユニットを引きずるアームをかなり長くしたため、アームの重量でプローブユニットが下り坂で前のめりになって安定しない感じだったので、3セット目で後ろ側にカウンターウェイトを付けたところ(下右グラフ)まずまず安定した。センサの読み出し周期は40msec、フライス盤の移動速度は 315mm/min 表示だが、実測するとそれより 1.1 倍速かった(50Hz/60Hz の平均値表示だと思われる)。

3セット目の計測での両側のプローブの平均値と中央のプローブの値との差(下中グラフ)。平面原器上にプローブユニットを置いた場合の値である -40.81μm 分だけ逆オフセットを与えてある。灰色の太線は、5回の計測のメジアンを取った後、左右2つずつ4点の平均から3σ以上離れている点の値を4点の平均値で置き換えるクリッピングを3回繰り返したもの。出っ張りがあるのは研削時の回転中心で研削痕が残っている所で、かなり凹になっているようなのでこれはやや問題(下右グラフ)だがどうしようもない。黄色の線は上右図のモデルパラメータにより、アームの上下やプローブユニットの傾き(下左グラフ)まで顧慮して計算された理論値。拡張フーコーで得られた 100mm 程度の範囲での 20μm の凸形状は、三角状に膨らんでいる場合は頂点部分で -4μm の差、球面状に膨らんでいる場合は 100mm の範囲内で一様に -0.8μm の差として現れるため、拡張フーコーの計測/解析方法がどこかおかしいという事はほぼ確実となった。

モデルと実測値の比を取ってみると大体一定になっている事がわかる(下左グラフ)。この原因として考えられるのは、プローブユニット内でのプローブの間隔で、10mm から 10.016mm に変更すると実測値とモデルはまずまず一致する(下右グラフ)。

横軸をフライス盤ステージ位置から鏡面上のY座標に変換したもの(下左図)を見ると、2ヶ所ある最下点(Y=-104,+107) のもう一方もやや凹になっている事がわかる。まず1度積分し、これらの最下点前後5cm内での傾き平均が0となるように左右それぞれの値をずらし、再度積分して再び最下点前後5cm内で高さ平均0となるように左右それぞれの値を決めれば断面形状となる。厳密に計算するには経路長 s と経路の傾き θによる自然座標で計算しないといけないが、モデルとの残差のみを考える場合はほぼ平坦になるので、普通に Y 方向に沿った積分で問題ないだろう。

±(ΔGap-Model)/10.016 が10.016mm 移動での傾き変化に相当するので、(ΔGap-Model) x 2 / 10.016^2 x ΔY が Y に沿った傾き増分となる。これにより dZ/dY を求め、再度 ΔY をかけて積算したものがモデルとの形状差となる。5回の各測定値でも5サンプル幅での3σクリッピング3回を行い、スパイク的数値を削ってから積分を行った。

計算の結果、2面の曲率を設計値に同時に合わせられない事が判明。この傾向は個々の測定結果でも同じで、アームのたわみや最下点位置の計測ミス、スキャンパスの横ずれなどでは説明できない大きさであることも判明した...

●Mirror #1 形状測定結果(引きずり3点) その2

考えられる1つの可能性として、計測中の腕のたわみの変化が影響している可能性がある。腕のたわみを減らすため、腕の両端を直角に折り曲げてチャンネル状にし、同じ方法で数日後に再計測した。5回の計測の後半2回は1番プローブ(最後尾)のプローブ位置が1.97μm ずれてしまっている(初期位置に置き直す際に "尻もち" をついてしまったのか?)。仕方がないので、前半3回との違いが出ないように offset をかけて解析する。また、たわみが無くなったことが原因なのか、スタート位置を揃えているにもかかわらず、ヘソ位置が 2mm 弱程度ずれている。

プローブ間隔は前回の測定と同様、10.016mm として解析する。また、この時は平面原器が無かったため、0点は前回と同じ位置(-40.81μm) にあるものとして解析する。研磨してある面での測定値が全体的に大きく、かつ端に行くほど増加している。逆に未研磨の面ではほんの少し前回よりも全体的に測定値が小さい。

積分した結果を見ると、今回の測定では前回の測定よりも曲率に対する感度がやや上がっている感じだ。アームが硬くなったせいで、プローブユニットの動きが変わったのか?

●Mirror #1 形状測定結果(引きずり3点) その3

上記測定の直後に、ミラーの向きを逆にして研磨面側からスキャンを行い、変化があるか調べた。 研磨面からのスタートの方が動き出しが安定していて、ヘソ部分での乱れも少ない。

若干の曲率の違いはあるが、大体、過去の結果と同じとなった。

因みに、アストロ研削盤での測定結果は以下 (B0,B180 と比較) 。

Excel データ: M1A, M1B, M2A, M2B

●引きずり3点プローブユニットの特性調査

引きずり3点法のプローブユニットの特性を調べるため、平面原器を用いてプローブ間隔比と非線形性を調べた。まず、ユニットの3つの足の2つに1:2の比率でカプトンテープを張り、ユニットに傾斜をつけてカウントの変化を調べた。その後、3つの足に均等にテープを張り、オフセットを与えた。

プローブユニットに傾斜を与えた時の結果。平面原器上で約500回サンプルごとに場所を変えて5ヵ所で計測した。がテープなし、が逆傾斜ペア、がその2倍の逆傾斜ペアとなっている。左から3つのプローブの生データ、中央と両側の平均との差、両側の差の半分、の順となっている。

上中グラフの赤の平均値からの差と上右グラフの赤の平均値からの差の比を計算すると(下グラフ)大体 0.00463 となるので、プローブの平均間隔の 0.463% だけ中央プローブが進行方向の後ろ側に寄っている事がわかった。テープを多く貼った時ほど上中グラフの安定性が悪くなるのは、3つのプローブのデータ取得タイミングに若干の時間差があり、その間の値の変化が出ている事が疑われる。

次に、3つの足に均等にカプトンテープを貼った結果を示す。がテープなし、,,, の順で1枚ずつテープが増える。左から3つのプローブの生データ、中央と両側の平均との差、両側の差の半分、の順となっている。下中グラフの の値が上の測定時と異なっているのは時間的な安定性の限界か、テープを貼るために横に倒した際にプローブが動いたのか、これも気になる。

0.463% だけ中央プローブが進行方向の後ろ側に寄っているので、上右グラフの赤の平均値からの差の 0.463% を上中グラフから差し引いた結果が下左グラフ。これが非線形成分のようにも思われるが、この残差も上右グラフと似たような感じになっている。中央プローブの位置ずれを 0.7% にまで増やすとこのずれが無くなる(右下グラフ)ので、どこまでが非線形成分なのかがいまいちはっきりしない。しかし、0.7% は 70μm にもなるので、これほど大きくずれている事も考えにくい...

非線形性は引きずり3点での形状計測にかなりの影響を与えるが、この程度の中央プローブのずれは形状計測にはほとんど影響を与えないことは確認できている。

●引きずり3点プローブユニットのキャリブレーション

ここで、プローブとして使っているセンサ(キーエンス SI-F01)の予想される動作原理を紹介する(標準モードの測定方法は私の予想によるもの)。

光源は SLD である程度コヒーレントである程度波長幅のある光源。シングルモードファイバーを通して出た光を、レンズで被検面に集光し、戻ってきた光とファイバー端面での戻り光との干渉を見る。その際、分光することで、波長方向の強度変化から距離を算出するのが標準モード、いくつかの波長での強弱変化をカウントするのが干渉計モード、と推察される。非線形成分は、SLD 光源のコヒーレンス度の変化やレンズ開口部での回折の影響などが考えられるが、詳細は不明。

3本あるプローブの2本を干渉計モード1本を標準モードにした状態で対向面を遠ざけていくと、干渉計モードのデータを用いて標準モードのキャリブレーションができる事に気がついた。早速、自動ステージを使って確認してみる。

まずは3本とも標準モードにして、できる限り同じ値になるようにしてから、測定限界まで対向面を近づける。その後2本を干渉計モードにする。この状態で自動ステージを 1mm 往復移動させたデータを3回取得する。これを3つのプローブそれぞれに対し行なう。

横軸を標準モードでの値、縦軸を他2つの干渉計モードからの外挿または内挿値ー標準モード(平均値を0に規格化)にしたグラフ。左からプローブ1,2,3 で各3往復の測定が,,、3回測定のメジアンに5サンプル3σのクリッピングを行ったものが色。非線形成分が結構あるが往復によるヒステレシスはなさそうだ。

対向面の傾きが非線形性に影響を与えるかどうか確認するため、対向面を2°強傾けて同様な計測を行なう(バイコニック#1 計測時の対向面の最大傾斜は1°弱程度)。

傾けると非線形成分が顕著に減った。表面の反射率とかが影響しそうだが、とりあえず、角度との関係をもう少し調べてみる。

1日経過後、同じ状態のままファイバーの経路(置き位置)だけ少し変えて計測。大体の傾向は同じだが、ファイバーの配置や温度状況などが変わるだけでも非線形性には若干の影響が出るようだ。

ここからは、頑張って対向面の傾斜に対する依存性を調べてみたが、どうやらプローブの特性は軸対象に現れるのではなく、何らかの偏りがあるようで、その方向には特に悪い非線形性が出る。また、非線形性の悪さは干渉計モードでの振る舞いにも影響しており、+1.05°よりも+側に対向板を傾けると、3番プローブの干渉計モードが不安定になり計測できない。分光器に入る光量が減るのではないかと思われる。この結果を見ると、少なくとも対向面が研磨面の場合は安定しない感じだが、非研磨面であれば、角度依存性の効果が均されて安定する可能性はある。しかし、研磨後の形状が知りたいので、非研磨面での計測は考えないことにすると、結局は干渉計モードでしか計測してはいけない、という事のようだ。

対向面 -2.10°

対向面 -1.75°

対向面 -1.40°

対向面 -1.05°

対向面 -0.70°

対向面 -0.35°

対向面 0.00°

対向面 +0.35°

対向面 +0.70°(多分、一番初めの計測はこの辺りの角度)

対向面 +1.05°

これ以降、3番の干渉計モードが安定せず計測不能。もっと角度をつけると1番も不安定になる。

最後に、曲率可変のステージを作っての較正を試みたが、シグマ光機のコントローラの最小速度とアクリル板の反射率では、動作時に干渉計モードが維持できないことが判明し、断念。


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