宇宙物理学とは,宇宙の様々な場所で起る諸現象を物理学を用いて記述し,我々の住む自然世界に対する理解をより一層深めることを目的とする学問である.その対象は太陽とその活動,星・惑星系の形成進化から,星間現象,銀河の形成進化,超新星や活動銀河などの爆発・活動的現象,さらには宇宙の大規模構造や,宇宙そのもの誕生と進化を考察する宇宙論まで極めて広い.特に近年はすばる望遠鏡に代表される技術革新が目覚ましく,最新の観測データが既存の概念をくつがえすこともある.さらにそれは,新たな理論構築やコンピュータシミュレーションを促し,時には基礎物理学法則自体の見直しすら迫る場合もある.宇宙物理学は,近年最も急速に発展しつつある分野の一つと言える.
このように幅広い分野であるから,必要とされる基礎物理学の知識も古典力学,電磁気学や流体力学から量子力学や原子(核)物理,さらには特殊及び一般相対論と多岐にわたる.従って,この分野を志望する学生には数学及び基礎物理学各分野の幅広い知識の習得が望まれる.また,近年の宇宙物理学の進展は最新観測データによって切り拓かれる場合も多く,観測手法や技術に関する学習も不可欠である.以上のような観点から,当教室では以下のような学部教育を行っている.
2回生対象の講義,天文学概論 I,IIでは,現在の天文学の方法と,それによって明らかにされている宇宙諸現象を概説し,どのような未解決問題があるのかについても触れる.一方この2回生段階で,解析力学 1・2, 電磁気学 2 (正式名称:電磁気学続論), 波動と量子論,熱・統計力学 1,連続体力学,物理のための数学 1・2, 数学解析 I などの基礎数学及び基礎物理学を習得しておくことが望ましい.これらは,宇宙物理学の研究を行なう上で前提となるものである.また,コンピューター関係の習練も極めて重要である.シミュレーションのような研究はもちろん,通常の理論研究や,観測装置の制御と膨大な観測データの処理にもコンピューターはもはや不可欠の道具となっている.
3回生対象の講義,基礎宇宙物理学 I・II・IIIでは,2回生までに得られた基礎物理学の知識を駆使し,宇宙における基本的な物理現象を学習する.観測天文学では,様々な観測手法や技術を紹介し,科学的データが得られるまでの過程を概説する.これらは4回生対象のより高度で専門的な講義や演習への基礎となる.課題演習C1・2・3の内容はゼミナールと演習による知識の拡充と観測実習である.課題研究はより実際的な研究実習を行う. S2・3・4 は主として観測的,S5 では主として理論的な研究トピックを扱う.
宇宙物理学の対象は極めて広いので,目先の興味にとらわれたり自らを限定することなく,幅広くバランスよく知識を習得することが重要である.また,理論と観測が密接に関連した分野であるため,理論を志す者も観測の基礎知識を習得し,観測を志すものも基礎物理学をしっかりと学んでおくことが必要である.
宇宙物理学の系登録(課題演習C)の定員は11名。
登録のため条件は、
(a)卒業に必要な外国語科目10単位以上。
(b)専門基礎科目と1,2回生配当の専門科目のうちから32単位以上。
(c)(b)のうち専門基礎科目と1,2回生配当専門科目の宇宙物理学、物理学、数学から24単位以上。
例として、解析力学 1・2、電磁気学 2、波動と量子論、熱・統計力学 1、連続体力学、物理のための数学 1・2、天文学概論、+その他1,2回生配当の該当科目
宇宙物理学の基礎概念を把握するために、C1・2・3合同で、年間を通じてゼミナールおよひ演習形式による学習を行なう。教科書は高原文郎著「宇宙物理学」(朝倉書店)(予定)である。後期には、計算機を用いた数値計算の演習も行なう。
さらに、大宇陀観測所、花山天文台の望遠鏡等を用いて、以下の実習を行なう。また観測に必要な装置の開発に関連した演習を行なうこともある。
C1 天体測光観測
星団や変動天体のCCD測光観測を行い、データの処理方法や恒星の色−等級図、天体活動現象の解析方法などを学ぶ。
C2 天体撮像観測
太陽表面、星雲、銀河等を撮影し、天体撮像の基本的手法を実習すると共に、天体活動現象について学ぶ。
C3 天体分光観測
銀河系内星雲や銀河、太陽などの分光観測を行なう。観測・データ解析の手法を学ぶとともに、スペクトルからどのような物理が得られるかを学ぶ。
なお、課題演習Cと特に関連の深い講義科目は天文学概論及び観測天文学である。
S2 太陽物理
表面の活動現象を具体的に解析できる唯一の恒星である太陽について、その動的な大気構造と活動現象を観測し、研究する。はじめに基本的な文献を購読したのち、飛騨天文台太陽望遠鏡と太陽X線観測衛星「ようこう」で取得された太陽活動現象の最新の観測データを、宇宙磁気プラズマ現象の基礎物理過程を明らかにするという観点から解析する。
S3 恒星物理
恒星の分光観測は、星の大気の構造、化学組成、活動現象について調べる上で、重要である。このような星のスペクトルの解析法に習熟することを目的とする。年度によっては、恒星の空間情報から、近傍星、散開星団の空間構造を調べることもある。論文などの購読により基本的知識を修め、その後、具体的な観測データを用いて解析作業を行なう。
S4 銀河物理
銀河は多数の星とガス及び磁場などから成る一つの構造体である。この課題研究では、銀河、星団、ガス星雲などの観測や、観測データの解析を通して、銀河の構造、銀河における星生成等について研究する。また観測に必要な装置の開発に関連した研究をおこなうこともある。
S5 理論天文学
研究実習に挑戦することで宇宙物理学の理論的研究の最前線に触れ、研究の手法を学ぶと共に宇宙に対するより深い理解を目的とする。トピックは主に当教室の理論関係スタッフがカバーする領域(宇宙における流体・電磁流体力学現象、重力多体系、星や銀河の形成進化、宇宙線や高エネルギー現象、観測的宇宙論など)となる。研究実習の前に導入としてゼミナールを行う。
科目番号 | 科目 | 担当教官 | 前期 | 後期 |
---|---|---|---|---|
2300 | 天文学概論 I | 舞原 俊憲 | 木2 | -- |
2301 | 天文学概論 II | 舞原 俊憲 | -- | 木2 |
---- | 天体観測実習 | 北井 礼三郎 / 上野 悟 | 集中(8月) | -- |
3250 | 現代物理学 | 多数 | -- | 火5 |
3304 | 基礎宇宙物理学 I. 力学 | 稲垣 省五 | -- | 金2 |
3305 | 基礎宇宙物理学 II. 電磁流体力学 | 柴田 一成 | 金2 | -- |
3306 | 基礎宇宙物理学 III. 輻射過程 | 岩室 史英 | 水3 | -- |
3307 | 観測天文学 | 岩室 史英 | -- | 水2 |
3360 | 課題演習 C1(測光観測) | 岩室 史英 / 稲垣 省五 | 月pm | 月pm |
3361 | 課題演習 C2(撮像観測) | 冨田 良雄 / 稲垣 省五 | 月pm | 月pm |
3362 | 課題演習 C3(分光観測) | 黒河 宏企 / 稲垣 省五 | 月pm | 月pm |
4302 | 太陽物理学 | 黒河 宏企 | 月2 | -- |
4303 | 恒星物理学 | 平田 龍幸 | 火2 | -- |
4304 | 星間物理学 | 太田 耕司 | 火4 | -- |
4305 | 銀河物理学 | 太田 耕司 | -- | 火2 |
4306 | 観測的宇宙論 | 戸谷 友則 | 水2 | -- |
4307 | 惑星物理学 | 岩崎 恭輔 | 火3 | -- |
5251 | 課題研究 S2(太陽物理) | 柴田 一成 | 木pm* | 木pm* |
5252 | 課題研究 S3(恒星物理) | 野上 大作 | 水pm* | 水pm* |
5253 | 課題研究 S4(銀河物理) | 菅井 肇 / 太田 耕司 | 月pm/火pm* | 月pm/火pm* |
5254 | 課題研究 S5(理論天文学) | 釜谷 秀幸 | 木pm* | 木pm* |
* 課題研究の時間は、年度により異ります