検出器


  1. 検出器の種類
    光が物質にあたると内部で電子が励起されるが、半導体の場合、ある一定のエネルギー閾値(バンドギャップ)を越えると、励起された電子は自由に移動できるようになる。現在、広く天文で利用されている半導体検出器は、この励起された電子を集めて光の強度を調べるものである。
    バンドギャップは半導体によって異なるため、観測したい光の波長により異なる材質の検出器が用いられる。一般に低エネルギーの光子を検出する場合ほど、検出器内部での電子の熱運動の影響を抑えるために、低温に冷却する必要がある。
    以下に、現在天文学で利用されている検出器と波長帯を示す。

    材質タイプ波長帯
    SiPV<1.1μm
    GePV<1.8μm
    HgCdTePV0.9〜2.5μm
    PtSiSD1〜4μm
    InSbPV0.9〜5.6μm
    Si:AsIBC6〜27μm
    Si:SbIBC14〜38μm
    Ge:BePC30〜50μm
    Ge:GaPC40〜200μm
    Ge or SiBM200〜1000μm

    • HgCdTe は、合金の配合比を変えることにより約 10μm まで検出範囲を伸ばすことが可能である。
    • 各検出器のタイプに関しては、赤外線検出器の部分で解説する。

  2. CCD
    ● 可視光の検出器の変遷
    写真乾板、光電子増倍管、CCD と推移。現在は全て CCD での観測となっている。

    ● 半導体
    半導体は Si や Ge などの最外殼電子が4個の元素を指し、それらに少量の不純物を加えて若干の特性を与えて用いる。加える不純物により、以下の2種類の半導体がある。

    ・p 型半導体
    最外殼電子が3個の B などを加えて、結晶内に若干の電子のない部分(ホール)をつくったもの。

    ・n 型半導体
    最外殼電子が5個の P などを加えて、結晶内で若干の電子を余らせたもの。

    ● MOS
    MOS とは Metal Oxide Semiconductor の略称で、Si などの半導体に SiO2 などの絶縁層を設け、金属の電極をつけたものである。
    基底状態の半導体では、電子は valence band と呼ばれる束縛された準位(Ev)にあり、バンドギャップ(Eg)を越えるエネルギーを持つ光があたることにより、conduction band と呼ばれる移動可能な準位(Ec = Ev + Eg)に励起される。conduction band に励起された電子は、電極と半導体の間の電位差による電場の傾斜に沿って移動し、集められる。これが、半導体により光を検出する原理である。

     

    上記の状態でも光を検出することができるが、CCD では更に buried channel と呼ばれる逆特性の薄い層(下図の場合は、p 型の本体部に対し n 型)を間に設け、励起された電荷が絶縁層に接触しないようにして集める(理由は後述)。p 型と n 型の接合部では、n 型中の電子が p 型中のホールと結合し、n 型が正 p 型が負にとなり自発的な電場の傾斜が現れる。このような境界部分を depletion layer と呼び、この部分で励起された電子は電場の傾斜に沿って移動し、集積される。

    ● CCD
    CCD とは Charge Coupled Device の略称で、光を検出するという意味ではなく、その電荷転送方法を指す名称である。上記 MOS 中に集積された電荷は、電極の電位を操作することにより、"バケツリレー" 方式で移動させることができ、読み出し口に向かって順次送られていく。検出器部分に buried channel が使われるのは、電荷を移動させる際に絶縁層などの不連続な境界面で電子が捕えられて、転送が不完全になる事を防ぐためである(現在の CCD は画素数が多く、電荷の移動回数も非常に多いため、1回の転送では限りなく100%に近い効率が要求されている)。
    電荷の転送方法には、以下の3種類がある。

      

    通常、CCD は電極のある加工面から光が入射するように用いられるが、電極部分は光を通さないため検出器の有効面積が減ってしまう。それを避けるため、天文学用の CCD では、上図下側の p型 Si の面が非常に薄くなるまで研磨し、裏側から光をあてることによって最大効率が得られるようにしてある。そのような CCD を裏面照射型 CCD と呼ぶ。

    ● CCD の種類
    CCD には電荷の転送方法により、以下の3つのタイプがある。

    ・Interline 方式
    光があたらないようにした電荷の転送部分が検出器部分から独立しており、検出器で集積された電荷は始めに電荷転送部分に移動する。次の画像の露出中に読み出しができるためシャッターが不要で、通常の CCD ビデオカメラ等ではこの方式がとられるが、全体に対する検出器部分の面積の割合が低くなるので、天文用には用いられない。

    ・Full Frame 方式
    検出器部分をそのまま電荷転送に利用する方式で、全面を検出器として利用できるため、可視光の天文学ではこの方式のものを用いるのが普通である。読み出し(転送)中に光があたると情報が重なってしまうため、読み出し中はシャッターで光があたらないようにする必要がある。

    ・Frame Transfer 方式
    光があたらないようにした電荷の転送部分が検出器部分から独立しているのは Interline と同じであるが、検出器部分の面積的な割合を下げないために検出器と同じ大きさで光のあたらない storage array の部分に一度電荷を移し、次の露出中に読み出す。この方式のものは主に X 線天文衛星で利用され、この storage array を鉛板で覆い、外部からの放射線があたらないようにして読み出しを行なっている。

    読み出し口にはアンプがあり、電荷数を増やしてからデジタル量に変換(A/D 変換)する。

    ● 駆動方法
    CCD の駆動方法には、通常の1画素(pixel)ずつ読み出す方法の他、以下の様な駆動方法もある。

    ・Over Scan
    Parallel clock と Serial clock を pixel 数以上送り、空の部分の電位を読み取る。これにより0(GND)レベルの電位の変化をモニタする。

    ・On chip binning
    Photon 数が少ない場合、幾つか(通常は 2n個)の clock をまとめて送り、CCD 上で電荷を合わせながら読み出す方法。

    ・Drift Scan
    望遠鏡による天体の追尾を止め(もしくは意図的に遅くし)、焦点面での天体の移動方向を Parallel 転送の方向にして、天体の移動に合わせて Parallel clock を送ることにより読み出す方法。シャッターを閉じる必要がないため、帯状に広範囲の観測を連続して行なうことができ、広い範囲のサーベイ観測に適している。

    ・部分読み出し
    全面を読み出すには時間がかかるので、読み出し口に近いところだけを読み出して残りを捨てる方法。

    ● 量子効率と画素数
    入射した光子数に対する発生した電子数の割合を量子効率と呼ぶ。Si は可視光に対し不透明であるが、波長が長くなると透過率が徐々に上がり始めるため、裏面照射型の CCD の長波長側での量子効率を高めるには、光子が電極まで到達してしまわないように depletion layer をできるだけ厚くすることが必要である。逆に、紫外線に対する感度を高めるには、depletion layer ぎりぎりまで薄く研磨することが必要で、用途に応じて使い分けられている。
    以下は、天文用に使用される代表的な CCD の波長による量子効率を表したグラフである。
    半導体として、Ge を用いれば原理的には 1.8μm までの光を捕えることが可能だが、工業的には加工のしやすい Si が半導体の大部分を占めるため、Ge の CCD は作られたことがない。

    画素数は、現在 2048×4096 (pixel size 15μm□)のものが多く使われるようになってきており、広視野の装置などでは読み出し口以外の3辺を隣り合わせて並べて使用される。


    MIT/LL 2k x 4k CCD

    以下は、CFH 3.6m 望遠鏡 8k x 12k CCD カメラでの使用例。

    4辺とも隣り合わせて並べられるものも開発されている(使用例)。

  3. 赤外線検出器
    ● 赤外線検出器の種類
    赤外線検出器は、検出原理の違いにより以下の4つのタイプがある。

    ・内因性半導体 (Intrinsic semiconductor)
    Si や Ge などの半導体と同様に valence band と conduction band 間のエネルギー幅の狭い純粋なバンドギャップで光子を検出することができるもの。純粋な結晶構造を持つ HgCdTe や InSb などがある(II-VI型とIII-V 型)。

    ・外因性半導体 (Extrinsic semiconductor)
    純粋なバンドギャップではなく、不純物を加えたことによる格子欠陥の結果生ずる新たな準位を用いて光子を検出するもの。Si や Ge などの純粋な半導体に、多量の不純物を加えることによりつくられ、様々な種類があるが、Si:As が代表的である。1つの光子に対して、移動可能な電荷が1つしかできないので、内因性半導体よりも検出精度が落ちる。

    ・内部光電効果型ダイオード (Schottky diode)
    金属と半導体を接触させると半導体側界面に空間電荷層ができ、金属から半導体への電子移動は起こるが逆は起こらない(Schottky barrier 効果)。この特性を利用して、光電効果により金属表面から半導体側に出てきた電子を CCD と同じ方式で集めるもの。電子が金属表面に出てくる際に、金属中である確率でエネルギーを失うため、量子効率は上がらない(〜10%)が、安価で大素子数のものができるのが特徴。

    ・ボロメータ (Bolometer)
    極低温に冷やした物体が、放射により暖まる温度を測定する方法。量子効率は 100% だが、非常に高い精度で極低温を保つ必要があるため安定性が良くないことと、多素子化することが極めて難しいことが欠点。主に遠赤外の宇宙望遠鏡や、サブミリ波望遠鏡で用いられている。

    また、励起された電荷を電気的信号に変える方法として、以下の3つの方法がある。

    ・Photovoltaic Detector (PV)
    n 型と p 型の境界面にできる depletion layer での電子・ホール対を集積して、電圧として読み出す方法。上記内因性半導体を用いて近赤外線検出器として使われている。通常は露出前のリセット時に逆電圧(n型に正、p型に負)をかけて、集積できる電荷量を増やして用いる (コンデンサが放電していくようなイメージ)。

    ・Photoconductor (PC)
    半導体に高電圧をかけ、光の強度を光があたったときに流れる電流量として読み出す方法。上記外因性半導体を用いて遠赤外線検出器として使われている。電子が外部電場に従ってドリフトしていくときに、前方で発生したホールと結合することがあり、ドリフト量が長いと量子効率が下がる欠点がある。信号が電流として常に出力されるため、大素子数にすることが困難。

    ・Impurity Band Conduction Detector (IBC)
    上記 PC に絶縁体を加え、コンデンサとして電荷を集積できるようにしたもの。原理としては PC だが、検出器の構造は PV に近い。大素子数のものを作ることができ、上記外因性半導体を用いて中間赤外線検出器として使われている。

    ● 赤外線検出器の構造
    赤外線検出器は上記のように検出原理と電荷の測定方法の違いにより、様々なタイプのものがあるが、ここでは、近年最も広く用いられている大素子数の赤外線検出器の構造について、HgCdTe を用いた PV 型素子 (HAWAII) を例に説明する。大素子数の PV 及び IBC の基本的構造はこれとほぼ同じであると考えて良い。

    HAWAII 検出器は、サファイアの基板の上に CdTe の薄い層をつくり、その上で HgCdTe の p 型半導体結晶を成長させて検出器部分を作る。各 pixel に相当する部分は異なる不純物を加えて n 型となるようにし、pn 接合による depletion layer を形成する。
    それとは別に、読み出しのための回路となるマルチプレクサ (MUX) と呼ばれる部分を Si 半導体で作り、最後に検出器と MUX の各 pixel 部分を In (伝導性のある柔らかい金属) で圧着して製作する。

    このように、感度のある検出器部分と Si の回路を組み合わせた検出器は hybrid 検出器と呼ばれている。
    大素子数の検出器では、読み出し速度を速くするため、全体は4つの Quadrant と呼ばれる独立した部分からできており、また、各 Quadrant の読み出し口も複数ついているものもある。

    MUX は外部からの clock 入力によって順に pixel を選択する切り替え装置としての働きがあり、選択された pixel の電圧をソースフォロワと呼ばれる初段アンプを通して出力する。以下は、MUX 部分の回路図であるが、検出器の信号は下図の赤→緑→青という順で伝わり、外部の読み出し回路に接続される。ここで注意すべき事は、それぞれの色の部分の電荷は混ざることなく検出器の電圧が測定されるため、何度読み出しを行なってもリセットをかけない限り検出器中の(下図赤色部分の)電荷は保存されるということである。これは、一度読み出したら情報がなくなってしまう CCD と根本的に異なるところである。このマルチプレクサ部分にpn接合のSi検出器部分を接続したものがCMOSセンサで、裏面照射タイプの高効率ものもできてきているが、天文用の用途に耐えられるものはまだできていないようである。

    ● 読み出し方式
    Hybrid 検出器は、検出器の電荷を非破壊で読み出すことが可能なので、同じ検出器、同じ読み出し回路を用いても様々な読み出し方をすることが可能である。以下に述べる読み出し方法は、1) 検出器や読み出し回路の状態の微少な変化による 0 レベルの電位の変化を除く、2) 電子の熱運動による電位の揺らぎ(Johnson noise)によるリセット直後の電位のばらつきの影響を除く、3) 検出器あたる光が弱い状況下(狭帯域撮像や高分散分光)で検出器や回路の読み出しノイズを抑える、などの目的で考案されたものである。

    ・Single sampling
    上図 B 点でのみ読み出しを行なう方法。最も早いが、通常の観測では用いられない。

    ・Correlated double sampling
    上図 B,R 点で読み出しを行ない、VR2 - VB1 を出力とする方法。1) の目的で用いるもの。

    ・Fowler sampling
    上図 A,B 点で読み出しを行ない、VA1 - VB1 を出力とする方法。2) の目的で用いるもので、通常はこの方法が多い。

    ・Triple correlated sampling
    上図 R,A,B,R 点で読み出しを行ない、(VR2 - VB1) - (VR1 - VA1) を出力とする方法。1)2) の目的で用いるもの。

    ・Multiple sampling
    上図 A,B 点で連続して復数回(2n回)の読み出しを行ない、それらの平均を用いて <VA1> - <VB1> を出力とする方法。2)3) の目的で用いるもので、検出器にあたる光が暗いときにはこの方法を用いることが多い。

    ・Ramp sampling (Sampling-up-the-ramp)
    上図 A,B 点及びその間を均等な間隔で復数回の読み出しを行ない、それらを用いて電位の平均的な増加率を計算し出力とする方法。2)3) の目的で用いるもの。アルゴリズムは複雑となるが、極めて明るい天体が視野内にある場合でも、検出器が飽和する前の情報から明るさを出すことができる。ハッブル望遠鏡の赤外線カメラはこの方法を採用している。

    ・部分読み出し
    検出器の一部のみを高速で読み出す方法。

    ● 量子効率と画素数
    現在、天文学に使用されている大素子数の赤外線検出器は、Teledyne の HgCdTe 検出器 (HAWAII など) と、Raytheon の InSb 検出器 (ORION など) 及び Si:As 検出器である。
    これらの赤外線検出器の量子効率は徐々に上がってきており、現在、HgCdTe 80%, InSb 90%, Si:As 50% の最大効率を得ている。また、画素数は4〜5年で4倍ずつ多くなっており、現在、HgCdTe 20482, InSb 20482, Si:As 10242 の画素数に達している。Hybrid 検出器は異なる素材を張り合わせて作るため、温度変化時の膨張率の差が大面積化をこれまで困難にしてきたが、今後も技術的には更に大素子化することは可能な様である。

    ● これからの赤外線検出器
    検出器の大素子化が進むと、検出器1個あたりの価格も非常に高額なものとなり市場に出回らなくなるので、現在は、20482 素子(1個数千万円)を可視光の CCD のように隣同士並べて使えるように開発が進められてきたが、2012年には40962 素子の HgCdTe 検出器が天文学用検出器として試験観測に成功している。
    下左図は Teledyne 社で開発された HAWAII2 改良版(H2RG)と更に大型のもの(H4RG)。

    また、中間赤外用 HgCdTe 検出器の開発も進められている。上右図の方式の拡張版は2層の depletion layer を持ち、2色の中間赤外線を同時に撮像するものも軍事レベルではできている。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp