活動するクェーサー
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京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室

岩室 史英

〒606-8502 京都市左京区北白川追分町
e-mail: iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp

●クェーサー発見の歴史

    (以下、〜年代に続く数字は発見されたクェーサーの総数を表しています)

  • 1950年代(0天体):3C 電波カタログ中の正体不明天体


    ケンブリッジ大マラード電波天文台 4C 電波干渉計
    (3C カタログで用いられた4素子干渉計の写真はありません)


    当時の観測写真(3C48, Matthews 他 1963年,ApJ,138,30)

     

  • 1960年代(~数十天体):赤方偏移した遠方天体であることが判明


    発見時のスペクトル("The Discovery of Quasars", Schmidt,2009)
    異常に広がった輝線が波長1.16倍で観測されたと解釈できる
    まだこの頃はエネルギー源は不明...

     

  • 1970年代(~数千天体):超巨大ブラックホールへの質量降着との理解が広まる


    降着円盤のイメージ(NASA Scientific Visualization Studio)
    超巨大ブラックホールの質量:~太陽の1億倍
    降着円盤の明るさ     :~太陽の1兆倍

     

  • 1980年代(~1万天体):活動銀河核の統一モデルの登場

    ↑ 中心を見込む角度による見え方の変化
       (NASA Scientific Visualization Studio)

    ← 活動銀河核の統一モデル
    降着円盤と中心付近の高速運動するガスは
    ドーナツ状に分布する塵で見える方向が限定
       (Urry & Padovani 1995,PASP,107,803)

    活動銀河核のタイプ
     1型:中心部が見えている(幅の広い輝線がある、青い)
     2型:中心部が隠れている(幅の広い輝線がない、赤い)
    クェーサーは活動銀河核の中で特に明るいもの

    ↑ 近傍の暗い活動銀河核では
     ごく稀に数年でタイプ変化
     する場合があり、中心部が
     ギリギリ見える状態と考え
     られた
     

    ← 1型と2型のスペクトル
       (出典元はこちら)

     

  • 1990年代(~数万天体):様々な掃天観測が進む
     まだこの頃の掃天観測の主力は CCD ではなく写真乾板


    パロマ―120cmシュミット望遠鏡とE.P.ハッブル

     

  • 2000年代(~10万天体):CCD による掃天観測


    SDSS2.5m望遠鏡5色カメラ

     

●クェーサー活動のオン・オフ

  • 2010年代(~数十万天体):移動・変光天体検出のための繰り返し掃天観測が広まる
    クェーサ―でもタイプ変化が起こる場合があることが初めて報告される


    2016年に発見されたオフ天体 (Runnoe 他、2016年,MNRAS,455,1691)

    ← クェーサ―は光っている中心部分の範囲が広く、
     数年で隠すことは不可能なので、中心部の活動性が
     数年で変化したとしか考えられない。

    ほぼ1光年近くにまで広がって光っている中心部が数年でどのように変化するのか?

    せいめい望遠鏡で変化している最中のクェーサ―を捉えることができないか...


    せいめい3.8m望遠鏡とドーム

     

●「オン天体」探し

    スペクトル変化を調べるので、明るくなっていく「オン天体」の方が観測しやすい
    パロマ―120cmシュミット望遠鏡が行っている繰り返し掃天観測のデータで探す


    パロマ―120cmシュミット望遠鏡と広視野 CCD カメラ

    2018年~の公開データを転送(2024年までだと 7TB)
    1億天体分のデータの中から大きく増光し始めているクェーサーを探す
    せいめい望遠鏡で分光観測、変化が続いているものはその変化を追う


    2018年からの3年間で10倍明るくなったクェーサー
    縦線のタイミングでせいめい望遠鏡で分光観測


    2007年のスペクトルは SDSS で1度だけ行われた分光観測結果
    スペクトル中央部付近の「こぶ」が変化している...

    円盤状(色線)+1点(黒線)で分布する輝線領域を想定してモデルフィットすると


    降着円盤が14年間で2倍に拡大+中心付近での爆発のような発光と解釈できる
    (非対称に光る円盤という可能性もある)

     

●掃天分光観測の時代に突入

  • 2020年代(~100万天体):5000天体同時分光する装置が掃天分光観測を開始


    キットピーク天文台メイヨール4m望遠鏡5000天体選択機構
    2026年までに4000万天体の分光観測を終える予定

    物量では全く敵わないが、時間変化を追う研究で独自の望遠鏡があるのは大変有利。
    これらの観測結果の公開データなども用いてクェーサー活動のオン・オフの現場を探し、
    その過程の解明に向けて取り組んでいます。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp