最近の観測装置の状況
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/LECTURE/GENERAL7/

京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室

岩室 史英

〒606-8502 京都市左京区北白川追分町
e-mail: iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp
TEL: 075-753-3891 / FAX: 075-753-3897

「望遠鏡の話」も参考にして下さい。


天文観測装置の最近のトレンドは究極の広視野・多天体化です。
観測の自動化も進んでおり、アーカイヴデータは爆発的な速さで
増加しています(どの業界でも似たようなものだと思いますが)。

ここでは、広視野カメラとファイバーポジショナーに関して最近の
状況を紹介し、実際の装置開発の流れを小規模装置で見ていきます。


口径と視野角

広い視野を観測するシステムの能力は口径(A)視野角(Ω)で決まります。
通常、口径は望遠鏡の主鏡部分で決まっているため、

口径(A):望遠鏡の主鏡面積
視野角(Ω):観測装置がカバーする望遠鏡焦点面の面積÷望遠鏡焦点距離2

に対応しており、天体像の広がり角が大気ゆらぎで決まっている地上望遠鏡の
場合は両方の積である AΩ の値が大きいほど広視野の観測性能が高いことを
示しています。

同じデザインのまま望遠鏡を相似拡大で大きくすると...

  • 口径(A)が大きくなる
  • 視野角(Ω)はそのまま
  • 焦点面での像の実サイズが大きくなる
  • 焦点部の面積が大きくなる

  • 大量の検出器を敷き詰める
    または
  • 焦点距離の短い縮小光学系にする
必要があり、どちらもかなり大変です。


広視野カメラ

以下、世界の広視野カメラの AΩ の状況です。
右上ほど AΩ 値が高くなります。

▲△:北半球(可視/近赤外)
▼▽:南半球(可視/近赤外)

一番右上にあるのは、Vera C. Rubin 天文台の完成間近の LSST 望遠鏡で、
望遠鏡全体で短焦点の広視野光学系を達成し、かつ限界まで検出器を
敷き詰めた観測システムです。


https://rubinobservatory.org/


多天体分光

多天体分光を行う場合は、AΩ をできるだけ大きくした上で光ファイバーで
天体光を拾う必要があります。分光できる天体数は年々増加の傾向にあります。
Magnet Button タイプ Echidna タイプ Cobra タイプ
https://aat.anu.edu.au/public/2df-instrument https://pfs.ipmu.jp/ja/index.html
~1000天体
○配置密度が比較的自由
×配置に時間がかかる
~1000天体
○ファイバーに負荷が少ない
×重力の影響を受けやすい
~5000天体
○位置精度が高く堅牢
×ファイバーがねじれる

WST: fiber 2万本なんて計画も...


装置開発の流れ

上記の話から3桁以上額の小さい話になりますが、現在開発中の京大せいめい
望遠鏡用の分光器の開発の流れを紹介します。様々なことが必要になります...

光学設計:Zemax などの光学設計ソフトを用いて設計
 ある程度の光学収差の知識と経験が必要です...

機械設計:AutoCAD などの機械設計ソフトを用いて部品図まで製作
 細かい事を気にしなければ手間が多いだけです...

製作・組立調整:部品を加工業者に出して製作、組立調整
 この装置はまだこの段階です...

制御ソフト製作:モーターなどの駆動部や検出器読み出しのソフト製作
 C 言語&JavaScript を使います

解析プログラムの製作:取得データを解析する専用ソフトです
 以下は KOOLS という別装置の解析の流れですがほぼ同様です

望遠鏡に取り付け:ファイバー配線や入射部の光学調整など
 電源など、全てリモート制御ができるようにしておきます

とにかく、基本的に天文学者が何から何までやるのが日本の天文学の現状です。
世の中の大規模化の流れには太刀打ちできないので、せいめい望遠鏡では主として
突発天体や時間変化ずる天体の研究が行われています。