宇宙望遠鏡いろいろ
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京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室

岩室 史英 (いわむろ ふみひで)

〒606-8502 京都市左京区北白川追分町
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TEL: 075-753-3891 / FAX: 075-753-3897


    光の種類 (しゅるい)

    目に見える光を 可視光 (かしこう) と言います。光の () つエネルギーの (ちが) いで色が () わります。

(てい) エネルギー ⇐ (あか) (だいだい) () (みどり) (あお) (あい) (むらさき) (こう) エネルギー

    い光よりもエネルギーの (ひく) い光やの光よりもエネルギーの (たか) い光は見えません。
    どのような光でしょうか?

     

     

    赤外線 (せきがいせん) (ねつ) として (かん) じられる光です。鉄板焼 (てっぱんやき) (かお) (あつ) くなりますよね。
    X線 (えっくすせん) はレントゲンで使 (つか) われる貫通力 (かんつうりょく) の大きい高エネルギーの光です。
    もっとエネルギーが低く/高くなるとどういう光になるでしょうか。

     

     

    電波 (でんぱ) はエネルギーの非常 (ひじょう) に低い光で携帯電話 (けいたいでんわ) 電子 (でんし) レンジで使われていますね。
    γ線 (がんません) 身近 (みぢか) にはほとんど () く、原子炉 (げんしろ) の中やその燃料 (ねんりょう) の近くにしかありません。

     

     

    銀河 (ぎんが) からはいろいろな光が出ていて、見え方もかなり違っています。

アンドロメダ銀河 (M31)

赤外線 (せきがいせん) (こま) かい (ちり)
可視光 (かしこう) :星
X線 (えっくすせん) 高温 (こうおん) ガス

 が見えます。

(とお) くの銀河を (くわ) しく調 (しら) べるには、色々 (いろいろ) な光で見る必要 (ひつよう) があります。

    宇宙望遠鏡 (うちゅうぼうえんきょう) って?

    宇宙からは色々な光がやってきますが、半分 (はんぶん) 程度 (ていど) の光しか地上 (ちじょう) まで (とど) きません。

    地上にある望遠鏡 (ぼうえんきょう) は、地上まで届く可視光や電波で宇宙を観測 (かんそく) しています。

    (ほか) の光は大気 (たいき) で吸収されて地上まで (とど) かないので、宇宙から観測するしかありません。
    ここからは (おも) な宇宙望遠鏡について、その歴史 (れきし) とともに紹介 (しょうかい) していきます。

    X線 (えっくすせん) 望遠鏡 (ぼうえんきょう)         

    宇宙望遠鏡の (おお) くはX線で観測を行うものです。
    1970年以降 (いこう) 、40台近くの衛星 (えいせい) が打ち上げられ、現在 (げんざい) 数台 (すうだい) 稼働 (かどう) しています。

チャンドラX線天文台

©NASA

1999年にスペースシャトルで
打ち上げられた、重量 (じゅうりょう) 5トン、
長さが14mもある巨大 (きょだい) な衛星です。
現在もまだ活躍 (かつやく) しています。

X線は貫通力 (かんつうりょく) が高いので (かがみ)
正面 (しょうめん) 反射 (はんしゃ) することができません。
(うす) い鏡で (あさ) 角度 (かくど) で反射して (あつ)
るため、長い (つつ) 必要 (ひつよう) となります。

チャンドラで見た木星 (もくせい) です。
極付近 (きょくふきん) でオーロラが光っていますが、
それ以外 (いがい) ではボーッと (くら) (かん) じです。

    日本も1979年以降7台のX線衛星打ち上げに成功 (せいこう) していますが、6台目は制御上 (せいぎょじょう)
    問題 (もんだい) により軌道上 (きどうじょう) 分解 (ぶんかい) (ほか) 2台が打ち上げに失敗 (しっぱい) しています。(7台目 9/7成功)
    宇宙望遠鏡は打ち上げに失敗すると (すべ) てなくなってしまうのが (こわ) いところです。

    γ線 (がんません) 望遠鏡 (ぼうえんきょう)          

    宇宙からの γ線はアメリカの核実験 (かくじっけん) 観測衛星によって 1967年に発見 (はっけん) されました。
    その (なぞ) 解明 (かいめい) のため 12台の衛星が打ち上げられ、現在も数台が稼働しています。

フェルミガンマ線宇宙望遠鏡

©NASA

 2008年にデルタIIロケットで
 打ち上げられた、重量4トン ( )
 長さ3mの大型 (おおがた) 衛星です。

γ線と物質 (ぶっしつ) との衝突 (しょうとつ) により生まれる
電子 (でんし) 陽電子 (ようでんし) という2つの粒子 (りゅうし)
動きで、γ線の方向 (ほうこう) 決定 (けってい) します。

宇宙からのγ線検出 (けんしゅつ) 瞬間 (しゅんかん) です。
一瞬 (いっしゅん) 数十秒 (すうじゅうびょう) () えてしまうため、
検出時 (けんしゅつじ) 自動 (じどう) でメール送信 (そうしん) されます。

非常 (ひじょう) (とお) い銀河でのビーム (じょう) 爆発 (ばくはつ)
たまたまこちらを () いている現象 (げんしょう)
いうことがわかってきました。 ( )

    γ線の望遠鏡は光を集める鏡がないので、望遠鏡というよりは放射線 (ほうしゃせん) 検出器 (けんしゅつき) です。
    宇宙望遠鏡にもいろいろありますね。 ( )

    赤外線 (せきがいせん) 望遠鏡 (ぼうえんきょう)         

    これまでの赤外線望遠鏡は装置の温度を (ひく) (たも) つための冷却液 (れいきゃくえき) () んでおり、それを
    (すべ) て使い切って蒸発 (じょうはつ) してしまうと、観測をすることができなくなりました。そのため、
    衛星の寿命 (じゅみょう) は5年程度 (ていど) であることがほとんどで、望遠鏡としては短命 (たんめい) です。

ハーシェル宇宙天文台

©ESA

 2009年にアリアン5ロケットで
 打ち上げられた、重量3トン ( )
 長さ7.5mの中型 (ちゅうがた) 衛星です。
 鏡の口径 (こうけい) は3.5mあります。

ハーシェルで見た木星です。木星を
(つつ) () 水蒸気 (すいじょうき) 大気 (たいき) (うつ) っており、
1994年に彗星 (すいせい) 衝突 (しょうとつ) した下半分 (したはんぶん)
() いことがわかります。

    赤外線の望遠鏡は寿命 (じゅみょう) (みじか) いため、ほとんどが1トン以下の小型 (こがた) 衛星です。
    大きい衛星ほど冷却 (れいきゃく) 装置 (そうち) が重くなることも (むずか) しい所です。

    電波 (でんぱ) 望遠鏡 (ぼうえんきょう)          

    電波は地上からも観測できるので、宇宙に望遠鏡を打ち上げる必要は少ないのですが、
    同時 (どうじ) に観測する望遠鏡が (はな) れているほど (こま) かいものが見えるという特徴 (とくちょう) があるので、
    地球 (ちきゅう) の大きさの何十倍 (なんじゅうばい) も離れた所まで望遠鏡を () ばすと視力 (しりょく) 格段 (かくだん) に上がります。

電波天文観測衛星「はるか」

©JAXA

 1997年に日本のM-Vロケットで
 打ち上げられた、重量1トンの ( )
 小型 (こがた) 衛星です。打ち上げ後 (ひろ) げた
 アンテナの口径 (こうけい) は8mもあります。

    はるか は大阪 (おおさか) から東京 (とうきょう) 米粒 (こめつぶ) を見分けられる能力 (のうりょく) で9年間 (ねんかん) にわたり活躍 (かつやく) しました。
    電波の宇宙望遠鏡は非常 (ひじょう) に少なく、この他はロシアが打ち上げた1台のみです。

    可視光 (かしこう) 望遠鏡 (ぼうえんきょう)         

    可視光も地上から観測できますが、電波とは (ちが) 大気 (たいき) で星の (ぞう) (みだ) されてしまいます。

水面 (すいめん) のゆらゆらと
同様 (どうよう) 空気 (くうき) ()
ぎで星が (みだ) れます。

    宇宙からの観測では () らぎのない像が得られるため、可視光の宇宙望遠鏡のほとんどは
    長期 (ちょうき) 観測で明るい星のほんの少しの変化 (へんか) (明るさや位置 (いち) の変化)を調 (しら) べる小型衛星ですが、
    ハッブル宇宙望遠鏡だけは別格 (べっかく) です。

ハッブル宇宙望遠鏡

©NASA

1990年にスペースシャトルで
打ち上げられた、重量11トン ( )
長さ 13m の超巨大 (ちょうきょだい) 衛星です。
鏡の口径は2.4mで現在も稼働中 (かどうちゅう)

ハッブルは宇宙空間 (くうかん) で5回の修理 (しゅうり)
行いました。最後 (さいご) の修理(左)から
15年近く経過 (けいか) しており、いつ停止 (ていし)
してもおかしくない状態 (じょうたい) です。

ハッブルで見た木星 (もくせい) です。
大赤斑 (だいせきはん) は現在縮小 (しゅくしょう) しており、
21世紀 (せいき) 中頃 (なかごろ) には () えるようです。

    ハッブルは (いた) る所が老朽化 (ろうきゅうか) し、次世代シャトルでの修理も (むずか) しいものと思われます。
    ハッブルの後継機 (こうけいき) として2つの宇宙望遠鏡が予定され、1つは観測開始しています。

    新しい宇宙望遠鏡 (うちゅうぼうえんきょう)       

    ハッブルの後継 (こうけい) となる2台の宇宙望遠鏡は、非常 (ひじょう) に遠くの宇宙を観測するのに (てき) した、
    可視光から赤外線にかけての光で観測するものです。観測の (さまた) げとなる太陽 (たいよう) 地球 (ちきゅう) から
    の光を () け、かつ望遠鏡の温度を下げるため、月よりも4倍遠い所に打ち上げます。

    この場所 (ばしょ) では太陽と地球がいつも同じ方向に見えているので、1つの日傘 (ひがさ) で両方からの
    光を (さえぎ) ることができます。太陽光発電 (たいようこうはつでん) のため、地球と月の (かげ) を避けて (たて) にも (まわ) ります。
    (上の動画 (どうが) ではわかりませんが、この場所では地球と太陽はほぼ同じ大きさに見えます)

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

©NASA

2021年12月25日にアリアン5で
打ち上げられた、重量6.5トン ( )
長さ 20m の超巨大衛星です。 ( )
鏡の口径は6.5mで、 () りたたんで
打ち上げました (NASA ページ)。

初めの観測で取得(しゅとく)された銀河団(ぎんがだん)
画像(がぞう)です。(ほそ)く見える赤い銀河は、
手前(てまえ)の銀河団の重力(じゅうりょく)レンズで()
()ばされた非常(ひじょう)に遠くの銀河です。

ウェッブで見た天王星です。
CG ではありません。

    ウェッブとハッブルは一度に見ることの出来る範囲 (はんい) は同じくらいですが、ウェッブの
    方が 数倍 (すうばい) 良く見えるようになります。また、ハッブルでは見ることのできなかった
    赤外線でも観測できるため、より遠くの宇宙を見ることができます。

    もう1つのハッブル後継機 (こうけいき) は、

ナンシー・グレース・ローマン
        宇宙望遠鏡

©NASA

 2027年に打ち上げ予定の
 重量4トンの大型衛星です。 ( )
 鏡の口径はハッブルと同じ ( )
 2.4mですが、100倍広い ( )
 範囲 (はんい) を一度に観測できます。

    ウェッブが (せまい) い範囲を非常 (ひじょう) (くわ) しく見るのに (たい) し、ローマンは非常に広い範囲を
    ハッブルと同程度 (どうていど) に詳しく見ることができます。

    2023年7月1日にローマンの半分サイズの
    ユークリッド衛星 (えいせい) 先行 (せんこう) して打ち上げられ
    ました。地上の超大型望遠鏡 (ちょうおおがたぼうえんきょう) と同様、
    ここでも欧米 (おうべい) 競争 (きょうそう) が行われています。
    ファルコン9での打ち上げ(最後すごいです...)

     

    もっと (さき) (はなし) ...

    この先の宇宙望遠鏡は、2040年台の稼働 (かどう) 目標 (もくひょう) として以下 (いか) の4つが検討 (けんとう) されました。

    ルーバール探査機 

©NASA

 鏡の口径は 15m もあります。

    ハベックス天文台  

©NASA

 直径 72m の第2衛星を地球
 10個分離して飛ばし、明るい星
 を隠して周囲の惑星を調べます。

    リンクスX線天文台  
     

©NASA

  オリジンス宇宙望遠鏡 
     

©NASA

チャンドラの50倍の感度

極限まで冷やして感度100倍

    2021年に上側 (うえがわ) の2つの計画 (けいかく) 合体 (がったい) させてルベックス望遠鏡として (すす) める方針 (ほうしん)
    () まりました。

おわりに

     宇宙望遠鏡も地上の望遠鏡と同様 (どうよう) 、ほぼ限界 (げんかい) の大きさになってきました。
    大変 (たいへん) 残念 (ざんねん) なのは、遠くに打ち上げる望遠鏡は故障 (こしょう) しても (なお) すことができないため、
    最長 (さいちょう) でも10年程度 (ていど) しか使 (つか) えないだろうということです。
     これらを上回る望遠鏡は想像 (そうぞう) もつきませんが、宇宙ステーションのように複数 (ふくすう)
    ロケットで打ち上げて宇宙空間 (くうかん) でドッキングさせるのでしょうか...
     ウェッブ望遠鏡の開発 (かいはつ) には20年近くかかりましたので途方 (とほう) もない道程 (みちのり) ですが、
    肝心 (かんじん) なのは  やればできる!!  ということですね。