宇宙を見る道具「望遠鏡」のおはなし
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京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室

岩室 史英 (いわむろ ふみひで)

〒606-8502 京都市左京区北白川追分町
e-mail: iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp
TEL: 075-753-3891 / FAX: 075-753-3897


    身近 (みぢか) 望遠鏡 (ぼうえんきょう)

      望遠鏡、のぞいたことありますか?
ヒトの目

視力 (しりょく)
1.0
口径 (こうけい)
7 mm
屈折 (くっせつ) 望遠鏡

ケンコー・トキナー TS70
目でのぞく望遠鏡は、対物 (たいぶつ) レンズでできた
(ぞう) ()を接眼 (せつがん) レンズを通して見ています。
接眼レンズの倍率 (ばいりつ) を上げると拡大 (かくだい) できますが、
その分、光が (うす) められて暗くなります。
視力
10
口径
5 cm
小型反射 (こがたはんしゃ) 望遠鏡

笠井トレーディング 銀次250N

大きいレンズはガラス (ざい) 製作 (せいさく) (むずか) しいので、
少し大きい望遠鏡は反射望遠鏡になります。


ここまで拡大すると、何だかゆらゆら
していることがわかりますね ...
視力
50
口径
25 cm
中型望遠鏡
なゆた

兵庫県立大学西はりま天文台 なゆた望遠鏡

2018年まで国内最大だった
望遠鏡です。
目でのぞけますが、大半 (たいはん)
光が瞳からはみ出るので、
すごい星空とはなりません。
視力
50
口径
2 m
中型望遠鏡
せいめい

京都大学岡山天文台 せいめい望遠鏡

2018年に完成 (かんせい) した
東アジア最大の汎用 (はんよう)
望遠鏡で、

18 (まい) に分けられた
分割鏡 (ぶんかつきょう) 方式 (ほうしき) での
日本初の望遠鏡です。

鏡もむき出しで
手作 (てづく) 感満載 (かんまんさい) ...

視力
50
口径
3.8 m

    視力50の (かべ)

      ところで、望遠鏡がどんなに大きくなっても視力が50から上がっていません。
      (じつ) は、この視力は地球 (ちきゅう) 大気 (たいき) で決まっています。

大気 () らぎ

    水の中から上を見るとゆらゆらしてますね。
    同じことが地球の大気でも () こっています。
    いくら視力が () くてもこれではちゃんと見えません。


光の性質 (せいしつ) (ちょっと難しい話です)

    光には (なみ) の性質があり、望遠鏡で光を (あつ) めるイメージは下左図のような (かん) じになります。
    望遠鏡に入ってくるよりも前に波が (みだ) れていると、ゆらゆら像になってしまいます。
    また、乱れていなくても波の回り () む性質(↓)により下右図のように点にはなりません。

    望遠鏡の限界性能 (げんかいせいのう) は口径が大きいほど良くなります。
    なゆた  口径 2m  ⇒ 視力 480
    せいめい 口径 3.8m ⇒ 視力 910
    しかし、実際 (じっさい) の視力はゆらゆらで決まっています。もったいないですね...

補償光学 (ほしょうこうがく)

    頑張 (がんば) れば「 (ぎゃく) ゆらゆら」を発生 (はっせい) させてゆらゆらを (なお) 装置 (そうち) を作ることができます。
    ゆらゆらはどんどん () わるので、秒間 (びょうかん) (すう) 100 (かい) 測定 (そくてい) 補正 (ほせい) () (かえ) 必要 (ひつよう) があります。

    必要なものは、

    • お金
    • かなりの労力 (ろうりょく)
    • まあまあ明るい星 (9等星 (とうせい) ~12等星)
      ゆらゆら () 高速 (こうそく) 測定に必要ですが、見たい天体 (てんたい) のすぐ近くには普通 (ふつう) はありません。

    ゆらゆら度の測定に必要な星が () いときは、レーザーで星を作っちゃいます。

観測風景ムービー

    必要なものは、

    • もっとお金
    • 殺人的 (さつじんてき) レーザーを安全 (あんぜん) 使 (つか) うための様々 (さまざま) () () めや安全装置

    とにかく何もかも大変 (たいへん) ですが、現代 (げんだい) の大型望遠鏡には (すべ) (そな) えられています。
    以降 (いこう) の「視力」はこの装置を使った (あたい) となります。

大型 (おおがた) 望遠鏡
すばる

国立天文台 すばる望遠鏡 観測例

1998年に完成した望遠鏡で、2006年まで
1枚鏡の望遠鏡としては世界最大でした。

すばるには世界最大の CCD カメラがあり、
満月 (まんげつ) 個分 (こぶん) の空を一度に観測 (かんそく) できます。

ハワイ島 マウナケア山 (4200m)
視力
2000
口径
8.3 m
大型望遠鏡
LBT

大双眼望遠鏡 (LBT) ムービー

2006年に完成した、現在 (げんざい)
世界最大の望遠鏡です。
内部 (ないぶ) がハチの巣状 (すじょう) 空洞 (くうどう)
なっている「ハニカム鏡」

を用いています。見ての通り
非常 (ひじょう) 個性的 (こせいてき) な望遠鏡です。
視力
2000
(4400)
口径
8.4 m x2
宇宙 (うちゅう) 望遠鏡
HST

ハッブル宇宙望遠鏡 (HST)

1990年に打ち上げられた宇宙望遠
鏡ですが、まだ活躍 (かつやく) しています。
宇宙での観測は大気を通さないので
大変 (すぐ) れた観測ができます。
スペースシャトルで5度の修理改修 (しゅうりかいしゅう)
が行われましたが、そろそろ限界が迫っています。
視力
1300
口径
2.4 m

    これからの望遠鏡

      お金と時間のかかるものばかりです ...
宇宙望遠鏡
JWST

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) 8倍速ムービー

HSTの次の宇宙望遠鏡で
2021年に打ち上げ予定。

月よりも4倍遠い所まで
打ち上げて、変形 (へんけい) ロボの
ように完成させます。

NASAはお金持ちですが
1兆円の計画 (けいかく) なので、さ
すがに関係者 (かんけいしゃ) 心配 (しんぱい) (ねむ)
れない日々でしょうね。

視力
1600
口径
6.5 m
(ちょう) 大型望遠鏡
TMT

30m 望遠鏡 (TMT) ムービー

米日加中印の5か国を中心
とする国際協力 (こくさいきょうりょく) 建設 (けんせつ)
で 2027年に完成予定。

1.4m の六角形 (ろっかくけい) 鏡492枚の
分割鏡望遠鏡で、観測装置
も大型バスサイズです。

視力
7200
口径
30 m
超大型望遠鏡
E-ELT

ESO 超大型望遠鏡 (E-ELT) ムービー

ヨーロッパ南天文台が建設中
で2025年に完成予定。
1.4m の六角形鏡798枚の
望遠鏡で、天文学にかける
西欧 (せいおう) 人の意地 (いじ) を感じますね。

これらの望遠鏡では、

などの観測が行われます。
視力
9400
口径
39 m

    究極 (きゅうきょく) の視力を持つ望遠鏡

      (じつ) は、見る場所 (ばしょ) 特殊 (とくしゅ) なところに (かぎ) れば、視力が最もいいのは電波 (でんぱ) 望遠鏡です

干渉計 (かんしょうけい) (ちょっと難しい話です)

    電波も光ですが、目に見える光とは (ちが) い次の特徴 (とくちょう) があります。

    • 大気のゆらゆらの影響 (えいきょう) をほとんど () けない
    • 振動 (しんどう) (おそ) いので波の状態 (じょうたい) をそのまま記録 (きろく) できる

    きれいな像にするには集めた時に光の波がきちんと (そろ) っている必要がありますが、
    電波は波の状態を正確 (せいかく) 時計 (とけい) とともに記録できるので、望遠鏡同士 (どうし) (はな) れていても
    観測の (あと) 計算機 (けいさんき) の中で時間のずれを修正 (しゅうせい) して、1点に「集める」ことができます。

    つまり、こんな感じで

    大きな1台の望遠鏡で観測したことにできるわけです。
    右の図で色が薄いのは、大きいけれども中身がスカスカだからですが、全体としてはスカ
    スカでも、計算機で上手 (じょうず) 処理 (しょり) できれば( (はな) れるほど大変ですが)桁違 (けたちが) いの視力になります。

    このやり方を「干渉計」と言います。目に見える光でも干渉計はできますが、振動が
    早すぎて波の様子 (ようす) がわからないので、その () (かさ) ねるしかないため非常に大変です。

    下の写真 (しゃしん) も、全体で1台の干渉計です(もちろん別々 (べつべつ) に使うこともできます)。

電波干渉計
ALMA

アルマ望遠鏡 (ALMA) 66台の内、16台は日本が製作 (せいさく) しました。
視力
6000
口径
12mx54 +7mx12
超長基線 (ちょうちょうきせん) 電波干渉計
EHT

イベント・ホライズン・テレスコープ
(事象 (じしょう) 地平線 (ちへいせん) 望遠鏡) ムービー


ALMA 周辺 (しゅうへん) の地球半球 (はんきゅう) にある電波望遠鏡を
総動員 (そうどういん) して、同じ時刻 (じこく) に M87 という (つよ)
電波を出している銀河 (ぎんが) を観測しました。
ブラックホールの重力 (じゅうりょく) 空間 (くうかん) がゆがんで
できた (かげ) 直接 (ちょくせつ) 見ることに成功 (せいこう) しました。
視力
300万
口径
たくさん

おわりに

    ちょっと難しい話もありましたが、雰囲気 (ふんいき) (つた) わりましたでしょうか。
    宇宙は広いので、わからないことはまだまだ沢山 (たくさん) あります。
    多分 (たぶん) (みな) さんが大きくなった時にも (あたら) しい (なぞ) (くわ) わって天文学は (つづ) いていると思いますので、
    興味 (きょうみ) を持って見ていて下さい。色々知っていると、もっと楽しめますよ。