望遠鏡の話
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京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室

岩室 史英

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身近な望遠鏡

誰もが一度は覗いたことのある望遠鏡...
人や動物の目も原理は同じです。

瞳径 0.7cm

人間

瞳径 1.4cm

ネコ

口径 5cm

ケンコー・トキナー
TS70

口径 25cm

笠井トレーディング
銀次250N

「口径」は望遠鏡の大きさを表す数値で、
光を集めることのできる円形範囲の直径です。
(通常は1つ目のレンズや鏡の直径と同じ)

小さい望遠鏡はレンズを使った屈折望遠鏡ですが、
大きい望遠鏡は鏡を使った反射望遠鏡となります。

口径の大きい望遠鏡を眼視で使う場合、
倍率に注意する必要があります。

25cm の望遠鏡で集めた光を 0.7cm の瞳に入れるには、

25÷0.7 = 36 倍

これ以上の倍率にする必要があります。そうしないと、
折角の望遠鏡で集めた光が目に入りきらないからです。

ところで、人間の目の解像度は1分角(60分の1°)です。

望遠鏡で像を36倍に拡大すると1秒角(60分の1分角)
よりやや大きい大気揺らぎが少し見えてきます。

 

 

 

もっと大きい望遠鏡の場合はもっと倍率を上げる必要が
ありますが、数百倍になると以下のような状態になります。

こうなってしまう原因は全て瞳の大きさに限界があることです。
大きい望遠鏡で良く見えるものはではなく大気揺らぎです。

目の代わりにデジカメなどの検出器を使うと瞳直径の制約は
無くなりますので、ある程度までは大きい望遠鏡でも大丈夫です。

以下は、銀次25cm にレンズ無しデジカメを付けて撮った月です。
1/200秒露出で100枚近く連写して揺らぎ最小のものを選定しました。
色を強調すると、場所による色の違いが見えてきますね。


国内の望遠鏡

学校や科学館などにある大型望遠鏡は、大体が口径 40~60cm です。
これ以上大きい望遠鏡での眼視は、大気揺らぎを拡大し過ぎない
ように倍率を抑えているため、通常は一部の光しか目に入りません。

2018年まで国内で最も大きい望遠鏡は、西はりま天文台なゆた望遠鏡
(口径 2.06m) でした。上記 40cm と同じ縮尺で並べると大きいですね。

この望遠鏡は毎晩の観望会で眼視観測させてもらえますが、
残念ながら上述の通り大半の光が目に入りません...

京都大学では、口径 3.8m のせいめい望遠鏡を完成させました。
この望遠鏡は、後述の分割鏡を用いた日本初の望遠鏡で、
天文観測と望遠鏡に関する新技術の開発を目的としています。

この望遠鏡も眼視観測が可能ですが、どうしたものか検討中です。


海外の望遠鏡

1998年に日本がハワイ・マウナケア山頂に建設したすばる望遠鏡。
ハワイは大気が安定しており、数多くの天文台が集まっています。

すばる望遠鏡の口径は 8.2m で床から先端までの高さは約20mです。
写真に写っている部分だけで京都コンサートホールと同程度、
同じ縮尺のせいめい望遠鏡と並べると大変大きいことがわかります。

すばる望遠鏡には、世界最大のカメラを取り付けることができ、
10億画素の検出器で満月9個分の空を一度に観測できます。

すばる望遠鏡の隣には、1993年から2005年まで世界最大であった
口径10m のケック望遠鏡2台があります。このくらいの望遠鏡に
なると、レーザーで作った人工星で大気揺らぎを高速計測し、
観測装置の内部でゆらぎを補正して観測する装置を搭載しています。

ケック望遠鏡は、分割された鏡を2万分の1mm の精度で常に制御
して位置関係を保つことで1枚の鏡とする分割鏡タイプの望遠鏡です。
大気揺らぎを補正することで、海王星の模様と輪もはっきりと見えます。

現在、世界最大の望遠鏡はアメリカ南西部のグラハム山にある
大双眼望遠鏡(LBT)で、口径 8.4m の鏡2枚を持つものです。
鏡を載せたまま蒸着作業が行えるように独特な形をしています。


LBT ムービー .


宇宙の望遠鏡

1990年に打ち上げられたハッブル望遠鏡。口径は 2.4m ですが、
大気揺らぎのない宇宙にあるため、非常に高い解像度が特徴です。
目で見える明るさの100億分の1の銀河まで見ることができます。

ハッブル望遠鏡の後継機となるジェームズ・ウェッブ望遠鏡
分割鏡方式での初の宇宙望遠鏡で、2021年に打ち上げ予定です。
口径は 6.5m ですがハッブル望遠鏡の約半分の重量です。


JWST ムービー .


これからの望遠鏡

南米チリに 2020年完成予定のラージ・シノプティック・サーベイ望遠鏡。
口径 8.4m (面積的には 6.7m) 、満月36個分の視野で掃天観測を行います。
直径1.6m のレンズを用いた32億画素のカメラは、完成すれば世界最大です。

最後に、現在建設中の3つの超大型望遠鏡の紹介です。左から
EELT (39m, 2024年), GMT (8.4m x7, 2025年), TMT (30m, 2027年)
ですが、比較のためにすばる望遠鏡を同じ縮尺で中央上に置きました。
全て数か国ずつの国際協力で建設が進められており、日本は最も計画が
進んでいた TMT に参加していますが、現地の事情で4年遅れています。

TMT ムービー ,

これらを作るのがどれだけ大変か直感的にわかるように書くと...
  • 高い山の山頂に天井開閉式のドーム球場を建設する
  • 内部に巨大な鉄塔状構造物を作り、全体を100分の1mm 精度で姿勢変化させる
  • どの姿勢でも鏡同士の位置を2万分の1mm 精度で調整し、変化しないようにする
    (紀伊半島全体を 0.2mm 精度で整地する事に相当します)
とにかく、とんでもない場所で、とんでもない大きさのものを、とんでもない精度で
動かす必要があるわけです。分割鏡の数は TMT が約500枚、EELT は約800枚もあり、
毎日1枚の鏡を交換し蒸着を行うなど、維持管理にもとんでもない手間がかかります。

 

 

 

もしも、EELT に接眼レンズを付けて眼視観測をしたら、大気揺らぎで見かけの大きさが
満月9個分に広がった星が見えるだけですが、補正装置を通して見れば点源になります。
那智勝浦から富士山頂にいる人の指が識別できる解像度なので、じゃんけんができますね。