大宇宙への挑戦

〜 ビッグサイエンスへ向かう天文学 〜

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京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室

岩室 史英

〒606-8502 京都市左京区北白川追分町
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TEL: 075-753-3891 / FAX: 075-753-3897


宇宙の大きさ


太陽を水素原子の大きさにすると...

太陽から木星までの距離は...

 

ウィルス程度、


隣の星(プロキシマ・ケンタウリ)までの距離は...

 

米粒程度、


オリオン星雲までの距離は...

 

人間程度、


銀河系中心までの距離は...

 

ビル程度、


アンドロメダ銀河までの距離は...

 

町程度、


最も近い銀河団までの距離は...

 

都道府県程度、


ちょっと離れた銀河団までの距離は...

 

日本程度、


我々の見ることのできる宇宙の果てまでの距離は...

 

地球程度となります。つまり、
原子より遥かに小さい所から地球規模のサイズのものを観測
しているわけです。

これほど大きな宇宙を観測するには、少しでも大きな望遠鏡が必要です。
ここからは限界に挑戦してきた近代望遠鏡の歴史を見てみましょう。


近代望遠鏡の歴史


望遠鏡の機械的構造部分を架台といいます。架台の構造は
赤道儀と経緯台、大きく分けて2つの種類があります。

赤道儀:北極星方向の軸の回転により天体を追尾する方式。
制御はしやすいが軸を斜めにするため構造的に不安定。

 

1908年 Mt.Wilson 60 インチ望遠鏡

近代望遠鏡のさきがけとなった望遠鏡。
フォーク型赤道儀、口径1.5m

 

1917年 Hooker 100 インチ望遠鏡

上記60インチ鏡を製作した Ritchey が鏡を製作。
ヨーク型赤道儀、口径2.5m

 

1948年 Hale 200 インチ望遠鏡

上記2つの望遠鏡を建設した Hale が計画(完成前に他界)。
熱膨張率の低いパイレックスガラスを初めて使用した。
ホースシュー型赤道儀、口径5m

 

Hale 200 インチ望遠鏡(本体重量 530 トン)の写真をみると分るように、
回転軸が斜めの赤道儀架台では既に限界の大きさに達しています。

経緯台:方位と高度を決める2つの軸の回転で天体を追尾する方式。
構造的に安定しているが、複数の軸の非等速回転制御が必要。
追尾に伴い視野が回転するため、観測装置を回転させる機構も必須。

 

1974年 BTA-6

口径6m、経緯台式の画期的な望遠鏡だったが、かなり苦労したようだ。

 

1980年〜 CCD の登場

写真乾板から CCD になったことで、感度が40倍になり観測精度も向上。

M78 散光星雲の写真乾板と CCD での見え方の違い。

この時代は口径 3〜4m の高性能望遠鏡 + CCD カメラでの観測が主流です。
90年台に入ると、観測天文学に革命をもたらす2大望遠鏡が現れます。

 

1990年 HST

口径2.4mだが、大気の影響のない宇宙から観測できるため、
現在でも可視光では世界最高の解像度を持つ。光学的設計ミスが
修復された1993年より、本来の性能が発揮できるようになった。

 

1993年 Keck I

直径 1.8m の六角形の鏡36枚を用いた分割鏡望遠鏡。有効口径10mの集光
力は圧倒的で、90年代後半の観測天文学は HST と Keck の独壇場であった。
1996年にはすぐ隣に Keck II が完成した。

 

2005年 SALT

直径 1m の六角形の鏡91枚を用いた分割鏡望遠鏡。建設費を抑えるため、
主鏡は球面で望遠鏡高度角は固定。高度方向の追尾は装置を移動させて行う。

 

2006年 LBT

直径 8.4m の鏡2枚を用いた双眼望遠鏡。有効口径は 11.9m で現在世界最大。
光学系や架台構造などの設計方針は独自路線をとっており、非常に興味深い。
LBT ムービー .

これまでの近代望遠鏡の歴史をまとめると下図のようになります。
望遠鏡の主鏡のタイプにより以下のように色分けされています。

通常の鏡:ガラスの固まりで厚さは直径の 1/8 程度。
分割鏡:鏡面を高精度位置制御で揃える技術が必要。
ハニカム鏡:中空鏡で軽量強固だが、鏡内部の換気が必要。
メニスカス鏡:薄い鏡で背面からの力制御で鏡面形状を制御。

日本のすばる望遠鏡は8m メニスカス鏡グループの2番目上側の点です。
すばる望遠鏡最大の特徴は、広い視野が観測できる主焦点を持つことです。

望遠鏡の口径を比較すると以下のようになります。
(LBT は2つの鏡の面積を1つの円として表しています)

望遠鏡はどんどん大きくなり、検出器の感度も限界となってきました。
ここで、暗い天体を観測するために必要な条件をまとめてみましょう。

  • 光をたくさん集める
  • 背景光(ノイズ)を抑える
  • 光のロスを減らす(観測効率を高める)
  • 解像度を高める

ここからは、観測効率を高めるための最新技術の話です。


広視野・多天体観測装置



広視野撮像装置

とにかく、大面積の検出器を数多く敷きつめることですが、
視野の広い主焦点では巨大な補正レンズが必要となります。

満月 9 個分の視野を持つすばる望遠鏡の新主焦点カメラ。
焦点には 2000 x 4000 画素の CCD 116個が置かれています。

すばる望遠鏡で一度に観測できる視野の発達の歴史。

 

中には、広視野撮像だけに特化した望遠鏡もあります。

VISTA 4m 望遠鏡と満月3個分の視野を持つ赤外線カメラ。

Pan-STARRS 1.8m 望遠鏡と38400 x 38400 画素の CCD カメラ。
望遠鏡は小型ですが、満月36個分の視野があります。

LSST 8.4m 望遠鏡は、主鏡を2段形状にした3枚鏡望遠鏡で、大口径ながら
上記 Pan-STARRS と同じ広さの視野を持ちます(CCD カメラは一辺60cm!)。

アニメーション

このように、広視野撮像装置はどんどん大型化して面積を増やすだけ
なのですが、天体のスペクトルを調べる分光は簡単には行きません。

 


多天体分光装置






沢山の天体を一度に分光するには、光ファイバーで天体を拾い集めて
並べ変える方法と、目標天体以外の部分をマスクで隠す方法があります。

オーストラリア天文台ファイバー多天体分光器
ロボットアームでファイバー先端の磁石の配置を決めます。
 

 

すばる望遠鏡ファイバー多天体近赤外分光器(2016.5 に引退)
ピエゾ(高電圧で伸縮する結晶)でファイバー先端を微小駆動。
分光器本体は背景光を抑えるため、大型冷凍庫で冷却されます。
 

 

ヨーロッパ南天文台多天体撮像分光器
レーザーカッターでマスクを切り、目標天体のみ光を通して分光します。

既に十分力づくで進めている感じがしますが、まだまだ
今後、更に広視野・多天体化が進むものと考えられます。

再び、暗い天体を観測するために必要な条件に戻ります。

  • 光をたくさん集める
  • 背景光(ノイズ)を抑える
  • 光のロスを減らす(観測効率を高める)
  • 解像度を高める

ここからは、解像度を高めるための最新技術の話です。


解像度への挑戦



回折限界とシーイング

通常の望遠鏡は鏡を用いて光を集めますが、光は波の性質を持つため
1点に集めることができません。集められる最小の大きさは「回折限界」と
呼ばれ、望遠鏡の口径が大きく光の波長が短いほど小さくなります。

温度や湿度の違いによる空気の屈折率の微小変化が風で流れることにより、
大気ゆらぎ(シーイング)が発生します。地上からの可視光・赤外線の観測では、
解像度は回折限界ではなく、この大気ゆらぎの大きさによって決まっています。
水中から見上げたときに外の景色がゆらいで見えるのと同じ現象です。

    大気ゆらぎを抑えるには...
  • 気流の安定した地域を選ぶ
  • できるだけ高い山かつ地面からできるだけ離れる
  • 望遠鏡を含むドーム内の温度を外気温と同じにする
  • 大気ゆらぎによる波面の乱れを光学的に矯正する

ここからは、大気ゆらぎを取り除く方法の話です。


補償光学 (AO)

明るい星の光の波面の形状を高速で測定し、形状制御した鏡で反射
することで、波面形状を矯正し大気ゆらぎの影響を打ち消す技術です。

明るい星が無い方向では、レーザーで上空のナトリウム層を光らせて
星をつくります。線状に光りますが真下から見ると点光源に見えます。

Keck + レーザー参照星AOで取得された我々の銀河中心の赤外線画像。
回折像が見えているため、望遠鏡の回折限界であることがわかります。

可視光での AO は現在開発段階なので、可視光での解像度は HST が最高。

現段階で、口径10mの望遠鏡の限界性能を赤外線で出すことができました。

    更に暗い天体を見るにはどうしたらよいでしょうか?
  • 大望遠鏡での可視光 AO を実現させる
  • 超巨大望遠鏡をつくる
  • HST より大きい宇宙望遠鏡を打ち上げる

ここからは超巨大望遠鏡計画の話です。


超巨大望遠鏡計画


2027年 TMT

Keck 望遠鏡の技術を応用して建設予定の 30m 望遠鏡。

TMT の鏡は 1.44m の六角形の鏡 492 枚で構成されています。

TMT ムービー ,

 

2025年 GMT

LBT の技術を応用して建設予定の有効口径 22m の望遠鏡。
8.4m ハニカム鏡7枚を使用。1枚目は既に研磨を終了し、
現在2枚目〜4枚目を製作中。                  

 

2025年 E-ELT

ヨーロッパ南天文台が計画する口径 39m の望遠鏡。
5枚の鏡を用いた独自の光学系で、広視野かつ AO の機能を持つ予定。

 


日本では?

残念ながら、日本では次世代望遠鏡に直結する技術開発の経験がなく、
上記 TMT 計画の 1/4 部分に国際協力という形で参加しています。   

京都大学では、次世代望遠鏡のプロトタイプとなる3.8m望遠鏡の製作を
開始しており、量産できる安価な中口径望遠鏡やさらには次世代の超大型
望遠鏡の建設につなげたいと考えています。              


その他の望遠鏡計画


2012年 ALMA

南米チリのアタカマ高地で日米欧協力で建設中の電波干渉計。
口径12mのアンテナ54台と口径7mのアンテナ12台から成る。

 

2017年 KAGRA

スーパーカミオカンデの近くで建設中の重力波望遠鏡。
3kmの距離に対し10京分の1mmの変化の測定を目指し
ており、7億光年以内の100万個の銀河のどこかで中性
子星の合体が起これば検出できるとのこと(年に数回)。

 

2018?年 JWST

HST の次に予定されている大口径宇宙望遠鏡で、ベリリウムの軽量分割鏡を
用いた主鏡は口径6.5m、非常に複雑に折畳んで打ち上げ後に展開する。

望遠鏡展開ムービー .

 


おわりに

原子より遥かに小さい所から地球全体を調べるようなことなので、
ほんの一部しか見ていないのですが、宇宙の歴史が分ってきました。

宇宙年齢137億年を1年としたときの宇宙の歴史


1月 1日 0:00

ビッグバンにより宇宙が誕生

1月 1日 0:15

光と物質が分離し、水素原子ができる(宇宙の晴れ上がり)

1月 5日頃

最初の星が炭素/窒素/酸素の生成を始める

すぐにブラックホールができる

この間に宇宙が再電離し、見通しが良くなる

---- 宇宙の夜明け (Cosmic Dawn) ----

1月17日

既に銀河が存在

1月20日

既に巨大ブラックホール(クェーサー)が存在

2月 1日

既に大銀河団が存在

銀河が合体を繰り返し巨大銀河が成長

3月中旬

クェーサーの数がピークになる

巨大銀河の成長がほぼ終了

---- 宇宙の昼 (Cosmic Noon) ----

6月上旬

この頃から宇宙全体での星生成活動が急速に衰え始める

9月3日

太陽と地球が誕生

9月21日

最初の生命が誕生

12月16日

三葉虫など

12月23日

超大陸(パンゲア)が形成、昆虫、植物が隆盛

12月26日

パンゲアが分裂、恐竜が栄える

12月29日

プレアデス星団(すばる)誕生

12月30日 6時頃

恐竜が絶滅

12月31日 8時頃

類人猿出現

12月31日 20時頃

人とチンパンジーが分離

現在観測されている銀河中心付近の若い星が誕生

5分前

ネアンデルタール人

4秒前

西暦1年

0.2秒前

人間の一生(100年)


 

となります。この続きがどうなるかというと...

 


1月3日

NGC6240 (超巨大BHの合体) からの重力波が到達

 
 
 
 

1月13日

地球が暑くなりすぎて生命が住めなくなる

 
 
 
 

3月〜6月

太陽が赤色巨星に膨れあがる

 
 
 
 
 

5月〜7月

銀河系がアンドロメダ銀河と合体する

 

とまあ恐しいと言えば恐しい結果ですが、ほんの1秒以下の間にこれほど
までの歴史を調べあげるとは、良く頑張ったものだと思いませんか?