センサ安定性試験2

http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/sensortest2.html

岩室 史英 (京大宇物)


●センサと読み出し回路に関して

日本システム開発株式会社の超小型変位センサ DS2001 のセラミック基盤タイプのものを、木野くんの開発した読み出し回路で読み出し試験した。

センサは、対向板との間の距離によって決まる相互インダクタンスの変化を、センサ内の浮遊容量と合わせた LC 発振のパルス数としてカウントして測定するもので、木野くんの回路では Δt1 とその数十倍の Δt2 2種類の時間幅でカウントして Δt2 内でのカウンタのオーバーフロー回数を Δt1 で計測されたカウント値から推定して補正することで、計測精度を格段に高めたものとなっている。
この試験では読み出し回路のデフォルト値である、Δt1=100μsec, Δt2=4msec で計測することとした(この条件では、距離によりカウンタが3〜7回オーバーフローする)。

●その1

とりあえず、そこらの 0.2mm シム2枚を重ねて対向板との隙間を作り、居室内に置いて1秒周期でサンプルして様子を見た。

上:試験の様子、下:接続図(詳細は以下の本文参照)

以下に結果をグラフで示すが、Δt2 の 4msec で計測されたカウント数を 1/10 にして 400μsec あたりのカウント数にし(単に過去の試験時に使っていた積算時間と合わせるため)、それぞれのセンサで最後に計測されたカウント数を 50000 カウントに規格化してそれに対する相対値としてカウント変化を±20カウント(±400nm 程度に相当)の範囲で表示している(規格化前の最終カウントはグラフ中に数値で表記)。グラフの色は上記接続図の読み出し回路のチャンネル番号の色に対応している。

回路には8個までセンサが接続できるが、5個を接続し、1個は対向板なしの状態で放置した(接続図1208a)。

  • 落ち着くまでに2〜3時間はかかる
  • 温度変化に対する緑の挙動が他3つと異なる
  • 緑のノイズが大きい
  • 4時間程度の間隔でカウント値が乱れる
  • 対向板がない場合は温度変化に対する挙動が逆
    (どこかで反転する事が予想される)

緑のグラフの挙動の違いの原因を探るため、青と緑のセンサを交換し(接続図1208b-1)、20000秒程度したところでコントローラ側での入力を交換して(接続図1208b-2)続きを見た。

  • センサを交換しても緑の挙動には定性的には変化なし
  • コントローラ側での入力を入れ替えたら青と緑の性質が入れ替わったため、ケーブルが原因の可能性がある
  • 4時間程度の間隔でカウント値が乱れる

ケーブルが途中でハンダ付けしてある作りだったので、最近準備されたハンダ付けしていないケーブルを用いて長短2種類のケーブルを製作し、まずは短い2本を緑と青のチャンネルに接続して試験した(接続図1209)。ピンクと青のカウントがたまたまほぼ同じになった。

  • 緑の性質はほぼ他3つと同じ状態になったが、完全には同じではない
  • カウント値が乱れている最中に読み出しをやめて回路をソフトリセットしても状態に変化はない
  • 読み出し口が一つ離れているせいか、カウントが同じ場合にカウントが特に乱れるという症状は出ていない(ピンクと青の最終カウントは完全に同じ)。

カウント値の乱れの様子を詳しく見るため、読み出し間隔を 0.5s, 0.7s でも調べるが、振動の周期がかなり違って計測されるため、かなりの高い振動数の乱れがあるものと考えられた。周期 0.1s で測定した所、4Hz 以上で振動している事は判明した(下図右)。

接続図(詳細は以下の本文参照)

赤とピンクのセンサーケーブルも新しいもの(但しこちらは長いもの2本)に取り換えて試験した(接続図1211a-1)。始めて 6000秒程度経った所でカウントが乱れている事に気が付き、コントローラを手で触って再度確認したところ乱れが収まっていた。たまたま手を触れたタイミングで自然回復した可能性もあるが、グラウンドの取り方が関係している可能性があると判断し、とりあえずは静電容量の大きそうなアルミブロックを介してパイプ椅子に触れさせて様子を見た(接続図1211a-2)。17000秒過ぎあたりで、乱れている状況に遭遇したので、リモートでリセットやサンプル間隔の変更、読み出しモードの変更など色々と試したがやはり効果はなかった(下図右)。

結局、余り変化は見られなかったので(カウントの変動が大きいのは気温が上昇し大雨が降っていた事が影響?)、コンセントのアースに接続して更に様子を見た(接続図1211b)。アースに接続しても大して改善されないので、19000秒辺りでアースを取り外したが、それほど変わらない。

ここで、アースを取る場所が悪かった(電源とは異なる所からアースを取ってしまった)可能性を考え、今度は電源と同じコンセント口のアースに接続し、更に床からの微弱振動の可能性を考えて、梱包材の上にセンサーを設置した。

4時間間隔のカウントの乱れは、微小振動として床から伝わっているものだった(地下の工場のコンプレッサー?)。ケーブルの長い赤とピンク、短い緑と青で振る舞いが似ているので、ピンクと青のケーブルを交換して(接続図1212)性質に変化があるか調べる。また、ケーブルを固定していたテープが、ケーブルの弾力でかなり剥がれてきていた。徐々に状態が変化して落ち着くまでに余分な時間がかかると思われるので、ケーブル固定にテープを使うのは良くないかも。

ケーブルを交換しても大して影響が無いような感じなので、再確認のため再度ケーブルを元の状態(接続図1211b)に戻し、緑のセンサーを別のものに交換(番号#07⇒#11)してみる。よく見ると、4時間おきの振動は完全には切れていない事がわかる。今回はおもりで押さえてケーブルを固定した。

緑のセンサーを別のものに取り替えたにも拘らず、またしても他の3つと比べて温度変化に対して反応性の悪いものとなった。もう、シムと対向板の組み合わせしか原因が思いつかないので、まさかとは思うが緑と青のシムと対向板を交換して再開する。

何と、挙動が異なる原因はシムか対向板だった。今度はシムはそのままで、緑と青の対向板のみを交換してみる。

結局、原因はシムのようだ。4000秒程度経ったところで、2枚のうち、曲がりの大きい1枚をもう少しましなものに交換したが、余り変化はないので、結局、シムは少しでも反っていたら影響が出てしまうという事が判明した。0.2mm のシムはもう余分が無いので、緑と青のセンサーのシムを 0.5mm のもの1枚に替えて様子を見る(赤とピンクはそのまま)。

緑と青の挙動の様子は大体同じになったが、0.5mm は温度に対する挙動が反転するポイントに近いらしく、個性の差が見えてきた。緑と青のシムのみ 0.5+0.2mm にして、反転ポイントの違いを確認する。

赤とピンクのシムは初めのまま 0.4mm、緑と青のシムは 0.5+0.2mm で、この状態だと温度特性は完全に反転し、前者と後者を 0.4:0.6 で混ぜると温度特性はだいたいキャンセルする感じ(水色の線)。しかし、カウントが増えると対向板との間隔が狭く、減ると広がるという事を考えると、水色の線の挙動はシムの厚さの温度変化とは完全に逆センス(センサ基盤の膨張係数が鉄よりもかなり大きいのであれば可能性はあるが、一般にセラミックの膨張係数は鉄の半分程度のはず)。また、50000秒付近は午前1時程度のはずだが、この時間にコブができるのは何があったのか気になる。温度と湿度のモニタもしてみるか。どちらにしても、温度特性の寄与をより抽出するには、シムをできるだけ 0.5-0.6mm から外したものにした方が良さそうなので、緑と青のシムを 1mm に変更して続きを見る。

今度は(赤+ピンク):(緑+青)の費を 0.54:0.46 で大体キャンセルした(水色の線)。予想通り、間隔が広がるほど温度変化の寄与が大きくなる。

●その2

大体様子がわかってきたので、そろそろ恒温槽に入れての試験のタイミングだが、温湿度計を併設して温度計代わりに使っていた1番のセンサーを無くし、対向板付きセンサーを4個追加してセンサー8個体制で試験する。これまでの4つをそのまま1~4とし、5~8を増設した(接続図1219)。シムの厚さは、0.4,1.0,0.5,0.2mm (1番から順に各2個ずつ)となっている。翌日(80000秒少しの所)、ケーブルの状態の影響を見るため、長いケーブルを1周ずつ輪にして重ねて試験を継続した(接続図1221)。

接続図

前半部分、65000-80000秒の間は湿度変化の影響が特に対向板との間隔が狭い場合に出ているものと判断される。温度と湿度の影響を分離する必要があるため、リファレンスのセンサは1個では足りないという事がほぼ確定的となった。少なくとも対向板との間隔が 1mm と 0.2mm の2種類が必要な感じ。とりあえずは、単純に温度と湿度の1次結合でカウントの変化を補正し、最小2乗条件で1次結合の係数を個々のセンサーに対し決定し、補正値を差し引いてやると上図左側2段目のようになった。15000-80000秒の区間で最小2乗となるようにしたが、まずまず引ける感じ。変化にタイムラグが無ければ温湿度センサでも何とかなりそうだが、温湿度センサの分解能で測定精度が決まってしまうのはつまらないので、やはりリファレンスセンサの値で補正すべきだろう。対向板との間隔が 0.2mm と 1mm のセンサそれぞれを平均したもので同様に最小2乗条件で1次結合して差し引いたものが上図左側3段目。こちらの方が使えそうではある。

後半部分では、110000秒以降の部分で最小2乗となるよう同様に温湿度計とセンサーの値で補正したが、対向板との間隔が 0.2mm のセンサ(黄緑と水色)2つの違いが気になる。個性の違いは間隔が小さくなると出やすいのかもしれない。また、前半部分と後半部部では補正の係数も変化し、共通の係数で全体を補正すると以下のようになる。

前半と後半の違いは、ケーブルを輪にしたかどうかの違いだけだがそれだけの違いでも、
  • 数カウントのオフセットが乗る
  • 温湿度に対する影響の出方が変化する

という事がわかる。予想はしていたが、やはり結構厄介だ。対向板との間隔の違いが、どの程度のセンサの個性の違いにどの程度影響射ているのかを調べるため、0.2mm (黄緑、水色)と 1mm (緑、青)のシムを交換して再開する。

今回は、見やすくするために80000秒時点のカウントで規格化している。緑と青のペアでも違いが現れた一方で、黄緑と水色のペアは違いが残ったままとなった。0.2mm, 1mm それぞれの平均値を用いた最小2乗 fit 結果(上図右)もあまり良くない。元データをよく見ると、それぞれのセンサに温湿度に関係のないカウントのドリフトがあるようで、それを温湿度成分を含む情報で fit することでうねりが出るようだ。最小2乗 fit の自由度をもう1つ増やし、直線ドリフトを許容して fit したものが下図左。

うねりは減ったが、橙ではまだ結構残っている。試しに二次関数的ドリフトを想定して fit した結果が上図右。もう少しうねりが減ったような感じになったが、どうやら、ドリフトの傾きは時間変化しているようだ(当然か...)。ドリフトの原因にシムや対向板が寄与しているかどうかを確認するため、緑と青、黄緑と水色のシムと対向板を交換して再開した。

測定を始めた所、緑と青の温度に対する反応性が入れ替わったような兆候がみられたので、より良く確認するため、15000秒付近でエアコンの風が直接当たるようにしてみた所(上写真黄色線の範囲内に風が吹き出す)、温度変化が早すぎてセンサのカウント変化に時間差が生じ、結果が安定しない状態となったため、20000秒付近でこれまでの状態に戻した。この結果、橙のセンサーの状態が大きく変化し元の状態に戻らなかった。これは、センサ本体の問題ではなく、シム部分に何らかの問題がある可能性も考えられるので、橙のシムを同じ厚さの別のものに交換してみる。今回は顕著なドリフトは見られなかったため、シムと対向板の交換が影響したかどうかはわからなかった。また、計測の後半で湿度が大きく上昇し(縦軸を縮小した図参照)、対向板との間隔が狭いセンサほど湿度変化の影響を受ける事が再確認できたが、間隔1mm の黄緑と水色でその影響が異なる事もはっきりした。黄緑だけが異なる挙動を示しているようにも見えるが(上図右の1次ドリフトを許容した fit 参照)、再度ケーブルの状態が影響していないか確認するため、ループしているケーブルを元の状態に戻した(接続図1219)。

大きな湿度変化がなかったせいか、80000秒まではこれまでに最も落ち着いた結果となってしまった(80000秒での値で規格化)。ケーブルのループを解いたことがどの程度関係しているのかさっぱりわからないので、80000秒過ぎ辺りからエアコンの風を直接当てて再度ヒートショックをかけてみることにした。95000秒辺りから霧吹きを使って急激に湿度を上げてみた所、橙のセンサーのみが大きく振る舞いを変えてしまった(上図右の最小2乗 fit は 5000-80000 秒の間でのみ行った結果)。温度に対する特性の反転ポイントはヒートショックと言うよりは湿度と何らかの関係がある可能性がある。黄緑の特性異常は見られない。こちらもヒートショックと言うよりは、ヒートショックを与えた際に、ケーブルにエアコンの風の吹き出し口がバタバタと当たって、ケーブルの状態が変化し長い時間をかけてそれが落ち着いた、という感じのように思う。橙が不安定なのはセンサ自体の問題かどうかを確認するため、赤・ピンクのシム(0.4mm)と茶・橙のシム(0.5mm)を交換、更に、緑と黄緑のケーブルを交換して再開する(接続図1225)。

今回の結果もかなりうまく行っている(220000秒で規格化)。これまで結構不安定だった橙の振る舞いも安定している。ここまでで大体わかったことをまとめると、
  • 温度依存性には 0.4-0.5mm に反転ポイントがあるが、湿度にはない
  • 対向板間隔が狭いほど湿度変化の影響が大きい(距離への換算は今後)
  • 環境に依存しないドリフトが若干あり、センサ毎に異なる
  • ケーブルの長さは安定性とは関係がなく、あくまでケーブル自体の変形が問題
  • 温度・湿度に対する依存性はケーブルの状態にも若干関係する可能性が高い
  • 反転ポイント付近では挙動が不安定になりやすく、湿度変化が引き金になっている可能性がある

反転ポイント付近で、どのセンサも不安定になりうるのかを探るため、赤・ピンク・茶・橙のセンサのシムを 0.45mm にしてみる(3枚シムを重ねる事になるが、シムは全て新しく購入したものを使用する)。

正月休みの間、約1週間放置となり、最後の2日間の最小2乗 fit の係数を用いて補正した。上図左を見ると、赤と茶、ピンクと橙が温度に対して似たような振る舞いを示している事がわかる。シムを交換したセンサには全て線形ドリフト成分が残る結果となったが、シム交換作業後の状態変化が延々と続いているのかどうかは不明。細かいうねりは数日前のデータでも大体消せるような感じ。

●その3

シムの交換作業の影響がどの程度出ているかと、センサの個性差にどの程度のばらつきがあるのかを見るため、黄緑と水色のセンサには触らず、その他6個のセンサのシムを全て 1mm に変えて様子を見る。

反転ポイント付近で見られた赤とピンクの違いは見られず、橙だけがやや異なる挙動を示している。今回は全て1mmのシムを使ったため、温度と湿度のセンサ値で最小2乗 fit を行った。橙の温度の係数はやはり特殊な値を示すが、緑と黄緑の温度の係数も次に異なっている。シムの交換作業の顕著な影響は見られない(そもそもドリフトは1カウント/日程度なので、1日での検知は難しいが)。また、湿度の急激な変化にはセンサはすぐには反応しないという事もわかる(そもそも間隔1mmでは湿度の影響は少ない)。また、湿度に対する係数は負の値でなければおかしいが、急激な変化を与えたことが影響しているのか全て正の係数となってしまった。橙の挙動の違いがセンサ固有のものであることを確認するため、赤と橙のセンサを交換し(接続図0106)、センサ表面に付いた水分の影響を調べるため、青のセンサ表面を濡らしたティッシュで拭いて計測を再開した。

接続図

赤の温度に対する係数はピンクや緑よりも小さくなったが、前回の橙ほどの低下ではないため、挙動の違いはセンサだけが原因ではなさそうだ。以前は明らかに反っているシムが原因になっていたが、今回は反っていない 1mm のシムなので大丈夫と考えていたが、こうなるとやはりシムが怪しい。赤と橙のセンサーを元に戻し(接続図1225)、赤と橙のシムだけを交換して再開する。また、表面を濡らした青のセンサは初めの10分程度は若干のカウントの違いが見られたものの、その後は完全に回復したので、センサ表面の濡れは乾燥すれば完全に元通りとなることが確認できた。

今回はシムは関係ないようだ。赤と橙の対向板を交換して継続する。

対向板も関係なく、ケーブルのたるめ方も 7500秒(茶・橙・黄緑・水色)と 23000秒(橙)付近で変えてみたが、橙の温度特性に変化はなかった。やはり、センサそのものの特性以外には原因が無さそうなので、最も逆の特性を示している黄緑と橙のセンサを交換して(接続図0110)再度様子を見る。

やはり、この場所にセンサを置くだけでセンサの温度特性が変わってしまう。置くセンサにより若干の違いも見られることから、この場所に問題があり、その影響がセンサにより異なるということなので、センサと治具のはめ合い部分が最も怪しい。確かに、橙のセンサがはまっていたところは、他の部分よりもはめ合いがややきついような気もする。橙と黄緑のセンサを再度交換して元に戻し(接続図1225)、全てのセンサを90°回転させてはめ合いから外して様子を見る。

やはり原因はセンサと治具のはめ合い部分だった。茶色の挙動が不安定だが、多分センサを90°回転させて置いたことで、基盤面(もしくは IC 部品)と治具が直接接触しているのではないかと思う。治具を裏返しで使えばセンサをはめ込む彫り込み加工がしてないので問題ないという事に気がついたので、治具を裏返しにしてもう1度測定を続ける。また、緑と黄緑のケーブルを始めの状態に戻した(接続図1219)。

これで、少なくとも 1mm シムでは特異な温度特性を示すセンサはないという事が確認できたので、比較基準として鏡の裏で使用する際にできるだけ軽いユニットとするため、アルミ角パイプの中にプランジャーでばね固定した場合の安定性を調べてみる。茶と黄緑は弱いバネのプランジャで固定したもの、橙と水色はその3倍のバネ定数のプランジャで固定したもの。対向板を共通にしているせいか、片方のセンサのケーブルを抜くと、6カウント程度のオフセットが出る。また、緑と青の対向板を同じ材質のアルミ角パイプに変更した。

やはり、プランジャーで固定した方は温度変化に対するばらつきが大きい。赤・ピンクと緑・青の違いはそれほどないので、原因は対向板の材質の違い(鉄とアルミ)ではなく、押さえ方という事になる。4本のプランジャーでは数が多すぎるので、全て対角の2本だけで押さえる事にしてみる。

ある程度ばらつきは緩和されたが、やはり強いばねで固定した方の1つ(水色)は押さえ方の影響が出ているようだ。現在は、センサ基盤に開けられている M2 ネジ用の穴(直径2.2mm)に、太さ 2.5mm で先端球面のプランジャーの軸がはまっている状態なので、M2 にナットを入れたものを間に挟んで、ナット面でセンサを押さえるようにした。これで、穴周辺の歪みが減るものと期待できる。

まだ水色は温度変化の影響が若干大きいので、強いばねのプランジャを外し、全て弱いばねのもの2本ずつで固定した。梱包材が圧縮されてつぶれてきたせいか、周期的な振動が伝わるようになってきた。

結局、押さえるバネの力を適切にすれば、温度特性はアルミ角パイプ内でも保たれる事がわかった。

●その4

次は、スペーサを全て 0.2mm に変えて同じ条件で計測を続行する。
これ以降、グラフの表示範囲が2倍になるので注意。

間隔が狭い時のほうがばらつきは大きくなる(そもそもカウントの絶対値も大きい)。表示範囲はこれまでの倍の範囲としていることに注意。茶色と黄緑が他よりも大きく変動するようなので(fitting 時の温度の係数が大きい)、プランジャの押しネジを半周ずつ緩めて変化を見る。

プランジャの押しネジは関係無さそうなので、次に茶と橙、黄緑と水色のシムを交換して様子を見る。

やはり温度に対する振る舞いにはシム(というかその表面のゴミ?)が大きく影響しているようだ。赤・ピンク・緑・青のセンサも同様にプランジャで押さえるようにし(但し、バネは硬い方のもの)、全て 0.2mm シムにして様子を見る。

プランジャ先端を受けているネジとナットが、プランジャを緩める際に回転してネジが持ち上がり、プランジャのバネがあまり緩んでいなかったものが幾つかあることが判明した。プランジャを確実に一定量緩めるため、赤・ピンク・緑・青のセンサのネジを無くしてナットのみを挟んで固定してみる(プランジャのばねが硬いため、一番初めに固定した時よりも緩くした)。

押さえ方を変えるとある程度は状況が変化するが、大局的な傾向は変わらない。柔らかいバネのプランジャよりもばらつきが大きくなる印象。ピンク・青・黄緑のセンサのプランジャの先端をナットからより面積の大きいワッシャに変えて様子を見る。

やはり押さえ方を少し変えるだけで、温度特性に影響が出る。12,500秒付近の赤のデータにジャンプが見られるが、多分、アルミ角パイプとシムとの間の摩擦でかくんとずれて状態が変わったような印象がある。特にアルミ角パイプのエッジ付近でシムとの摩擦が大きいように思うので、厚さ0.8mmの銅板(鉄板が良かったのだが、無かったので鉄よりは膨張係数が大きい銅板を用いた)を対抗板として挟み、再度様子を見る。手応えとしては、摩擦力はかなり小さくなった。

銅板を挟んだことで摩擦が減り、センサの温度特性のばらつきは劇的に減った。このままの状態で恒温槽に移し、温度変化の範囲をより大きくして安定性を調べる。

●その5

ここからは恒温槽での試験。とりあえず、10℃と20℃の間を片道6時間で往復させて様子を見る。

恒温槽内部は、運転中は非常に低湿度になることがわかった。また、停止直後は湿度が一気に80% 以上上昇し、サウナのような状態になってしまう。多分、温度を下げた時に結露が起こるのを防ぐための機能だと思うが、高湿度環境で試験を行なうのは難しいかもしれない。また、全体のカウントが一様に上昇しているが、気圧変化が影響している可能性もある。センサ同士の相関を見るために、8つのセンサの平均カウントとの関係を調べたものが右図。黄緑と水色のヒステレシスがやや大きいが、その他は結構相関は良さそうだ。茶・橙・黄緑・水色のプランジャを若干緩めて変化を見る。温度変化の範囲を5℃から25℃、変動時間を6時間から5時間に短縮してから30分間状態保持と変更して再開した。
これ以降、グラフの表示範囲が更に2倍になるので注意。

水色のみヒステレシスがやや大きいものの、全体としては温度変化が速くなり、かつ範囲が大きくなっても問題無さそうということが確認できた。ここまで、プランジャが前半4個がバネの強いもの、後半4個がバネの弱いものだったが、これを弱強弱強と交互に配置し、全てのプランジャを完全に緩めてから締め直して(締めきってから2回転緩める)再開。

押しバネが変わると、やはり温度特性は大きく変化する。考えられる原因として、センサが μm レベルで反っており、プランジャで押すことで反り方が変化する。温度変化により反り方が変化し(特に、このセンサは基盤が薄く、表面にコーティングがしてある)、プランジャのバネ力との関係で温度特性が変化したように見える。というわけで、セラミック基盤で作る場合は基盤の厚さをもっと厚くしないと、物理的に固定する方法が難しそうだ。
とりあえず、その2の実験と同じ状況にしてもう少しだけ続けながら、次のセンサ(クリアセラム基盤タイプ)の準備を始めることにした。シムの厚さは 0.4,0.2,0.5,1.0mm (1番から順に各2個ずつ、0.2mm と 1.0mm を間違えてその2とは逆にしてしまった...)。

緑と青のカウントが干渉する現象が初めて確認された。カウントをある程度ずらすため、弱いプランジャの締め方を1周増やした(締めきってから1回転緩める)。あとは、この状態で何日間同じ係数が維持されるかを確認する。クリアセラムのセンサ試験の準備も進行中。

湿度の急激な変化が起こっても、0.2mm と 1mm の線形結合で補正できる事が確認できた。とりあえず落ち着いたようなので、ここから温度制御を無限ループにして再開。但し、温度・湿度のモニタは不要と判断し、温湿度計は外してクリアセラム基盤のセンサの室内実験用に使うことにした。

これを見る限り、センサにかかるストレスが変化しない限りかなり長期の間状態が保持されるようだ。

その後も同じ状況が続き、25万sec から恒温槽内部に水槽(+キムタオルx5 で吸い上げ)を入れて湿度を上げたが、大きな変化はなかった(そもそも湿度が何%上がったのかがわからないが...)。45万sec で恒温槽がなぜか停止した。その直前の温度変化量が少ない感じなので、壊れてしまったのか?(橙の特性変化は、この後の湿度上昇で引き起こされているものと思われる)。

少し動かして、故障ではないことを確認した。その後、片付けの最中に、冷却部が霜だらけになっている事に木野くんが気がついた。多分これが原因で設定値通りの温度変化ができなくなり停止したものと推定される。恒温槽には「デフロスト」なるスイッチがあり、これを押すと霜が強制除去されると思われる(これで湿度変化が起こせるかも)。

●結論

セラミック基盤のセンサに対する実験の結論は以下の通り。

  • 0.2mm と 1mm の2種類のセンサをリファレンスとして温度・湿度の変化を補正することで、最低でも1週間程度は問題なく使える。
  • 固定方法には極めて大きな影響を受け、少しでもストレスがあると全く異なる環境特性を示す。
  • 温度特性の反転ポイントである 0.5mm 付近では、環境に対する安定性が若干悪くなる。


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