位相カメラ製作と試験

http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/pcs5.html

岩室 史英 (京大宇物)


●ホルダ製作

  • レンズ固定テスト
    上図のような C リングで良い物がなかったので、バネを分解してリングを作る
    ことにした。


    左:φ1.3引きバネ        右:φ1.2 レンズと固定リング


    左:正面から見た所        右:背面から見た所
    (レンズは中央上段)         (レンズは中央下段)

    う〜ん、あまりに小さくてちゃんと写真に撮れないが、一応針を使って
    リングをレンズの周辺に押し付けたらちゃんと固定できたようだ。
    背面から押し出して外す際に結構抵抗があった。
    上右の写真にも写っているが、作業中のゴミには要注意。
    (レンズを入れた後に掃除するのはかなり困難で、直径1mmの綿棒が必要...)

  • ホルダ製作
    実際にホルダを製作し、24個のレンズをはめてみた。
    実際に作業してわかったことは、

    • 作業前に有機溶剤につけてホルダ表面の油を完全に取るべきだった。固定リング挿入時にリングが回転してレンズ表面に触れ、レンズ表面が汚れるという事が頻発した。
    • 装着後のレンズ表面のクリーニングは不可能。色々試したが、ブロアでの吹き飛ばしと、針先での繊維くずの処理以外の事は、全て事態を悪化させた。レンズを外して表面を拭き、再度装着の繰り返しが無難。
    • 内周から作業を始めて外側に進む内に装着スキルが上がり、最終的には1個3分程度ではめられるようになったが、最後の1つ前のレンズの再装着作業中に、ピンセットでレンズ端を挟む際に力を入れすぎ、ピンセット先端のギザギザに円筒状の側面がカチッと噛み合う際の衝撃でレンズ表面が欠けてしまった。余分は製作しなかったので、3個だけ追加でレンズを発注した。

    以下、完成後のレンズホルダの確認試験の様子。




    ホルダ表面の黒い汚れは、レンズをはめていく際に油性ペンで付けた印の跡。
    初めの写真の右端と最後の写真の左端の穴にはレンズが入っていない(表面が欠けたため入れなかった)。
    黒い筒の中には焦点距離500mmのレンズが入っていて、平行光にしている。

    取得された画像は以下の通り(画像クリックで CMOS 全体画像になります)

    左)フォーカス合わせ 右)合焦後の明るさ変化

    フォーカス合わせ中の全体画像でわかるが、非点収差の大きいものと、レンズ端にゴミがあるもの(PCS の機能には問題ない)がそれぞれ2つずつある。これだけの非点収差は、レンズの軸ズレや傾きでは説明できない(Zemax での計算は以下)ので、周辺部を削る加工の際にレンズが変形したものと考えられるが、その他は大体問題ない状態で結像している。フォーカスが2番目にぼけている状態での像サイズが、位相カメラでの1つのレーザーの像サイズと大体一致。


    左)レンズが50μm傾いた場合    右)軸が200μmずれている場合

    Zemax での計算結果は、ホルダー内で想定される最大の傾きである50μm の傾きや、200μm の軸ズレがあったとしても、影響は1pixel強で問題ない事が確認できる。

    フォーカス合わせ中は像が回転するので、画像取得後に回転中心を回転角度を調整して大体の位置合わせを行ったため、フォーカス中の軸の傾きの情報は取り出せていないが、スポット位置の理想位置とのずれを見ると、100μm 程度の軸ズレはありそう。非点収差は軸ズレとは関係ないこともわかる。

  • コリメータ部設計

    これを、光学設計通りに2枚組のコリメータレンズと合わせる必要がある。Cマウントとの接続フランジとチューブ、レンズ間のスペーサを製作し、シグマ光機のφ40 ネジリング樹脂リングで固定することにした。レンズ間の隙間の目視確認兼空気穴をチューブ側面に、Cマウント接続フランジねじ込み用兼レンズ-カメラ間空気穴を接続フランジに、それぞれ2個ずつ空けた。

    CAD 図面


●コリメータチューブ/ソフトウェア製作

  • チューブ製作と試験
    チューブにレンズ2枚を入れ、反対側から変換フランジを入れて CMOS カメラを固定した。その際、コリメータが作る望遠鏡瞳位置にレンズアレイが来る必要があるが、レンズアレイホルダ中心の穴を通してコリメータレンズのみで CMOS 上に結像する光源位置を計算しておき、CMOS 上でコリメータレンズによる直接像を確認することで レンズアレイのホルダ+CMOS カメラの位置を決定した(写真右)。


  • 表示ソフト
    この CMOS カメラには、C++ と Qt によるソフトウェアライブラリがあり、ソースが全て公開されているため、その中の非同期連続露出のサンプルを元にソースを改造した。現在のソフトの機能は、

    • 12bit での画像取得(2k x 2k 画像を 12.6 frames/sec)
    • 露出時間切り替え(0.01msec 〜 10000msec)
    • 連続露出 / 1枚露出 / 100枚露出(この枚数は暫定的)切り替え
    • 全画面 / 24グループ分割画面 / 72スポット分割画面切り替え
    • 分割画面時の個々の画像のズーム
    • マウスによる各グループと各スポットのフレーム位置の決定
    • 重心の自動計算と、各グループと各スポット中心位置合わせ


    全画面(□は24グループ位置)   24グループ分割画面(□はスポット位置)

    右図で、3つのスポット用フレームは今は全て重ねてある。また、サチュレート(4095カウント)している部分は青で表され、かつ各分割画像の下に赤線が表示される。左下に、FWHM 値が表示される。左図で、内周上から時計回りに1〜6番、その外側も同様に7〜12番、最外周は13〜24番とした。


    露出時間を0.01msecに変更          各画像のズーム

    ND フィルターが1枚しか見当たらないため、ファイバーをコネクタ部で緩めて光量を減らしたがそれでもまだ明るすぎて3つのスポットは中心がサチっている。また、19番の位置にはまだレンズが入っていない。また、非点収差が大きいレンズは14番と16番。


    72スポット分割画面           全画面で露出時間100msec

    1つのグループには3つの波長のスポットができるため、最終的には左図のモードで72個のスポットの位相判定をすることになる。今のところは単なる点光源の像が各グループに1個ずつしかないので、3つのスポット用フレーム位置は全て重ねてあり、縦に3個ずつ同じ画像が表示されている。

    全画面モードで見ながら、ファイバー位置をステージの限界まで左右にずらしたが、レンズアレイはコリメータの作る瞳位置に置かれているため、ちゃんと光は入っている。ファイバーをコネクタ部で緩めて光量を減らしているため、ファイバー端からの射出光が中心付近に集中し、中心に比べて周辺部はかな暗い。

    1番のグループ用フレームを中央に移動させ、ファイバー位置をカメラから遠ざけていく。

    521mm ファイバーを後退させると、中央や周囲の穴を通してコリメータレンズによる直接像が写る。

    コリメータレンズにより像が直接結像している状況。右のスポット図が、上の拡大画像に対応(外側のハロー状部分は露出時間を伸ばすと見えてくる)。

    コリメータレンズを半分と少し隠した状態。コリメータレンズと検出器は正しい位置関係にあり、球面収差の出方まで一致していることが確認できる。


●望遠鏡シミュレータとの結合試験

  • 取り付けと調整
    レンズチューブは φ45mm なので、φ51mm のリングを付けてから2インチレンズマウント用のピコモータステージを用いて取り付けた。ステージは、同じ画像取得ソフトから駆動できるようにした。望遠鏡シミュレータの光学調整の後、3種類のレーザーからの光をレンズのない中央の穴を通して受け、その後、ステージを駆動して右上の内周セグメント境界用のレンズの中心に入れた。レンズ穴の端は、ステージ駆動により光がケラれることで判別した。

    真上の蛍光灯以外は点灯しているので、迷光が写っている。
    24グループ領域を1つに重ねた。

    次は、右の状態で位相判定がどの程度の速さでできるか、ということになる。


●段差計測試験

  • システム概要

    制御対象は、

    • 2k x 2k CMOS カメラ (GigE 専用ドライバあり)
    • チューナブルレーザー (USB2.0 ドライバなし)
    • ピエゾステージ (RS232C)
    • ピコモータアクチュエータ (Ethernet TCP/IP)

    で、画像を見ながらピコモータアクチュエータで角度を調整し(ほぼ初回のみ)、画像の切り出し部分を決定した後、ピエゾステージで鏡位置を調整、チューナブルレーザーでスキャンを開始すると同時に300フレーム読み出し。12.7fps で約24秒で1回の計測を終了する。GUI のみでは長時間試験が困難であるため、Tcp のサーバ機能を追加して外部からのコマンド入力にも対応させた。

  • 計測性能試験
    計測性能試験は、ピエゾステージのフルストロークの半分程度に相当する 60μm を 50nm ずつ 1200 ステップで移動させて PCS で計測した。以前の結果(スポット)と比べてかなりノイズが大きいが、画素が大きくなった分読み出しレートが 1/5 になったことと、恒温槽が常に動いている事が影響していると考えられる。


    緑:チューナブル像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    赤:He-Ne 633nm 像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    青:安定化 808nm 像の位相

    鏡の段差が 0 の場合(上右図の状態)は、808nm 像の位相も 0 になるはずだが、長時間の測定でスポット位置が少し動いて位相判定に影響が出たのではないかと考えられる(要調査)。クリックで前後の変化の様子がわかるが、ピエゾステージの動きも結構不安定であることがわかる。

    水:チューナブル波長最大時の像の位相 (波長最小時を基準とした相対値)
    緑:チューナブル波長最小時の像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    赤:He-Ne 633nm 像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    青:安定化 808nm 像の位相

    左は位相接続前、右は位相接続後。傾きの比は、

    / = 2.543269
    / = 4.880419
    / = 3.600979

    ここから、レーザーの波長の比が決まり、He-Ne レーザーの波長を与えると全ての波長が決まる。

    He-Ne レーザー: 632.800 nm
    チューナブルレーザー(最小時): 765.000 nm
    チューナブルレーザー(最大時): 781.545 nm
    安定化ダイオードレーザー: 808.530 nm

    全て仕様通りの値であることが確認できた。
    この値から位相2π変化あたりの測定値の変化量を求めると

    水:9.03418μm
    緑:3.55229μm
    赤:0.72787μm
    青:0.20213μm

    となる。

    上記波長を用いて、位相情報から位置情報に変換したもの。右は中央付近で直線近似した成分を引いたもの。どの波長でも変化が揃っているところは、実際にステージがうまく動かなかった所と考えられる(中央など)。また、長時間の測定中にスポット中心が数ピクセル移動し、測定位相値が実際の位相から若干ずれたと思われる現象が見られた。相対位相の場合はこの効果はほぼキャンセルするが、808nm の絶対位相値はその影響を受けるため、グラフにプロットする際に 808nm の絶対位相値には 0.8π(ステージ移動量 80nm に相当) だけ加算した。

  • 計測性能試験 その2
    ここまでの試験では、全て 15mm□のアパーチャが 15mm 離れている(中心間隔30mm)ハーフミラーでの試験を行ってきたが、アパーチャ間隔をもう少し広げる必要が出た際に対応できるかどうかを調べるため、ハーフミラーの2つのアパーチャの内側 30mm 部分を隠して 7.5mm x 15mm の長方形アパーチャが 30mm 離れている(中心間隔37.5mm)状態で同様な試験を行った。

    スポットイメージは以下の通り。このままでは像の方向によっては裾野が重なるため、この状態で実際に使う場合は、入射ファイバー間隔をもう少し離す必要がある。光量が半分になるため、露出時間は 1.6倍の 32msec とした。画像転送中に露出を行うため、1回の計測時間は 24秒のまま変わらない。

    以下、測定結果。露出時間を延ばせば測定精度自体はほぼ変わらない事は確認できた。この実験は夜間に行ったため、露出時間を延ばせば光量の低下に対応できたが、明るい環境での測定性能が急激に落ちる事になるので、ハーフミラーをあと10mm長くして 60mm x 15mm とするのがいいかと思われる。


    緑:チューナブル像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    赤:He-Ne 633nm 像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    青:安定化 808nm 像の位相

    水:チューナブル波長最大時の像の位相 (波長最小時を基準とした相対値)
    緑:チューナブル波長最小時の像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    赤:He-Ne 633nm 像の位相 (808nm を基準とした相対値)
    青:安定化 808nm 像の位相

    左は位相接続前、右は位相接続後。

    ここでも、数ピクセルのスポット移動が原因と思われる位相のずれが見られたため、808nm の絶対位相値には π (ステージ移動量 100nm に相当) の値を加えてプロットした。

  • 計測性能試験 その3
    望遠鏡に取り付けての計測の場合は干渉縞の方向は様々な方向になるが、それにより計測精度が影響を受ける可能性も考えられる。ここでは、上記試験と最も状況が異なる 45°の方向に干渉縞が出ている場合の計測性能確認を行った。ほぼ同様な結果となったが、今回はスポットの相対シフトも起こっているようで、位相カメラでの測定位置を算出する際には 633nm-808nm の相対位相から 0.15π 引き、765nm-808nm の相対位相に 0.15π を加算した値を用いた。

  • 計測性能試験 その4
    温度変化によるスポット位置の移動が、測定精度にどの程度の影響を与えているかを確認するため、相対位相判定時の原点は切り出し領域の中心としたまま、808nm の絶対位相に限りスポット重心位置を原点とするよう変更してみた。808nm の絶対位相の結果はかなり安定し、これならかなり揺らぎがあっても安定して測定できそう。

    今回は、20時に自動測定を開始する直前に、各スポットの重心位置を参照して切り出し領域を決め直すコマンドを入れておいたが、その結果開始直後より、チューナブルレーザーと808nm の相対位相に 0.15π のずれがあった。これは、そもそもの切り出し領域が正しい相対スポット位置の関係とはずれている事を示している。切り出し領域を決定する際は、ある程度の枚数の画像を積算して決定する必要があるという事がわかった。(考えてみれば当然だが...)

  • 計測性能試験 その5
    切り出し領域を決定する際に、表示モード切替後の積算情報を用いる事にしたところ、相対位相のずれは見られなくなった。ステージ位置 20-40μm の部分の PCS の結果を4次で fit して位置決定精度を評価したところ、1σ=17nm であった。現在の環境でこれを良くするには、808nm の各瞬間のイメージの質を判断して、質の悪い結果は捨てるという操作が必要になる。

  • 計測性能試験 その6
    長さ60mmのハーフミラーを1枚購入し、量産前の確認を行った。今回は振動・揺らぎ環境が非常に良くかったが、最終的な測定エラーは1σ=14nm であった。しかし、これは PCS の測定エラーというよりも、ピエゾステージの位置エラーを計測している状態になっているものと思われる。また、前回の試験で解決したはずの相対スポット位置のずれに起因する計測結果のずれが再度発生していた。原因としては、前回に比べ相対スポット位置計測時と夜間の測定時の温度差が大きく、その結果スポットの相対間隔がずれたか、もしくはピエゾステージの劣化に伴うスポット重心の相対位置の移動などが考えられる。また、チューナブルレーザーの測定結果に、原因不明のうなりが乗っていたことが今回明らかとなった。

    中央部を 10mm 伸ばした。

    ピエゾステージ位置 30μm と 0μm でのスポットのずれ。ステージが傾く事がわかる。


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