位相カメラ光学系検討

http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/pcs4.html

岩室 史英 (京大宇物)


●位相カメラ光学系

 ハーフミラーホルダ固定試験の結果から得られる位相カメラの光学系に必要な条件は以下の通り。

  • 焦点面の面積は 100mm□で、その中に最低 24個のスポットを配置
      (各スポットの像サイズは約1mm)
  • 10:1 で縮小して、10mm□ CMOS 上に結像させる
  • 収差は回折像サイズ 100μm の 1/4 以下であること
  • CCD のフォーカスを変えてもスポット位置が動かないようにテレセンにする
 結果は以下の通り。

 実際は、off axis 位置からファイバーで照射し、主鏡上のハーフミラーの向きを調整してカメラ視野内に光を戻すのだが、ここでは計算を簡易化するために、ハーフミラーの向きは望遠鏡光軸に対し全て垂直で、各ハーフミラーに対応する光線の入射位置を変えることで、ハーフミラーの角度調整を再現した。

 焦点面位置の100mm範囲内に、視野端ほど主鏡外側からの光が入射するようにしたとき、ハーフミラーの瞳に相当する部分が焦点面の後ろ約600mmのところにできる(望遠鏡光学系は F/6 なので、100mmの6倍)。これが CMOS のサイズである10mm 程度に広がった所にレンズを置くことになるので、700mm 程度の所にレンズを置き、800mm 弱の所に結像させればいいと考えられる。

 上図は、これを焦点距離150mmのレンズ2枚(合成パワーは焦点距離75mm相当)で再現したもので、凸レンズが内側になる配置が最も収差を減らすことができた。また、焦点距離75mmのレンズでは収差が大きすぎることも確認した。ハーフミラーの瞳位置には、必要であればフィルターや遠隔操作できる絞りを配置することで、背景光を抑えることが可能。

Zemax ファイル

 スポット図は、各波長の回折限界の 1/10 以下に収まっており、倍率色収差を考えても 1/6 程度となっている。倍率色収差が出る主な原因は、主鏡上のハーフミラーを2度透過する際に出るもので、特注レンズにすれば消せなくもないと思うが、波長スキャンによる重心位置の変化は1pixel (5.5μm)以下なので補正の必要はなさそう。


●位相カメラ光学系その2

 上の設計案では、主鏡像がどこにも現れない設計だったので、φ10mmの主鏡像を結像させてマイクロレンズで集光する通常のシャックハルトマンカメラ方式を考える。

 結果は以下の通り。

 ここでは、主鏡端の光しか追っていないが、光軸に近づくほど倍率色収差が減る程度で、それ以外には大きな変化はない。また、ハーフミラーの向きがずれて、返ってくるスポット位置が 2mm, 4mm, 6mm ずれた時の結果も表示されている。

 ビーム径がφ10mm になるのは、焦点面から 60mm の場所なので、そこに色消しコリメータレンズを置き(焦点距離120mm のアクロマティックレンズ2枚)、主鏡像ができる場所に焦点距離6mmのマイクロレンズを置く。色消しのマイクロレンズも存在するが、通常の平凸単レンズで問題なかったので、色消しの場合は計算していない。また、焦点距離6mmのレンズは市販されている平凸レンズでは最小直径がφ3mmだったため、このレンズに追加工して直径をφ1.2mmに減らす必要がある。

 2枚のアクロマティックレンズの配置は、第1案と同じく凸レンズを内側に配置するのが最も収差が減る事は確認した。

Zemax ファイル

 スポットサイズは第1案の約半分となっており、収差的には全く問題ない。

 マイクロレンズの配置と、検出器上でのスポットの配置は以下の通り。

 左図:水色の2重丸は内側がφ1mmm、外側がφ1.2mm。
 右図:赤緑青の2重丸は内側が15mm□アパーチャの airy disc サイズ、
   外側がその3倍のサイズ。ピンクの丸はハーフミラーホルダの角度再現性範囲。
   各イメージはこんな感じ

 右図に関しては、第1案でも状況は同じ。
こうして見ると、5x5 グリッドに並べて...と考えた時に十分余裕があると思った検出器サイズが、結構厳しいという感じになってきた。2k x 2k 以上の CMOS は入手が難しくなるし、読み出しが大変になるのでできればこのサイズに収めたい。ハーフミラーの角度再現性をもう少し高める方法を考えるか...

 第1案と第2案それぞれの難しい点は以下の通り。

 第1案:

  • ハーフミラーの向きがずれて、スポットが3mm以上離れた所に戻ってくると、急激に像が悪化する(レンズ径を大きくすると緩和されるはずだが確認はまだ)
  • ピックオフミラーのサイズを140x200から160x230に拡大する必要がある。
 第2案:
  • マイクロレンズの位置が、焦点位置に対し 0.2mm 以上ずれてはいけない(副鏡位置にも制限が付くかも)。
どちらも難しい点はあるけれど、第2案の方が実現しやすいかな...


●どう作るか

使用予定の CMOS はこれ(5.5μm の 2k x 2k CMOS, GigE インターフェースで最安)。

第2案の場合気になるのはマイクロレンズのバックフォーカスで、エドモンドのレンズを使うと Zemax の結果では 4.86mm。入射窓から CMOS までの距離を2種類の方法で調べてみた。

  • CAD ファイルから読み取り

     仕様では、C/CS mount となっていてそれぞれフランジバックが 17.5mm / 12.5mm。ネジ部が交換可能な作りになっているものと思われる。CAD 図面は、水色の面が CMOS だと思うとフランジバックが 16.1mm で C マウントには少し短く、赤色の面だとしても 16.6mm でまだ足りない。入射窓と思われる所から水色の面までは 4.9mm で、この面が CMOS 面だとしてもエドモンドのレンズではバックフォーカスが少し足りない。ガラスの屈折率を考えると実際の距離より光路長は長くなるので、特注でマイクロレンズを作るか、入射窓を除去するしかないかも。

    その後の調査で、エドモンドはφ1.2mm にする追加工ができないことが判明し、結局レンズはシグマ光機になった。シグマ光機のレンズはバックフォーカスが5.1mmで、少し条件が緩くなる。

  • 技術マニュアルを参照

    入射窓はフィルタと書いてあり、どうやら簡単に取り外せそう。この資料の数値だと入射窓から CMOS までは 17.5-10.8=6.7mm となり、これでは入射窓の除去は必須。入射窓を固定するリングを用いて、マイクロレンズホルダを固定するという感じになるかな(フォーカスをどこで調整するかが問題になりそうだが...)。

  • 買ってみた

    入射窓は無かったので、Cマウントのネジを使ってマイクロレンズホルダを直接固定できる。Cマウントのネジは一番奥から少し手前までしか切ってないが、CAD図面だとCMOS表面からネジ下端まで 3.9mm、技術マニュアルから読み取ると 4.25mm だが、シグマ光機のレンズのバックフォーカスは5.1mmなので、大丈夫そうだ。

  • 概念設計

    φ1.2mm とφ1.0mm のザグリ穴は単体の加工では無理かもしれないが、できない場合は別物で作って合わせるとして以下のような感じかと思う。ホルダ周囲は C マウントのネジにして、フォーカスが合ったところでネジリングで固定する。個々のマイクロレンズは、φ1.2mm よりも少し大きい C リングで固定する(バネ力が足りるかが心配だが...)。中心と周囲の穴は、ビームがずれた時に大体のずれ量を確認するためのもの。

    CAD 図面


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