試験副鏡フーコーテストシミュレーション


テスト用の小型副鏡を背面からフーコーテストした場合の状況を Zemax でシミュレーションした。
背面から見たときの近軸曲率半径は 552mm。
光源とスリットの間隔は 1cm を仮定。
ナイフエッジの代わりに幅0.1mmの板を光軸中心に置いた。

鏡を1mm遠ざけると(配置図はスリット部分を拡大)...

鏡を更に1mm遠ざけると...

直感的な感触としては、鏡のどの位置がどの程度の曲率半径を持つのか分かりそうだ。


自動フーコーテスターでの測定条件

自動フーコーテスタで測定するために試験副鏡を裏側から見たときの「ゾーン半径」を計算してみた。

まずは、ゾーン半径の定義
一般的な2次曲面の式は...
z = cr2/(1+√(1-(1+k)c2r2))
ここで、c は曲率(曲率半径の逆数)、k は円錐定数(conic constant)

簡単のため、曲率半径を単位にして規格化すると(cz → z, cr → r と置き換え)
z = r2/(1+√(1-(1+k)r2))
書き換えると r2+(1+k)z2-2z = 0

微分して...
rdr+((1+k)z-1)dz=0 すなわち、
(r,(1+k)z-1)⊥(dr,dz) となり、曲面上の点(r,z)での法線ベクトルは(-r,1-(1+k)z)であることがわかる(下図の状況)。

正確な意味での「ゾーン半径」はこの図で赤線の部分だが、実際に測定するのは青線の方なので、
これ以降、「ゾーン半径」は上図の OQ: 1-(1+k)z+z=1+kz を指すものとする。
これにより、曲面上の各rの点におけるゾーン半径が測定できれば、曲面の形状を測定できる。

以下は、試験用副鏡が同じ形状の凹面だとした場合のゾーン半径-曲率半径の値

曲率半径:876.193634mm
円錐定数:-1.983148

半径(mm)ゾーン半径-曲率半径(mm)増分比
rk=-1.983148k=-1(放物面)2列/3列比
0.0000000.0000000.0000001.983148
10.0000000.1131650.0570651.983085
20.0000000.4526160.2282601.982894
30.0000001.0182220.5135851.982577
40.0000001.8097670.9130401.982133
50.0000002.8269481.4266251.981563
60.0000004.0693762.0543401.980868
70.0000005.5365782.7961861.980047
80.0000007.2279953.6521611.979101
90.0000009.1429894.6222661.978032
100.0000011.2808355.7065011.976839

放物面の場合とのゾーン半径-曲率半径の値の比で、円錐定数を推定することができるようだ。

次に、裏面からの測定を考える。
裏面からの場合は屈折を介して測定することになるので、下図の緑の部分を測定することになる。

BK7 の屈折率 :1.5143(@He-Ne 632.8nm)
凸面の曲率半径:876.193634mm
円錐定数   :-1.983148
中心厚    :40mm

として上記の結果を修正すると、

擬似曲率半径(r → 0 での緑線の長さ):(876.193634-40)/1.5143=552.19813
なので、この値からの増分を測定することになる。

半径(mm)ゾーン半径-曲率半径(mm)増分比
rk=-1.983148k=-1(放物面)2列/3列比
0.0000000.000000 0.000000 -3.200201
10.0000000.028224 -0.008826-3.197809
20.0000000.112838 -0.035365-3.190648
30.0000000.253675 -0.079803-3.178767
40.0000000.450454 -0.142447-3.162244
50.0000000.702783 -0.223732-3.141188
60.0000001.010162 -0.324213-3.115736
70.0000001.371981 -0.444575-3.086049
80.0000001.787524 -0.585629-3.052315
90.0000002.255970 -0.748313-3.014739
100.0000002.776398 -0.933699-2.973548

もちろん、放物面の場合との比は円錐定数にはならないが、第2列の値を正確に測定できれば、
形状は決定できるものと考えられる。

次に問題となるのは、擬似曲率半径(r → 0 での緑線の長さ)の測定値である。
約552mmの距離の測定を誤った場合、曲率半径が変わるだけでなく、上記の表第2列を
与える曲面の円錐定数も変わってしまう。

(以下は波長が NaD での計算だが、多分ほぼ同じ)
例えば、裏面からの距離 552.28800mm に 0.5mm の位置測定エラーが入ると、

裏面からの距離:552.28800 => 552.78800 (+0.5mm)
曲率半径   :876.193634 => 876.952034 (+0.7584mm) 0.5x屈折率
円錐定数   :-1.983148 => -1.985908 (-0.00276)

の場合に上記の表第2列とほぼ同じ数値が測定されるが、そのようにしてできた副鏡を
主鏡と組み合わせると、焦点を合わせ直して以下のようになる。

設計値と比較して視野中央での像が悪くなるが、これなら何とか使えそうなので、0.5mm のエラーなら大丈夫と言える。
この計算では、副鏡の中心厚を 40mm としているが、実際にできたものの厚さを正しく測定して、
この表は再計算する必要がある。

ところで、自動フーコーテスターでの測定方法は初めは上図左かと思っていたが、どうやら
右だったようだ...


最終的に出来上がったが、厚さが 3mm 薄い状態での仕上がりとなった。
自動フーコーテスターでは、目標値通りにほぼできているので、この場合の
鏡面形状は

BK7 の屈折率 :1.5143(@He-Ne 632.8nm)
凸面の曲率半径:875.45mm
円錐定数   :-1.986894
中心厚    :37mm

の場合に、上記裏面からのゾーン半径値と同じ値が測定される。
この副鏡を使って結像させると以下のようになる。

まあ、ぎりぎり許容範囲か...


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp