ハーフミラーホルダ固定試験


位相カメラのハーフミラーホルダーを主鏡上に固定する方法として、メッキ処理した鉄ピースを
使う方法とネオジム磁石を使う方法があるが、ネオジム磁石 2φ x 2mm を鏡面上に接着
して固定する場合の安定性を調べた。

ネオジム磁石を鏡面上に接着すると、金属性のゴミが集まってしまうデメリットがあるが、
鉄ピースに比べて入手しやすいことと、固定強度が高いことからとりあえずはネオジム磁石
による固定を選択した。

φ80mm の平面鏡上に、ネオジム磁石を接着してハーフミラーホルダを固定したところ。
先に磁石を置いてから周囲に接着剤を爪楊枝で塗る方法と、予め磁石の一端に接着剤を一滴
付けてから鏡面上に置いたもの。後者の方が固定力が低いが鏡面を隠す面積は小さい。
接着剤は、接着剤調査で用いた粉末+液体タイプのものを用いたが、今の所、固定力は後者の
方法で十分そうな感触。

これを平面基盤を外した干渉計のビーム内に置き、鏡面とハーフミラーを平行にして(I-Fizeau の
被験光と参照光は平行ではないので、正しくは平行ではないが)画像を取得し、手で全方向に90°
傾けて少し振り、再度ビーム内の同じ位置になるように戻し、平行度の変化を調べる。2組の固定点
それぞれに対し、連続で9回ずつこれを繰り返して変化を調べた。

結果は以下の通り。

ハーフミラーホルダーの調査にある通り、このハーフミラーには切断時の歪みがあるため、
左右の開口の干渉縞の傾きに差があることに注意。

左の場合の最悪値 / 右の場合の最悪値

最悪値から傾きの変化を算出すると、15mm に対し6本程度の縞が入っているので、
15mm 開口の回折像サイズの6倍

0.63e-3 x 6 / 15 / π x 180 x 3600 = 52"

(焦点面では 5.7mm)程度、像位置が移動する事がわかる。実際は、各ホルダーの
傾斜方向は常に同じなので、これよりは少ないことが予想される。各スポットの間隔を
15mm 程度離して 5x5 グリッドで配置すれば、少なくともハーフミラーホルダー角度の
調整を行った高度角付近の角度では、問題なく測定可能となるものと思われる。

その場合、焦点部分の面積は約100mm□となり、10:1 光学系で縮小すれば、必要な
CMOS の検出器サイズは 10mm□ となる。


鏡面に対し、固定点を接着する際の接着剤に関して溶剤に対する特性を調査した。
適当な30mm□のアルミ鏡上に、粉末+液体タイプの接着剤とゲル+ゲルタイプの
接着剤を用いて固定点を2個ずつ接着し、24時間経過してからアセトン+アルコールの
溶剤に浸して固定点が剥がれるかどうか確認した。

浸してから3時間後に確認した所、粉末+液体タイプの接着剤で固定したもの1つ
以外は剥離していた。残った1つは24時間浸しても剥離しなかった。剥離後の状態は、
ゲル+ゲルタイプのものは綺麗に取れているのに対し、粉末+液体タイプのものは
アルミが侵食されていた。

爪で力をかけたら、接着剤部分が割れるように剥がれた。

SiO オーバーコートのサンプルを用いても同様な試験をしてみた。
上記試験と同様、アセトン+アルコールの溶剤に2〜4時間浸すと
ゲル+ゲルタイプのものは綺麗に取れるが、粉末+液体タイプのものは
24時間浸しても取れず、爪で力をかけると剥がれた。残った部分を
削り落とそうとしてみたが、結局コーティングが傷ついて広がってしまった。


極小のV溝ブロックを製作し、上記円柱形ネオジム磁石との固定精度の
違いを調べた。V溝ブロックは底辺が一辺3mmの正方形、高さは2.4mm、
V溝の頂角は120°で、直径5mmのネオジム磁石球とブロック1個あたり2点
で接触する。材質は鉄で表面はニッケルメッキ処理がしてある。

これを、ゲル+ゲルタイプの接着剤で固定。

上記の試験と同様に、干渉計でベースの鏡面とハーフミラーの平行度の
安定性を調べた。

左がV溝ブロックで固定したもの。右が円柱形ネオジム磁石で固定したもの。
V溝ブロックだと2倍以上固定精度が上がっている事がわかる。横方向のずれが
無くなったことで接触点付近の凹凸の影響がほぼ無くなったものと思われる。


V溝ブロックで固定した場合について、温度変化に対する安定性の調査をした。
普通の室内のエアコンを用いて冷風を干渉計下部に溜め、温度を変えた。

以下は、約0.5℃おきに取り込んだ干渉縞画像。


左:13.9℃ → 25.3℃   右:29.5℃ → 20.0℃


左:24.5℃ → 16.0℃   右:10.0℃ → 24.0℃ (10日後)

温度が2℃変化すると、縞が1本増える。縞がない状態から±4本程度までは
位相カメラの像が重ならずに使えそうなので、使用可能な温度範囲は±8℃と
いうことになる。これ以外の温度では使えないというわけではないが、一部
測定できない場所が出てくる可能性がある。また、2日程度は同じ状態が
維持されるが、10日経過すると縞2本程度傾きが変化した(変化の様子は同じ)。
低温から始めると表面に霜がついて見づらくなるので、今後は高温から始める。


温度変動による傾き変化の原因が V 溝にあるかどうかを確認するため、まずは
ネオジウム磁石球表面と V 溝表面を良く拭いてゴミが挟まらないようにし、
できるだけ高い温度から温度変化を大きくして始める事にした。


左:39.8℃ → 10.0℃   右:36.0℃ → 11.5℃

縞の増え方が3℃変化に付き1本増加と緩和された。
温度が高い時の振る舞いと低い時の振る舞いが少し違うように見えるが、前者の
方がタイムスケールが早く、ホルダー内部での温度差が大きい事が予想されるため
温度により挙動が変化しているとは断定はできない。

次に、鏡の上に直接乗せて挙動を調べた。鏡の上では少々横ずれしても
縞の状態はほとんど変化しないことを確認した上で、試験を行った。


37.0℃ → 11.0℃

縞の変化率がやや大きくなったが状況はほぼ同じなので、V溝上での動きではなく
ホルダーそのものに傾き変化の原因があるということになる。

次に変化の原因がネジ部にあるかどうか、ネジのユニットを左右交換して
鏡面上に直接乗せて調べてみた。


36.8℃ → 14.0℃

症状が左右反転したので、ネジのユニット部分に違いがある事が判明した。
怪しいのは、ネオジム磁石球の接着状態。下の写真左側の球は、一度くっつけ
直しているが、その際ネジの軸と球の中心が少しずれており、隙間にエポキシが
入り込んでいると思われる。この足は、上の干渉計画像では右側に位置しており
(左右反転しているため)、この足にのみ問題がある場合は、縞の変化の方向とも
合うので、これが影響している可能性が高い。

右の写真は問題のネオジム磁石球を外した所。写真ではわかりにくいが、外れた
球側にエポキシの挟み込みの跡が少し確認できる。また、先端の凹みの内部が全て
エポキシで全て埋められており、2度目の接着の際に更に積み重なって球が浮いて
しまった可能性もある。とにかく、内部のエポキシを除去し新しい磁石球を接着する
のだが、その前にネオジム磁石球無しでどうなるか調べてみる。


37.0℃ → 14.0℃

縞の変化率は半分程度に下がったが、傾向としては同じ。平行度の変化は
先端のネオジム磁石球の接着状況(もしくはネオジム磁石そのものの変形)
だけでなく、ネジ部そのものにも原因がありそう。

とりあえず、ネオジム磁石球をゲル+ゲル低膨張エポキシ接着剤で付け直し、
再度鏡面上に直接乗せて温度変化を調べた。


39.0℃ → 14.0℃

これまでで最も安定している(逆に左と下の足が良く縮んでいる感じ)。
たまたま膨張率の変化がキャンセルするような付き方をしたのか?

最後に再び V溝ブロックに乗せて試験した。


39.5℃ → 14.0℃

前の試験での平行度の調整が甘かったため、見た目の印象はちょっと変わった
(ホルダーの向きが変わっていることにも注意)が、変化量としては縞が2本
増えただけなので、上の結果とほぼ同じ。これなら温度変化は問題無さそうだ。

注意点としてわかったことは、

と、当たり前の事を再認識させられる結果となった。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp