拡張フーコーテスト

http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/foucault.html

岩室 史英 (京大宇物)


●概要

光ファイバーのコア径は 50μm なので、これと同程度の 精度の情報が欲しいが、とりあえずは 200μm 精度の情報は、拡張的なフーコーテストで得られそうだ。例として、高分散分光器のコリメータ/第一カメラミラーの検査を考えると、点光源と 0.2mm ピンホールを重ねて置き(実際にはキューブ型ビームスプリッターで分離)、ピンホールの 25mm 後方に 10mm 角の CMOS (5μm 画素, 2k x 2k) を配置する。コリメータの曲率半径は約 1.5m, サイズは 0.6m 角(F/2.5 の光が必要)なので、CMOS サイズは鏡のサイズと同等になっている。鏡に当たって戻ってくる光 は約34mm に広がっているため、ピンホールを通過できる光はほんの一部でしかないが、鏡のどの範囲から 戻ってきたかは CMOS 画像からわかる。ここで、200μm のピンホールによる回折像の広がりは、25mm 後方の CMOS 上で 75μm に広がるが、ピンホール径よりも小さいので大丈夫だろう。この状態で 0.2mm ステップでスキャンしたのが、下の gif アニメ。

実際には、90x90 グリッド程度で2次元スキャンをする事になる。多分、1晩の自動計測で何とかなると思うが、結構大変そうだ。ハルトマンテストでも同様なことはできると思うが、スポットが大きすぎて難しいのと、各スポットの動きが複雑で、情報が重なった時の自動分離が大変なので、こちらの方が現実的かと思う。


●球面鏡による試験

F/2 までの光の試験ができる球面鏡(φ50mm, R=100mm)を購入し、とりあえずあるもので試してみた。右下の gif アニメは 1μm ステップで 75μm スキャンしたもの(ピンホールと像は相対的に 150μm 移動する)。

始めてみて気が付いたが、シングルモードファイバーの NA は 0.12 (~F/4) 程度なので、目視ではミラーの半分程度(かそれ以下)の部分にしか光が当たらない。この広がりでは検査できる範囲が狭すぎるので、もっと広い範囲を照らすことができるようにする必要がある。その方法として考えられるのが、

  • NA の大きいシングルモードファイバーを探す ⇒ 近赤外ならあるが可視光にはない
  • NA の大きいマルチモードファイバーを使う ⇒ コア径とビーム内輝度ムラが気になる
  • ファイバーを使わない ⇒ レーザー+レンズ+ピンホールはかなりのサイズと重量になる
  • マイクロレンズで F 変換 ⇒ 凸レンズは収差が大きすぎるが、凹レンズなら大丈夫

使用するレンズはシグマ光機の新製品 SLM-02-04N、平凹、φ2mm、LASF9(屈折率 1.85) で、この直径であれば FC ファイバーコネクタのフェルール径(φ2.5mm)よりも小さいので、FC コネクタ内部に入れることができる。これを使って F 変換すると以下のようになる。

レンズを離すほどビームが広がる。上記は F/4.2 ⇒ F/2 の場合で、スポットの虚像サイズも 10μm 以下となるので全く問題ない。

また、上記の光学系の調整過程で、光がピンホールの周辺に近傍に当たると再反射してミラーに戻り、再度ピンホールに返って来て干渉縞を発生させる事も分かった。更に謎の干渉縞や意味不明の模様(この写真を見ると CMOS 直前に保護ガラスがある感じなので、その影響かも)のようなものも見えている。これらを軽減させる方法として、SLD (Superluminescent diode) を光源とする方法もあるようだが、Thorlabs の商品などを見るとかなりの価格のようなのでとりあえずはレーザーで進める事にする。ピンホールの周辺での反射光の問題は、実際に検査するバイコニック鏡が蒸着していないもののため、2回反射するとほとんど見えなくなり問題ないと予想される。謎の干渉縞はもう少し調査が必要。

マイクロレンズはまだ来ないが、200μm ピンホールと上下方向のステージ用部品が来たので、ピンホールを交換し上下にも動けるようにした。1μm ステップで120μm 上下にスキャンした gif アニメを示す。

マイクロレンズを FC コネクタの内部に装着、F/2 よりも少し明るい感じになった。F/2 になったことで、キューブ型ビームスプリッターによる球面収差が見えている事が判明(ピンホールサイズの 1/6 程度)、光が消える瞬間にはっきり見えるようになった。横方向にスキャンした時の収差の出方がやや上下非対称なのが気になるが、マイクロレンズがファイバー光軸から少し上下にずれて、ビーム内輝度が上下非対称になってしまっている可能性がある。ピンホールサイズに対してはるかに小さい収差であることと、レンズ位置の調整は困難なので放置。

●放物面鏡による試験

焦点距離2m の半月型放物面鏡のスキャンをしてみた(鏡面中央にワッシャーがくっついているがとりあえず無視)。曲率半径4m に対して鏡の幅が10cm しかないので、F/40 とビームのほんの一部しか使えないが、計測の感触をつかむにはこれで十分。露出時間は 0.25msec x10 枚、これを 50μm ステップ(イメージ上では 100μm ステップでのスキャンに相当)で 12x12 の領域(F/40 の焦点合わせが面倒だったので)スキャンして、スポットの移動を調べた。

下図左の gif アニメは室内の空気の揺らぎの様子。実際のバイコニック鏡の場合はこの試験と比べて像サイズの広がり分(〜10倍)と F 値の違い(〜1/10)で大体相殺するため、鏡面のコーティングが無い分だけが面輝度の低下として現れ、露出時間は 0.1 秒程度もあれば十分と予想できる。また、恒温槽が動いているせいで室内の空気の揺らぎが非常に大きく、箱などで覆って密閉しないとまずい印象。スキャン結果はステージの(x,y)の値をその場所での画像の各ピクセルのカウントで重みをつけて平均化したものとして与えられる。今回は試験的にサンプリング間隔をピンホール径と同じにしたが、この半分以下のステップでスキャンすればスポット全体の情報が隙間なく繋がって連続的な鏡面全面のデータが取得できる。しかし、その場合問題は時間で、12.5mm x 12.5mm の領域を 50μm ステップで計測するだけでも 63000点の計測となり、1点1秒でも17.5時間もかかってしまう。ステップサイズをこの半分にすることは非常に厳しく、逆に2倍にしないといけない位だ(25mm 範囲のスキャンなら4倍)。また、各点10枚取得するとデータ量は 5TB にもなる。少なくとも 10枚分はその場で加算しないと(データは 12bit なので、16枚までは加算しても 16bit に収まる)ダメそうだ。これは、思ったよりも大変そうな感じになってきた...。

画像取得ソフトを 12bit x 16枚連続取得を積算して 16bit とするように変更し、光路全体を箱で覆って更にステップを半分の 25μm にして再取得してみた。とりあえずは1点あたり16枚積算を10セットずつ取得する。十分安定したので、1点あたり1セットで良さそうだ。あとはこのデータから鏡面形状を逆算するだけ。セグメントのオートコリメーションの時に用いた、鏡面形状を推定して再生像を測定値と比較を繰り返して鏡面形状を推定する手法を用いてみる。

●結果のフィッティング

取得画像の解析方針は以下の通り。

  • full well の 10% を閾値とし特定の pixel に着目すると、閾値を超えるのは多くの画像の中で一部の画像のみ
  • 閾値を超えたデータに対して、その位置でのステージ x,y の値をカウントで重みを付け pixel 毎に平均化
  • 全 pixel に対しこの処理を行なうことで、画像上での位置(= ピンホールへの入射方向)に対するステージの x,y の値を持つ画像ができる(ステージ x マップ, ステージ y マップ 各1枚)
  • バイコニック面上に適当な間隔でグリッドを張り、各格子点での法線(計算方法)がピンホール付近に立てた平面のどこを通り、検出器状のどこに当たるか計算、1点あたりの情報をピンホールのサイズ相当に広げて重ねあわせ(厳密にはこの処理は正しくないため大き目の像ができる)、上記に相当する画像を作る(x,y 各1枚)
  • 取得された画像と比較し、x,y の値の差の標準偏差が最小となるように平面位置と法線方向(画像上での位置)を調整、x,y ステージの原点を実測値に合わせる
  • 取得画像と上記計算で得られた理想値の差を計算
  • 上記差のマップの x 情報は x 方向に、y 情報は y 方向に積分して両方の結果を平均し、理想形状と実形状の差を計算する

以下の画像は、ステージ x, y マップの取得画像、理想値、差(表示スケール10倍)の gif アニメ(左が x, 右が y)。クリックで静止画に分解。

これを見ると以下のことが分かる。

  • x 方向には右端で最大20μm 程度、測定値が理想値とずれており、鏡面の法線方向が 4m に対し 20μm (1")横外向きに傾いている
  • y 方向には、下の方に上記の半分程度の傾きが上向きに見られる
  • どちらも、円形の放物面鏡を切断した際に現れた変形であると考えられる
因みに、理想形状を放物面ではなく球面とした場合の結果は以下の通り。違いがちゃんと検出できていることが確認できる。

先に取得したステップ間隔の荒い方での結果は以下の通り。

解像度が悪くなると、理想値との差がうねりとなって現れるので、これを何とか消さないといけない。この例のように取得画像が丸い像ばかりなら中心だけで代用するという手もあるが、バイコニックの場合は歪んだり枝分かれした像が得られる場合も出てくるため、よく考えないといけない。理想値ではなく、完全に計測を再現したモデル計算をしないといけないのかも...(結構大変)。測定値にスムージングをかける手もあるが、測定間隔が更に荒くなって不連続になった場合の事も考えておく必要がある。また、キューブ型ハーフミラーによる球面収差を顧慮する必要もある(F 値が明るくなった場合にある程度の影響が予想されるが、こちらはプリズムによる光線の横シフトを加算するだけなので簡単)。

とりあえず、適当な半径の円で両方の残差画像にスムージングをかけてみた。測定日と、光学的な再調整があったにも拘らず、大体の傾向は同じ結果となっている事が確認できた。

スポットがある程度の範囲に広がっても同様な解析結果が出ることを確認するため、ピンホール位置の焦点合わせをもう少し行い、一度にピンホールを通過する光量を増やして試験した。

一度に通過する光量が増えたためか、周辺部のすそ野の広がりが前2回の測定に比べて広がった(露出時間を1.6倍に伸ばした事も影響していると思う)。面輝度が半分程度になっているあたりの部分は、実際には鏡が存在しない所。

測定値の方がピンホール分だけ広い範囲で計算してあるはずの理想値よりも広がっているため、差分画像の周辺部は計算範囲によって決められている。実際の鏡のサイズは外縁部の段差部分より若干外側あたりになる。

前2回の同様にスムージングをかけたもので比較。大体の傾向は同じだが、より凹凸が激しく出る結果となった。周辺部のダレは明らかに測定値のすそ野によるものなので、印象としてはある程度フォーカスを外しているほうがうまく計測できるような感じだ。

次に、理想値に対するピンホール位置のずれ量(差分画像)から鏡そのものの理想形状との違いを計算する必要がある。得られている量と面形状との関係を考えると、

上記 Δx (mm) と j (pix) の関係から、a (mm) に対する理想形状からのずれ量を算出する事になる。理想形状からの傾きのずれは Δx/f なので、面上で δa の変移に対する高さのずれは Δx/f・δa となる。この量を a に沿って積分すれば理想形状との高さが計算できる。ここで、ピンホールから検出器面までの距離をピクセルサイズを単位とした量で d (pix) とすると、a=fj/d となるのでこれで a を j に変換すると f が相殺して、Δx/d・δj を j に沿って積分すればよいことになる。

法線ベクトルずれ量の x 成分と y 成分を積分して重ね合わせることで、理想値からのずれ量を計算した結果は以下の通り。上記3種類の結果それぞれに対して、x 成分から出した形状と y 成分から出した形状、両方の平均値を示す(単位は μm)。測定結果の傾向は大体同じで、うまく測定できている事が裏付けられた。

キューブ型ビームスプリッタによる球面収差の影響は以下の通り。表示範囲は 2048x2048 の全範囲で、F/2 ビームに相当。分布が非対称に見えるのはカラーマップの影響で、数値としては座標軸に対し対象に分布している。中心付近で見られる defocus 成分が球面収差により反転し、周辺部ほど焦点位置が遠ざかる様子が読み取れる。一番右は積分値。大体の範囲で形状への影響は 1μm 程度である事がわかる。

上記の結果は、10mm サイズのキューブ型ビームスプリッタの場合の結果だった。現在使っているものは 20mm サイズなので、以下のように影響は6倍になってしまう... 何とか 10mm にしないとダメだな。

10mm のビームスプリッタで作り直し。スペースが狭すぎて接着しか固定方法がないため、位置調整はファイバー・ビームスプリッタのグループと、ピンホール・カメラのグループ間のみしかできないが、まずまずうまく行った感じ。とりあえず球面鏡を 2D スキャンしてみる。

ソフトのバグなどを修正し、球面収差が大体補正できるようになった。但し、周辺部の不完全データ部分が入ってくるとその影響をかなり受けてしまうので、モデルでの鏡のサイズを実サイズよりも少し小さ目にする必要がある。凹面鏡をリングで強く固定しすぎている可能性があるので確認し、球面収差中心を少し移動させて再度計測してみる。

データ解析の際の閾値を full well の 10% から 1% に変更し、鏡のエッジより外側の x,y 値も状態も出した上でモデルの位置合わせをする方が位置がうまく合う事がわかった。球面収差の中心も今回の方がより合っている感じ。

球面鏡に背面からプランジャで力を加えてみる。プランジャ付きアルミ円盤を球面鏡の裏側に追加して再度測定する。

鏡    :エドモンドオプティクス 凹面ミラー 50 X 50 AL
プランジャ:ミスミ PJL6-3

カタログではプランジャのストロークは 3mm で、3.4〜10.4N 変化。最も縮んだ状態から1回転戻したので 1mm 戻って 2mm 縮んだ状態。即ち 8.1N の力がかかっているはず。

ここからは和田くんの作業。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp