コーティング調査

http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/coating.html

岩室 史英 (京大宇物)


●概要

 3.8m 望遠鏡は、主鏡の再蒸着をしないでコーティング+水洗いのみで
最低10年間は運用する方針となったため、反射率に対する影響が少なく
かつ強度の高いコーティングに関する調査を行った。

 考えられる候補として、SiO または SiO2 によるコーティングがあるが、
1.2m サイズの鏡に対しそのようなコーティングが可能な業者よりサンプルを
提供して頂き、以下の方法で摩耗やアルカリに対する耐性試験を実施した。

●試験方法

以下の3種類の方法で試験を行い、通常保管したもの(試験1)と比較する。

  • 試験1:何もしない(コントロールサンプル)

  • 試験2:摩耗試験
     毎分200回転のモーター軸にゴム足を付け、その上に光学面拭き取り用
    の紙を2重に重ねて固定し、一定圧力でサンプル面を押し当てて24時間
    モーターを回転させる。但し、この方法では24時間で顕著な差が現れず、
    36時間程度で紙が2枚とも破れて鏡面に傷がつくことが判明したため、
    試験後半のサンプルに対しては行なっていない

  • 試験3:耐アルカリ試験
     キッチンハイター原液(pH 13)に1分間浸して、光学面の変化を見る。
    コーティングに弱い部分があるとアルミ蒸着面が溶け、コーティングが
    薄いと曇ったように劣化する。

  • 試験4:環境耐性試験
     建物の屋上に10日〜2週間放置し、光学面の変化を見る。暴露する
    時期により条件が異なるため直接の比較は難しいが、前半の3つの
    サンプルを放置した際は、かなりの降雪があり、その後のサンプルに
    対しても最低2回はかなりの降雨状況下に晒すようにした。

●測定方法と結果

反射率の測定には日立製作所製 U-4100 分光光度計を用いた。
測定方法は以下の通り

  • 波長範囲 0.34μm 〜 2.6μm (0.85μm 付近に装置の不安定点あり)
  • 一番始めに入手した SiO2 サンプルを基準鏡とし、それに対する相対
    反射率を測定(絶対反射率は測定できない)
  • 測定は全てのサンプルに対し場所を変えて2回、基準鏡は全測定の始めに
    2回と最後に1回測定し、測定器の特性に時間変化がないことを確認する
  • 全てのサンプルに対し、試験前後に1回ずつ測定する(基準鏡は毎回)

サンプルと測定日一覧

サンプル試験記号12/25 1/30 3/ 4 4/24備考
SiO2 薄い
(グラフ最下段)
1SiO2-13/4 以降劣化
2SiO2-2----
3SiO2-3----
4SiO2-4----
SiO 薄い
(下から2段目)
1SiO-1--
2SiO-2----
3SiO-3----12/25の測定1が変
4SiO-4----
SiO 厚い
(上から2段目)
2SiO+-2------試験失敗
3SiO+-3----
4SiO+-4----
SiO2 かなり厚い
(グラフ最上段)
1SiO2++-1----測定場所により
厚さが異なるようだ
3SiO2++-3----
4SiO2++-4----
SiO2 厚い
(下から2段目
最右)
1SiO2+-1------
3SiO2+-3------
4SiO2+-4------

測定結果(クリックで拡大)

12/25 1/30 3/ 4 4/24
SiO 3番のサンプルの1回目
の測定(緑実線)はおかしい。
SiO2 の3番はアルカリ試験で
曇りの出たもの。SiO の3番
は穴あきになったが、計測ビ
ーム内に穴はなかった模様。
SiO2++ サンプルはサンプル毎
の違いの他、同一サンプル内
の場所でも違いが見られる。
SiO2++ サンプルの結果の短波
長側が一様に試験前より高く
基準鏡の劣化が推測される。

上記測定結果を元に、各サンプルでの試験1のものは劣化していないと仮定して、
試験1に対する試験2、3、4の相対反射率に変換した後、各試験前後での相対
反射率を算出した(基準鏡の劣化が 3/4 以前から起こっている可能性を顧慮して、
一旦、それぞれの試験1を基準とする事にした)。

SiO+ サンプルは試験1相当のものがないので、同時に計測した SiO の試験1サンプル
を基準として試験前後の相対反射率を算出した。結果は以下の通り。

各試験後の試験前に対する相対反射率(クリックで拡大)

  • SiO2 サンプルは、コーティングが弱い

  • SiO サンプルは測定値としては問題ないが、耐アルカリ試験でコーティングに
    穴ができた

  • SiO+ サンプルは可視反射率に±10% の大きなうねりがあるが、強度としては
    問題なし

  • SiO2++ サンプルは、可視反射率にかなりのうねりがあり、かつ場所により差が
    ある(試験前後の相対反射率がうねるのは、計測場所の違いによるものと考えられる)

  • SiO2+ サンプルは試験前の状態だが、SiO+ サンプルよりもうねりが多い


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