ガラス用接着剤試験

http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/bond.html

岩室 史英 (京大宇物)


セグメント裏のセンサの固定用ロッドのネジの接着が頻繁に外れるので、何とかする必要がある。

  • 接着剤をより引き剥がしに強いものを選ぶ
  • 接着面をより平坦にし、かつ接着面積を増やす
という2つの点に関して調査が必要となった。特に後者は始めは2液式エポキシでの接着だったのを瞬間接着剤に後で変更した事もあり、接着面の平面性が瞬間接着剤の接着条件には合っていないという事が十分に考えられる。まずは、現在使っている安物の非ガラス用接着剤とガラス専用接着剤の比較から。接着条件を一律に揃えるため、ネジは頭部分に刻印のない M5 六角ボルトをそのまま使用し、斜め方向の力をかけるためにバネの中心をできるだけずらして力をかける。約50本ずつ接着して温度サイクルを繰り返し、残ったネジの本数で強度を判断する。

いざ、作業を始めてみると、ロックタイトの接着剤で接着したネジが、ナット締めの最中に次々とネジが発射される。とても危なくてやってられないので、手で全てもぎ取ってみた所あっさりと簡単に全て外れてしまった。接着剤はガラス面と金属面の両方に残っており、カッターの刃で削り取ると随分軟らかい。ガラス用の接着剤というのはこういう軟らかいものである可能性もあり、その場合全て引き剥がしに耐えられない事になるが...

とりあえず、ロックタイトの接着材はガラス面・金属面ともカッターの刃で削りとった後アルコールでよく拭き、次の接着剤を試してみる。2つあるのでどちらを使うか悩ましいが、とりあえず2本ずつ接着してみて、手での引き剥がしがやりにくい方を試すことにする... 結果はほぼ同じだったのでとりあえずセメダインの方から試してみる。

今度は固定中に発射されることはなく全てバネを固定できたが、50本張り付けた内1本は接着不良で取れてしまったのと、1本数え間違えて49本しか接着されていなかったので、セメダインの方は48本での試験。温度変化は6時間1サイクルで50℃と0℃間を1往復。これを延々と繰り返す。100均接着剤の方は既に3日経過しており、この作業直前に恒温槽を OFF するまでは1本外れていたのが、OFF にして湿度が100% 近くになってからもう1本外れた。1本だけ接着してあるがバネを入れていないものがあったので、そちらにバネを移し替えて試験を続行する。ネジが発射された時の衝撃はかなりあるので、ダンボールでガードし、ガラス面は1回反射で当たっても危ないので、ガラス面側にもダンボールを置いてガードする。とにかく超強力黒ひげ状態で、作業するときも確認するときもかなりビクビクしながらの作業になる...

半日後の様子(下左写真)。エポキシの方はやはり50℃という高温に弱いのか 29/48 が外れてしまった。100均接着剤の方も更に3本外れて 5/51 が外れた。昨日の作業直前の高湿度環境が影響した可能性はある。残りの100均接着剤がどれだけ耐えられるのかにもよるが、ガラスがもぎ取られるような取れ方をしない限り接着面積を広くするしか根本的な解決策は無さそうな感じだ。とりあえず、アラルダイトは後回しにして、セメダインを全て外して(これもかなり軟らかい接着剤だった)恒温槽試験で実績のある 3M 2216 を試してみることにする。硬化時間が遅いのと、特に光学的な安定性を必要とする場所ではなかったので、他のエポキシ系接着剤と接着力にさほど差はないものと予想して無試験でクイック5でセンサロッド固定ネジを接着して安定しなかったのが事の発端だが、もしかすると 3M 2216 はガラスセラミックとの相性がいいという可能性もある。

試してみたが半日で上右の状態で、ほとんど外れてしまった。しかしこれまでと状況が異なるのは、ほぼすべてネジ側から外れていることだ。頭の平らな六角ボルトよりも、六角穴のあるキャップスクリューの方がネジとより強固にくっつく可能性があるので、キャップスクリューでも試してみる。固化まで2日待たないといけないので時間がかかる。100均接着剤の方は 3M 2216 の固化中に2本、ネジ固定後に3本外れて、10/51 が外れたことになる。瞬間接着剤の硬化促進剤というのもがあるらしいが、それを使うと初期接着不良が減り、残る確率を高められる可能性はある(接着面積を増やす事は必須)。100均接着剤の外れた所10ヶ所に硬化促進剤を塗り、場所が分かるように印を付けて再接着しておく。

キャップスクリューにしても似たような感じだった。鏡面側に接着剤が残っているものも多いが、残っていないものも10本程度ある。結局は、接着剤そのものが他エポキシ接着剤よりも軟らかく、50℃になった際に接着剤が引きちぎられてしまう感じだ。センサ試験の際は、5℃〜25℃ だったのと、正面からの引き抜きでかつ今回の試験の半分程度の力だったので耐えられたのだろう。この作業前に100均接着剤の方は1本(硬化促進剤を塗り印を付けて再接着)、作業後の試験中に4本外れて最初に接着した内の 15/51 が外れた。

クリアセラム塊がこれ1つだと硬化中の試験が中断して効率が悪いので、もう1つ使う事にした。まだ試していないアラルダイトのガラス用で六角ネジ50本を接着、硬化促進剤+100均接着剤を44本接着して、2日後からはこの塊も加えて試験を行なう。

以下の形状のネジとネットを製作中。頭部分の直径はどちらもφ12mm。

ネジが納品された。このネジを加工したものだが、頭部分の面取りが無くなるところまで削ってもらった方が良かったか。ナットも納品されたので、3°削ってみた所。

ネジとナットを早速接着してみる。作業前にネジの状況を確認した所、100均接着剤のネジは更に7本外れたので、これまでの外れた合計は 22/51 本。硬化促進剤+100均接着剤は 4/11本外れたので、硬化促進剤は全く役に立っていない感じだ。3M 2216 のネジは全滅で1本も残らなかった。製作したネジ20本のうち10本を100均接着剤で貼り付け(うち5本は硬化促進剤を併用)、ナット20個のうち10個を 3M 2216 で再度試してみる。アラルダイトは既に固化完了しているが、バネが足りないので後回し。温度変化は最高温度50℃まで上げる必要はないかな、という事になったので、0℃〜40℃を4サイクル/日で試験することにした。スタート時点での状況は、始めに接着した100均接着剤のみのものが29本、硬化促進剤+100均接着剤が 7+44=51本。

半日経ったが、まだ1本も外れていない。最高温度を40℃にしたことか、昨日の作業中の湿度がそれほど高くなかった事かのどちらかが原因の可能性が高いが、その内水をかけて耐水性も確認してみる。

びしょびしょに水をかけて暫く放置の後、恒温槽の運転を再開して2日半経過したが、1本も外れない。初期の接着不良品が外れた事で淘汰されたのか(硬化促進剤+100均接着剤の51本も1個も外れていないが、最高温度が10℃違う事が原因の可能性もある)。次の1本がいつ外れるかが問題だ。再度水を大量にかけ、バネが納品されたのでアラルダイト50本とφ12 3M2216 10本にバネ装着をする。この作業中に硬化促進剤+100均接着剤の1本が外れた。温度変化の周期を半分の1日8サイクルにして再開。2サイクルほど経ったところでアロンアルファ用のガラスプライマーというものが来たので、アロンアルファゼリー状(無処理2、プライマー2)と 3M2216(無処理12、プライマー12) でも試してみる。この間に無処理のアロンアルファが1本と硬化促進剤+100均接着剤がもう1本外れた。その後、40℃で半日放置では外れず、8サイクル/日の運転を開始。

2日後確認すると、3M 2216 が8本外れている。6本はプライマー併用のものだが、全てネジ側で外れているのでプライマーは関係ない。どちらにしても 3M 2216 は金属面側でもちゃんと処理しないとまずい感じだ。

接着に関する研究者の原賀康介氏にアクリル系2液式接着剤を紹介して頂いたので、早速試してみる。その前に、幾つかのネジを外さないといけないのだが、一番初めに接着した 100均接着剤のもの(下左写真の左側の塊に接着されているもの)と、最後に 3M 2216 を用いた残り16本を、下右写真のようにロッドの先(ガラス面からの高さ85mm)にばね秤を付けて引き倒してみる。100均接着剤のみのものは0.5〜1kgw で外れ、硬化促進剤を併用したものは 1〜2kgw と硬化促進剤は効果があったことが確認できた。それに対し 3M 2216 は 1.3〜2.3kgw と瞬間接着剤よりも大きい値だったが、この作業時はガラス塊がややひんやりしていたので、温度が関係していた可能性が高い。この作業後にガラス面を確認した所、100均接着剤+硬化促進剤の2箇所でクリアセラムが剥離していた。硬化促進剤を用いた方はかなりの接着力があったようだ。それに対し100均接着剤単体の方は外れてはいないが、0.2kgw 程度で外れるものも少しあり、かなりが劣化している印象を受けた。

原賀氏に紹介して頂いた接着剤は、電気化学工業(デンカ)社製の C-355-20A/B() と G-55-03A/B ()の2種で、前者のほうが少し軟らかく後者のほうが硬い。ネジ側だけにプライマー(下中写真)を一拭きだけ塗る。これを用いてそれぞれ37本(六角ネジ23+キャップスクリュー14)ずつ接着して20分程度の固化時間のところ余裕を見て3時間待ち、バネを装着して0〜40℃8サイクル/日の試験を開始。100均接着剤+硬化促進剤42本(白)、アラルダイト50本()、φ12 100均10本(白)、φ12 3M 2216 10本()、アロンアルファ 3本()はそのまま。

3日で2回程度の頻度で全体に水をたっぷりとかけ、0〜40℃ 8サイクル/日で 5日弱経過したが、100均接着剤+硬化促進剤のものが初めの辺りで1本外れたのみ。ここから最高温を45℃にしてみる。

最高温を45℃にしてから1日が経過。始めの数サイクルで100均+促進剤が更に1本外れ、アラルダイトがガラス破壊により1本外れた。1日弱でアロンアルファ+ガラスプライマーが1本外れた。デンカ接着剤は2種とも外れていない。試験期間短縮のため、ここから水没試験を開始。この作業の間に、φ12 100均+促進剤が1本ガラス面側で外れた。作業直前が最高温度の45℃だったので、急激な温度変化が影響している可能性はある(ガラス下半分が水没した位で外れた)。水没試験開始後、3時間程度で φ12 100均+促進剤 の2本目が、1日後に3本目(促進剤なし)が外れた。その後1日経過まで状況は変わらなかったが、2日経過後の状態が下右写真。ガラス面側をプライマー処理している φ12 3M 2216 1本、φ12 100均の促進剤あり3本なし4本、100均+促進剤6本が外れていた(残り34本)。アロンアルファ(プライマー無し)も外れており、瞬間接着剤は水分に弱いことが顕著となった。アラルダイトとデンカ接着剤はどちらも外れていない。このまま取り出して、再度0~45℃の恒温槽試験に入る。アロンアルファの最後の1本はここで試験終了。

恒温槽に入れて1日経過後を見ると、瞬間接着剤の大半と 3M2216 の半数以上が外れてしまった。ここまでで、100均六角ボルト 39/44、φ12 8/10 が外れ、3M2216 φ12 6/10 が外れた事になる。やはり、これらは吸湿によって強度が著しく低下するようだ。アラルダイトとデンカ接着剤は1本も外れていないので、ネジの接着はデンカ接着剤の軟らかい方でいけそうだ。固化中の固定治具を準備してみたが、テープが浮いてくるとネジの接着面の厚さに傾斜がついてしまうので、もう少し改良が必要だ...(下中写真の接着剤の量ではやや不足)

超強力タイプの両面テープを使うと、弾力もあっていけそうだ。

固定治具の貼り付け角度は以下の通り(セグメントを裏から見た図)。

接着したネジを取り外してみる。ガラス面より 60mm 離れた所に 1.15kg の重りを付け(室温では 2kg でも耐えた)、ヒートガンで暖めた所、軟らかい方(下中)は 70℃ 程度、硬い方(下右)は 100℃ 程度(どちらも触った感触での温度)で外れた。

後日、別の試験接着ネジの常温での引きはがしテストを行ったところ、接着面から133mm の距離で軟らかい方は 1.3-1.4kg、固い方は 2.75-2.9kg で外れ、上写真よりも両方の接着面に接着剤が残っていた(凝集破壊)。

恒温槽試験の状況は、その後 φ12 3M2216 が最高温45℃再開2日目でもう1本外れた。
状況が落ち着いたので再度2日間の水没試験をしてみたところ、100均+硬化剤は更に3本外れて残り2本に、φ12 100均(+硬化剤)とφ12 3M2216 は全て外れた。アラルダイトとデンカ接着剤の硬い方は全て外れていないが、軟らかい方が1本外れた。再度恒温槽に戻したところで 100均+硬化剤の残りの2本も外れてアラルダイトとデンカだけが残っている状態になった。

その後、0〜45℃ 16サイクル+水没2日の3セット目前半でデンカの軟らかい方が更に2本、 3セット目後半で更に3本外れた。これまでに外れた6本は、ガラス側にも少しだけ接着剤が残っているが、9割程度の接着剤はネジ側に残っている状態。3セット目後半にはアラルダイトもガラス面側で外れた。

これまでと以降の経過は下表で。

デンカ(軟)デンカ(硬)アラルダイト備考
総数373750
0〜45℃x16001ガラス破壊
水没2日000
0〜45℃x16000瞬間/3M 大半×
水没2日1003M 2216 全滅
0〜45℃x16200瞬間接着剤全滅
水没2日301
0〜45℃x16102
水没2日402
0〜45℃x16101
水没2日203
0〜45℃x16224
水没4日917
0〜45℃x32144
水没4日327
0〜45℃x32461
水没4日126
0〜45℃x32034
残り3177終了


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