分割鏡支持システムの開発2


その1

非接触センサのアナログ出力を 16bit ADC board に取り込んで高分解能で サンプリングした(1点あたり100回サンプリングして平均化)。非接触センサの デジタル出力で 200μm の位置まで移動後、1step ずつ指令パルスを送り、

A: 非接触センサのデジタル出力[μm](分解能 0.1 μm)
B: 非接触センサのアナログ出力[V]

の2つの値を記録。以前の測定結果 620pulse/μm を信用して B x 95.675 + 10.045 の変換を行い、パルスとの関係を plot した。

もっと広い範囲を測定する予定だったが、なぜか 1020pulse 目でこける症状が 連発したので(色々試したが)、結果的に同じようなサンプリングを連続して 行うこととなった。とりあえずわかったことは、

1. アナログ出力を使うと分解能がかなり(10nm 程度?)良くなった。
2. 約200パルスおきにアクチュエータの挙動が不安定になる。
3. 動作毎に傾きが若干変化する。

1. に関しては、ADC の最下位 bit は 10[V]/65536 x 95.675 x 1000 = 15[nm] なので、 100回 sample で ADC 起因のノイズは 1.5nm 程度に抑えられており、グラフのノイズは 実際のアナログ出力に乗っているノイズだと考えられる(特にノイズ対策はしていない)。

2. に関しては、最終的には干渉計を用いて光学的に確認する必要があるが、センサを 信用すると、アクチュエータの内蔵エンコーダかハーモニックギアのどちらかに問題がある 可能性がある。他のアクチュエータやセンサの組合わせでどうなるか調べる必要がある。 センサの値でフィードバックをかければ収まる可能性もあるが、ガタガタしているところでは 難しいかもしれない。

3. はセンサによるフィードバックで解決できるので問題ないが、この違いがセンサ側に 起因している場合にはかなり問題。複数のセンサで同時に測定する必要があるかも。


その2

1020pulse 目でこけるのは、シリアル通信のポートを開きっ放しだったのが原因だった。

200μm位置より 100000pulse up,down の動作を行い、1pulse 毎に ADC 100回 sampling で アナログ出力を調べた。赤:アナログ出力(up)、桃:デジタル出力(up)、青:アナログ出力(down)、 水:デジタル出力(down) で以下に結果を示す。
以前の測定結果は信用せず B x 101.03 - 0.535 の変換でアナログ出力を位置に変換した。

結果は、

1. 577pulse/μm だった。
2. 約200パルスおきにアクチュエータの挙動が不安定になる。
3. up と down でヒステレシスがある。

1. に関しては、リニアアクチュエータの分解能 69nm ÷ てこ倍率 約10 ÷ エンコーダの分解能と制御パルスの比 4 (推定) と解釈すれば、ほぼ説明できる数値なので、620pulse/μm というのは間違いだったと考えられる。

2. に関しては、とりあえずアクチュエータ静止状態での sampling と、制御パルスを5パルス単位としたときの 周期の変化を調べることにする。

3. に関しては特に問題は無いものと考えられる。

以下、10000,50000,90000 pulse 付近での拡大図。アナログ出力が 200 pulse 周期で不安定になるのは どこでも同じだが、up と down での若干の位相のずれはありそう。


その3

アナログ出力電圧の安定性を調べるため、アクチュエータを静止させた状態で、上記と同様なループを 100000回まわして sampling した。

結果は、

1. 200nm 程度の変化がある。
2. アクチュエータを駆動させた状態の、安定領域が続くような感じ。

1. に関しては、センサと基準面間の距離 200μm の 0.1% 程度の変動で、100℃ の温度変化に相当する量!。 温度センサを取りつけて相関を取る必要があるが、回路の安定性の可能性が高い。

2. に関しては、200パルス間隔の不安定状態の問題が解決されてから比較して、ノイズの影響を調べる ことにする。

以下、50000 loop 目付近での拡大図。


その4

4パルス単位で25000回ループさせて up,down 動作を行った。

結果は、

1. 1パルス毎にサンプルする場合と同様に、200パルスおきにアクチュエータの挙動が不安定になる。
2. 全体的に挙動は安定していたが、やや不連続気味に変化する部分があった。

1. に関しては、やはりアクチュエータ内のハーモニックギアが原因の可能性が最も高い。up よりも down の しかも負荷の最も小さくなる 200μm付近でガタが大きくなることも、ギアが原因となっている可能性を 示すものであると考えられる。

2. に関しては今のところ原因不明。

以下、10000,50000,90000 pulse 付近での拡大図。


その5

約30kgwの負荷をかけ、4パルス単位で25000回ループさせて up,down 動作を行った。

結果は、

1. 挙動不安定は解消された。
2. アナログ出力に大きなノイズが2度乗った。

1. に関しては、予想通り負荷をかけることで解消された。どの程度の負荷から影響が出始めるか調べる

2. デジタル出力の方にはノイズの影響が出ていないことを考えると、アナログ出力からADボードまでの 間で拾ったノイズと考えられる。差動出力にする必要があるかも。

以下、10000,50000,90000 および 6000 pulse 付近での拡大図。


その6

負荷を約15kgwに減らし、4パルス単位で25000回ループさせて up,down 動作を行った。

結果は、

1. 挙動不安定は出ていないが、up,down 間の差が大きく出た。
2. アナログ出力に大きなノイズは乗らなかった。

1. 15kgw (アクチュエータヘッドには 1/10 の力として伝わる) でも挙動不安定は現れないようだ。 最終的には、アクチュエータヘッド部分に 2kgw 以上の力が常にかかるように引きバネを付ければ いいかと思う。up,down 間の差が大きく出たのは、負荷を減らしてすぐに測定を開始したからで、 フィードバックをかけることで問題なく制御できる。

2. 引き続き同様な調査を続けて、再現することがあれば時間を特定できるようにしておいた。

以下、10000,50000,90000 pulse 付近での拡大図。


その7

その6と同じことの繰り返し。

結果は、その6とほぼ同じだった。
これまでの試験でわかったこととして、

1. アクチュエータヘッド部分に 2kgw 以上の力を常にかければ安定する。
  (業者の推奨値は 5kgw 以上)
2. アナログ出力による位置測定精度は1σで12nmでまずまずだが、
  大きいノイズが乗らないように工夫する必要あり。

以下、10000,50000,90000 pulse 付近での拡大図。


その8

次のアクチュエータ(#2)を用いて、1パルスずつ送って測定した。
その2にある変換係数は B x 100.97 - 0.440 と、少し異なるものとなった(センサーは同一のものをつけ替えているのになぜ?)。

結果は、その6とほぼ同じだった。
これまでの試験でわかったこととして、

1. 581pulse/μm だった。
2. 特に問題なさそう。

1. については、アクチュエータの動きが機械的に異なるのか、センサ回路の安定性によるものかどうかは不明。同一センサを付け替えて使用しているのに、アナログ出力とデジタル出力間の関係が変わってしまったのも何か変。2つ以上のセンサーを取り付けて同じ試験をし、結果を比較する必要がある。

以下、10000,50000,90000 pulse 付近での拡大図。


その9

最後のアクチュエータ(#3)を用いて、1パルスずつ送って測定した。変換係数は B x 101.03 - 0.535 と、その2と同じ係数だった。
また、別に2つのセンサーを取り付けて同時にサンプリングしたが、適当に固定しただけだったので、意味のない測定になってしまった。
上りの 45000 パルスでソフトがこけていたので、この部分でやや不連続になっている。

結果は、その6とほぼ同じだった。
以下、10000,50000,90000 pulse 付近での拡大図。


その10

最後のアクチュエータ(#3)を用いて、その9同様3つのセンサを取りつけて同時サンプリングして、センサ間の差を調べた。
センサ1のアナログ出力の値を参照してフィードバック制御をかけている。
今回は上り下りは同じ色で、センサ 1,2,3 のアナログ出力は 赤,緑,青、デジタル出力は 桃,黄,水 で plot してある。

結果は、

1. アナログ出力 → 位置変換係数が変わってしまった。
2. センサ間でかなり挙動が異なる。

1.に関してはその8と同様の現象だが、デジタル出力とアナログ出力の関係について、製造元に問い合わせてみたところ「アナログ出力が正しい」とのことだった。アナログ出力を AD 変換する際に温度変化の影響を受ける部分があるのかもしれない。

2.に関しては、実際にアクチュエータに取りつけられた3つのセンサの場所で異なる上がり方をしている可能性もあるが、 センサの安定性の違いという可能性もある。何もしないでセンサ出力の安定性のみを check する必要がある。


その11

その10と同じ状態で、駆動パルスを送らずにセンサの安定性のみを check した。
測定開始は16時で、終了までに27時間かかった。アナログ出力 → 位置変換係数は相変わらず変わったままだが、デジタル出力をアナログ結果と重なるように offset を加えて表示した。

結果は、

1. その3と同様 ±200nm 程度の不安定性がある。
2. センサ間でかなり挙動が異なる。

何もしていない状態で、これだけ不均一に物体が熱変形しているとは考えにくく、これは、センサの安定性の違いによるものと 考えられる。製造元に聞いてみたところ、「温度変化の影響らしい」とのこと。アンプ内で参照している基準電位やグラウンドレベルの 揺らぎ、アンプのゲインの変動、プローブ部分の熱変形などが考えられるそうだが、効果的な策は今のところ無いようだ。 センサ間で挙動が異なるのはちょっと問題で、どこの温度が問題なのか温度センサと併せて調べる必要がある。


その12

その11と同じ状態で、測定時間を5倍に伸ばしてみた(135時間)。

結果は、

1. センサ間で一時的に最大1μmずれる。
2. 毎日の周期的な変化はなさそう。

赤と青は相性が良さそうだが、緑の線のセンサは他と少し挙動が違う。


その13

その12では、センサの信号線とグラウンド線は離して配線していたが、 これをツイストさせてもう一度測定(135時間)。

結果は、

1. その12と余り変わらないか、もっと悪くなった印象。
2. デジタル出力とアナログ出力はどのような状態でもほぼ同じ振る舞いをする。

1. については、もともと交流で測定するので、信号線とグランドをツイストさせてもあまり効果がないのかもしれない。

2. については、デジタル出力はアンプラック内、アナログ出力は PC ラック内と異なる場所で AD 変換しているのに同じ振る舞いをすることから、測定結果の不安定性がアナログ出力を作る部分もしくはそれ以前で起っているものと考えられる。


その14

その13より測定位置を 200μm から 100μm に変更し、更に測定間隔を長くして測定(224時間)。同じ状態で続けて2セット測定した(計448時間)。 今後、サンプルはアナログ出力のみとする。

結果は、

1. 測定量は減少し続ける。
2. 今回は青はどちらかというと緑と似たような変化を示す。
3. 測定値が不連続に変化する場合がごくまれにある。

1. については、アクチュエータがずるずる縮んでいくなど機械的な変動の可能性もあるため、安定性のみの試験のために別な治具を用意して調べる必要がある。 間隔は 100μm でも 200μm でも似たような状況なので、温度変化による全体の伸縮の可能性は低くなった。

2. については、プローブの個性の差は周辺環境の影響も受けることを示唆するものである。

3. については、原因不明。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp