京大岡山3.8m新技術望遠鏡

計画の進捗状況


岩室 史英、坂井 道成、宮前 克之、大久保 悠 (京大宇物)
京大岡山新技術望遠鏡プロジェクトメンバー   2007年2月
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/abst2.html



● 光学系 / 望遠鏡構造など基本設計に関しては昨年の報告を参照。

● 分割鏡支持機構

分割鏡セグメントは内周6枚、外周12枚の扇型で中心厚は約45mm。
配置間隔は 2〜4mm (見易くするため上左図は隙間を広げて表示)。
3/27個の支持パッドの自由度を1つずつ拘束して横ずれ方向を固定。

望遠鏡図面に組み込んだところ(上左図)。
実際に試作して組み立て時の問題点等を検証。

● 位置センサー

対向金属面との間の距離をLC発振の波数カウントで測定する、シグマ光機製の非接触
インダクタンスセンサーを採用。
  • センサーヘッド内部でデジタル化されるため、安定性に優れる。
  • LC 発振で R が含まれないため、温度変化に強い。
  • 間隔が広いときに分解能を上げにくいのが欠点。

センサーヘッド

固定しての10日間の安定性試験をした。
下左図上より、ボードなど各点の温度、ヘッド付近の大気の温度(青)/湿度(緑)/気圧(赤)、
インダクタンスセンサー(赤)/静電容量変位計(他4色)の出力(nm)

温度・湿度から水蒸気量を求め、温度、水蒸気量、測定値で 3D plot すると平面状に分布。
平面 fit して読み出し値を補正する(上右図)。

温度、水蒸気量の補正前と補正後。インダクタンスセンサーは10日間で17nmの安定性が出た。
その後、インダクタンスセンサーを4つに増やし安定性試験を続けたところ、不連続な変動が
まれに発生、ケーブルの曲りや GND レベルの変動が影響していることがわかった(下図左)。

また、新しくシグマ光機に開発依頼したセンサー駆動回路を用いると、GND レベル変動も含めた
対ノイズ性能は上ったが、長期安定性が劣化した(上図右 赤緑青)。現在、原因検討中。
上記試験の詳細な結果は坂井くんページ(http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~sakai/)参照。

● 位相測定カメラ基礎実験

セグメント間の位相差は非接触センサーでモニタされるが、センサーの安定性の問題があるため、
正確な位置は定期的に光で確認する必要がある。2つの鏡の境界部分で集められた光は、位相が
ずれると回折像のピークが2つに分裂することを利用して、Keck などでは天然の星の光で測定
しているが、波面の乱れのサイズ(Fried parameter)が国内では7cmと小さく、困難が予想される。
そこで、新技術望遠鏡ではレーザー自己光源を用いた測定方法を検討している(下図)。

位相のずれが1/2波長から0になるまでの回折像の変化(シミュレーション)。

同様な状況を室内で再現して原理の確認試験を行なった。


位相がほぼ合っている状態(下図上)とほぼ1/2波長ずれている状態(下図下)。
左側は100枚の画像によるアニメーション、右はその平均画像。

鏡の振動と思われる揺らぎがあって分りにくいが、数秒間の露出で平均化
すれば、ある程度判別可能。レーザー波長を 543,594,604,612,633nm と
切り替えてどこまで調整可能か検討し、実際に試験をして確認する予定。

上記試験の詳細な結果は宮前くんページ(http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~miyamae/PCS/PCS.html)参照。

● 研削による鏡面製作試験

新望遠鏡計画の重要な目標の一つとして、非軸対称非球面光学面の高速製作がある。
これも次世代望遠鏡計画にとってはなくてはならない技術で、研削加工+機上計測
により実用化を目指す。


研磨(力制御)  →  研削(位置制御)

現在のところ、主鏡硝材はクリアセラム-Z HS(オハラ) を用いる予定であるため、
12cm□厚さ5cmの同じ硝材で平面研削試験を行なった。

面粗さは 4.7nm rms で問題ないが、中央部が 2.1μm 膨らんだ。背面接着固定から
側面圧力固定にしたところ、1μm程度にまで改善した。今後、側面に溝をほって引っ掛け
固定を試す予定。

上記試験の最新の結果は大久保くんページ(http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~you)参照。

● 今後の予定

H19年度:研削盤完成、分割鏡セグメント試験研削開始、望遠鏡トラス構造確定、望遠鏡組み立て工場完成

H20年度:主鏡セル、アクチュエータ一部組み込み、方位軸ベース、高度軸Rガイド
     

H21年度:鏡筒部、望遠鏡駆動制御試験、アクチュエータ組み込み、内周セグメント
     

H22年度:副鏡、第3鏡、ナスミス台、制御試験
     

H23年度:移設、外周セグメント、制御試験
     

● JELT にむけて

京大岡山新技術望遠鏡(次世代望遠鏡プロトタイプ)プロジェクトの結果
→ 技術・コスト両面から JELT の可能性検討

個人的には、単機能に絞りこんでどこまで安く作れるかが問題になると思う。

球面赤道儀とかにすると安くならないかな?


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp