OHS 用ファイバー多天体オプション


すばる望遠鏡赤外ナスミス焦点の視野3'φ内で、16組の 天体/スカイ ペアをファイバーで OHS の入射スリットに導き、同時分光するための多天体分光オプションを開発している。 近赤外で実際に観測に用いられている多天体分光器はまだないため、すばる望遠鏡 + OHS の 観測性能と合わせて、近赤外分光での観測効率を大幅に高めることを目的としているが、 これには以下に挙げるような開発要素がある。

● 開発上のポイント

 

 

● 装置仕様

天体数 0.6"φ×16 pair (Sky/Object 間隔は 5")
視野 3'φ (すばる望遠鏡赤外ナスミス焦点)
効率 fiber 部だけでの透過率目標値 70% 以上(出入口での損失のみ)

● テーパードファイバーとは?

通常のファイバーは、端面からの射出光のF比が F/2-4 程度であり、すばる望遠鏡用 に開発された OHS (入射 F/12.2)にファイバーからの光を入射させることはできない。 しかし、以下に示すようなコア径を連続的に変化させたファイバーを用いれば、 射出光をある程度細くすることが可能である(原理上は、ファイバーコア口径と射出光の 広がりは反比例する)。入射側は光の損失と天体の広がりを顧慮し、射出側よりも細い テーパーにする。

● セルフォックレンズとは?

円柱の半径方向に沿って屈折率を連続的に変化させることにより、円柱の軸方向に 進行する光に対しレンズとして働く円柱状のレンズ。屈折率の変化率と、円柱の 長さにより、様々なタイプのレンズを製作することが可能である。

 

 

 

 

 

 


テーパードファイバーの調査

                   1999.4.13  岩室 史英

 Fiberguide Industries 社の低 OH Tapered Fiber の特性検査を行なった。
検査方法と検査を行なった Fiber は以下の通り。

品名 入射側 core 径 出射側 core 径 N.A. Taper 長
AFT400TO100Y 100μm 400μm 0.22 1m
AFT300TO100Y 100μm 300μm 0.22 1.5m
AMT400TO100Y 100μm 400μm 0.12 2m
AMT300TO100Y 100μm 300μm 0.12 1.5m

左から、AFT400TO100Y AFT300TO100Y AMT400TO100Y AMT300TO100Y
上段:Laser / 下段:豆電球による射出光の image
最も左端のものが約 F/10.5
現在、AFT500TO100Y の製作可能性を検討中

それぞれの射出光の強度分布。半径50pix(上 image は100pix□)での
Flux を 100% としたときの、ある aperture 内に入る光の強度変化を
あらわしたもの。AMT400TO100Y は最も中心集中しているが、入射側での
Focus 深度の変化が射出光の広がりに影響を与えやすく、調整が難しい。
また、Fiber の曲がりに対するロスも大きいことが予想されることから
現在は N.A.=0.22 のもの(AFT)で測定を続けている。


テーパードファイバーの調査 2

AFT500TO100Y を特注で製作し試験を行ったが、思わしい結果が出ず。
レポートは省略。


テーパードファイバーの調査 3

                   1999.9.17  岩室 史英

 AFT400TO100Y - AFT300TO100Y, AMT400TO100Y - AMT300TO100Y を融着した
ものの一端を空に向け、射出光の広がりと明るさを調べた。比較のために、
AFT300TO100Y の 100μm側と一緒に束ねて日陰から空に向けた。

上段は AFT300TO100Y、中段は AMT400TO100Y - AMT300TO100Y、下段は
AFT400TO100Y - AFT300TO100Y で、中段と下段の左側2つは 300μm側から
入射させて 400μm側で測定したもの、右側2つはその逆。いずれも上段の
AFT300TO100Y での明るさで規格化してある。下段一番左の測定は射出側
ファイバーの位置が正しくなく、ビームが広がってしまったようだ。

今回は全面が光っている光源(空)を使用したためか、AFT と AMT の材質の
差がはっきりと現れた。AMT のファイバーは過去の測定結果と良く一致する
ものの、AFT の方は、Fつき光源を用いたときよりも明らかに射出光が
広がってしまい、入射側の情報がある程度射出側に伝わっている可能性も
ある。

AFT300TO100Y に対する相対的な透過率を出すため、それぞれの明るさを
積分した値を AFT300TO100Y の値で規格化し、AMT に対しては、NA 比の
2乗 (0.22/0.12)^2=3.361 で補正した。

AFT300TO100Y 1 1 1 1
AMT400TO100Y - AMT300TO100Y 0.707 0.616 0.483 0.630
AFT400TO100Y - AFT300TO100Y 0.845 0.792 0.788 0.875
(各数値は上図に対応)

AMT の透過率はやはり AFT に比べて悪いようであるが、射出光の広がりから
判断して AMT を使う事に決定する。


ファイバープローブステージ

                   2000.11.28  岩室 史英

ファイバーを以下のようなバンドル構造にしてスリット側を OHS に、枝分かれ している側を32軸マルチXYステージに固定し、すばる望遠鏡赤外ナスミス焦点に 取り付ける。


32軸マルチXYステージ

32個のステッピングモーターの駆動パルス数を指定された file から読み込み、 プローブ同士がぶつからないかどうか判断してから同時に動かす。基本的には、 1動作毎に−側の end limit を参照し、微少に動かして end limit が壊れて いないかの check も行なう。End limit は非接触式で、耐久性/信頼性共に 優れている。位置再現性は 20μm以下で、ファイバーのコア直径である 300μm に対し十分な精度が出ている。

マルチXYステージ

ダミーヘッドでの試験

与えられた天体カタログに対し、最適なプローブ配置を求めるソフトを開発した。 天体カタログは視野中心からの offset x,y (arcsec), ID, 重み(任意の実数)で 与えられ、

1. プローブの動作範囲外は除外し、視野端の天体に対してプローブ方向を確定させる
2. 上記以外の天体に対して、ぶつかる天体の重みが最も少ない方向からプローブを出す
3. 各プローブ方向毎に最も高い重みの和が得られるぶつからないプローブの組合わせを探す
4. 3を4種類のプローブ方向の並べ替え24通りに対し全ての順序で評価し、最も高い重みの結果を選ぶ
5. 1〜4の手順を Position Angle 0゜〜45゜に対し 1゜step で行ない、最も高い重みの結果を選ぶ

の手順で評価することにより、ほぼ完全な結果が得られる。以下はその1例である。


初期状態(PA=0゜)

乱数で発生させた天体カタログ(170天体)。観測の優先度の高い順に青(太線)、ピンク(中太線)、緑(細線)で 示される四角の中央に位置する。四角の大きさは、ファイバヘッドの大きさを表し、四角が重なっている 天体は、この角度では同時に観測できない。


第一回選択(PA=19゜)

上記アルゴリズムにより、最も重みの和の高い天体の選択ができる角度に視野を回転させ、第一回目の 選択をした結果。丸い印は今回選択された天体を、破線の四角はまだ選択されていない天体を示している。 上図から分かるように、ファイバヘッドを支えるプローブの幅の部分は観測不可能な領域となるため、 どの方向からプローブを出すかは重要な問題となっている。


第二回選択(PA=9゜)

一回目の観測で選択された天体を除き、再び同じアルゴリズムで第二回目の選択を行なった結果。 実線の四角は、一回目及び二回目の選択で選ばれた天体を示す。このように、乱数で発生させたカタログに 対し、どのような場合に対しても上記のアルゴリズムを2度繰り返すことにより、全てのプローブを有効に 活用して天体を無駄なく観測できる事を確認した。


OHS/CISCO との組み合わせ試験

                   2001.03.25  岩室 史英

マルチXYステージをハワイ島マウナケア山頂のすばる望遠鏡赤外ナスミス焦点に運び、OHS/CISCO 及び テーパードファイバーを用いたファイバーバンドルと合わせて試験を行なった。その結果、ファイバーバンドルの 効率は 1% 以下〜3% 程度と非常に悪く、また、バンドル入射側/出射側共にファイバーの平行度が良くないため バンドルは観測には使用できないものであることが確認された。その主な要因として考えられるのは、

どちらにしても、全ての問題を解決し、すぐに同じタイプのファイバーバンドルを製作することは困難であり、 全体的にいいバンドルが出来る可能性は低いと判断し、テーパードファイバーによるバンドル製作はこの段階で 中断することにした。以後、別な方法で製作することを考え、最終的にテーパードファイバーの方が優れている と判断された場合には、今回作成したバンドルを解体し、自作でバンドルを再制作してテーパードファイバーの 試験を再開する事にした。


バンドル

ファイバースリット

ファイバープローブ

マルチXYステージへの取り付け


OHS slit への取り付け

OHS slit への取り付け

ファイバーバンドルの OHS 側射出光の、OHS 光学系ビーム内での光度分布。 2段目一番右のビーム以外は非常に透過率が悪く、光軸中心も合っていなかったり、 ビーム内部での光度分布がかなり不規則だったりする。

 

 

 

 

 

 


マイクロレンズを用いたファイバーバンドルの開発

                   2002.01.24  岩室 史英

ファイバー両端面で出入射光を細く絞るために、上記のテーパードファイバーではなくマイクロレンズを 用いる方法を採用する。可視光のマイクロレンズアレイで用いられるような、樹脂の射出形成で製作する 方法は、赤外での透過率が悪い材料しか使えないため、小さいマイクロレンズを何らかの方法で等間隔で 並べる以外に方法がない。そのためには、加工が簡単で量産されている既製のマイクロレンズから今回の 目的にあったものを選定する必要がある。今回の用途に最も適しているマイクロレンズとして、(株)日本 板硝子が開発したセルフォックレンズが考えられたが、その性能を確認するため、市販されているボール レンズとの簡単な比較試験を行なった。

試験は、Fiberguide Industries 社の通常の赤外ファイバーの試験も兼ねて、以下の方法で行なった

結果は以下の通り。
レンズなし ボール LaSFN9 ボール Al2O3 セルフォック
入射F 出射F 透過率(%) 出射F 透過率(%) 出射F 透過率(%) 出射F 透過率(%)
3.6 3.58 80.8 11.1 90.0 10.7 89.7 12.8 93.7
5.6 4.44 81.4 11.1 87.7 10.7 87.7 12.8 94.2
11 4.63 77.5 11.1 88.6 10.7 88.3 12.8 93.9
マイクロレンズ使用時の効率は、レンズ単体での効率を表す。
セルフォックレンズは効率も良く、F/12 の出射光条件を満たしている事が分かる。また、側面切削の影響は無い事が確認できた。

以下は、新しく製作したファイバースリット及びファイバープローブの図面と写真である。出入射ビームの向きをそろえるためには、セルフォックレンズとファイバーの相対位置は10μmの精度で 調整する必要があり、精密加工した溝つき板にファイバーを並べて紫外線硬化樹脂で固めるという手法を採用した。3月に OHS と結合させて試験を行う予定である。


バンドル

ファイバースリット

ファイバープローブ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


OHS/CISCO との組み合わせ試験2

                   2002.05.14  岩室 史英

2月にファイバープローブをマルチXYステージに取り付け、プローブの原点及び軸合わせを行った。 3月には、2月の調整事項再確認とプローブの器差補正を行った後、OHS にファイバースリットを 取り付け、F/30程度の光源を用いてファイバースリットと OHS のおおまかな光軸合わせを行った。 現在の結果は以下の通り。全体的にビームがやや上寄りで、ファイバー間の間隔がかなり狭いが、 Focus を変えた場合の check をしていないので、もう少し間隔が広がる可能性はまだある。

ファイバーバンドルの OHS 側射出光の、OHS 光学系ビーム内での光度分布。 まだ全体的に少し上にずれている。

ファイバースリットイメージ(左)と JH スペクトル(右)。光源は豆電球の反射光。

ファイバープローブを取りつけたマルチXYステージを OHS 横に移動させているところ。

マルチXYステージと調整用器具。位置測定用 CCD、散乱/光軸確認用スクリーン Fつき光源用のレールと凹面鏡がある。


OHS/CISCO との組み合わせ試験3

                   2003.04.4  岩室 史英

昨年11月と今年2月と3月に、マルチXYステージと OHS/CISCO を最終的な状態に配置し、 観測できる状態にまでセットアップする試験を行なった。試験行程は以下の通り。

  1. 天体導入用 CCD カメラ部にリレーミラーを取りつけて、疑似星光源を用いて ファイバー先端部と天体導入用 CCD カメラとのフォーカス及びXYステージ座標系 合せ。ファイバースリットは CISCO 前に置き、CISCO で光量をモニタする。

  2. ImR とガイダーユニットの隙間に、疑似星光源光学系をセット。その際、光源の 位置・入射方向・フォーカスは CISCO の位置が望遠鏡に対し光軸・フォーカス とも正しく合っている事を利用して CISCO を用いて決定する(即ち、この作業は CISCO の観測後の状態が保存されている事が必要)。

  3. ファイバーステージユニットを、ガイダーユニットの手前側にセット。疑似星 光源に対しファイバー側からファイバーを通してレーザー光を入れることで光軸と 大まかなフォーカスをチェック。天体導入用 CCD で疑似星を見ることにより フォーカス微調整と確認を行なう。

  4. OHS を待避位置で展開し、疑似星光源に対する CISCO のフォーカスと光軸の 向きが正しく合っている事を確認してから CISCO の位置を OHS 方向に変える。 かなり無理な事をするので、ここでちゃんと CISCO を置けるかどうかが正念場。

  5. OHS にファイバースリットを差し、全てのファイバーに順に疑似星の光を入れ OHS 光軸に対するファイバースリットの向きを微調整(これまでの作業で完全に 終了していない項目なので、その続きをこの状態で行なう)。

  6. 作業終了後は、疑似星光源を用いて CISCO を元の状態に戻し、ファイバーユニ ットと疑似星光源を取り外す。OHS のスリット/グレーティング部を引き込んで おく。

  7. 3/17-19 の作業では、疑似星光源を光軸以外の場所へ何点か動かし、フォーカス 位置でも天体導入用 CCD でファイバーに光が導入できることを確認(これがで きなければ試験観測は不可能)。 更に、3/20 の観測時は、ファイバーモードのままで OHS 本体部の夜光マスク位置 調整をする必要がある(ミラー蒸着をしているので)。まともにやろうとするとこの 状態では一晩かかるので、適当に済ませるしかない。

最終的にはほぼ全行程を終えることができたが、試験観測の 2 日前に天体導入用 CCD カメラの コントロールボードが壊れ、試験観測を断念。今後、PI 装置として新たに試験観測の申請をする 事となった。

OHS ファイバーモードでの配置状態。焦点部にはファイバーステージユニットがあり、 OHS/CISCO は 1.5m 右側の OHS 待避位置で展開。

CISCO stage 後ろ側から見たファイバーステージユニット。色んな所が 5mm 程度にまで接近している。

反対側から見たところ。右側望遠鏡ガイダーユニット裏には調整用の疑似光源がセットしてある。

調整用の疑似光源。手前の懐中電灯から出た光は対物レンズとピンホールを通り、収差補正用の 平面硝子板を通して球面鏡にあたる。戻った光の半分はハーフミラーで焦点面に送られる。

ファイバースリット側からレーザー光を入れて、ファイバープローブのビームの向きを望遠鏡光軸に 合わせているところ。