●CaHK+Hα中分散分光器
GAOES-RV の観測波長域外の紫外側にある CaII HK 線(395nm) と Hα(656nm) を波長分解能1万以上で GAOES-RV と同時観測できるようにするもの。できる限りシンプルな構造で小型装置として開発する。
- 光学設計のポリシー
反射型の回折格子は偏光特性が強く高い効率が得られないので可能な限り高効率の透過型素子を用いる
GAOES-RV の前置光学系ユニットから光を分岐して、ファイバーでナスミス台下の装置へ送る
観測波長域は 395nm と 656nm 付近のみに限定し、汎用装置にすることは考えない
- 透過型分散素子
CaHK 用分散素子としてまず検討したのが Plymouth Grating Laboratory の VB Grating だが、φ180mm のものの見積を依頼したところ予算的に厳しい価格であったため、断念して Wasatch Photonics の VPH で製作することに。効率予測は以下の通り。
。
。
656nm 付近の透過率変化は 800nm に最適化されている AR コートの影響である可能性もあり、入射角を何度にするのが最適かは現物で調整するしかない感じだ(AR コートは無しで発注し、こちらで 656nm に最適化したコーティングを行う)。
(以下の部分、リンク先は "Not Found" となりますがファイル名の "." を手動で追加して下さい)
その後、磯貝くんが LightSmyth の技術者に問い合わせた結果、上記透過率変化はコーティングの影響ではなく回折格子の構造により生じていて不可避とのことだった(AOI 27°での理論的な透過率)。
LightSmyth の技術者からの新たな情報として、T-1850-800s であれば 660nm 付近の効率は高いとのことで、AOI 42°, AOI 37°, AOI 32°の理論的透過率の情報をもらうことができた。これを見ると、T-1850-800s の方が圧倒的に素性がいい。検出器の暗電流の影響が気になるがとりあえずは効率を上げることが重要なので、T-1850-800s の方を採用することにする。
LightSmyth の VB grating は量産品の厚さは 0.9mm しかなく、単独の水平置きは自重変形でできないし(20μm たわむと致命的)、面積が大きいだけに垂直置きもちょっと心配だ。特注で厚さ10mm の基板上に形成できないか問い合わせたが、LightSmyth に依頼しても張り合わせになるとのこと。しかも有効口径は経験上 109mm とのことだった(この外側でも若干の効率低下がある程度らしいが)。0.9mm ではコーティングをすると反りが発生する可能性もあるし、立てた状態で単独で固定して使うのはやや心配。ということで、直接 LightSmyth の技術者に大面積の場合にどうしているか聞いてみたところ、6.35mm 基板で製作することも可能とのことだった。高出力レーザーなどと併用する場合は薄い方がいいので、大面積でも薄いままで製作する場合もあるが通常は 6.35mm らしい。
しかし、6.35mm 基盤の場合は経費が倍以上かかり、少数製作の場合は張り合わせの方が安い(経費2倍弱)とのこと。LightSmyth はこの回折格子の張り合わせに十分な経験があり、張り合わせの場合は LightSmyth に頼むしかないので、結局は 0.9mm のまま保持するかかなりの経費を追加して張り合わせるかの選択となった。まずは、何とか 0.9mm 板の状態で安全に保持できないか、厚さ 0.7mm のガラス板を購入して保持方法の試験をすることにした。
とりあえず、ホルダーを作ってみた。プランジャはバネ力最弱のもの。写真では先端が少しずれているように見えているが、目視ではちゃんと先端で接触しているように見えている。150x100x0.7 のガラスが間もなく来るので、来たら挟んでみる。

カラスをはめてみたところ。思ったよりもしっかり保持できていて、ある程度の加速度をかけても問題なさそうだ。



(この部分、要差し替えです...)波長分解能は CaHK が約1.3万、Hα が約1.6万。下図は○がファイバーコアの像サイズ(直径55μm)で、3つの●がその位置でのスポットサイズ。395/0.03=13167、656/0.04=16150。

光学素子 pdf 図面
Hα レンズ1の図面寸法入力時に、CAD でレンズ面が正しく選択されていなかったため、図面中の曲率半径にミスがあったことが判明、修正加工が必要に...
納品
穴空き平面鏡、ダイクロイックミラー、放物面鏡が納品された。
ミラー検査結果はここ (要パスワード)。

- 機械設計
温度変化の影響を抑えて可動部をできるだけ減らしたいので、すべて鉄系のステンレス SUS430 (熱膨張係数 1e-5) で製作することにした。これでも 20℃ の温度変化で 500mm に対し 100μm の変化があるので、約1pix 分の像サイズ変化は温度変化で起こる。そのため、入射スリット部分にのみ焦点移動機構を設け、温度変化の補正は入射部で行うことにする。ステンレスは重いので、できるだけ板を使わずに、カメラ系部分はパイプ構造にする。LightSmyth 回折格子は結局 0.9mm 厚のまま使うことになったので、最終設計が確定した。

機械部品 pdf 図面(30種、52点)
納品されたので、コーナーの丸シャフト無しでとりあえず仮組みしてみたところ、3ヶ所で修正が必要なことが発覚した(上記 pdf 図面の「→ 修正」の部分)。自力で加工できないかちょっと試してみたが、ステンレスは固くてドリルの刃が立たないため製作業者に依頼することに...

修正加工の間に昔購入したVelvetでチューブ内面など塗装しようかと思ったが、いざ塗装の段階で塗料が完全に成分分離していて使い物にならないことが判明(溶剤で溶かせば使えるかもと思っていたが、そもそも色が変色している)。再度購入して無風の晴天日を待っている状況。
晴天の日に2回に分けて、プライマー+塗装2回を行った。筒が内部まで入り込む部分の側面は塗装すべきかどうか考え中(引き抜くと塗装が剥がれるため)。筒の外側の隙間を何かで塞ぐ必要があることに気がついた...

- ファイバーバンドル
OPTRAN WF NA=0.12 コア径 50μm 61本、大体 4" 程度の視野がカバーできる。
下図のままだと filling factor 63% だが、融着してできるだけ接近させることで 80% 近くまで filling factor を上げられるはず(若干の cross talk は伴うことが予想されるが)。

コア径 50μm のファイバーは、ジャケットを外して扱うことが結構難しいようで、CeramOptec では 50μm ファイバーではジャケットを外した状態でのバンドルが作れないとのこと。国内の他のメーカーで加工が可能か、国内代理店が調査中...。このバンドルが製作できない場合は、太いファイバーでイメージスライサを使うか、マイクロレンズアレイと組み合わせるしかない。
案の定、2ヶ月近く何も進展しないと思っていたら、「加工できる業者がありません」との回答が来た。OPTRAN を使うのは諦めて、まずは NA=0.12 50μm ファイバーでバンドルが製作できる会社を探すことにした。
その後、ファイバー同士の平行度がどうなるかわからないが一応作れるという業者は1社見つかった。使用するファイバーは OPTRAN とのこと。大変そうだったが一応できて納品された。ファイバーが細いので、取り扱いにはかなりの注意が必要。ビームの平行度は実際の装置に組み込んで確認する方が無難そうだ。両端のプローブのサイズは φ6 x 40 だった。

バンドル側に均一に光を当て、スリット側のファイバーの並びと明るさを調べた。61本のファイバーを端から8本ずつずらしてイメージを見たものが下。ファイバーの先端面が傾斜しているのか、X ステージで横にずらしていくと、フォーカスが少しずれるようだったので、異なるフォーカスで2種類撮影。

大体等間隔で一直線に並んでいることが確認できた(向きが問題だが...)。平均的な間隔は 72μm。
バンドル側を見てみる。
- ADC
天体の追尾は、GAOES の天体ガイド機能を用いるため、550nm での天体の位置が固定される。また、GAOES の観測は Instrument Rotator は固定されるため、視野回転も大気分散方向の回転もどちらも発生する。低高度(EL=20°)では 550nm と 395nm では大気分散量は 3" 強となるため、上記バンドル内に入らない上に、入ったとしても露出中に天体が流れてしまう。そのため、ADC は必須ということになったので設計してみた。S-FPL53 と S-LAH97 の組み合わせは、運よく大気分散の波長変化によく合った屈折率変化を再現できる(後に、オハラの硝材リストを使って UV 透過率の高い全てのクラウンとフリントの組み合わせで調査したが、熱膨張率が同程度でアッベ数の差が大きく、大気分散と似たような屈折率変化となる組み合わせは存在しないことが確認できた)。これで EL=20°までは大気分散補正ができるはず。ただ、熱膨張率の違いが大きすぎて張り合わせはできないので、どのように配置するかは要検討だ。

S-FPL53 の代わりに CaF2 を用いると、S-LAH97 の頂角は 6.298°となり、上記3つのスポットの間隔の比は 1:0.303 と、より大気分散に近い値が出せることがわかった。フリントの方は CaF2 の方が良さそうだ。温度変化10℃に対して、屈折率変化によるスポット位置の移動は 5μm なので、温度変化の影響は無視できる。
光学素子 pdf 図面
回転ステージはシグマ光機の回転ステージ OSMS-60YAW2個でいけそう。カタログ上の中央穴の内径はφ25mm だが、内部の筒を取り外すと内径はφ28mm 確保できる。望遠鏡の高度が変わると瞳位置が移動すると思うが、その移動量が大きいとこの穴サイズでは厳しいかも...

- 前置光学系のコリメータレンズ
前置光学系のコリメータレンズは、できれば GAOES で現在使用しているものが使えることが望ましいが、確認してみた。Edmund Optics TS アクロマティックレンズ 30 x 150 とシグマ光機 SLB-30-2000PM との組み合わせとのこと。両方の光学パラメータを Zemax に入れて、GAOES の波長域 500-600nm で平行光を入れた際のフォーカスを調べたものが下左図(昨年計算したときには1つの面の曲率の入力を間違えていたことが判明...)。光軸上の1天体のみの観測なので光軸上のみの設計かと思っていたが、平凸レンズは狭い範囲ではあるがコマ除去の役割を持っており、視野1分で設計されているようだ(下左)。これに 390nm と 660nm の光も入れたものが下右図。660nm の方は何とか大丈夫だが、390nm では全く使えないことがわかる。

市販品では良いものがなさそうなので、現在使われているレンズとの交換で使えるアクロマートを考えてみる。最も都合がいいのは2枚玉の張り合わせでの製作だが、直径30mm のレンズの場合、熱膨張係数の大きい S-FPL53 や CaF2を通常のレンズと合わせると 40K の温度変化で 10μm の直径差が生じるため、張り合わせはちょっと危険。 S-FSL5 と色消しの相性のいい、S-NBH52V の組み合わせで試してみる(分光器本体でも用いた組み合わせ)。この2つは 40K の温度変化で 30mm に対し 1.6μm しか変化しないので、多分張り合わせても問題ないだろう。2枚の凸レンズ両方に S-FSL5 を用いたものが下左、右側のコマ補正レンズは分離しているのでそちらを CaF2 にしたものが下右(S-FPL53 でもほぼ同じものになる)。全長と F 値が同一になるように、レンズの配置位置は微調整してある。

一番左の面と一番右の面は平面にしてもそれほど性能は落ちないので、2面を平面にしたもの。

390-660nm 全体だと、GAOES で現在使われているレンズよりもスポットが広がっているが、GAOES の波長帯とその両側の波長帯で別々にフォーカスを合わせるとより性能は良くなる。焦点位置を 54μm 左にしたものが下左(GAOES の波長のみ plot)、100μm 右にしたものが下右(390nm と 660nm のみ注目)。現在使われているレンズとほぼ同等な性能を維持しつつ、390nm と 660nm でもいい性能が出せていることがわかる。

光学素子 pdf 図面
望遠鏡部分から計算しても結果は大体同じ(望遠鏡焦点の後に上記と逆順で並べて平行光にした後、無収差の理想レンズで結像させたもの)。下図上段が現在使われているレンズ、下段が今回設計したレンズ。望遠鏡の収差分をレンズで修正してもほぼ変化ないので、そこまでは考えないことにする。


レンズ2組と ADC まで含めた全てを配置したものが以下。中心から 2mm 外れるとかなり悪くなるが(下図右上スポット)、そもそもファイバーバンドルの直径が 0.5mm もないので、基本的には使うのは中心付近のみ。

- 検出器
カメラとしては、時間も予算もないので TriCCS で用いられている CMOS を用いた市販品 BH-60M/BH-67M を用いる。画素サイズは 19μm、2段ペルチェの冷却能力は TriCCS のカメラの冷却性能よりも良い感じだが、最大冷却状態での暗電流の大きさが問題なので、ビットラン株式会社の協力で 0s,60s,600s でダークを撮ってもらった。
BH67
以下、BH-67M のデータ(BH-60M も依頼中)で、左が20枚平均(900-1200ADU)、右が20枚の標準偏差(0-40ADU)。画像クリックで全体が確認できる。平均は、最も明るいものが0s、時間が長くなるとどんどん平均が下がっていくが、どうやら天体撮影をした際の長い露出でも背景が明るくなりすぎないように、読み出し回路部分で露出時間に応じて原点シフトを行うようになっているらしい。Conversion factor は 1.10217e/ADU とのことなので、ノイズの大きさからダークを逆算できる。

上左画像の median は 0s,60s,600s の順で 1055,1041,982、上右画像は 18.18,18.53,18.79 なので、erms にして2乗すると 401.5,417.1,428.9 → 0,15.6,27.4 で10倍の関係とはなっていないので、暗電流が正しく計測できているわけではないが、0.05-0.26 e/sec という感じだ。この値は、波長分解能1万で観測した際の背景光と同程度のレベルなので、まあ暗電流は合格という感じだが、読み出しノイズが 20erms (TriCCS の5倍だが ADC の bit 数の違いを考慮するとほぼ同等)で、暗電流だけでなくこの値にも注意する必要がある(撮像や明るい天体の分光であれば問題ないが、中分散分光なので...)。
その後、背景レベルのシフト機能を OFF にしてもらって、再度同じ測定をしてもらったのが以下。左が20枚平均(600-900ADU)、中が20枚の標準偏差(0-40ADU)、右が20枚の平均-bias 平均(0-100ADU)。

上左画像の median は 0s,60s,600s の順で 702.6,712.7,740.1、上中画像は 18.34,18.60,19.50 なので、erms にして2乗すると 408.6,420.3,461.9 → 0,11.7,53.3 でまだ10倍となってはいないが、暗電流の大きさは 0.089-0.20 e/sec となった。読み出しノイズは同じく 20 erms。今回は平均値の差からも暗電流が評価できるので、平均画像の差の median (0, 5.81, 30.9)から計算すると 0.057-0.11 e/sec となりノイズから求めた値の半分程度となる。
ゲインを上げれば、読み出しノイズの寄与が減らせる可能性があるので、ゲインx16 でも同じセットを撮ってもらった。左が20枚平均(800-1700ADU)、中が20枚の標準偏差(0-120ADU)、右が20枚の平均-bias 平均(0-300ADU)。

上左画像の median は 0s,60s,600s の順で 989,1055,1208、上中画像は 29.86,39.21,57.49 で、ゲインが正しく16倍になっているものと仮定すると、erms の2乗が 4.2,7.3,15.7 → 0 3.1 11.5 で、暗電流の大きさは 0.019-0.052 e/sec 読み出しノイズ 2.0erms、平均画像の差の median (0, 49.5, 191)から計算すると 0.022-0.057 e/sec となりノイズから求めた値とほぼ一致する。どちらにしても読み出しノイズの寄与は減る感じだ(なぜ暗電流も減るのかは不明)。問題は実際のゲインが何倍かかっているかで、実際に光を入れてカウントが何倍になるかを調べてもらう必要がある。
個々のピクセルに対し、20枚の連続露出データを3σクリッピングをかけながら最小2乗直線 fit してσの評価をしているため、上の画像は宇宙線などの突発的な影響は除いて処理されている(単純平均を取ると、600s x 20枚ではかなりの密度で宇宙線が入る)。
上記ゲイン x1, x16 の結果をまとめると以下の通り。ゲインは正しく16倍かかっているものとし、暗電流は左列がカウント変化から算出したもの、右側はノイズ変化から算出したもの。
Gain x1 | | Gain x16 |
露出時間 | 平均(ADU) | σ | 暗電流(e/sec) | 露出時間 | 平均(ADU) | σ | 暗電流(e/sec) |
0 | 702.6(0.00) | 18.34 | --- | --- | 0 | 989(0.00) | 29.86 | --- | --- |
60 | 712.7(5.81) | 18.60 | 0.11 | 0.20 | 60 | 1055(49.5) | 39.21 | 0.057 | 0.052 |
600 | 740.1(30.9) | 19.50 | 0.057 | 0.089 | 600 | 1208(191) | 57.49 | 0.022 | 0.019 |
読み出しノイズの大きい1つの可能性として、TriCCS の読み出し回路の ADC は 14bit で、BH-67M の ADC は 16bit という違いが関係している可能性がある。サチュレーションレベルを同じにすると、BH-67M の conversion factor は TriCCS の 1/4 でいいので、その分、高いゲインの状態での読み出しノイズで比較すべきかもしれない。その場合は、上記の感じからすると BH-67M でも 5-6erms 程度になると予想されるので(20erms の 1/4 程度)、TriCCS の読み出しノイズと同程度になる。
読み出しノイズを下げることのできる1つの可能性として、読み出し時のマルチプレクサ切り替え後の AD 変換前に少し間を置く手がある。マルチプレクサ切り替えに伴い、FET にトラップされていたある程度の電子が移動するはずだが、その移動が落ち着く前に AD 変換するとカウントが安定しない。ある程度の読み出し時間を犠牲にして、電子移動の静定時間を設ければ安定する可能性があるが、ビットランからの情報では、マスタークロックの入力だけで 16ch のアナログ読み出し口のデータがどんどん変わっていくそうで、23.8ns 以内に AD 変換しないと次のデータになってしまうとのこと。検出器を製作しているキャノンにこの待ち時間で電子が静定するのか、これを延ばすと読み出しノイズが減る可能性があるのかに関して聞いてみたところ、「可能性はある」とのことだったのでビットランと相談中。
ゲインの倍率をカウント比と Conversion factor の両方から確認するため、光量一定の状態でゲイン x1, x16 の両方で露出時間を変えて 1000 ~ 10000 カウント程度の画像を20枚ずつ取得が完了したとのことだったので、解析してみた。上記の解析と同様、20枚の露出を時間順に並べ、各 pixel のカウントを3σクリッピングしながら1次 fit して平均とσを pixel 毎に評価する。各セットの結果の代表値(画像全体での中央値)は以下の通り。
Gain x1 | | Gain x16 |
露出時間 | 平均 | σ | 測定順 | 露出時間 | 平均 | σ | 測定順 |
0.001 | 721.7 | 18.41 | 15 | 0.001 | 1022 | 33.16 | 14 |
0.250 | 1010 | 23.57 | 8 | 0.017 | 1366 | 71.45 | 13 |
0.500 | 1289 | 27.28 | 1 | 0.034 | 1698 | 94.12 | 12 |
1.000 | 1875 | 34.28 | 6 | 0.068 | 2352 | 128.5 | 11 |
2.000 | 3030 | 44.76 | 5 | 0.125 | 3457 | 170.4 | 10 |
4.000 | 5368 | 61.37 | 4 | 0.250 | 5850 | 237.6 | 9 |
8.000 | 10046 | 85.72 | 3 | 0.500 | 10595 | 332.6 | 2 |
4.000 | 5406 | 61.90 | 16 | 1.000 | 20382 | 472.9 | 7 |
8.000 | 10188 | 86.39 | 17 |
ゲイン x1 の 4秒と 8秒が2組あるのは、計測中の光源の明るさ変化を確認するためのもの。露出時間 0.001秒は bias 画像。ゲイン x1 と x16 で 10000 カウントの画像から bias を引いたものが以下(8000-11000ADU、クリックで全体表示)。

5000 カウントの画像との比例関係を確認するためそれぞれを bias 差し引き後の 5000カウント画像で割ったものが以下(±10% 表示)。

大体平らになるので、2つ上の画像に見えている細かいパターンはリアルな pixel 毎の感度特性のようだ。当然だが、ゲイン x16 だと 10000 カウントでも結構ノイズがある。
カウント - ノイズ関係は以下の通り。

ゲイン x1 での Conversion factor は 1.35e/ADU、ゲイン x16 での Conversion factor は 0.087e/ADU で、ここから出したゲイン比は 15.5。ゲイン x1 での値がビットランより連絡頂いた値(1.10217 e/ADU)より少し大きいが、この一部は3σクリッピングの影響でσが過小評価された影響が考えられる(20回で3σは通常はなかなかクリップされないが、20pixel に対し 1pixel 程度の割合でクリッピングされるものがあるはず)。露出時間とカウントの関係から線形性とゲイン倍率を確認してみると、

線型性からのずれは多分光源の明るさ変化で、測定順に従って変化している感じだ(bias は欄外で関係なし)。カウント比から出したゲイン倍率は 16.9倍で上記と少し異なるが、大体 16倍の倍率がかかっている。ということは、暗電流もゲインによって変化するということになり、何だか疑問が残ってしまったが、大体の特性は確認できたので BH-67M の確認はこれで完了。読み出しノイズや暗電流が分光器の性能にどの程度影響を与えるのかはこれから検討。
その後、杉原くんにクリッピングなしで Conversion factor を計算してもらったところ、
ゲイン x1 : 1.266 e/ADU
ゲイン x16: 0.0809 e/ADU
とのこと。クリッピングの影響で 7% 程度大きい値が出た感じだが、こちらの値は逆に突発的な異常値を含んだ評価になるので、過小評価になっているはず。まあ、2つの値の中間くらい(1.31 と 0.084)が妥当と考えるべきだろう。
BH60
以下、BH-60M のデータで、背景レベルのシフト機能を OFF にして BH-67M と同様 0s,60s,600s でダーク画像を取得。左が20枚平均(500-800ADU)、中が20枚の標準偏差(0-40ADU)、右が20枚の平均-bias 平均(0-100ADU)。Conversion factor は 0.9155e/ADU とのこと。

上左画像の median は 0s,60s,600s の順で 604.1,625.6,630.0、上中画像は 13.82,14.54,14.77 なので、erms にして2乗すると 160.1,177.2,182.8 → 0,17.1,22.7 で全然10倍となってはいないが、暗電流の大きさは 0.038-0.29 e/sec となった。読み出しノイズは 12.7 erms。平均画像の差の median (0, 16.5, 19.7)から計算すると 0.030-0.25 e/sec となりノイズから求めた値とほぼ一致するが、1分と10分での結果の違いがかなり大きい。bias のみ取得時間が離れているので、検出器の状態が異なっている可能性がある(ヘッダはどれも CAM-TEMP=-15.0 だが...)が、イメージに見られる上下部分の暗電流パターンは1分と10分ではほぼ同一なので、大部分の暗電流は1分以内に減少すると考えるのが正しい感じだ。すなわち、読み出し時の発熱で大部分の暗電流が決まるということになる。その場合、1分~10分の間の暗電流は 0.008 e/sec となり BH67M (1分~10分の間の暗電流は 0.051 e/sec)よりもかなり小さい感じだ(空乏層が薄いので)。(しかし、このデータは背景レベルのシフト機能が ON だった可能性が疑われ、購入後のカメラのデータとはかなり異なるものだった...)
デモ機での試験
デモ機が借りられたので、Matrox Radient eV-CL に接続して、millite10.53.1354lnx を用いて読み出ししてみる。注意点は以下の通り。
- カメラリンク接続にはシリアル通信の機能もあり、Radient eV-CL ではシステム起動時に /dev/RadienteVCLS0, /dev/RadienteVCLS1 というデバイス名でマウントされる。BH60 では /dev/RadienteVCLS0 を用いて設定コマンドを送信し、カメラリンクの主機能を使った部分では主にデータ転送のみが行われる。
- millite はシリアル通信部はサポートしていないため、通常のシリアル通信のプログラムに millite のライブラリを混ぜ合わせて制御ソフトを作る必要がある。

BITRAN さんからのヒントなど頂いて、Ubuntu から 16bit で画像取得・fits 書き出しすることができた。あとは連続露出の際の高速化ができたらとりあえずのテスト画像取得用プログラムは完成。

単一の露出プロセスの流れは以下の通り。
- カメラとのシリアル通信を確立
- 露出時間とゲインをシリアル通信でカメラに設定
- 上記2つの値と検出器の目標温度の情報をカメラ側に問い合わせて確認
- millite で受け取り側の環境構築
- millite で待受け状態にする
- 現在の時刻と検出器温度を記録
- カメラに露出コマンド送信
- 露出終了時後に画像バッファポインタ受取と現在時刻確認
- 画像バッファを2次元配列に移し替え
- 画像の平均値と分散を計算
- fits に書き出し
- millite の環境構築を解除
- カメラとのシリアル通信を切断
複数枚連続露出は上記 5~11 をループさせて行うことになる。試しに走らせた所、0.1sec x10 枚でピッタリ2秒だった。大半は disk への書き込みを含む後処理時間だと思ったので、より高速化するために 10,11 の部分を fork で分けて子プロセスに引き渡すようにしてみた。しかし、どうやら millite で環境構築した状態では fork は許可されていないらしく(10,11 では millite のポインタなどは一切使っていないが)、fork するためには一旦 millite で構築した環境を解除しなければならないようだ。仕方がないので 4~9+12 をループさせ、10,11 を fork で処理した所、今度は 0.1sec x10枚で 7.5秒もかかる。結局、millite の環境構築は非常に時間がかかることが判明したため、後者のやり方は却下。前者の方法でもデッドタイム1秒の大半は millite の環境構築時間だったことも判明した。
これ以上高速化したとしても10枚あたり約0.3秒の時間短縮が限界だが、共有メモリを介して後処理の専用プロセスに引き渡す手はある。しかし、その場合セマフォなどのプロセス間通信で処理開始のタイミングを知らせ、後処理が手間取った際にもクラッシュしないようにする必要がある。過去の経験上トラブルの元となりそうなので、とりあえずはやめておこうという感じ。
結局、複数回露出の際には 10,11 を直後の露出の 7,8 の間に入れることでほんの少し高速化できたので、これでとりあえずの読み出しソフトの開発は終了。0.1sec 10枚で2秒弱、100枚で約14秒だった。100枚程度では検出器の温度変化(設定温度0℃)やバイアスレベルの変動は無いことも確認できた。
Conversin factor を計測してみる。
安定化光源の光を32枚の紙で減光し、30cm 長の φ5cm チューブを通して検出器全面に当てる。チューブ端の開口を絞れば検出器上の光度分布がより均一になるが、まあ2割程度は違いがあっても変わらないのでこのままで。試験時は蛍光灯は消灯する(外の明るさは少し変わるが影響はほぼないはず)。下右図は、とりあえず安定化光源の光源安定性をモニタしてみたものだが、電源 ON して十分に時間が経過しているにもかかわらず、結構周期的に暴れていることが判明した。まあ、5% レベルのふらつきはありうるという感じか...
杉原くんに Conversion Factor を計算してもらった結果が以下。gain x1 だと 0.9770e/ADU、x16 だと 0.05865e/ADU で、倍率は 16.7倍。
カメラ冷却箱
カメラの暗電流を少しでも減らすため、ペルチェクーラーを用いた冷却箱を大小2種類準備した。使用したクーラーは、オーム電機株式会社 OCE-F80F-D24 と OCE-F40F-D24 で、ミスミの断熱板で箱を作り空の状態での冷却試験をしてみた(下図上段が大、下段が小)。


小の方だとよほどの湿度でない限り表面の結露はそれほど深刻ではないが、大の方だと水が滴る状態になるので断熱版だけではまずい。内と外にハレパネ を貼ってみる。
マイナス4℃まで冷えるようになったが、案の定、電源 OFF にすると最終的には湿度100%になる。この状態で内部を確認してみたが、水が溜まっているほどの状況ではなく、ハレパネなど水分を吸収するところからどんどん蒸発して供給されている感じだ。何らかの方法で内部を乾燥させるか、外部から乾燥空気を入れて強制換気する機構が必要そうだ。
乾燥空気生成に必要なものを購入。
フィルタレギュレータ SMC AW20-02BCG-A
ミストセパレータ SMC AFM20-02BC-A
マイクロミストセパレータ SMC AFD20-02BC-A
メンブレンエアドライヤ SMC IDG1-02
など。内径 2.5mm のエアチューブで少しずつ流してみる(コンプレッサうるさいので、そろそろ実験室に持っていかないとダメかな...)。下左図のように曲がっていると、多分、メンブレンフィルター内の気圧が上がらず、乾燥能力がかなり低下するようだ(以下の実験結果参照)。
始めの状況から判断すると、乾燥空気は1時間程度で内部の空気を全部入れ替える程度の速さで入っている感じだ。冷却開始後は乾燥空気の注入速度よりも体積収縮による流入の方が上回っている感じだと思ったが、温度が落ち着いてきても湿度上昇が止まらないので、メンブレンフィルタの問題の可能性もあるかと思い、開始後4時間のところでメンブレンフィルタが真っすぐになるようにした(上写真左→中)。これで乾燥空気の供給能力が増した印象だが、7.5 時間のところでの湿度上昇は何もしていないので、何が原因で乾燥空気の供給能力が変化するのかはいまいち不明だ。それにしても、内部の湿度は常温で完全に0になるので今度は静電気が気になる...
BH60 入手
BH60 が納品されたので、デモ機ではできなかった内部観察。セットビスで位置決めされている F マウントスリーブをセットビスを外して取り除き、接続部の状態確認(下左)。4つの M3 タップがあり、この面で分光器に接続する。設計値ではこの面から CMOS まで 18.21mm とのこと。この面でピンホールカメラにすればこの値が確認できると思う。
カメラ下側と上側の蓋を取り外して中を見てみた(下中と下右)。思ったよりも内部は一杯詰まっていて、風通しは結構大変そうだ。カメラ冷却箱大の方のファンの風は結構強いので、この中にダクトで導入すると流れが悪くなって冷凍機の性能が十分発揮できない可能性はありそう。直感的には冷却箱小の方が規模的には良さそうだ(カメラの発熱次第)。

杉原くんに Conversion Factor を計算してもらった結果が以下。gain x1 だと 0.9658e/ADU、x16 だと 0.05853e/ADU で、倍率は 16.5倍。デモ機とほぼ同じ結果だ。

ピンホールでフランジ面から検出器までの距離を計測してみる。ピンホールは、HDD 円盤にアルミテープを貼り、中央に針で穴を空けたもの。これをカメラのフランジに押し付けて固定し、曲尺を光学ステージで±50mm 動かして画像サイズの変化を計測する。


130 と 170 の間の4cm のピクセル間隔を計測すると上左図から 433, 264, 190 pix だった。ピクセルピッチ 19μm なので、ピンホール - 検出器間を x mm、上左図状態でのピンホール - 曲尺間の距離を y mm とすると、
y/40=x/(0.019x433)
(y+50)/40=x/(0.019x264)
(y+100)/40=x/(0.019x190)
より、第一式と第二式で解くと x=16.06、第一式と第三式で解くと x=16.08 となるので、18.21mm より小さくなってしまうが、間に厚さ 2mm のカメラ入射窓(B270 屈折率 1.523)と 厚さ 0.7mm の検出器カバーガラス(材質不明)が入っているので、屈折率が同じとしてこの影響を補正すると 2.7x(1-1/1.523) =0.93 だけ増やした距離が実際の距離ということになる。その結果、17.00mm というのがピンホール - 検出器間の実測値となり、これはほぼフランジ - 検出器間の距離に等しいはず(アルミテープのたわみの分だけ前後するが...)。設計値より 1.2mm も距離が近く、ビットランに問い合わせると 1mm も近いと組み立てできないとのこと。何かがおかしい感じだが、ピンホールでの測定は原理が簡単なので間違えようがない。アルミテープで 1mm もたわむとは思えないが、再度確認してみる必要がありそうだ。
とりあえず、冷却箱の中に設置してみる。クーラーの風ができるだけカメラ内部を通過するようにファンのはみ出ている部分をプラ板で囲い、上部を塞ぐ。湿度計を入れる穴がなくなってしまったので、温度計2個のみで湿度を予測してモニタする(乾燥空気が供給されていれば絶対結露はしないと思うが、乾燥空気の供給が止まった場合も検知できるかも試験する)。ケーブルの太さを考えて、カメラの背面の空間をもう少し広くすべきだった...

カメラを入れての冷却試験中の温度変化が上左図。赤は乾燥空気吹き出し口の温度、緑は冷風吹き出し口の温度、桃と青は室内の温度(2つの違いは Pt 抵抗の場所の違いだと思う)。さすがに、中にカメラが入っているとそれほど低温にはならず、室温から20℃弱までしか下げられない感じ。カメラの2段ペルチェは外気温から40℃下げることができるので、合わせて 60℃までは冷却できそうだがカメラ側の温度設定が -20℃までしか受け付けないことにここで気がついた。下限を -30℃にすることが可能かどうかをビットランに検討依頼した。上左グラフで、6.5時間位でボックス内温度に変化が見られるのは、カメラ側の温度設定を -20℃から -15℃に変更したためで、発熱が減った分温度が下がったと考えられる。15時間過ぎあたりで一旦乾燥空気の供給を止めた所、乾燥空気吹き出し口の温度は速やかに冷風吹き出し口の温度と同じになったので、両者の温度が同じである場合は乾燥空気の供給が停止しているものと判断することができる。
上中写真は、15時間過ぎでの状態。カメラと繋がっている部分の外側は盛大に結露しているが、内部は乾燥空気が供給されているため問題ない。実際の分光器でもこういう状態になることが予想されるので、カメラに近い部分は何らかの結露対策をした方がいいかも。また、乾燥空気のエアチューブは透明なものだと外部の光が入りやすいので、黒にすべき(+アルミテープで穴付近は遮光)だと思った。
冷却ボックスは現状では常にフル運転なので、季節ごとの内部温度の変化が激しい。温度計には温度制御機能がついているので、ペルチェの電源を温度計の機能で制御して内部温度が一定にできるかと思ったが、説明書を見ると、ヒーターでの制御しか想定されていないので使えない。リレーを使ってパラレルポートからの制御してボックス内の温度を 23℃で制御してみたのが上右図。まあ、冬場に内部温度10℃にするとこんな感じになりそう。ペルチェコントローラというものもあるようだが、冷却箱大の方のペルチェは24Vで最大14Aのようで、このクラスのコントローラは20万円は越える感じだ... 購入するかどうかはお金次第かな。
再度ピンホール試験。今度はより中央穴の小さな 2.5インチHDD を用い、中央の針穴は針で突いた後で上から剥離紙で押さえてピンホール部のアルミテープの変形を無くした。また、固定はテープでなくネジで行い、フランジへの密着度をより高めた。測定は時間を置いて2度行い、全く同じ計測値が出ることを確認した。


上図の 75 と 115 の間の 4cm のピクセル間隔を計測すると下図左から 542,305,213 pix だった。上と同じ式で x の値を計算すると、第一式と第二式から x=16.57、第一式と第三式から x=16.67、第二式と第三式から x=16.77 なので、3つの平均の 16.67 を最終値とすることにした。前回の測定よりも 0.6mm 増えたが、この程度はアルミテープのたわみがあった可能性はある。設計値とのずれは 0.6mm で、この程度は F マウントのネジによる調整しろに残しているものと考えられる。
冷却箱小の方での試験もしてみた。冷却箱大の方の試験時と同様、赤は乾燥空気吹き出し口の温度、緑は冷風吹き出し口の温度、桃と青は室内の温度だが、緑の温度計の場所が変なところになってしまったようで、箱内の結構温度の高い部分を計測してしまったようだ。エアコン環境下で検出器温度を0℃にして箱内の冷却を開始、途中で検出器温度を -15℃に変更したところ室内温度に対し約5℃低い温度で落ち着いた(?1h 辺り)。この温度であれば乾燥空気を供給する必要はないと判断し、箱内の温度を少しでも下げるため、乾燥空気の供給を停止したところ箱内の温度は1℃下がって気温差は6℃になった(?2h 辺り)。その後、検出器温度を -20℃にして更にエアコンを止めて様子を見たところ、箱内の温度は上昇する一方で室内温度と逆転しそうな状況だったため(?3.5h 辺り)、検出器温度を0℃に戻ししばらくしてカメラと冷却箱の電源を OFF にした。冷却箱小はカメラ側のペルチェ稼働率が上がってくると逆に熱がこもってしまうので、使えないという結果となった(カメラのペルチェの最大発熱量を先に確認しておくべきでした...)。
となると、冷却箱大の方の温度制御を結構お金をかけてしないといけないが、他に優先度の高い支出項目が沢山あるので、これはしばらくは手動スイッチでやることにする。
dark の値が購入前の調査の時よりも数倍大きく、それは-10℃より温度を下げてもほぼ減らない事が判明した。以下の図は、温度、露出時間、gain を変えて dark (e/sec) を 0-1e/sec で表示したもの。スペクトルは中央部水平方向に写るので、?0.3e/sec 程度の領域を用いることになる。上段は露出時間2000secで温度を 10→-20℃まで-5℃刻みで7枚を表示したもの、下段は温度-20℃で露出時間を2→2000secまで10倍刻みで4枚を表示したもの、左列は gain x1 で右列は gain x16。

温度 10,5,0,-5,-10,-15,-20℃での dark の変化(左:gain x1, 右:gain x16)

露出時間 2,20,200,2000sec での dark の変化(左:gain x1, 右:gain x16)
上段を見ると、dark はパターンも値もどちらも -10℃以下ではほぼ変化しないことがわかる。下段を見ると、以前の調査時のような露出開始直後のみが dark が大きく露出中の dark は小さいというようなことはなく、露出時間が 200sec と 2000sec で dark はほぼ同じ(カウントは露出時間に比例)であることがわかる。また、左右でほぼ同じ結果であることから、dark の値は gain によらないというごく当たり前の結果となった。BH60 の通常の製品は内部で自動的に dark の影響を補正する処理が行われるので、以前の調査の際はその機能を OFF にして画像を取得してもらったはずだが、完全には OFF できていなかったのではないか、という印象だ...。それにしても、dark は冷やせば冷やすほど減っていくと思ったのに、-10℃以下ではほぼ変化しないという結果は結構インパクトが大きい。冷却箱は外気温が30℃を超えた場合に少しだけ効果があるという程度になってしまった。検出器の上下端は読み出し時のみ光るのかと思っていたが、どうやら定常的に光っている感じだ。露出中にどうして光るのか全く理解できないが、仕方がない...
上下端の dark が温度変化しないことを確認するために、2000sec の画像で 10℃と-20℃の差を取ってみたのが下図。左は gain x1 で右は gain x16 で 0-0.5e/sec で表示したもの。

ちなみに 0.3e/sec はこの装置の波長分解能の場合、システム効率20% と仮定するとどちらの波長帯でも ?15mag/□" の背景光と同程度なので、結構深刻だ。
上下の光の明るさは日によって変化する可能性があるのではないか、という TriCCS での経験に基づく木野くんからの助言があったので、1分 dark を検出器 -15℃、gain x16 で無限ループで取得することにした。カメラの排気温度、湿度、気圧を同時に fits header に記録して明るさの変化がどういう条件で現れるのかどうか調べてみる。
試しに3日ほど走らせてみたが、特に変化はなさそう。キャノンの話でもこの素子の発光には対策はないとのこと... う?ん、とりあえずはこれでなんとかするしかない。

BH67 が来たので、-20℃ で早速 Conversion factor と Dark の測定...
- 波長較正ランプ
波長較正のためのランプは何を使えばいいのか、恒星グループの中で情報収集してもらったところ、本田さんより HDS で用いている Th-Ar でも MALLS で用いている Fe-Ne-Ar でもどちらでも良さそうとの情報を得たが、どちらのランプも現在では入手困難とのこと。Hα 付近の輝線本数では前者の方が良さそうなので、とりあえず、Th と Ar の輝線がどのように混ざっているのかNISTのデータを用いて調べてみた。以下の図は Th, Ar の輝線分布。

これを 395nm と 656nm 付近で拡大して、HDS の Th-Ar ランプデータと比較したのが以下。全て Th の輝線だけのような感じなので、Th のみのホロカソードランプを手配してみる。

Th はどうやら何らかの危険物指定となっていて、ホロカソードランプに使うことができないようだ。Fe-Ne-Ar で考えてみる...

これを 395nm と 656nm 付近で拡大して、MALLS の Fe-Ne-Ar ランプデータと比較したのが以下。Fe-Ne のホロカソードランプの見積を取ってみる。

どうやら、Fe-Ne も特注になってしまうようなので、Co-Cr-Cu-Fe-Mn-Ni というものの見積り依頼中...

|