天文学と社会分科会

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座長からのメッセージ


この文章を読んでいる若手の皆さんの多くは、将来研究者として大学や研究 機関に就職することを希望しているのではないでしょうか。しかし、研究者の 仕事というのは研究だけでいいとは限りません。大学や研究機関、公共施設等 の天文・天体物理学に関する機関に就職する場合、教育や普及活動は研究活動 と並んで重要な仕事となることがあります。しかし、我々のように学生として 研究を続けている段階では、よほど興味のある人でなければ教育や一般普及に ついて真剣に考える機会は多くないのではないでしょうか? 私たちは学校や 科学館などでかつて科学の楽しさを習ったことから研究者を目指しているにも 関わらずです。そこで今回、当分科会では【天文教育】をテーマに取り上げ、 我々研究者予備群が将来関わっていくであろう、教育・普及活動について考え る場をさまざまな視点から提供したいと考えています。
上記のような目標のため、当分科会では招待講師としては実際に様々な現場 で天文教育に率先して関わっている方々の中から、次の三人をお招きします。

●大学教員の立場から 『岡村定矩さん』 (東京大学)
●教職の立場から 『縣秀彦さん』 (国立天文台)
●科学館職員の立場から 『鈴木麻乃さん』 (愛媛県立総合科学館)

講師の方々には、各々の立場でどのような教育・普及業務があるのか、また、 その実体験など通して天文教育の意義やその必要性についてのお考えをお伺い する予定です。また、講師の方々のお話を参考に、我々若手は将来にそなえて どのような心積もりが必要か、どのような態度が必要なのか等を議論していき たいと思います。
また、当分科会はセッションの他に一般講演(3分講演+ポスター)も募集し たいと思います。テーマは「天文学と社会」に関することなら、天文教育に限 りません。自分の専門以外のことについて議論できるのも夏の学校の醍醐味だ と思います。みなさまのご参加をお待ちしております。

招待講演

title: 「天文学の裾野を広げよう」

speaker: 岡村定矩(東京大学大学院理学系研究科・教授)


新聞に掲載される記事などマスコミ報道の頻度から見れば、天文学 は日本社会の人々の間で高い関心を持たれているように見える。し かしながら、人口100万人あたりのIAU(国際天文学連合)メンバー数 で見ると、日本は3.8人で世界第28位とふるわない。欧米の先進国の 多くは日本の2倍以上の割合である。また、天文学に限らず自然科学 一般の基礎知識(リテラシー)の普及度で見ると、日本は先進国の中 で極めて低いことも指摘されている。このような社会状況の中で天文 学の裾野を広げ、その社会的プレゼンスを高めるにはどうすればよい かを長期的視点で考えたい。(1) インターネットの利用などで従来とは 比較にならないほど多様な形で展開されている「天文普及活動」は重 要な要素である。初等・中等教育のなかにこのような活動を組み込め ないか。(2) 高校の「地学」の位置づけを見直す必要はないか。(3) 子 供の教育に大きな影響を持つ若い女性に対して、天文学を含む基礎 科学の啓蒙活動をどう進めるか。(4) 科学の進歩が人類に災いをもた らしたとする「科学は悪」という思想に対し、「地球という惑星の上で人 類の悠久の生存に科学は必須である」という思想を普及させるにはど うすべきか。これらのテーマに関して具体的な方策を参加者と一緒に 考えたい。


title: 「国立天文台の教育普及面における社会貢献」

speaker: 縣 秀彦(国立天文台天文情報公開センター・助手)


 国立天文台は,現在,文部科学省の大学共同利用機関の一つで,職員数はハ ワイ,水沢,乗鞍,岡山,野辺山ほかの観測所員も含め,約280名である.  近年,情報化社会の成熟に向け,国立天文台のような研究機関に対しても, 広く一般社会への情報公開や教育普及面での社会貢献を求める要請が高まって きていた.このような中,1998年4月に,国立天文台の新しい組織として,「天 文情報公開センター」が発足した.同センターは,「広報普及室」「新天体情 報室」「暦計算室」の3室からなり,国立天文台の広報活動に限らず,広く天 文学全般を一般社会へ普及・啓蒙したり,新天体発見に関する業務,暦の編纂 業務を担当している.  国内の他の研究機関の場合,広報活動は事務方の仕事である場合がほとんど であり,研究職の人間がDutyとして行う広報は素人仕事の限界はあるものの, これからのアウトリーチのあり方として注目されている.講演では,具体的な 教育普及の取り組みとその評価および裏話などをご披露したいと思う.


title: 「新米学芸員のウラ話〜博物館における天文教育〜」

speaker: 鈴木麻乃(愛媛県総合科学博物館・学芸員)


私は博物館で働く天文担当の学芸員です。ほんの2年前に就職したばかりの 新米なので、天文教育という大きな怪獣と大奮闘の毎日です。天文教育と言っ ても、博物館で行う事業はいわゆる「教育」のイメージとは少し違ったもので す。つまり、強制的な教育ではなく、一般の人が求めてくる天文情報に対して サービスを行う訳です。世の中の人が持っている天文学のイメージ、皆さんは 知っていますか?たまにびっくりするようなコトを聞かれたりして、現場には 楽しい裏話がかなり転がっているんですねえ。そんな博物館の裏話を交えなが ら、社会教育施設での天文教育事情をご紹介したいと思います。  ただし、分科会のテーマである「天文教育」について、そのなんたるかを語 ることは今の私にはできません。天文教育と言われる分野にどっぷり漬かって いながら、「天文教育って必要なのか?」という疑問は常に頭を回っているか らです。それじゃあ、なぜ学芸員をやっているのか?それに対する答えだけは、 最近ぼんやりと分かってきました。若手研究者の皆さんに何かを伝えることが 私にできるとは思えませんが、私の話がこれから科学館・博物館に就職を考え ている方、また「天文教育って必要なのか?」と疑問に思っている方の参考に なればと思っています。


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