京大3.8m望遠鏡計画


岩室 史英 (京大宇物)   2009年6月
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/abst6.html


● 京大3.8m望遠鏡計画とは

次世代超大型望遠鏡の日本版プロトタイプとして国立天文台岡山天体物理観測所敷地内
に建設予定。京大宇物・附属天文台、国立天文台岡山、名大Z研、(株)ナノオプトニクス
・エナジーの共同開発で、2012年完成を目指す。

日本付近には口径3m以上の汎用望遠鏡が無く、突発天体観測の空白地帯。
岡山観測所の東丘が建設予定地。

技術的課題

  • 研削による鏡面形成
  • 分割鏡制御
  • 軽量架台


● 研削による鏡面形成

ナノオプトニクスの所有する研削盤(ナガセインテグレックス社 N2C-1300D)

リッチクレチエン主鏡形状の形成過程。5〜6 回のイテレーションで 0.5μm
以下の形状誤差に収まってく過程

研削時に鏡材を置く台、通称もぐらたたき。形状測定時には、望遠鏡上と同じ27点で
支持する。研削時はターンテーブル上にこの台を載せ、その上に鏡材を置く。

CGH 干渉計

CGH マスクを用いた干渉計で軸外し非球面形状を測定する。
干渉計本体部は名大Z研でほぼ完成し、光学性能確認中。

京大3.8m望遠鏡の分割鏡用の CGH マスク設計結果


● 分割鏡制御

分割鏡を全体で1枚の鏡として機能させるには、光軸方向の相対位置 50nm の精度で分割鏡を
支持する必要がある。そのためには高精度のアクチュエータと高精度かつ安定した位置測定
機構が必要である。

分割鏡の位相が揃っていくときの点光源像の変化。

左) ハーモニックドライブシステムズ社の高精度アクチュエータに10:1変換のてこ機構を
組合せたもの。分解能7nm、短い距離での位置再現性は 15nm 程度。右) シグマ光機社製の
相互インダクタンス測定タイプの非接触センサ。分解能は最大 5nm、測定原理に抵抗を含ま
ないため温度変化などの環境変化の影響を受けにくい。

実際の望遠鏡トラス構造の一部と支持機構を組み合わせ、ダミー鏡材で制御試験中。

位相測定カメラ

分割鏡間の位相差は非接触センサーでモニタされるが、センサーの安定性の問題が
あるため、正確な位置は定期的に光で確認する必要がある。2つの鏡の境界部分で集め
られた光は、位相がずれると回折像のピークが2つに分裂することを利用して、Keck
などでは天然の星の光で測定しているが、波面の乱れのサイズ(Fried parameter)が
国内では7cmと小さく、困難が予想される。そこで、3.8m望遠鏡ではレーザー自己光源
を用いた測定方法を検討している。

2つの鏡の境界部分で集められた光の鏡の位相差による形状の変化。

実験室内で鏡のずれによる回折効果を確認した。

単色の情報だけでは、周期的に同じ状態が現れて正しい位置を決定することができないが、
多色レーザーで異なる4波長について回折像の形状を測定することで、±10μm 以内の
範囲内で正しい場所が決定できる。

ハーフミラーホルダ試作品。固定・調整精度が十分であることを確認した。


● 軽量架台

超巨大望遠鏡では、通常の架台では自重変形が大きいことと建設コストがかかることから、
軽量強固なトラス構造による架台が必須である。更に、主鏡支持部分の相対位置変位が少なく
かつ適切な重量の最適解を探すことが重要であるが、名大大森研の協力により遺伝的アルゴ
リズムによる最適化を施したトラス構造が得られている。

トラス構造部分は名大で組み立て終了。
Rガイド部など完成次第、高度軸部の組み立て調整に入る予定。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp