Introduction


0.はじめに  大宇陀観測所へようこそ。当観測所へ足を踏み入れることは、天体との楽しい出 会いと、サバイバルゲームの日々の始まりでもあります。そこで、初めて当観測所 を利用される観測者にできるだけ早くその雰囲気を理解してもらいトラブルに対処 する方法を身につけてもらうためにこのユーザーズマニュアルを作成した。このマ ニュアルは項目毎に独立しているので、必要な箇所だけを拾い読みすればよいよう になっている。ただし、これは大宇陀観測所に関する事項全般を扱ったものであり、 あくまでイントロダクトリマニュアルと考えてほしい。個々の観測装置に関しては 別途に詳しいマニュアルが観測所に常備されているので、実際に使用する時には必 ずそれらのオリジナルマニュアルを参照すること。このマニュアルではプリンター 出力の制約により写真や図版の組み込みができないこととページ数の制限のため各 装置の説明はオリジナルの簡約版になっている。このユーザーズマニュアルに関す る質問等は冨田まで。 1.大宇陀観測所の紹介    京都大学理学部宇宙物理学教室 大宇陀観測所          〒633-21 奈良県宇陀郡大宇陀町守道          東経 135°57′21″ 北緯 34°28′02″         標高 388.5 m      電話 07458 - 3 - 3110 1.1.大宇陀観測所のこれまで  1972年5月京都府福知山市奥岡に設置された京大シュミット望遠鏡観測室は、 40cmシュミット望遠鏡を用いて試験観測を借地の期限切れのため1976年3 月閉室となるまで行った。この望遠鏡の光学系の設計と研磨は大阪工業技術試験所 が行い、鏡筒及び赤道儀の製作は(株)ユーハン工業が担当した。その後1年間の 空白を置いて、1977年3月に奈良県宇陀郡大宇陀町守道に大宇陀観測所として 40cmシュミット望遠鏡を中心に新たな一歩をふみだした。銀河系の構造、星間 物質、赤外線天体、M型星、輝線星等の観測がこの望遠鏡に適した研究テーマとし て盛んに行われ、その外に彗星の観測、また焦点距離や限界等級の点でやや不利に も関わらず系外銀河や銀河団などの観測も行われた。  1987年には、(株)五藤光学研究所との共同研究によりわが国で最初の60 cmリッチー・クレチアン光学系が完成し、従来のシュミット光学系とそっくり入 れ換えられた。これは、天体の物理観測を行いたいという要望に応えたもので観測 装置も写真カメラのほかにCCDカメラ、多天体測光器、CCD分光器、分光撮像 器などがしだいに装備され、エレクトロニクス化が進められてきた。高感度のCC Dカメラの導入によりそれまでの写真では5mクラスの望遠鏡でしかできなかった 観測が60cmクラスで行えるようになり、対象天体もより暗いものに移った。現 在は、セイファート銀河などの活動銀河の単色像撮像、激変星などの非常に暗い天 体の測光観測が盛んに行われている。年間の延べ観測者数を1日当りの平均滞在観 測者数に直すと、年間を通じて毎日1人の観測者が滞在していたことになる。写真 観測のときは最大でも一晩で数枚の乾板を撮影するぐらいであったのが、最近では 一晩で1000フレームを超えるデータを得ることができ、データ解析システムの 重要性がますます大きくなってきている。  1991年には電子機器の動作環境を確保するために観測室内に新たにコンピュ ータ室が増築されエアコンも完備して快適な環境で観測が行えるようになっている。 建物に関しては残念ながら福知山観測室以来のスライドルーフのままであり、望遠 鏡や観測装置にとって良い環境とはいえない状況であるが、90cmクラスの望遠 鏡計画とともに毎年ドーム化の予算要求をしてきている。 1.2.主な観測装置  当観測所で使用できる主な観測装置を紹介する。ただし、望遠鏡本体、写真カメ ラ、CCDカメラ以外の装置については非公開のため、利用したい人はそれぞれの 装置の製作者に相談すること。  ・60 cm Ritchy-Chretien 望遠鏡    光学系は、2枚の非球面鏡と補正レンズ系からなり、リッチー・クレチエン    系であることから球面収差とコマ収差は無い。また、カセグレン焦点と比べ    て視野を広く取ることが可能で、現在は視野1度の補正レンズ系を視野を使    用している。星像はこの視野内で波長範囲 3650 - 10140 オングストローム    で 0.5 秒角以下を設計上達成している。しかし、鏡面研磨の最終精度と光    軸調整の困難なことから、ハルトマンテストを用いた調整により最良の時で    1.1秒角が現在の到達点である。これは、平均的なシーイングサイズ(2    〜3秒と考えられる)と比較して満足できるものである。    鏡筒と赤道儀架台は40cmシュミット望遠鏡のものをそのまま流用してい    ることになっている。望遠鏡コントロールはコンピュータからできるように    なっている。  ・写真カメラ    16cm角の大きさの乾板を使用する写真カメラが用意されている。乾板ホ    ルダーの直前に複数枚のガラスフィルターを入れることができる。乾板スケ    ールは43秒/mmで、視野は1.5度になる。ただし、収差補正は 1.0 度    の範囲である。  ・CCDカメラ    フォトメトリクス社(米)製のCCDカメラを使用することができる。CC    Dチップは Thompson TH7882CDA で、クライオスタットに入れられ液体窒素    により -120℃にまで冷却して用いる。ピクセルの大きさは 23μm×23μm    で、576×384 の配置となっている。60cm鏡と組み合わせて使用する場    合の視野は 6.4′×8.8′であり、1ピクセルあたりの分解能は殆ど1秒で    ある。このチップは、紫外線にも感度を持つようにコーティングが施されて    いる。リードアウトノイズはピクセルあたり7電子であるがプリフラッシュ    を与えるために実質は 12 電子ぐらいになる。AD変換の幅は14ビットで、    約 16,000 のダイナミックレンジを持つ。読み出された画像データは一旦    カメラコントローラー(CC200)のメモリに蓄えられ、コントローラー    のCPUにより簡単な処理を行うことができる。CC200は、GP−IB    インターフェイスによりホストコンピューターと接続されており、ホスト側    の観測プログラムから観測を実行できるようになっている。  ・多天体光ファイバー測光器(MOP)    望遠鏡焦点面上の天体像を4つ同時に、小さなレンズを通して光ファイバー    に導きチョッパーを使ってシリアルに切り替えながらフォトマルにより光子    カウントする装置である。マニピュレーターは、焦点面の4組のX−Yステ    ージに取り付けられ接眼鏡を用い天体をダイヤフラム内に導入することがで    きる。フォトマルは浜松フォトニクス製 R943-02 で、ドライアイスにより    冷却している。フィルターターレットに標準で用意されているのはジョンソ    ンのUBVとクロンのRIである。    測光機コントローラーとホストのパソコンの間はGP−IBで接続されてお    り、パソコン上のヴィジュアルな観測プログラムにより楽しく測光観測を行    うことができる。    目的天体、比較星、空を同時に観測できることから、天候の変化の影響を受    けにくく、いわゆる測光夜でなくとも望遠鏡のマシンタイムを有効に生かし    た観測ができるのが特徴である。また、CCD測光との違いは、光子カウン    トを行っていることにより明るい天体の場合には高い時間分解能の観測が可    能となる点である。    非公開の観測装置のため、利用したいひとは大谷浩氏に相談すること。  ・星雲撮像分光器(SNG)    スリット分光器とCCDカメラ、望遠鏡コントロール装置を組み合わせてコ    ンピューターにより統一的に制御することにより、2次元的に広がった天体    をスキャンしてそのスペクトルを次々に撮像する装置である。原理的には、    太陽観測で用いられているスペクトロヘリオグラフと同じである。得られた    3次元データキューブを専用の解析プログラムを用いて処理し、多くの輝線    に対応する単色像を得ることができる。    干渉フィルターを用いて得られる単色像との違いは、干渉フィルターの分光    透過曲線は鈍った形をしているのに対して、SNGの見かけの透過曲線はほ    ぼ矩形であることにある。また、銀河などの観測ではレッドシフト毎に多く    の干渉フィルターを準備しなければならないが、SNGの場合にはデータ処    理の段階で透過曲線の特性は幾らでも自由に取ることができる。    非公開の観測装置のため利用したい人は小杉城治氏に相談すること。また、    普通の分光器としての利用については平田龍幸氏と相談のこと。 1.3.観測所の運営  観測所の運営に関しては、宇宙物理学教室内に一年任期の職員・院生からなる大  宇陀観測所運営委員会が置かれており、定期的に会合をもっている。委員会では、  観測所予算の作成、観測プログラムの決定、事業計画等の運営をおこなっている。  1993年度の運営委員は大谷浩、平田龍幸、冨田良雄、加藤太一、青木賢太郎  の5名である。  教室のコピー室入口横には大宇陀観測所専用掲示板が設けられており、運営委員  会での議論内容、決定された観測スケジュール表や当観測所で行われた観測のト  ピックスなどが掲示されている。  また、電子メールシステムを利用した観測所に関連する様々な情報(観測プログ  ラム、観測所のステータス、新天体情報など)の交換が行われている。 1.4.観測所の利用資格と申し込み方法  当観測所は宇宙物理学教室の施設であり、当教室の大学院生(及びそれに準ずる  もの)、教職員、指導教員に引率された学部学生が使用できる。外部からの使用  は当教室の構成員との共同研究として申し込むことができる。  4月からの約3カ月毎に区切って観測プロポーザルの募集を行う。予定のはっき  りした、観測や学生実習のスケジュールの確保のためである。しかし、細かいス  ケジュールの調整等のために実際は1月ごとにもプロポーザルの受付をして観測  スケジュールの調整行っている。募集要項は教室の観測所専用掲示板に掲示され  るので、所定の観測申し込み用紙に記入し、近くの運営委員に締切日までに手渡  しておくこと。 1.5.観測所への交通手段  大宇陀観測所への交通手段には、自動車または電車・バスを利用する2通りの方  法がある。  自動車で観測所にゆくときは、所用時間は約3時間弱である。電車とバスでゆく  場合には、約3時間弱かかる。教室からのお薦めコースは出町柳駅から京阪電車  で丹波橋駅まで行きそこで近鉄電車に乗り換え京都線の大和八木駅で榛原方面行  きの各駅または急行に乗り換え榛原駅でおり菟田野行きのバスに乗り岩崎橋でお  り、あとは徒歩20分で観測所に着く、途中にスーパーマーケットがあるのでそ  こで食料品を購入しておくと便利である。

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