研究紹介 稲垣省五(いながき しょうご)(京都大学大学院理学研究科 教授)

 自己重力系の統計・熱力学の研究をしている。主な研究対象は、球状星団、宇宙の大規 模構造、小西・金子系である。
 私の研究している自己重力系は、ニュートン力学で記述 される。今更、ニュートン力学の研究をと思われる節もあるかもしれないが、運動方程式が分かっていたからと言って、系の性質が分かるものではない。3体問題でさえ、解析的には解けない。
 自己重力系の統計・熱力学的性質は、実験室の通常の物質と大きく 異なる。例えば、比熱が負になることである。自己重力系で、温度の高い部分と温度の低い部分が接触していると、温度の高い部分の温度はより高くなり、温度の低い部分は より温度が低くなる。これを重力熱的破局と呼ぶ。重力熱的破局が起こるのは、温度の 高い部分から温度の低い部分に熱が流れると、(自己重力系では重力と圧力が釣り合って平衡形状を保っているため、熱を失うと重力の方が強くなるため)温度の高い部分が 収縮し、かえって温度が上がることによる。温度の低い部分がより温度が低くなるのは 、その逆の過程による。このように自己重力系の統計・熱力学性質は通常の物質と異な るが、それを支配する物理は通常の物理である。
 小西・金子系という言葉は聞き慣れないかも知れないが、円形の輪にN個の粒子があり、お互いに引力で引き合っている系で 、1次元重力系と関係が深い。小西・金子系は初めカオスと関連して研究されたが、私 はその統計・熱力学的性質を調べている。宇宙物理学の研究には、このように現実の宇宙や観測と関係なくても重要な分野があることを強調したい。

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