大型バイコニックミラー製作の現状
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/NIS/biconic.html

岩室 史英 (京大宇物)


●バイコニックミラーとは?

  • 縦断面と横断面で光学パラメータが異なる光学面。
  • 通常の回転対象な2次曲面が曲率(curveture)と円錐定数(conic constant)の2自由度で
    定義されるのに対し、それぞれが x,y 2種類になるため4自由度を持つ

●利点と欠点

  • 利点
    自由度2倍なので複雑な反射光学系では鏡の枚数を最大半分にまで減らせる

  • 欠点
    製作が難しい(加工機の精度向上でこの点はかなり克服できている)
    検査が難しい(ヌルレンズは製作困難)
    配置時の調整が複雑(回転も影響するのと光軸方向の配置精度も厳しい)

    現在は、小型のミラーを切削加工で機械精度で製作して検査せずに利用という程度の使われ方
    大型のバイコニックミラーや複数枚のバイコニックミラーを用いた装置は存在しない

●作ってみた

  • 近赤分光器
    バイコニック6枚のみ、凹面は2面ずつ1つの鏡材に加工し調整の自由度を減らす

  • 必要な精度
    波長が近赤外線でかつコア径100μm のファイバー分光器なので、通常の回折限界精度よりも20倍悪い精度で良く、鏡6枚に割り振ると1枚あたりは8倍悪い精度でも大丈夫ということになる。波長1μm として通常必要な精度は ±1/8μm なので、必要な精度は±1μm でこれを目標値とする。

  • バイコニック鏡
    材質はクリアセラム-Z (HS ではない方)
    大きさは 58cm x 30cm と 57cm x 34cm の2種類
    曲率半径は 43cm〜80cm (もちろん1面で2種ずつ)

●拡張フーコー法

    通常のフーコーテストは、ナイフエッジを使って結像点から外れた光が鏡のどの部分からやってくるのかを調べる方法だが、バイコニック鏡では数cm サイズにまでしか光が集まらないので、この手法を応用して任意形状の凹面を検査する手法を考案した。

  • 概要
    光源とピンホールを xy ステージでスキャンして動かし、鏡面の法線方向を調べていく
    この情報を積分することで面形状を得る(SH カメラのような感じ)

  • 利点
    原理がシンプルで非常に安価にシステム構築できる

  • 欠点
    ピンホールの回折限界がある原理上、計測精度は1μm 程度が限界
    ピンホールでスキャンするため、1回の計測に時間がかかる
    対象面までの距離が不明なため、曲率の絶対値を決定することができない

  • 測定結果の例
    1点1枚ずつ取得した画像を 101x101 枚重ねたもの。鏡面全体が1回のスキャンでカバーできない場合は、計測面を幾つかに分割して計測し、結果を繋ぎ合わせる。

  • 結果
    修正研磨を1度行っており、その前後でのこの手法での結果比較。
    修正研磨は光の当たる範囲のみで、1A は中央ベルト部分のみ修正、その他も周辺部はそのまま
    大体±0.8μm 内に入ったが、曲率成分など不定部分も残る

    Mirror 1AMirror 1BMirror 2AMirror 2B








    そもそも1枚に2面加工しているので、その相対位置の確認も必要。

●超高精度三次元測定機 UA3P での計測

    パナソニック プロダクションエンジニアリング社製 超高精度三次元測定機 UA3P でミラー形状を計測して頂ける機会があり、その結果が以下。

  • 利点
    接触式の機械計測の為、どのような形状でも計測できる

  • 欠点
    大型ミラーの計測にはかなりの大型装置が必要で、通常は高コスト
    1点計測のスキャンなので計測に時間がかかる

  • 計測の概要
    X 方向 0.1mm ピッチでの計測を Y 間隔10mm でジグザグ計測(約10万点/22分)
    Y 方向 0.1mm ピッチでの計測を X 間隔10mm でジグザグ計測(約10万点/22分)
    全面を一度に計測できないため、の3回に分けて計測
    接触点となるプローブ先端は φ1mm セラミック
    X,Y それぞれのスキャン方向の結果を用いて互いのセンサの0点ドリフトを補正する


    計測中の計測ヘッドの移動パス(縦方向1/2縮小、●が始点で○が終点)

  • 結果 (縦方向1/2縮小)
    色は 1.5μm 以上, 0.5~15μm, -0.5~0.5μm, -1.5~-0.5μm, -1.5μm 未満
    Mirror 1 は A面とB面で最終的に1μm 程度の高さの差ができたが問題なし
    Mirror 2 は A面とB面が V 字になっており、設計値を許容範囲内でこれに合わせることで対応

    Mirror 1XMirror 1YMirror 2XMirror 2Y傾き変更前








    UA3P は計測時間の都合上密なグリッドでの計測ができない。そのため、全体的な形状は UA3P の結果を用い、細かい構造部分を拡張フーコーの結果で埋めることで、全体的に正しい形状誤差マップが作れる。修正研磨はこのデータをもとに行った。

    修正研磨後の UA3P の計測は、上中下領域の再現性がやや悪く境目に段差が残っている...

    Mirror 1Mirror 2








●引きずり3点法

  • 概要
    3本脚のブロックに等間隔で3本のレーザー変位計を配置し、局所的な曲率を計測する
    干渉計モードで計測できるのが理想だが、干渉状態を持続できなかったため通常モードで計測

  • 利点
    測定面に着地しての計測の為、計測時のエラーが少ない
    どのような形状でも計測可能

  • 欠点
    干渉計モードでの高精度計測は少しでも不連続点があると計測が途絶える
    干渉計モードで無い場合は対象面の角度変化により計測が安定しない
    曲率計測の為、形状を出すには2回の積分が必要なので高精度の計測が必須

    この時は仕上げ研磨前の状態で干渉計モードでの計測ができず、結果の信頼度が低く断念

●CGH 干渉計

    球面波を用いた干渉計であれば計測できそうだが、バイコニックの場合縦と横で曲率半径が異なるため干渉縞が密になりすぎて計測できない。しかし、球面波干渉計の波面を CGH で修正すれば計測可能となる。

  • 概要
    F/1 球面波光源からの光を球面原器で元に戻すが、その手前に CGH マスクを入れ、行き0次帰り1次で戻る参照光と、行き1次帰り0次で戻る被検光の干渉を見るもの。行き帰りどちらも0次の光は球面原器の配置チェックに用いる。

  • 利点
    全面を一度に計測でき、CGH マスクに誤差が無ければ最も測定精度が高い

  • 欠点
    曲率半径が小さいため、装置のセッティングが非常に難しいことが予想される
    拡散光中に CGH を置く必要があるため、マスクの位置調整が難しいかも

  • CGH マスクの例とピンホール横での戻り光の形状
    CGH マスクのサイズは 8cm□ で、200本描画毎に色分けしたもの
    描画最小間隔は 2.6μm
    周囲の丸パターンはバイコニックミラーの位置合わせ用
    十字パターンは CGH マスクの位置合わせ用

    科研費にはこれで2回応募してみたが、緊急性が認められず通らなかった

●まとめ

    大型バイコニックミラーの製作と検査方法に関する現状は以下の通り

  • 自由曲面の製作精度は上ったが、検査なしでできる大型ミラーの形状は ±2μm

  • 拡張フーコー法と機械計測の組み合わせで ~0.5μm レベルの計測は可能

  • 修正研磨を行うことで 1μm 弱の形状精度までは出せる

  • 現状では適用できるのは近赤外のファイバー分光器のみ

  • 球面波 CGH で高精度検査ができれば撮像装置にも使える可能性があるが、複数回の修正研磨が必要になる

●おまけ

    すばるで利用終了した HAWAII2 欲しいです...


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp