ハーフミラーホルダ調整2
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/Kyoto3m/hmh5.html

岩室 史英 (京大宇物)


●これまでの開発経緯

●小型装置ポート用ファイバーバンドル

    Instrument rotator ができたので、そちらの小型装置用ポートに移る必要があるが、レーザー光源を2階に置いて光を導入するためには、35m のファイバーバンドルが必要になる。ファイバーは3本で良いが、破損の場合を想定して6本のバンドルを作る。

    結局、円環配置のヘッドは業者側では無理とのことだったので自作することに。以前作ったものと同様、アルミ円柱側面に6本の V 溝を掘り、そこにファイバー6本を沿わせて固定するという方法を取る。バンドルチューブとの接続部を固定するため、アルミ枠で挟んで固定することにした。

    ヘッド製作時のポイントは
  • ファイバー端面は研磨せず切断機で傷つけて折った状態のままが無難
  • ファイバー先端が V 溝のアルミ丸棒よりも前に出ないようギリギリで固定
  • 切断面の角度による射出方向のズレは V 溝内にアルミテープを貼って角度調整

    この作業は結構難易度が高く延べ6時間以上を費やしたが、一応ビームの射出方向がほぼ1°以内に揃えられたと思う。


●段差計測

    ファイバーバンドルからの入射準備が整ったので、インストゥルメントロテータ上でのカメラユニットの向きを調整し、主鏡上のハーフミラーの角度調整をして1年ぶりに段差計測を行った。

    ミラーが1枚増えたため、カメラ上での対応するハーフミラーの配置が反転し、主鏡を裏から見た状態となった(即ち、ハーフミラーの番号を左右反転させる)。

    まずは、望遠鏡駆動の影響が出ないかの確認のため、天頂方向での調整後(下左図)、home 位置(EL=40°?)まで倒して元に戻し大体問題ない事を確認(下右図)。切り替えミラー(M4)がかなり汚れているため、行きのレーザー光の散乱光がかなり影響している状態だが、清掃する時間が無いのでそのまま。24個のハーフミラー固定時の形状を1つ1つ干渉計で確認しながら押さえる爪の強度を調整したことにより、全てのスポットで干渉縞が確認できるようになった。

    とりあえず、作業時間ギリギリのところで何度かスキャンしてみたが、久しぶりの計測だったためチューナブルレーザーのスキャン速度が slow (波長変化 1/10) だったことに気づかず、翌日にリモートでデータを取り直すことにした。とりあえずの結果は以下の通り。

    平均値は以下の通り。

1-542.07-381.513-380.119-2.1
2344.78-335.614364.520-25.9
3175.89-128.915-62.121-48.6
4-17.710-502.716-257.722-52.8
545.811-384.017224.723-236.7
6-11.212-103.118358.824118.3

    上記の結果から、各セグメントの高さ18個を変数とする25個の連立方程式ができる(全体の平均を0とする条件を追加)ので、疑似逆行列を用いて解いてみる。前回、仮ロテータ側から計測した結果と比べて、全体的に符号反転しているが、これはミラーが1枚増えたことにより像が反転し、縞がずれる方向が逆になったことが原因。

1642.87261.513-365.0
2102.08-119.014-366.8
391.99-1.115-7.8
4138.010-238.216217.4
5120.811-291.317-39.8
6296.812-339.518-102.5

    この解から得られるセグメント間の段差と実際の計測値との差は以下の通り。だいたい整合性のある解となっていることが確認できた。段差計測にはまだチューナブルレーザーの情報しか使っていないのと、スキャン速度が slow で測定精度がかなり悪いはず(但し、像の状態は非常に安定していた)であることも考えると、十分問題ない結果であることがわかる。内周1〜6の値が全て+で出ているのは、測定エラーか、セグメントの方向が揃っておらず少し傾いていた可能性がある。

11.1370.1613-0.39190.22
21.298-1.0514-0.55200.44
30.2490.2915-0.55210.44
40.5310-0.22160.5022-0.36
50.30110.80170.5023-0.36
61.10120.03180.2224-0.39

    最後に、セグメント清掃のためのブロワによる清掃の影響を確認した。主鏡赤ナス側半分(PCS 画像では左半分)のみをブロワで清掃した後のスポット位置が下図。若干動いたものもあるが、清掃していない側も動いている感じなので、特にブロワによる影響が出ている感じはない。

    翌日はドーム内の気流が全く安定しておらず(もしくは何かの振動?)像がブレまくっていたが、とりあえず slow と normal の2つのモードでの計測をしてみる。段差が 200μm を超えると、縞の動きを 12fps のフレームレートで追えなくなるので、大きい段差では slow モードでしかデータが得られない。

    大きい段差のデータは slow モードでの計測の平均、小さい段差のデータは normal モードでの計測の平均した数値は以下の通り。

1-615.47-446.513-446.419-1.0
2402.48-392.714426.920-27.1
3200.69-144.615-70.221-56.5
4-20.710-563.816-297.822-61.8
552.711-449.317259.723-275.5
6-12.312-117.418420.824134.1

    前日と比べて全体的に1割増しのような感じになっているようだが、特に slow で計測した結果は結果が安定していないので信用度が落ちる。前日の結果と同様に、各セグメントの高さと結果の整合性の確認を行ってみる。

1743.17302.813-415.7
2121.68-139.114-421.4
3107.89-0.515-5.3
4155.810-276.216250.9
5138.111-338.217-50.4
6340.612-391.718-122.3

    この解から得られるセグメント間の段差と実際の計測値との差は以下の通り。やはり、段差の大きい所の計測が像の揺れのために安定せず、整合性が悪いのでこの結果は信用できない印象。段差が小さい場合は normal モードでの測定結果はまずまず安定しているので、段差が小さくなればある程度像が暴れていても何とかなりそうだ。

1-6.1376.23134.4819-4.68
20.1081.7414-1.75203.05
31.8591.1815-1.75213.05
43.0310-7.7316-3.5022-0.20
5-4.70113.2617-3.5023-0.20
6-1.4512-4.6818-4.68244.48


●段差計測その2

    鏡面清掃によりハーフミラーが外されてしまったので、再配置・調整のついでに Instrument Rotator (InR) を望遠鏡の高度軸と同期して動くモードにして調整した。その結果、望遠鏡の高度軸を変えてもうまく行けば PCS の計測を行なうことができる。しかし、調整後に高度軸を変えて確認してみた所、天頂方向で調整した場合は天頂でしか使えないことが判明した。下のアニメは天頂→ EL=80°→ EL=70°→ EL=60°→ 天頂 の繰り返しで、最も変形が少ないはずの天頂付近ですら、望遠鏡の変形(変形を補正する副鏡の動きが瞳位置固定のポリシーだったはずなので、スポット位置の移動はより大きくなる)によりすぐに視野から外れてしまうことが確認できた。通常の観測では、ポインティング補正で修正されてしまうものが、光源も焦点面にあることで役に立たずこのような状況になっているものと考えられる。PCS 専用の副鏡・第三・第四鏡の補正駆動モードを作れば計測角度の拡大も可能だと思うが、かなり面倒そうだ。

    測定結果は以下の通り。グラフ上の・はスキャン中の位相変化の様子が正常で信頼度の高い結果であることを示している。23番は干渉縞が検出できていないようなので、値は信用できない。だんだんと検出器からの画像転送に失敗する頻度が増してきており、この試験では、slow 40回、normal 40回、計80回の計測の内、画像転送に失敗して結果が得られなかったものが15回もあった。この後、もう少し計測を繰り返したが、失敗の頻度が上がる一方のような印象だったので、ソフトウェアの改修を行なう必要があると考え、今回の計測はここで打ち切りとした。

    画像上での23番の位置は下左図の○で示したもので、縞が無いように見える。今回は前回(下右図で8ヶ月前)よりも全体的に像が分裂しており、鏡の向きが余り揃っていなかった印象で、元々像がかなり分裂していた23番は干渉しない状態になってしまったものと思われる。まずは、計測中に画像転送に失敗しても継続を続けて結果を出せるようにソフトを改良しないと...


●段差計測その3

    画像転送に失敗しても計測が完了できるようにソフトを改良した。具体的には、画像が等時間間隔で取得されるという前提を捨て、msec レベルでのタイムスタンプとともに画像取得を行い、予想される位相の値を時間情報を元に直近10回の計測結果から予測するということにした。

    この間、ミラー清掃作業が間に入ったので、再度ハーフミラーの向きを微調整してからの計測。調整量は小さいので、3時間程度の作業で全ミラーの調整は完了した。とりあえず、チューナブルレーザの slow モードと normal モード10回ずつの計測を1セットとし、これを4セット行なってみた。3セット目は主鏡制御 ON のままでの計測、それ以外は計測直前に OFF にして計測した。

    これまでは、±200μm 程度までは normal モードで計測できていたのだが、今回はかなり不安定だ。何が起こっているのか確認するため、20番の1セット目 normal の10回の位相計測状況を確認してみる。

    やはり、位相接続の失敗が原因だが、以前のソフトであれば十分接続可能な状況で今回は失敗している。よく調べてみると、接続失敗の際は必ず画像転送にも失敗もしくは短い delay (多分これも失敗)があるようだ。転送ミスでカメラに再接続の際、直近10回の情報に関連する部分の一部が初期化されてしまって、正しく位相予測ができていないことが原因と思われるので、ソフトの見直しとレーザーを使わないリモートでの試験で原因が分かると思う。

    次に気になるのが slow モードと normal モードでの計測結果のズレだ。15番の2セット目に関して、slow モードと normal モードでの位相計測状況を確認してみる。slow モードは normal モードの 1/10 のスキャン速度・範囲 なので、縦軸を10倍に拡大して表示している。

    以前のソフトでは、チューナブルレーザーの位相変化の三角部分の面積で評価していたが、今回は上りと下りでの傾きで評価しているため、動作完了までの時間が slow モードの方が少し長い分だけ、傾きが緩やかになって値が小さく出ているものと考えられる。この分の補正ファクター(0.93228)を設定することにする。

    次に、望遠鏡の EL を90°から30°まで10°ずつ減らし、スポット位置のズレを副鏡の XY 移動で修正してみた。修正後のスポット位置は以下の通り(90°から50°までの5画像アニメで、40°と30°はキャプチャし忘れ)。この時の副鏡 X,Y 移動量は下右図。 fitting は破線が EL → X,Y で

    X=((-0.007861111111EL+1.282261905)EL-73.28650794)EL-2236.857143
    Y=((0.01269444444EL-1.584404762)EL+94.03888889)EL-4738.285714

    実線が X,Y → EL で(90°まで計算できないが...)

    EL=(-1.136026773e-04X-0.9662693065)X-1963.233905
    EL=(-5.039442783e-06Y+0.004324593651)Y+88.95706957

    このどちらかに従って副鏡 X,Y に offset を与えれば、望遠鏡が傾いていても計測可能。個々の異なる動きは、ハーフミラーホルダーの向きの違いや固定 V 溝との相性、ホルダー内でのハーフミラーの固定力の違いによる差が出ているものと思われる。

    最後に EL 30°での段差計測を2セット行なってみた。1セット目は主鏡制御 ON のまま計測した。

    問題なく計測できることは確認できたが、2セット目は特に転送エラーの頻度か高く、slow モードでほとんどが位相接続に失敗している。

    以下は15番の2セット目の位相計測状況。normal モードで1度だけ位相接続に失敗していることがわかる。

    カメラの画像転送に失敗し再接続を行った際に、どれだけの情報が初期化されるのかはこれから調査。

    その後の調査で、プログラムの修正部分にバグが1ヶ所あることを発見、修正した。これで安定すると思うが...

●段差計測その3-2

    2週間後にリモートで試験してみた。
    外周セグメント間のスポットしか見えてないので、副鏡を X,Y 方向に±1.5mm ずつ動かして近くにいないか調べてみたが、3つほどしか発見できず残りの9ヶ所はかなりずれてしまっているようだ... と思ったが、計測後に気付いたが、Rotator の駆動モードを EL 同期にすることを忘れており、全体的に90°ほど左回転していたようだ。90°回転していると、60°おきに配置されている内周間、内外周間のスポットがマイクロレンズの中間に来てしまうため、外周しか見えていない原因はこれだったようだ。

    以下、グラフ中の数字は番号を正しいものに付け替えているが、画像は90°左回転した状態になっていることに注意。

    とりあえず、見えている12ヶ所だけで計測してみる。前半はミラー制御 ON、後半はミラー制御 OFF での計測。

    バグ修正前は100μm の段差の計測でも不安定だったが、今回は大丈夫そうだ。180μm 程度までは計測できるはずだが丁度いい段差の部分がなく、200μm 超えの所はさすがに安定しない。19番の最後10回の位相計測の様子が以下。計測始めの部分は位相先読みできる情報がないため、第一歩で先読みを誤るとしばらくそれが影響する感じだ。まあ、位相が揃ってくれば問題とはならないので、これに関してはとりあえずはこのまま放置。

    17番(画像では14番の位置に写っているもの)が安定しないが、どうやら2つに分かれているスポットの中間点付近を計測していたようだ。明るさ的には問題ないはずなので、次回の計測時には明るい方のスポット中心を計測するように気をつける。

●段差計測その4

    エッジセンサ関係のトラブルで一部のハーフミラーが取り外されたので、再度取り付けて全体の位置微調整を行った後、画像を取得してみると、チューナブルレーザーのビームの向きだけがかなりずれてしまっていることが判明。原因不明だが、ファイバーバンドル射出側先端部でこのファイバーだけが先端の向きが少し変わってしまったようだ。これを直すのはバンドル先端部の分解と、6本のファイバーの向きを合わせながらの固定作業が必要でかなりの大作業となるため、別のファイバーに切り替えることで対応することにした。

    これまで使用してきたファイバーは上右図の 1,3,5 だが、4 は設置時に誤って先端部が欠けてしまっているため、2 を使うことにする。808nm のファイバーと近すぎると位相測定時に 808nm のスポットと重なる可能性が増すため、808nm は 0 に移しチューナブルレーザーのスポットだけが離れるようにする。

    下左図は 2 番ファイバーの光量分布で、下右図は計測時の状態。内周右上(2番)、内外周右(8番)、外周右上(14番)のスポットが離れすぎていて、縞が計測できない状態。これは後にセグメント18のラテラル支持部分の接着が剥離している事が判明した。

    計測結果は以下の通り。4番は段差ほぼ0の結果が出ているがこれは誤りで、どうやらこれも縞が計測できなかった感じだ。他、19番もうまく計測できていない。どうやら位相計測時の計算範囲と2つのスポットの分裂状態で相性の悪い間隔がある感じだ。ソフト的に対処できるはずなので何とかならないか検討してみる。


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