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研削盤精度実験1 中間報告

・内容
現在解析中の実験結果のメモなど。
一点法によって副鏡の表面形状検査を十分な精度で行えるかどうかを検討するための実験を行いました。その結果の解析です。

・実験内容
キーエンスのレーザー変位計LT9010を使用し、主鏡の内周ブランクを走査する実験をこないました。

内周ブランクを以下のようなルートでそれぞれ15回走査し、レーザー変位計の出力値と走査開始からの時間を記録しました。

ルートの模式図(高橋さんからいただいたものです)


実験中の写真(所さんからいただいたものです)


写真のように内周ブランクのx軸とレーザー変位計のy軸のみを動かし、z軸は動かさないで走査を行いました。x軸(内周ブランク)は10mm/secの等速で動かしました。y軸(レーザー変位計)は内周ブランクの表面がセンサの測定距離内に収まるようx軸の位置に合わせて動かしました。
走査はA→B1→B2の順で行いました。一つのルートを往復で走査することはしませんでした。
レーザー変位計は前日から作動させたままの状態で使用しました。実験を行った部屋は温度調整されていました。
走査開始のタイミングは手動で、特にタイミングの記録などは行いませんでした。
x方向の位置に対応したy軸の位置(機械の運動プログラム)を記録しました。

走査ルートの変更はB軸を回転させることによって行いました。それぞれのルートと回転角度は以下のように対応させました。

ルートA B軸を90度回転させて走査
ルートB1 B軸を230度回転させて走査
ルートB2 B軸を310度回転させて走査


 データ解析

3つのルートをそれぞれ3セット測定した場合の生データを載せます。横軸が測定開始からの時間、縦軸がレーザー変位計の出力電圧です。


x軸の移動速度は10mm/secで一定なので、時間から位置を算出します。
どこが測定開始部分なのかはわかりません。
どこからがブランクを測定した部分なのかがわからなかったのですが、値に変化のない部分が測定の停止部分とのことです。
高橋さんからいただいた模式図を載せます。


この図を参考に測定開始からの時間からx軸の位置決めを行いました。
測定の開始と終了部分の拡大図の例を載せます。

測定開始部分

測定終了部分

測定レンジ外のデータ(平らな部分)が安定していたので、測定レンジ外のデータを除くすべてのデータを内周ブランク測定中のデータとみなして解析を行いました。

生データから測定中と思われる時間帯のデータのみを抜き出したグラフを載せます。



A,B1,B2についてそれぞれ15回の測定の結果を載せます。
縦軸um、横軸は軸移動の速さから時間を距離に直したもの(計測距離)です。

*15回のうち7ー15回目のデータに注目したものはこちら

15本の計測結果の重ね合わせ。

測定ルート A B1 B2
出力結果 

この重ね合わせは単純に左端のデータ点(計測開始時点のデータ点)を計測距離0mmの点として15本分のデータを揃え、測定時間をx軸の移動速度から計測距離に換算したものです。

各ルートについて15回の出力結果の平均を求め、それぞれの測定結果から平均値を差し引いたグラフを載せます。
多いのでこちらへどうぞ。

それぞれのルートについて、測定距離ごとの標準偏差を求めました。結果をグラフで載せます。

測定ルート A B1 B2
標準偏差

真値からのずれはまだ出していませんが、15回で統計をとった場合の標準偏差は200nm程度のようです。

またそれぞれの測定データについて、測定時間を測定距離に換算したデータと幾何的に求まる測定距離の理論値を載せます。

A B1 B2
理論値 (mm) 1134.4 984.6 984.6
測定距離の15回平均 (mm) 1133.9 984.2 984.0
RMS (mm) 0.6641 0.5565 0.6243

どのルートも理論値よりやや短くなりました。
各ルートの端の不連続成分は気になりますが、数字の上ではここの部分も内周ブランクを測定中のデータとなりそうです。(レーザー変位計の値も安定していませんし、ふちだれの影響でしょうか?)

 問題点とその考察

1.出力値の変動について

例としてB2のルートの出力値から15回の平均値を差し引いたグラフを2つ載せます。
すべての計測ルートはこちらへどうぞ。



グラフを比較すると、右のグラフには段差があります。どのルートも6回目の測定までこうしたよくわからない段差が発生していました。
レーザー変位計は前日から動かし続けていたので、立ち上がり直後の不安定性ではないようです。
平均値からの差分であり真値からのずれではないので、実験の結果偶然生じた段差ということは考えられます。
本当にこうした段差があるのなら、補正することで精度があげられるかもしれません。(たいていは段差を境に定数で補正できそうなデータです)

*段差のある1〜6回までのデータを省いてみてはどうかというご意見をいただきました。
段差の見られた1〜6回までのデータを省いて同様の処理を行ったグラフを載せておきます。

7〜15回の9本のルートの重ね合わせ。

測定ルート A B1 B2
出力結果 

それぞれの計測について、7〜15回目のルートごとの平均値からの差分量をとったグラフ
こちらへどうぞ。
以前のような段差は見られなくなりました。(省いたのだから当たり前かもしれませんが)

7〜15回目のそれぞれのルートについて、測定距離ごとの標準偏差を求めました。結果をグラフで載せます。
横軸測定距離、縦軸が標準偏差です。左端が測定開始点(内周ブランクの端)と思ってください。
「標準偏差(15回すべて)」のグラフは上に載せた15回の場合の標準偏差グラフと同じものです。

測定ルート A B1 B2
標準偏差(7回~15回まで)
標準偏差(15回すべて)

2.標準偏差の傾きについて

どの走査ルートの場合もxが大きくなるほど(右へ行くほど)標準偏差が小さくなっていく傾向が見られます。
横軸はそれぞれのデータの走査開始時点(左端)を基準として揃えたので、解析アルゴリズムの問題である可能性が考えられます。そこですべてのデータを走査終了時点(右端)を基準として揃えたものと比較してみました。
測定ルート A B1 B2
標準偏差(開始時点基準)
標準偏差(終了時点基準)

どちらでも右肩下がりの傾向は変わらないので、基準位置は無関係のようです。
走査を順方向でしか行わなかったので、逆走させてみたら原因が絞れると思われます(次回の実験の課題)

3.測定距離と出力値の対応について
位置情報を座標して記録しなかったので、時間情報から測定距離を換算したのですが、解析でデータ間で測定距離をうまく一致させられていない可能性があります。
実際、同じルートを計測したのなら測定距離(x軸の移動距離)は同じになるはずですが、実際はrmsで0.6mm程度の誤差が生じます。このことからも単純に開始時点、終了時点で合わせるだけでは測定距離の情報を一致させることができないことがわかります。
各ルートの重ね合わせグラフに注目してみると、どのルートも測定距離500mmから600mmの間に特徴的なピークが見えます。
Aのルートに注目してこの部分を拡大したグラフを載せます。


左のグラフの黒い四角で囲った部分にわずかに出っ張っている部分があります。この出っ張りを抜き出したのが右のグラフです。(四角で囲った領域の正確な拡大図ではありません)
かなり特徴的な形をしています。そこでこのピークの部分を基準として位置を合わせればよいのではないかと考えました。
実際、15回分をまとめた場合のAのルートの標準偏差に注目すると、中央で標準偏差が針のように高くなっている部分がこの山の位相ずれ対応することが予想されます。

ピークを基準に位相を合わせました。


左が単に開始時点で位相を合わせた場合のピーク部分の拡大図、右がピーク部分で位相差を合わせた場合の同じ領域の拡大図です。

右の状態で9回分の平均値とそこからの偏差をグラフにしました。
こちらへどうぞ。

7〜15回分のデータを使った標準偏差を載せます。測定距離ごとの標準偏差を載せます。

左が測定距離の基準を測定開始時点(左端)で合わせた場合の測定距離ごとの標準偏差グラフ、右が特徴的な山型の部分で位相を合わせた場合のグラフです。
Aのルートのグラフなのでわかりにくいですが、B1のルートのグラフでは改善されました。(グラフ準備中)

4.ステッチング

副鏡計測では走査ルートの交点を使って編み上げ(ステッチング)を行うので、それでどこまで精度がよくなるかを試しました。
7回〜15回のデータについて測定距離(x)100mmと測定距離1000mmの点を仮に「相互の交点」とみなし、その前後0.5mmがすべてのデータで一致するよう、それぞれの測定回数について補正を行うことにしました。
 やったこと


測定距離100mmと1000mmの値がすべての測定結果で一致するような一次の補正関数を求めました。
左が平均値からの差分をとったグラフを7回目と8回目のデータに注目してプロットしたグラフ。右が同じデータに対して補正関数によって補正を加えた後のデータを使った平均値からの差分量グラフです。

n回目の測定の補正関数は計測距離をxとし一時関数にfn(x) = anx + bnxとしました。
各測定について適当に決めた基準値からのずれを近似しan、bnxを求め、補正を行った場合の平均値からのずれのグラフを載せます。

こちらへどうぞ。

この時の標準偏差のグラフを載せます。

左が補正を行う前の測定距離ごとの標準偏差グラフ、右がそれぞれの測定回に関して補正を行った場合のグラフです。
あたりまえですが補正の基準(交点)とした100mmと1100mm付近では標準偏差が0に近づいています。
こうした補正を行うことで、データのばらつきは50nm程度に抑えられるようです。
*真値からのばらつきではなく、測定結果の平均からのばらつきです。
また、10データ点ごとにbinまとめした場合のグラフも載せておきます。



まだAのルートだけです。B1,B2についても後ほど追加します。

5.測定領域の抜きだしについて

測定距離のばらつきはrmsで0.6mm程度で安定していますが、どのルートも理論値より短いことが気になります。
測定距離の理論値からのずれは
・B軸の回転誤差
・x軸移動速度の誤差
・サンプリングタイミングの誤差
あたりが原因ではないかと考えています。
なお、平均的なずれは分解能にして4~5目盛りに相当します。

6.データ端の扱い

検討中

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新しい報告(1/24)
ばらつきが消える程度に8mmスパンでbinまとめしました。
結果の標準偏差をとったグラフを載せます。
これまでのものと違い、移動座標とy軸誤差を加味したものです。生データではありません。そのため横軸はx座標となっています。
実験において走査はx軸の正方向(右側)から行いました。左右の関係はこれまでと逆になっています。(走査距離0地点が以下のグラフではデータ点の右端に対応しています)



ばらつきはなくなりましたが周期的なエラーのようなものが見られます。
走査が進むほどエラーが小さくなる性質はこれまでと同じです。

このグラフをx=-400とx=400の点でステッチングした結果を載せます。


*(クリックで拡大)します。

もう少し平たくなることを期待したのですが、まだ40nmほどばらつきがあるようです。


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新しい報告(1/27)

Aと同じ処理をB1,B2にも行い3次元プロットをしました。


左が測定したラインの模式図。右が測定ラインをy軸方向から見たものです(セグメントの図はありませんが)。

右のグラフについてy軸のみum表示で3次元プロットしたものを載せます。


7回目の測定結果についてそれぞれのラインからの平均値を差し引いたものを載せます。(交点では交差する二直線の値の平均値としました)


B1とB2は内周ブランク上で交差しているので本来なら交点で同一の値となるはずですが、B1,B2は交わっていません。
そこで交点において同じ値を持つとしそれぞれの測定結果を補正しました。



3本のルートについて相互に交差する交点(3箇所)でクリップしました(左図)。
またクリップした3点を基準にしてセグメント面の位置合わせを行い(右図)、測定ラインの設計上のセグメント面からのずれを算出しました。


グラフを載せます。x,zが実際の座標、y方向が設計上のセグメント面からの誤差です。

これまでに比べて誤差が大きいのはクリップがうまく行かなかったからです。


クリップした点がy=0で一致しなければならないのですが、ずれています。
現在条件を変えて再計算中。