CGH 干渉計

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岩室 史英 (京大宇物)


●バイコニックミラーの CGH 干渉計での検査方法

大曲率の鏡に合わせた波面を平行光束中の CGH で生成するのは、干渉で曲げる角度が大きすぎて困難だが、球面波中に CGH を配置すれば波面を作ること自体は可能。しかし、その場合 CGH の配置位置の条件が厳しすぎて直感的に無理そうだと思っていたが、木野くんの話ではパターンの周囲に位置調整用のパターンを入れれば配置は可能だと思うとの事だったので、CGH で大曲率バイコニック面の検査をする方法を考える(もちろん、拡張フーコーでの検査も継続する)。

概念としては、中央に小さい穴を開けた斜鏡中央にピンホールを配置し(結構難しそうだが...)、F/1.2 のレーザー光を入射 => CGH => 球面メニスカス(内側が球面波参照面) => 被検面、でできそうで、主鏡検査に用いた CGH と同様、検査光は CGH を行きは1次帰りは0次で通過し、参照光はその逆という手法を取る。戻った光は数cmに広がるため、入射ピンホール以外の部分を斜鏡で反射し、結像レンズに送る。

とりあえず、CGH のサイズとしてどの程度のものが必要になるのか考えるため、各バイコニック面の法線がどのようなビームパターンを作るか調べてみた。木野くんによると、CGH 上の1点に複数の検査光が重なるとややこしいとのことなので、確実にそうなっていない場所を考えると、8cm□程度の面積があれば大丈夫そうだ。また、像が縦に伸びる所を光源にすれば、戻り光との重なりを避けられる可能性がありそう。とりあえずは、戻り光が重ならない配置での CGH マスクパターンを計算してみる。



ピンホールと CGH mask の間を 100mm に固定した場合の各面に対するマスクパターンが以下左側の図(空気の屈折率、メニスカス球面原器を BK7 中心厚 20mm、CGH マスク合成石英厚さ 2.3mm (QZ クロムマスク 4009 規格を想定) として考慮、周辺部のパターンは位置決定用で後述)。色は線200本毎に変えてある。中央の図は最も線の密度が高い部分で、色は20本毎に変えてある(数値は最小間隔)。一番下のミラーに対しては F/1 基準原器が必要で(マスクパターンも F/1 まで)、そのような原器が製作できるのかどうかも問題。一番下のミラーのマスクは線密度をもう少し高められそうなので、マスクを光源に近づけてもう少し小さくしてもいいかも。一番右はピンホール位置でのスポット。横にずらせるかどうか検討が必要。

4番目でピンホールと CGH mask の間を 60mm にした場合のものが以下。大体これでいけそう。

ピンホール位置でできるだけ像が縦長になる場所を選び、ピンホール(下右図原点位置)が像と 2mm 程度離れるように CGH に傾斜をつけてみる。配置は以下のような感じ。

●ゴースト像の影響

主鏡検査で用いた CGH は、参照光と被検光が完全に分離したためゴーストの予測がしやすかったが、この CGH ではハーフミラーで参照光を折り返すため、ゴーストの影響が出やすくなる。思考実験として、被検面のバイコニックを球面とし参照面の球心位置とずれている状況を考える。下図で、がピンホールと参照面球心、が被検面球心であるとし、各点の右上にピンクの字で参照光の行きと帰りの CGH 次数、右下に黄土色の字で被検光の行きと帰りの CGH 次数を 1/0 などとして表している。に戻る光はピンホールもしくはその周辺の構造物の影響でカメラ方向には来ない。の光のボケ像が検査に用いられる光だが、その中にも多数の次数の光が入っている事がわかる(2次以上の光も考えるともっと増える)。 0/11/0 の干渉縞が検査すべき情報を持っているが、0/10/-1-1/01/0 も干渉縞を作ってしまう。この思考実験では被検面は球面鏡なので、横ずれ分(の2倍)のコマ収差に相当する干渉縞ができることが予想されるが、バイコニックの場合は非球面量の2倍に相当する縞となるため中央部のごく狭い領域にのみ干渉縞が確認でき、少し外れると縞は見えなくなることが予想される。また、0/1-1/0 も干渉縞が出ることが予想されるが、この縞は位相シフトで動かないため、分離可能だと思われる。その他、の像も異なるサイズで混ざりこんでくるため、結構ゴーストだらけの像面になりそう。

●参照面と CGH mask 位置の決定方法

0/0 参照光はピンホールに戻ってしまうため、CGH の位置をこの光を用いて決定するためには同一パスの戻り光を取り出す必要がある。ピンホールと光源の間に平行光を作り、そこにハーフミラーを置いて 0/0 参照光と 1/1 被検光(大半の光はピンホールに入らない事が予想されるが)を取り出す。CGH マスク周辺部に球面波を同一方向に反射して戻すパターンを描画しておけば(マスク上下の十字パターン)、ピンホールを通過するかどうかでほぼ調整でき、通過後の光と参照光との干渉を見ることで(ピンホール径は回折限界の数倍)更に詳細な位置調整が可能なはず(光源の位置が安定していれば、ピンホール無しでその代わりにビームスプリッタの残りの面に平面鏡を入れられるようにしてもいいかも)。この方法だと、参照面とピンホールの位置関係が常にモニタできるところも利点。また、ピンホール裏での反射光を使えば、光源の位置のモニタもできる。集光用レンズは Edmund Optics のTS ベストフォーム非球面レンズ 25 X 25 633NM AR、コリメータは25 X 100 633NM ARを用い、その間にTS キューブ型無偏光B/S 430-670NM 25MM(できれば反射率を下げた特注品)を入れてスタイキャストで張り合わせれば F/4 => F/1 変換もできて便利そうだ。但し、この非球面レンズは視野が非常に狭く、レーザー光源との位置関係は 5μm 精度(光軸方向は20μm)で固定されている必要があるため、どのように調整して固定するかはかなりの検討が必要。


               更に光軸方向に 20μm ずれた場合

●ピンホールのエッジの影響

木野くんよりピンホールの膜厚は穴径よりもかなり厚いので注意、という事を聞き調べてみた所、ピンホールのエッジはエッチング加工時に厚さ(〜20μm)と同程度の曲率直径の形状になるらしいことがわかった。幾何的に考えると、直径 5μm のピンホールに F/1 入射光を与えると、実効的には直径 2.5μm の穴サイズとなる。エッジでの反射で抜ける成分を考えるとややこしいが、直径 2μm のピンホールでは F/1 の入射光は入れられないことがわかった。

●被検面位置の決定方法

マスク四隅に集光用のパターンを入れておき、被検面4隅に点を結像させる。F/1 よりも明るい参照面が必要そうだ...

●F/1 レーザー光源の試作

上記非球面レンズとキューブ型ビームスプリッタを購入し。スタイキャストで張り合わせてみた。この非球面レンズは Edmund のページでは平凸レンズを精密光学研磨による部分研磨により修正することで製作されているようだが、同心円状のパターンがビーム内に現れることがわかった。これでは干渉計の光源としては使えない感じだ...

接着の様子(下左)と性能確認のための干渉計(下右)。F/1 焦点部に配置した平面鏡で元に戻す。

干渉縞は結構ガタガタで、特に中央の形状不良は致命的な感じ(下左)。F/1 レンズ側のミラーを隠してレンズ接着面での戻り光を使って干渉させるとそれほど問題は無さそう(下右)なので、原因は F/1 レンズにありそう。


iwamuro@kusastro.kyoto-u.ac.jp